怖い話します(選集) -3ページ目

怖い話します(選集)

ここはまとめサイトではなく、話はすべて自分が書いたものです。
場所は都内某所にある怪談ルーム、そこに来た人たちが語った内容 す。

※ このブログでコメント等にはお返事できません。
お手間ですが、「怖い話します(本館)」のほうへおいでください。

今回は、俺が子供の頃、叔父さんと山に行ったときの話をします。
登山じゃなく、渓流釣りがメインだったけど、
キノコ採りや山菜採りもやった。小学校高学年の頃が一番多かったです。
叔父さんはどうしてかずっと独身なので、
自分の息子みたいにして可愛がってもらいました。

九字
そんときは確か秋のキノコ採りだったと思いますけど。行った先は
秩父のほうでした。叔父さんの車に乗せてもらって、オートキャンプ場を
ベースに林に入っていきました。登山道から外れた山の中腹、
やっと踏み跡がわかる程度の道を叔父さんの後についていくと、
なんとなく視線を感じたんです。後ろから誰かに見られてるみたいな。
振り返っても何もないんです。でも、道を曲がってしばらくは視線を意識しないけど、
直線に出ると見られてるような気がしてしかたがなかったんです。
でも、街にいるときに、そんなに人の視線に敏感なほうでもなかったですし、
笑われるのを承知で叔父さんに言うと、
叔父さんは、「うーん、そうか? 何かいるかな」こう言って、右手の人差し指を
口にくわえて唾で濡らし、それを高く頭上に立てたんです。

「何やってるの?」って尋ねたら、
「ああ、これか。テレビでやってる鬼太郎の妖怪アンテナみたいなもんだ。
 鬼太郎の場合は髪の毛だけど、指を唾で湿すと、わかりやすいんだよ」
こう言って、しばらく指の向きを変えたりしてましたけど、
「ああ、いるいる。でも、たいしたもんじゃない。
 こういう山ならどこにでもいるやつだよ。
 鹿とか野生動物がいるのと変わらない。気にしなくていい」
それでも気になったので「どんなやつなの?」って聞いたら、
「じゃあ、ちょっとかわいそうだけど、九字切りをやってみせるか」
「くじきり、って?」
叔父さんはちょっと真顔になって、こんなふうに説明してくれました。

「呪文みたいなものなんだ。これは密教からきてるのかな。
 正式には、 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前 という呪文を、両手で
 1字ごとに違う印を作りながら唱えるんだけど、それは難しいし時間がかかる。
 それに肝心なのは、これだと高級な魔物にしか通じないってことだ。
 それよりも、四縦五横ってののほうが、程度の低い妖怪には効くんだ。
 あそこの藪に隠れて、こっちを覗ってるみたいだから、
 今やってみせる。要領を覚えておくんだよ」
右手の指をくっつけて手刀を作り、藪の方角に向けて気合を込め、
前面の空中に縦に4本、それに重なるようにして横に5本、
線を引くように空中を切ったんです。
すると、藪の中から何かがぴょーんと跳び上がりました。

サッカーボールくらいの頭に大きな一つ目、
その下は巨大な一本足で両手は短かったです。
それはびょんびょん跳ねて、崖から藪の斜面に落ちていきました。 
叔父さんは笑って「やっぱり一つ目か。このあたりの山には多いんだよ。
 あいつ目が一つしかないだろ。だから目が2つある人間を怖がって、
 悪さは自分からはしてこない。さらに四縦五横をやったからね。
 これを空中に書くと格子窓がたくさんできるだろ。それを籠目(かごめ)
 とも言って、やつからすれば目が10も20もある怪物に見える。
 昔から笊(ざる)や籠を魔除けに使うのは、あちこちにあるんだ。
 だからああやって跳び上がるほど驚いて逃げてった」
「こっちが驚いた。あんなのが本当にいるんだ!」

「いやあ、普通の人には見えないんだが、
 ○○はちょっとばかし素質があるんで実体化して見えたんだろ。
 たぶん亡くなった姉さんから受け継いだもんだろうね」
「あの空を切るのは、どういう順番でもいいの?」 「本来の密教だと
 順番はあるけど、目がたくさんあるように見えればいいんだから、
 そう気にしなくていい。野犬をにらみつけるくらいの気合は必要だよ」
こんなふうに言ってました。そうですね、この後、
山には何度も入りましたが、見たことはないです。
気配を感じたことはありますけど。
悪いものじゃないとわかったんので、四縦五横もやったことはありませんよ。
なんだか可哀そうな気もして。

九字 四縦五横


呼名
これも子供の頃に叔父さんと山へ行ったときの話ですよ。
そんときは春で、渓流釣りでした。キャンプの道具を背負って、
川を遡っていったんです。まだ少し寒かったけど、天気がよかったのを
覚えてます。河原を歩いてると、叔父さんが、
「うーん、妙な気を感じるなあ」って言い出したんです。
一つ目の妖怪の後のことでしたので、これもその手のことだとピーンときて、
「また、一本だたらとかいうやつかな?」って聞きました。そしたら、叔父さんは、
「あれより気が強いな。もう少し強いやつかもしれん」って言い出しました。
「どうしてわかるの?」
「まだ聞こえないかもしれないけど、名前を呼んでる気がするんだ」
「誰の?」叔父さんは、あごをしゃくって俺のほうを指したんです。

「いいかい、もし名前を呼ぶ声を聴いても、ぜったいに返事しちゃいけないよ」
「どうして?」 「取り込まれる可能性があるんだ。
 名前ってのはまじないがかかりやすいんだよ。
 だから昔の人は本名をあんまり人に明かさないようにして、
 たくさん呼び名を持ってたんだ」  「どういうこと?」
「うん、そうだなあ。例えば、坂本竜馬だとすれば、竜馬というのは通称なんだ。
 本当の名前は諱(いみな)と言って呼ぶのを避けられてた。
 叔父さんも詳しくは知らないけど、確か直柔(なおなり)って言ったんじゃ
 なかったっけ。その他に、ある程度 位のある武士だと役の名前、
 越前守とか左衛門丞(さえもんのじょう)そんなので呼ばれることが多かった。
 まあこれは、呪いをかけられるからではなかったけどね」  「ふーん」

「だから、今からもし名前を呼ぶ声が聞こえたとしても、返事をしちゃいけないよ」
「もし、返事をしちゃうとどうなるん?」 「取られてしまうかもしれないよ。
 そして山の中の荒れ果てたお社とか祠に連れてかれて」
「うわ!」それを聞くとすごく怖くなってきたんです。
「でも、どうして僕の名前知ってるのかな?」
「それは・・・」叔父さんは僕の後ろに回り、「ああ、やっぱり」って言いました。
続けて「これ新しいリュックだろ。後ろにでかでかと名前が書いてある。
 お父さんが書いてくれたんだろうけど、山じゃこういうのはあんまりよくない。
 妖怪が名前覚えちゃうからね」
「こないだの四縦五横は効かないの?」
「いや、効くとは思うけど、ちょっと虚をついてやらないとね」

「虚?」 「うん、妖怪のあてが外れて呆然としたところにかけるんだよ」
それから叔父さんは、ひそひそ話の声になって、
「今から名前を助春って呼ぶから、返事しろよ」こう言いました。
助春ってのは俺の本名と響きは似てるんだけど、違うんです。
叔父さんはわざとらしく「助春、もう1時間で淵に出るぞ」こう大声で言ったんで、
俺もわざとらしく「ハイ」ってでっかく返事したんです。
何度も呼ばれては返事する、というのをくり返しながら進んでいくと、
大きな滝に出ました。
「助春、これは回らなくちゃいかんな」  「ハイ、おじさん」
そして叔父さんは大岩の横の土になったところを登り始めました。
俺も後に続いて、真ん中へんまできたときです。

大岩の陰から「ス・ケ・ハ・ル」って呼ぶ声が聞こえたんです。
叔父さんが小声で「返事しろ」って言ったので、「ハーイ」って大声で叫びました。
すると、しゅーしゅーと音を立てて、岩の陰から大きな蛇が出てきたんです。
頭には藻みたいな毛がいっぱい生えた、大人の腿くらいの太さの蛇でした。
しっぽのほうは岩の陰になってて、どのくらいの長さかわからなかったです。
すでに上に立ってた叔父さんが、蛇の頭に向かって四縦五横を素早く切りました。
それを見たのか、蛇はぐらっと傾き、
体をよじってなんとか体勢を立て直そうとしましたが、
そのまま滝つぼにどぶんと落ちて流されていったんですよ。
叔父さんは「ハハハ」と笑って、「あの蛇もリュックに書いてあった名前と
 混乱しただろう。だからよく効いた」こう言いましたよ。

一本だたら

 

 

 

 

 

 

あ、どうも、じゃあ話していきます。これ、俺が高校生のときに
起きた出来事なんです。うちの父親は、ある企業の人事部長をしてまして、
母は主婦でした。あと、中学生の妹が一人。で、今にして考えれば、
最初はこの中学生の妹なんですよね。俺は高校でバスケ部やってたんだけど、
妹は小さいころからスポーツが苦手で、中学でも帰宅部だったんです。
で、たしか6月でした。時刻は午後の4時頃ってことで、
俺はまだ学校にいたんで、これは母親から聞いた話です。
夕食の支度をしてたら、家のすぐ外でキャーッて大きな悲鳴が聞こえ、
玄関に出てみたら、妹が庭の中で立ちすくんでたってことでした。
「どうしたのよ」って尋ねたら、「ヘビ、ヘビ、ものすごく大きいヘビ」
妹は泣きそうな顔をしてそう言ったそうです。

うちは地方都市なんで、わりと広い庭があるんです。
それなりに庭木も植えたりして、草むしりとかは母親がやってたんですが、
それまでヘビなんて見たことがなかったんですね。でも、
本当にいたら怖いなと思って、妹に「どこに?」って聞きました。
すると妹は、スズランが植わってる一画を指さして、
「あそこ、大きい、犬くらいもある蛇の頭があって舌を出してた」
まあ、犬ったっていろいろいますけど、例えばチワワとかだとしても、
そんなでかいヘビがいるとは思えませんよね。
うちは郊外とは言っても、市部の住宅街なんだし。
でも、もし本当だったら怖いと思いながら、母親は庭ボウキを出してきて、
そのあたりをつっついてみたそうです。

でも、ヘビの姿はなし。それと、そんなに大きいヘビだったら、
這った跡があるはずなのに、草花が倒れてるということもなかったそうです。
だから妹の見間違いだろうと思ったということですが、
これがわが家の異変の始まりだったんです。
それから3日くらいした日中、家には母親しかいなかったんですが、
チャイムが鳴って、玄関に出てみると近所の奥さんでした。
「どうしました?」と聞くと、「いえね、お宅の屋根に煙があるみたいだから、
 知らせに来た」ってことだったんです。俺と妹の部屋は2階にありましたが、
どっちも学校に出てて、煙なんか出すはずがない。変だと思いながらも
いっしょに外に出てみると、たしかに、家の1階の屋根を取り巻くようにして
煙のようなものがある。それも、緑色に内側から光る気味の悪い煙。

母親が「あ、ホントだ。何かしら」そう言ったとき、
動いてなかった煙が急にぐるぐる屋根の上で回り始め、そのまま上昇して、
2階の屋根から空に消えました。煙はヘビというより龍のようにも見えたそうです。
母親は奥さんに礼を言い、家の中に戻って台所から2階から
くまなく調べたんですが、煙が出てるものはいっさいなし。
だから、何か気象的なものとかだと思うしかなかったんです。
でも、気象ったって、空で起きるならともかく、家の屋根ですからねえ。
でね、その次というか、それまでは家族に実質的な被害はなかったんですが、
最初に俺にきちゃったんです。ほら、最初に、高校でバスケ部に入ってるって
言ったでしょ。そんとき2年で、土曜日の午前に練習試合に出てたんです。
練習試合って言っても俺からしてみれば、

3年生が引退した後、レギュラーになれるかどうかの大事なゲームで、
はりきって動いてたんですが、ジャンプしてシュートをし、
着地したときに何か柔らかいものを踏んだ感触があったんです。
「え?」下を見ると・・・そうですね、太さが人間の太腿くらいもある
ヘビがいたんです。驚いてすっ転んじゃって、そんときに右膝をねじって
靭帯が切れちゃったんです。監督が病院に運んでくれて、
保険証を持った母親が駆けつけてきました。いや・・・
そのヘビの話はしたんですけど、見たのが俺だけだったし、それも一瞬。
だいいちそんなのが体育館に出てくれば、他のメンバーが気がつくでしょ。
だから、見間違いだと思うしかなかったんです。膝の靭帯は、
入院して手術しなくちゃなりませんでした。

それでバスケも終わりですよ。で、このことがあって1週間後くらいだったかな。
うちは風呂は、夕食後に父親が一番最初に入るんですよ。
それがね、「うわわわわ」って声を出しながら、裸で居間に戻ってきまして。
「風呂のフタを開けたら、湯の中に大きなヘビがトグロを巻いてた」
って言うんです。で、俺はほら足がダメで動けなかったんで、
母親が見にいったら何もいない。けど、風呂の水が薄い緑色に見えて、
気味が悪いので全部抜いたんです。ねえ、ここまでくればさすがに変だと
思うでしょ。なんかヘビの祟りみたいなものがある。
で、その翌日です。父親が会社で倒れたんですよ。心筋梗塞でした。
幸いに一命はとりとめましたが、開胸手術して長期入院になったんです。
手術後の集中治療室でも、ずっと「ヘビ、ヘビ」うわ言を言ってたそうです。

それで、じつはうちの母親、実家が小さいながらも神社だったんです。
俺から見て母方の祖父が、そこの宮司さんです。
父親の容態が落ち着いてから、母親が電話で連絡し起きた出来事を話したら、
さっそく家に来てくれました。祖父は当時70歳前くらいかな、
普段着だったんですけど、着くなり、俺はやっと松葉杖をついて動けるだけ
だったんで、母親と妹に手伝えと言って庭に出たんです。
そんとき、平たい木の桶みたいなのに水を浅く張って、
中に一本長い釘を入れたんですよ。もちろん鉄だから底に沈むけど、
それを持って歩くと、釘がくるくる回って、えーとあの、
方位磁針みたいだったんです。でね、庭の一画、そこは最初に妹が
ヘビの頭を見たって言ったところの近くで、

その場所にきたら釘の動きがピタッと止まってね。
そこで祖父は、母親に地面を掘れって命じて、俺も少し手伝ったんですけど、
30cmも掘ったかな、白いものが見えてきたんです。
動物の頭の骨です。そうですねえ、大きさは子犬より大きいくらい、
長さ10cm以上はあったと思います。でほら、その骨はバラけてなくて、
体の骨もずっとつながってたんです。それがね、掘っても掘っても骨は
続いてて、庭だけでも4m以上。塀にいきあたって、
それ以上確かめることができなかったんです。
俺が、「じいちゃん、この骨、どこまで続いてるんだ?」そう聞いたら、
「うむ、この家を呪った輩のところまでだろうな」
そういう答えが返ってきたんです。つまり、その呪ったやつが

何kmも離れたところにいるのなら、そこまでヘビの体の骨が続いてる
ってことです。そんなの信じられないですよね。祖父にそう言うと、
「これは呪いが実体化したもので、今は見えてるが、普通は目には
 見えない」こんな意味のことを言いました。それから、
祖父は、桶に沈めてた釘を取り出して、なにか祝詞みたいなものを
唱えながら、最初に掘ったヘビの頭の骨に打ち込んだんです。
いや、カナヅチとかは使わず素手で。そしたらサクッと軽く刺さって、
そっからシューッと緑色の煙が立ち上って、骨は粉みたいになったんです。
頭だけじゃなく、体のほうのも全部。祖父は、「これでよい、
 呪いは仕掛けた者のところへ帰ったから、おそらくよくない最期を
 迎えることだろう」そんなことを言いました。

でね、後になって真相はだいたいわかったんです。はじめに、父親は
会社で人事部長をやってるって言ったでしょ。この出来事が起きる前に、
小規模なリストラをやって、かなり恨んでる人間がいたみたいなんです。
そのうちの一人が、聞きかじりで呪いを仕掛けたってことですが、
呪いが自分に返ってきて、首を吊って死んじゃったって話です。
その後は、家ではおかしなことは起きてません。父親は退院して会社に復帰。
人事部長から別の役職に移ったんです。俺もこのとおり、激しい運動は
できないけど、日常生活では足はなんともないです。そのときのことを
祖父に聞いたら、「あのとき使った釘は、うちの御社の御神木に
 打ち込まれてたもので、誰かが呪詛を行ったものだろう。
 それをお清めして、何かのときのためにとっておいた」って。







 

雑誌の編集をしていました。会社は神保町の雑居ビル内の4階でした。
6階建ての大きな窓が特徴のビルといえば、
わかる方もいるのではないかと思います。1月ほど前、
溜まった仕事を片付けるため9時過ぎまで一人で残業していました。
それまでとくに怖いと感じたことはなかったです。窓の外は明るい街だし、
ビル内の他の会社にはまだ残っている人大勢いる時間だったからです。
ひとくぎりがついて、さて帰ろうと思って立ち上がったとき、「あっ」
と息を飲みました。窓の外を頭を下にして女の人が落ちていったのです。
まだ若い人で、白っぽい服装をしていたと思いますが、
細部までははっきりしませんでした。

「たいへん!飛び降り自殺?」と思い、固まってしまいました。
すると・・・2秒くらい間隔があったでしょうか。
動けないでいる私の目の前をまた人が落ちていきました。
前の人と同じ顔と服装・・・落ち方もいっしょでした。
そのとき私の口から「いやです!」という言葉が出たのです。
すっかり頭が混乱してしまいました。双子の人が次々に
飛び降りたのだろうか? 何で突然に「いやです」
と言ってしまったのか? 足は震えていましたが体は動いたので、
とりあえず会社に仮錠をしてエレベーターに乗りました。

外はさぞや大騒ぎになってると思いましたが、
会社の前の通りは何事もなかったように車が走っています。
人が落ちたような痕跡はどこにもなかったのです。
狐につままれた、というのはこんな気分のことを言うのでしょうか。
・・・何時間もパソコンに向かっていたので、
脳が誤作動を起こして幻覚を見たのかもしれません。
帰ったらすぐに寝てしまおう、と思いました。それでも納得が
いかなかったので、会社を出る間際に管理人室に寄りました。
顔見知りの初老の警備員さんしかいませんでしたので、
それとなくこのビルの自殺者について尋ねてみたのです。
 

「うーん、私もここ5年くらいしかいないからはっきりしたことは
 言えないけど、かなり前、まだ屋上が立入禁止でないころに
 飛び降りがあったって噂は聞いたことがある。女の人だったって

 話になってるけど、本当火かどうかはわからないね」
こんな返答でした。釈然としないままマンションに帰り、
発泡酒を何本か飲んで寝ました。そして夢を見ました。
夢の中で私はついさきほどのように会社にいます。
窓の外を女の人が落ちてきました。何もかもそっくりな状況でしたが、
女の人の落ちる速度がスローモーションのようにゆっくりなところが
違っていました。女の人の顔がはっきり見え、目が合ってしまいました。
目には恐怖の色はなく、強い憎しみが感じられました。

女の人は私を睨みつけながらだんだん下がってきました。そして口が横に
開き前歯が見えました。私に何かを言おうとしているのだという気がしました。
そこで夢は唐突に途切れ、目覚ましが鳴っているのが聞こえました。
8時間以上寝たはずなのに全身に疲れが残っていました。
会社では女の人が落ちるのを2度連続で見ているのに、
夢の中では一度だけだったことがなんとなく釈然としませんでした。
出勤前、鏡を前にして夢の中の女のように唇を横に開いて見ましたが、
このときは私に何を伝えたかったのかわかりませんでした。
・・・もっと前からそうだったのかもしれませんが、
この日を境にして、はっきりと心身の調子が悪くなりました。

ちょっとしたミスが連続し、それを挽回しようと遅くまで残業して
さらに体調を悪化させました。編集会議で居眠りをしたり、
自分で打った原稿を保存ミスで消してしまったり、
以前には考えられないような失態をそれからもくり返しました。
周囲から「疲れてるんじゃない?最近おかしいよ」と何度も言われました。
ご好意で、安い稿料で書いてくださっている作家の方の機嫌をそこねて
しまったときには、他の編集者の前で編集局長に大声で怒鳴られてしまいました。
そのときには涙が出ました。そして、もう会社を辞めようと思ったんです。
明日一番に辞めると申し出ようと心を決め、残って仕事を整理しました。
せめて後任に迷惑をかけないようにしようと考えたんです。
自分の机で・・・パソコンを前にしてうとうとしてしまいました。

夢を見ました。会社にいて女が窓の外を落ちていく夢・・・この間の夢の
続きのようです。ゆっくりゆっくり落ちてくる女は、私の顔を見つめながら
口を開きます。その口の形がこの間とは違っていました。
横にではなく、縦に小さく開いた口の形が記憶に残りました。
・・・やはり私に何かを伝えたがっている・・・ガクンと頭が下がり、
額をキーボードにぶつけて目が覚めました。反射的に窓の外を見ましたが、
うすぼんやりと明るく向かいのビルが見えるだけでした。
トイレに立ち、洗面所の鏡に向かって女の2つの口の形を何度も
くり返してみました。そして女が何を言っていたのか唐突にわかったんです。

「し・・・ね・・・」 「いやだ!」私は大声で叫びました。そのとき、
鏡の端にちらっと、ドアを出ていこうとする白い影が見えたような気がしました。
「いやだ!いやだ、いやだ、いやだ・・・」子どものように叫びながら、
私は洗面台に突っ伏し、長い間泣き続けていたんです。
・・・これでお話を終わります。
 

キャプチャ



 

 

 

 

 

こんばんは、私、滝口ともうしまして、主婦をしております。
結婚して6年目、3歳になる娘がいます。
それで、夫は入り婿なんです。はい、滝口の家は代々、子どもは
女が多いんです。男の子も生まれないわけではなかったようですが、
どういうわけか長く生きられず、8歳までの間に病気で亡くなることが
ほとんどだったそうです。ですから家は女系でずっと続いておりまして、
私の父も祖父も婿養子です。家業は呉服の問屋で、番頭だったのを
見込まれ、母と結婚したんです。家は江戸時代の始めころから続く
旧家ですが、呉服の仕事を始めたのは明治からと聞いています。それで・・・
私が子どもの頃から、他の家庭とは少し違った習慣があったんです。
まず、家では雛人形を飾ることはしませんし、桃の節句を祝う

こともないんです。これ、小さい頃はとても残念でした。幼稚園に
通っていたとき、それほど大きなものではありませんでしたが、
園長先生が毎年雛壇を飾ってくれましたし、活動の一つとして
園児が紙雛を作ったりもしました。で、他の子の話を聞くと、
自分の家でも雛飾りがあるっていうし、私も欲しくなって、母に
そう言ったんです。すると母は少し笑って、「ああ、母さんもあなたと
 同じ頃はそう思ってたの。でも、この家で飾ることはできないのよ。
 ごめんね。そのかわり3日の日は家族でお食事に行きましょう。
 そのときに好きなものを買ってあげる」と言いました。
私としては不満もあったんですが、まあ、誕生日が年に
2回あるようなものですよね。まあいいかと思ってたんです。

え? ああ、はい。なぜ家では雛祭りをやらないのか、何度か聞いたことは
あります。でも、教えてはもらえませんでした。それと、私が幼稚園で
作ってきた紙雛も、母に渡すとすぐに仏壇の引き出しにしまわれて、
もう見ることはできなかったんです。それで、私が数え歳で8歳になる
お正月、母に呼ばれて仏壇の前に座らせられました。何かお説教を
されるのかと思ったんですが、そうではなく、和紙に包まれた平たい
ものを渡されたんです。「今日から、これを毎日枕の下に敷いて寝なさい」
と言われて。中は、その場で母が開けて見せてくれたんですが、
黒い中に金色の模様がついた7、8cmの丸い形のもの。
最初はそれが何だかわかりませんでした。はい、持ってきてますので、
今、お見せします。これなんですが、おわかりですよね。

襖の取っ手です。なぜそんなものを枕の下に敷いて寝るのか。当然、
質問しました。そしたら、「お母さんも上手く説明はできないのよ。
 でも、これがあれば、どこに連れて行かれても帰ってこれるから」と。
ますます意味がわからなかったですが、母は真剣でしたので、
きっと大事なことだろうと、その日からずっと自分の部屋の枕の下に
入れっぱなしにしていたんです。あと、旅行などで外泊するときも
必ず持参してました。それで、なぜ初め、それが襖の取っ手と
わからなかったかというと、家には、仏間をのぞいて、襖と呼べる
ものがなかったからです。戦後すぐに建てられた古い家なのに。
押し入れはありましたが、明らかに洋風のつくりでした。2階に
ある私の部屋は押し入れすらなく、つくりつけのクローゼットで。

ああ、すみません、長々とわけのわからない話をしてしまって。
それが起きたのは、私が10歳、小学校4年のときでした。
季節は10月で、いつもと変わりない日だったと思います。
夕食を食べ、居間で家族とテレビを見てから自分の部屋で宿題を
済ませて10時ころには寝たんです。それで・・・自分では
夢じゃないと思ってたんですが、やはり夢だったと考えるしかないん
でしょうね。いつもは一度眠りにつくと朝まで起きることはないのに、
その夜は目が覚めたんです。足元のクローゼットのほうで
カリカリという音がしてました。まだいくらも寝ていない、12時前
だろうと思って枕元の目覚ましを見たら、夜中の3時を過ぎてました。
カリ、カリ、カリ・・・何だろう。半身を起こしてそちらを見、

とても驚きました。大きなクローゼットがあるはずの壁に、
襖が2枚並んでいたからです。「え、どういうこと?」ただこのとき、
あんまり怖い気持ちはなかったんですね。その襖を見てると、
なんとなく懐かしい気持ちがしたんです。え、どんな襖だったかって。
ああ、すみません。無地で、暗い部屋でしたが、桃色か橙色に
見えました。で、その向こうからカリカリという音。ベッドから降り、
近づいて、思い切って襖を開けてみたんです。そしたら・・・
上下の2段に分かれてて、上の段には布団がびっしり入ってました。
「え、これ、押し入れ??」そのとき、向こう側が開いて灯りが
差し込んできたんです。逆光ではっっきりしませんでしたが、
人がこちらを のぞき込んでいました。髪が長くて小さい、

はい、女の子だと思いました。年がそのときの私と同じくらいの。
「こっち、こっち」その子が言い、手を差し出したので握ると、
軽く引っ張られ、私は押し入れをはさんだ向こう側に出たんです。
薄暗いせまい部屋で、カビの臭いがしてました。その子・・・
和服を着て髪は肩までのおかっぱ。そこまではいいんですが、
顔が、私とそっくりだったんです。髪型はもちろん違ってましたが、
毎日鏡で見るのと同じ・・・いえ、完全に同じではなかったです。
というのは、その子、眉が剃って整えられ、うっすらとお化粧している
ようにも見えたんです。顔の色も私よりずっと白い。その子は
私そっくりの声で「ねえねえ、お雛様見たい?」と聞いてきたので、
「見たい」と答えました。すると、「じゃ、いこう」そう言って、

私の手を取ったまま、そこの部屋の戸を開け・・・そしたら、
かすかにですが、音楽のような音が聞こえてきました。そのときは
わからなかったですが、三味線の音です。その子はしーっと口の前に
指をあてる仕草をし、長い木の廊下をゆっくり進んでいき、ずらりと
並んだ障子戸のうちの一枚を開けたんです。かなり広い、12畳ほどの
部屋だったと思いますが、その半分ほどを巨大な雛壇が占めていたんです。
何段飾りだったか覚えてませんが、天辺のお内裏様のいる段は
天井近くまできていました。「わあ、すごい!」私がそう言うと、
「いいでしょ。ねえ、私と代わらない。ほんのちょっとでいいから」
そう言ってその子は強く私の手を握り、そしてふっと消えたんです。
「え? え?」それで、私のパジャマがいつのまにか、その子が

着ていた和服になってたんです。「どういうこと?」わけがわからず、
そのときに初めて怖くなってきたんです。その部屋から出ることができず、
目の前にある雛壇を見ていました。人形は現代のものよりは小さめ
でしたが、100体以上はあったと思います。どれもとても
精巧にできていて、顔のしわ一本一本までちゃんとありました。
そのとき背後から「こんなとこでまた油売ってたのか」男の人の
乱暴な声が聞こえ、襟首をつかんでずるずると引っ張られるような形で
最初に入った部屋に投げ込まれたんです。そしてすぐ真っ暗になりました。
体が痛かったですが、手探りであちこち探しました。この向こうは
自分の部屋のはず、そう思ったんですが、どの壁も物が積まれていて、
戸のようなものはなかったんです。もう泣いていたと思います。

そのとき、自分の左手が何かを握りしめていることに気がつきました。
丸い形の固いもの。あ、枕の下に入れてた取っ手だと気がつき、
一番物のない壁にそれを押しあててみたんです。そしたらめり込むような
感触があり、指をかけて引いてみると軽く開いたんです。そちらに出ると、
ドシャンという音とともに、私は自分の部屋のクローゼットから外に
転げ出てました・・・ 翌日、母にそのことを話しましたら、母は
すこし怖い顔になり、「ああ、あなたもやっぱりあの雛飾りを見たのね」
つぶやくようにそう言いました。はい、その後も取っ手は枕の下に敷いて
たんですが、二度とあの夢は見ませんでした。それから月日がたち
私の結婚が決まると、母は「取っ手はもうあなたには用済み。でも、いずれ

 生まれるあなたの娘には必要だから。8歳になったら渡しなさい」と。
 




 

 

こんばんは、山本ともうしまして、主婦をしております。
これからお話するのは、今月の3日の夜にあったことです。
私の主人は、ある公団に勤めているんですが、先月、
勤務中に吐血して倒れたんです。大きなプロジェクトに
関わっておりまして、無理が重なったようです。
救急搬送された先の病院で、出血性胃潰瘍と診断されました。
幸いなことに、開腹手術ではなく内視鏡で出血を止めていただき、
そのまま長期入院になったんです。はい、大変驚きましたが、
連絡を受けてすぐに病院に駆けつけました。そこは国立系の
病院でしたので、付き添いなどは認められず、でも、
ほぼ毎日、一人息子を連れて見舞いに行っていました。

それで、入院して2週間ほど過ぎ、輸血などの治療の結果、
症状も落ち着いて退院が見えてきたんです。その日も、息子と
夕方の6時から見舞いに行っており、8時前に病院を出ました。
息子は5歳の幼稚園児です。自宅から病院までは車で30分ほど、
病院は郊外にあり、帰宅ラッシュ時でしたが、あまり使われない
道のため、他の車はほとんどありませんでした。
両側にまだ田んぼが残るそのせまい道を走っていると、
車の前に急に白い小さなものが飛び出してきたんです。
何だかわかりませんでしたが、大きさから人ではないと
そのときは思ったんです。とっさに急ブレーキを踏んだものの、
車の前部にゴッという小さな衝撃があったのを覚えてます。

車は軽なんですが、路肩に停めて外に出てみました。
道には何もなかったです。けど、何かを轢いたのは間違いないと
思い、周辺をよく探してみました。そしたら、道から田んぼに
降りる土手の下の用水路に白い犬が落ちてたんです。
半ば水に浸かり、腹のほうを上にして頭は見えませんでした。
ピクリとも動かなかったので、もう死んでいるのだと思いました。
車に戻ってバンパーなどを確認しましたが、凹んだり
傷がついている様子はなかったです。どうすればいいんだろう、
死んだ犬を放置はできませんよね。そういうときは保健所に
連絡すればいいと、なんとなく知ってはいたんですが、
もう終わってて誰もいないだろうと思いました。

それで、車の中から110番通報したんです。本部の人が出たので
事情を話すと場所を聞かれ、現場の近くにある交番に
切り替わったんです。年配らしい声の警察官が出たので、
もう一度話しをすると、「うーん」と考え込んでましたが、
「もう一度死体を確認してみてください。本当に犬かどうか」
そんなことを言われました。スマホを持ったまま車外に出ると、
息子が「ぼくも見に行く」とついてきました。
飛び出してきたとはいえ、自分が轢いたのは間違いないですので、
見るのは嫌でしたけど、道端から側溝を覗き込むと、
犬の体はだいぶ沈んでて、脚2本の先が見えるだけでした。
そばにいた息子が「助けないの?」と言ったので、

「もう無理よ」と答えるしかありませんでした。スマホに、
「やはり犬です。間違いありません」と話すと、少し沈黙があり、
「・・・そうですか。わかりました。こっちからも連絡しますが、
 そちらのほうからも朝イチで保健所に連絡して下さい」
と言われたんです。それからまた少し間が開いて、
「これから帰宅されるんですよね、もし何かおかしなことがあったら
 110番ではなく、こちらに連絡してください」と、派出所の
番号を言われたんです。はい、そのときはどういうことか
わからなかったんですが、その警官の言うとおり登録しました。
車を発進させ、息子に「お腹すいたでしょ」と聞くと、
息子が「あの子、水の中に落ちてかわいそうだね。

 警察が助けてくれるの」と言ました。「あの子」という
言葉が気になったので、「ええ、お犬さん、可愛そうだったね」
と答えると、息子が「えー、犬じゃなかったよ。ぼくと同じくらいの
 男の子だったでしょ」って。それを聞いてドキッとしたんです。
まさかそんなはずは、と思いました。「〇〇、何言ってるの、
 犬だったでしょ、犬」やや語気を強めると、
息子は黙り込みました。それから数分走ったら、また車の前に
白いものが・・・さっきと同じように急ブレーキを踏み、
やはり小さな衝撃を残して車が止まりました。
え、また犬を轢いた? 車の外に出て愕然としました。場所が、
さっきと同じとしか思えなかったんです。

前方に見える信号機までの距離、そして右手にあるJAの倉庫も
何もかも同じに見えました。これ、いったいどういうこと?
数分とはいえけっこうスピードを出してましたので、1km以上は
走ったはずです。それなのに・・・怖かったんですが、
土手を降りて用水路をのぞき込みました。そしたら街灯の光で、
泥の中に頭を突っ込むようにして、子どもが落ちてるのが
見えたんです。汚れてましたが、白っぽい制服のようなのを着た、
息子と同年輩に見える子どもが・・・人を轢いてしまった、
でも、そんなバカな、さっきと同じ場所で、ありえない。
パニックになりかけていたと思います。いつの間にか息子が
そばに来ていて「犬さん、死んじゃったね、かわいそうだね」って。

でも、下に見えるのは少しずつ沈んでいく子どものズックをはいた
両足でした。あ、そうだ、さっき登録した派出所に通報しよう、
そう考え、スマホをかけると、さきほどと同じと思える警官が出たんです。
起きたことを話すと、「落ち着いてください。車の中に戻って
 路肩にいてください。今すぐそちらに向かいますから。けっして
 軽はずみなことは考えないでくださいよ。いいですね」こう強く
言われました。はい、車に戻って5分もたたないうち、
サイレンを鳴らさずパトカーが一台来ました、救急車はなしで。
パトカーは私たちの車のすぐ後ろに停まり、懐中電灯を持った警官が
2人出てきて、一人は田んぼのほうに降りていき、
年配のほうの人が私の車のウインドウをコンコンと叩きました。

ドアを開けて外に出ると、用水路を照らしていた警官が、
「何もありません。前と同じです」と大きな声で叫びました。
年配の警官が、「よく確認しろ、本物の事故だったら大変だから」と言い、
私に向かって、「驚いたでしょう。心配しなくても大丈夫です。
 ここは何というか・・・おかしなことが起きる場所で」
「どういうことでしょうか」 下に行った警官が戻ってきて、
「事故ではありません」もう一度報告しました。
年配の警官は、「気になるでしょうね。警官の私がこんなことを
 言うのは何なんですが、今年に入ってあなたで3回目なんですよ。
 ここで事故を起こしたって通報をしたのは。あれ見て下さい」と、
道路上を照らすと、私がつけたものの他にも急ブレーキの跡が

あるように思えました。警官は、「これは他の人に言わないでくださいね。
 本当の事故があったのは去年の暮れです。この付近の男の子が
 ちょうどこの場所で車に撥ねられたのが。もっと早い時間でしたけどね。
 ええ、遺体が発見されたのもあの用水路です。それからね、
 変なことが起きるようになった」 「その事故の加害者は?」
「轢き逃げで、残念ながらまだ見つかってないんです」
「・・・最初に犬を轢いたと思ったのはどういうことでしょうか」
「それもわかりませんね。犬を轢いたという報告は受けてないです。
 ただ、ここは交通量の少ない道で、スピードを出す車が多いので、
 そういうこともあったかもしれません。男の子と近い場所に
 撥ねられた犬の死骸が落ちたとか」こんなことを言われたんです。
 

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