訴訟代理人のつぶやき「民法改正ノート 時効その3」
(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予※)
改正法第151条
第1項「権利について協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は完成しない。※
一 その合意があった時から一年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時」
第2項「前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。」
第3項「催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。」※※
第4項「第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、時期的方式その他人の近くによっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。」
第5項「前項の規定は、第一項第三号の通知について準用する。」
※協議を行う旨の書面合意による時効完成の猶予
改正法により、新設された規定である。従前、裁判外の協議で債権者・債務者が債権の交渉を行っていても、債権者は時効中断のためには、催告・裁判上の請求(訴え提起)などをせざるを得なかった。そこで、かかる手間とコストを省くため、裁判外の協議中に書面合意による時効完成の猶予を認めたものである(内田貴・民法改正のいま 中間試案ガイド27頁、日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法86頁以下参照)。
権利について、協議を行う旨の書面による合意が成立した場合、①合意があった時から1年間、②合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る)を定めたときは、その期間を経過した時、③当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時のうち、いずれか早い時までの間、時効は完成しない(改正法151条1項)。合意を内容とする書面及び③の通知は、電磁的記録を用いて良い(改正法151条4項5項)。
書面合意により時効完成が猶予されている間になされた再度の書面合意は、改正法151条1項の規定による時効の完成猶予の効力を有するが、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができない。当事者間の協議が5年を経過してもなお整わない場合には、もはや自発的な紛争解決の見込みは薄いと考えられるからである(潮見佳男・民法(債権関係)改正法の概要43頁)
なお、本条は、裁判外の協議による自主的解決に利用されることを期待されているが、協議が難航する場合は、やはり裁判を前提とした催告や訴え提起(裁判上の請求)をせざるをえず(時効完成間近での協議に関して同様の指摘として、日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法88頁)、また自主的解決可能な場合は、協議中に書面による債務者の承認(改正法152条 更新事由)を得るほうが、債権者としては有利である。また、通常、協議・交渉の出だしとして、債権者から請求書(催告)を出すのが一般的であり、そうなると本条の適用の余地は、現時点の民事実務においては乏しいと言わざるを得ない(私見)。裁判外の紛争処理機関、例えばADRとかを利用する場合に本条を活用することが考えられるが、今後の実務における本条の活用状況を見守りたい。
※※ 協議を行う旨の書面合意と催告の関係
①催告によって時効の完成が猶予されている間にされた書面合意は、時効の完成猶予の効力を有しないとされ(催告による猶予を優先)、②書面合意によって時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、時効の完成猶予の効力を有しないとされる(書面合意猶予を優先 改正法151条3項)。協議を行う旨の合意による時効の完成猶予で認められた期間は、当事者間で自主的に紛争解決を図るための期間であると同時に、権利者が時効の更新に向けた措置を講じるための期間でもある点で、催告と同様の趣旨に基づくものであることを考慮し、改正法150条2項と同様のルールとしたものと解されている(潮見佳男・民法(債権関係)改正法の概要43頁)。
(承認による時効の更新※)
改正法第152条
第1項「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。」
第2項「前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。」
※更新事由としての承認
改正前147条により時効中断事由となっていた承認を更新事由に変更するものであるが、その実質は、従前と同じである。本条2項は、改正前156条と同じものであり、改正法により、同一条文にまとめたものである。従来、承認とは、「時効の利益を受けるべき者が、時効によって権利を失うべき者に対して、その権利存在の認識を表示すること」と解されており(四宮=能見・前掲396頁)、改正法でも同様に解されるであろう。
(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲※)
改正法第153条
第1項「第百四十七条【裁判上の請求等】又は第百四十八条【強制執行等】の規定による時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
第2項「第百四十九条から第百五十一条まで【仮差押え等、催告、協議を行う旨の合意】の規定による時効の完成猶予は、完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。」
第3項「前条の規定【承認】による時効の更新は、更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。」
改正法第154条 「第百四十八条第一項各号【強制執行等】又は第百四十九条各号【仮差押え等等】に掲げる事由に係る手続は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、第百四十八条又は第百四十九条の規定による時効の完成猶予又は更新の効力は生じない。」
※時効中断・停止事由の効力の及ぶ範囲については、従来、当事者及びその承継人と解されていたことから(中断につき改正前148条参照)、改正法は、時効完成猶予・更新事由についても同様の考えを採用したものである。また、改正前155条は、差押え、仮差押及び仮処分について時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、時効中断の効力が生じないとされていたところ、今回改正により、同様の趣旨を改正法第154条に反映させたものである。