訴訟代理人のつぶやき 「民法改正ノート 時効その2」
(強制執行等による時効の完成猶予及び更新※)
改正法第148条
第1項「次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取り下げ又は法律の規定に従わないことによる取消によってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和54年法律第4号)第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第196条に規定する財産開示手続」
※ 強制執行等を猶予事由としたものである。これらも、広くは裁判上の催告の一種と従来考えられていたものであり、民事執行法手続きにおける裁判上の催告の範囲を明確化したものと理解されている(日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法79頁)。
第2項「前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消によってその事由が終了した場合は、この限りでない。」
(仮差押え等による時効の完成猶予※)
改正法第149条
「次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
一 仮差押え
二 仮処分 」
※改正前は、差押えと同じく時効中断事由であったが、民事保全に基づく仮差押え、仮処分は、本案裁判を予定した暫定的処分なので、改正法は猶予事由としたものである。「事由がある場合」とは、裁判上の請求に準じて、仮差押え及び仮処分の決定が債権者に送達されることを条件として、申立書の提出時から猶予の効力が生じると解される(日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法80頁)。なお、改正前の判例で、「仮差押えによる時効中断の効力は、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は継続する」という(最判平成10・11・24※※)。
※※仮差押えの効力と「事由が終了した」場合
この点、本改正により、この判例が改正法の猶予事由の場合に、中断事由の場合に準じて同様の結論をとることは困難なので判例変更の可能性があるとの見解もある(仮差押えの効力が継続するかぎり、つまり仮登記がある限り「事由が終了した」とはいえず、猶予期間が起算されなくなり民事保全手続きの暫定的機能を重視した本条の趣旨に反するのではないか。日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法80頁以下参照)。
しかしながら、改正前154条は、仮差押えは、「権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない」とあり、この反対解釈からすれば、仮差押え命令が取り消されない限り、時効中断の効力が生じると解され、この文脈で上記判例を理解する限り、改正法下においても、猶予の効力として同様に解することが不合理とはいえない(私見)。民事保全の暫定性への考慮は、債務者側からの起訴命令の申立と不起訴の場合の取消決定で対応できよう(民事保全法37条参照)。
(催告による時効の完成猶予※)
改正法第150条
第1項「催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は完成しない。」
第2項「催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。」
※ 改正前民法第153条が催告を暫定的時効中断事由としていたものを猶予事由に変更したものである。ここでいう催告とは、権利者が裁判外で請求すること(四宮=能見・前掲393頁参照)あるいは債務者に対して履行を請求する意思の通知である(我妻=有泉・前掲302頁参照)。内容証明郵便による支払の請求などが典型例であるが、請求の手段・方法は問わない。口頭による請求でもよい。また、本条2項は、催告を繰り返しても、時効中断の効力は生じないとする判例(大判大正8・6・30、最判平成25・6・6)の趣旨を反映したものである。