そしてその棒を押したり引いたりすれば、
光速より速く情報が伝わるのではありませんか?」
この問題もネットでよく見かけますね。月と地球の距離は
約38万kmです。で、光の速度は秒速、約30万kmなので、
ふつうに通信すれば片道1.3秒ほどの時間がかかります。
ところが、棒の押し引きだと、瞬時に情報が伝わるんじゃないか?
相対性理論は光速以上で情報が伝達するのを禁止しているはずなのに・・・
まあ、こう考えたくなるのはよくわかります。
この問題、「思考実験とは何か?」ということと密接な関係があるんです。
結論から言うと、答えはノーです。
地球と月の間に渡す棒の材質は、鉄でもアルミでも木でも何でも
いいんですが、この世のほとんどの物質は分子でできていますよね。
その分子はさらに原子からできている。
(金属はふつう分子をつくりませんが、基本的には同じことです)
ですから、どんな棒でもかならず伸び縮みします。
そして、棒を「押す」あるいは「引く」ということは、
この分子が「押される」「引かれる」ということなんです。
もし棒を押してやると、押された力がある範囲の分子に伝わり、
さらにその分子が隣の分子を押し・・・というふうに、
力は順番に連鎖的に伝わっていくしかないんです。
そしてそのスピードは、当然ながら光速以下にしかならないんですね。
ここで、「じゃあ、棒が分子でできていなかったらどうなる?
思考実験なんだから、絶対に伸びたり縮んだりしない棒を想定しても
いいだろう?」このように言いたくなった方はいませんか。
しかし、それはいくら思考実験であっても無理があります。
その設定が使えるのは、よほど特殊なケースだけでしょう。
絶対に伸びたり縮んだりしない物質のことを「完全な剛体」と
言いますが、そんなものはこの世には存在しません。
どんな物質も、必ず分子、原子からできているのです。
ですから、いくら思考実験と言っても、そういう存在を
仮定するのは反則になってしまうことが多いんですね。
第4問 「相対性理論では、光速に近い速さの宇宙船で移動すれば、
その宇宙船の中の時間の進み方は遅くなる、と言われていますよね。
だから、もし双子A・Bがそれぞれ地球と宇宙船にいた場合、宇宙船が
地球に戻ってくれば、宇宙船に乗っていた双子Aのほうが若くなっている・・・
でも、これって変じゃないですか。
地球から見れば、宇宙船は光速に近い速度で移動しているでしょうが、
逆に宇宙船から見れば、地球のほうが光速に近い速度で移動している
ということにならないんですか?」
ふむふむ、この疑問を持った人は頭がいいですね。哲学者のベルクソンも、
相対性理論が発表されてすぐ、似たような疑問を持ったようです。
例えば、時速60kmで走っている(等速直線運動)電車があるとします。
地上にいる人から見れば、電車は時速60kmで走っていますが、
逆に電車に乗っている人から見れば、地上にいる人は電車の進行方向と
反対向きに、時速60kmで走っていることになる・・・
ここまでは何の問題もありません。まったくそのとおりです。
ただ、違うのは、電車はいきなり時速60kmにはなれないですよね。
速度0から出発して、だんだんにスピードをあげていくことになります。
また、電車はずっと走り続けていることはないので、
駅に着くとじょじょに減速して速度0になります。そしてこの2つの
場合には加速度がかかります。もちろん、カーブしたり、
地面に凹凸があっても加速度はかかりますが、それはおいといて。
宇宙船の場合も同じで、地球を出発するとき、地球に帰還するとき、
それと、地球に戻ってくるわけですから、途中で向きを変えて
Uターンしなくてはならないですよね。この3つの場合、
どうしても加速度がかかります。
そして、上記の双子のケースであれば、
地球上にいるBさんは、宇宙船に加速度がかかっているとき、
Aさんよりも年をとることになるんです。もし宇宙船が急角度で
Uターンしたとすると、その瞬間に地球上のBさんは
ぐわっと一気に年をとる・・・これって常識では考えにくいと思いますが、
でもそう考えるしかないんです。この世のしくみは不思議ですよねえ。
上記のようなAさんとBさんの関係を「双子のパラドックス」
AさんとBさんの年齢が違ってしまうことを「ウラシマ効果」と言います。
ちなみに、相対性理論には特殊相対性理論と一般相対性理論が
ありますが、等速直線運動が一般相対性理論、
加速度(=重力 加速度と重力は等価)をあつかったものが