神社の釘の話 | 怖い話します(選集)

怖い話します(選集)

ここはまとめサイトではなく、話はすべて自分が書いたものです。
場所は都内某所にある怪談ルーム、そこに来た人たちが語った内容 す。

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あ、どうも、じゃあ話していきます。これ、俺が高校生のときに
起きた出来事なんです。うちの父親は、ある企業の人事部長をしてまして、
母は主婦でした。あと、中学生の妹が一人。で、今にして考えれば、
最初はこの中学生の妹なんですよね。俺は高校でバスケ部やってたんだけど、
妹は小さいころからスポーツが苦手で、中学でも帰宅部だったんです。
で、たしか6月でした。時刻は午後の4時頃ってことで、
俺はまだ学校にいたんで、これは母親から聞いた話です。
夕食の支度をしてたら、家のすぐ外でキャーッて大きな悲鳴が聞こえ、
玄関に出てみたら、妹が庭の中で立ちすくんでたってことでした。
「どうしたのよ」って尋ねたら、「ヘビ、ヘビ、ものすごく大きいヘビ」
妹は泣きそうな顔をしてそう言ったそうです。

うちは地方都市なんで、わりと広い庭があるんです。
それなりに庭木も植えたりして、草むしりとかは母親がやってたんですが、
それまでヘビなんて見たことがなかったんですね。でも、
本当にいたら怖いなと思って、妹に「どこに?」って聞きました。
すると妹は、スズランが植わってる一画を指さして、
「あそこ、大きい、犬くらいもある蛇の頭があって舌を出してた」
まあ、犬ったっていろいろいますけど、例えばチワワとかだとしても、
そんなでかいヘビがいるとは思えませんよね。
うちは郊外とは言っても、市部の住宅街なんだし。
でも、もし本当だったら怖いと思いながら、母親は庭ボウキを出してきて、
そのあたりをつっついてみたそうです。

でも、ヘビの姿はなし。それと、そんなに大きいヘビだったら、
這った跡があるはずなのに、草花が倒れてるということもなかったそうです。
だから妹の見間違いだろうと思ったということですが、
これがわが家の異変の始まりだったんです。
それから3日くらいした日中、家には母親しかいなかったんですが、
チャイムが鳴って、玄関に出てみると近所の奥さんでした。
「どうしました?」と聞くと、「いえね、お宅の屋根に煙があるみたいだから、
 知らせに来た」ってことだったんです。俺と妹の部屋は2階にありましたが、
どっちも学校に出てて、煙なんか出すはずがない。変だと思いながらも
いっしょに外に出てみると、たしかに、家の1階の屋根を取り巻くようにして
煙のようなものがある。それも、緑色に内側から光る気味の悪い煙。

母親が「あ、ホントだ。何かしら」そう言ったとき、
動いてなかった煙が急にぐるぐる屋根の上で回り始め、そのまま上昇して、
2階の屋根から空に消えました。煙はヘビというより龍のようにも見えたそうです。
母親は奥さんに礼を言い、家の中に戻って台所から2階から
くまなく調べたんですが、煙が出てるものはいっさいなし。
だから、何か気象的なものとかだと思うしかなかったんです。
でも、気象ったって、空で起きるならともかく、家の屋根ですからねえ。
でね、その次というか、それまでは家族に実質的な被害はなかったんですが、
最初に俺にきちゃったんです。ほら、最初に、高校でバスケ部に入ってるって
言ったでしょ。そんとき2年で、土曜日の午前に練習試合に出てたんです。
練習試合って言っても俺からしてみれば、

3年生が引退した後、レギュラーになれるかどうかの大事なゲームで、
はりきって動いてたんですが、ジャンプしてシュートをし、
着地したときに何か柔らかいものを踏んだ感触があったんです。
「え?」下を見ると・・・そうですね、太さが人間の太腿くらいもある
ヘビがいたんです。驚いてすっ転んじゃって、そんときに右膝をねじって
靭帯が切れちゃったんです。監督が病院に運んでくれて、
保険証を持った母親が駆けつけてきました。いや・・・
そのヘビの話はしたんですけど、見たのが俺だけだったし、それも一瞬。
だいいちそんなのが体育館に出てくれば、他のメンバーが気がつくでしょ。
だから、見間違いだと思うしかなかったんです。膝の靭帯は、
入院して手術しなくちゃなりませんでした。

それでバスケも終わりですよ。で、このことがあって1週間後くらいだったかな。
うちは風呂は、夕食後に父親が一番最初に入るんですよ。
それがね、「うわわわわ」って声を出しながら、裸で居間に戻ってきまして。
「風呂のフタを開けたら、湯の中に大きなヘビがトグロを巻いてた」
って言うんです。で、俺はほら足がダメで動けなかったんで、
母親が見にいったら何もいない。けど、風呂の水が薄い緑色に見えて、
気味が悪いので全部抜いたんです。ねえ、ここまでくればさすがに変だと
思うでしょ。なんかヘビの祟りみたいなものがある。
で、その翌日です。父親が会社で倒れたんですよ。心筋梗塞でした。
幸いに一命はとりとめましたが、開胸手術して長期入院になったんです。
手術後の集中治療室でも、ずっと「ヘビ、ヘビ」うわ言を言ってたそうです。

それで、じつはうちの母親、実家が小さいながらも神社だったんです。
俺から見て母方の祖父が、そこの宮司さんです。
父親の容態が落ち着いてから、母親が電話で連絡し起きた出来事を話したら、
さっそく家に来てくれました。祖父は当時70歳前くらいかな、
普段着だったんですけど、着くなり、俺はやっと松葉杖をついて動けるだけ
だったんで、母親と妹に手伝えと言って庭に出たんです。
そんとき、平たい木の桶みたいなのに水を浅く張って、
中に一本長い釘を入れたんですよ。もちろん鉄だから底に沈むけど、
それを持って歩くと、釘がくるくる回って、えーとあの、
方位磁針みたいだったんです。でね、庭の一画、そこは最初に妹が
ヘビの頭を見たって言ったところの近くで、

その場所にきたら釘の動きがピタッと止まってね。
そこで祖父は、母親に地面を掘れって命じて、俺も少し手伝ったんですけど、
30cmも掘ったかな、白いものが見えてきたんです。
動物の頭の骨です。そうですねえ、大きさは子犬より大きいくらい、
長さ10cm以上はあったと思います。でほら、その骨はバラけてなくて、
体の骨もずっとつながってたんです。それがね、掘っても掘っても骨は
続いてて、庭だけでも4m以上。塀にいきあたって、
それ以上確かめることができなかったんです。
俺が、「じいちゃん、この骨、どこまで続いてるんだ?」そう聞いたら、
「うむ、この家を呪った輩のところまでだろうな」
そういう答えが返ってきたんです。つまり、その呪ったやつが

何kmも離れたところにいるのなら、そこまでヘビの体の骨が続いてる
ってことです。そんなの信じられないですよね。祖父にそう言うと、
「これは呪いが実体化したもので、今は見えてるが、普通は目には
 見えない」こんな意味のことを言いました。それから、
祖父は、桶に沈めてた釘を取り出して、なにか祝詞みたいなものを
唱えながら、最初に掘ったヘビの頭の骨に打ち込んだんです。
いや、カナヅチとかは使わず素手で。そしたらサクッと軽く刺さって、
そっからシューッと緑色の煙が立ち上って、骨は粉みたいになったんです。
頭だけじゃなく、体のほうのも全部。祖父は、「これでよい、
 呪いは仕掛けた者のところへ帰ったから、おそらくよくない最期を
 迎えることだろう」そんなことを言いました。

でね、後になって真相はだいたいわかったんです。はじめに、父親は
会社で人事部長をやってるって言ったでしょ。この出来事が起きる前に、
小規模なリストラをやって、かなり恨んでる人間がいたみたいなんです。
そのうちの一人が、聞きかじりで呪いを仕掛けたってことですが、
呪いが自分に返ってきて、首を吊って死んじゃったって話です。
その後は、家ではおかしなことは起きてません。父親は退院して会社に復帰。
人事部長から別の役職に移ったんです。俺もこのとおり、激しい運動は
できないけど、日常生活では足はなんともないです。そのときのことを
祖父に聞いたら、「あのとき使った釘は、うちの御社の御神木に
 打ち込まれてたもので、誰かが呪詛を行ったものだろう。
 それをお清めして、何かのときのためにとっておいた」って。