我、地道な活動するなり
日本では男性の約三人に一人がEDに悩んでいると言われている。
静香の提案なり
ガスコンロの火がつく音がして熱されたごま油の心地のいい香りが微風にのって鼻をくすぐる。しばらくしてシャーーという音と共に匂いが複雑に変わっていった。
「これは……エビにニラ、それにネギ……チャーハンか!」
「その通り、よく匂いだけで分かったな。おはよう、EDマン」
布団から上半身だけ起こしキッチンの方を見ると、そこでは静香が中華鍋を巧みに動かしてチャーハンを炒めていた。
何か粉を振り入れたと思うと、五香粉スパイスの香りが部屋中に充満した。腹の虫がグ~となく。
「静香はなんでもできるのであるな」
「そんなことないさ、ただ一人暮らしをしていたらいつの間にか料理にハマってしまっただけ。ただの男料理だ。ほら、朝ごはん……いや、この時間だとブランチかな。よく眠ってたからな」
そう言って、静香は器に盛られたチャーハンをテーブルの上に置いた。立ち上った湯気が静香のメガネを曇らせる。
時計をみたら確かに時刻は11時を過ぎていた。昨夜は夜更かしをしたわけではないので、ただたんに長く寝てしまったみたいだ。
「まぁ仕方ないさ。EDマンの身体はまだ回復が必要。睡眠が長いのもその副作用だね」
「うむ……我としては一分でも惜しんでED撲滅のために働きたい訳だが」
「まぁ気楽にいこうぜ。ブログ活動もまだ始まったばっか。しかも第一話を投稿してから随分と間あいたし」
「それはそうなのだが……」
去年の夏、EDが起こす人類滅亡回避のために東京に降り立った我だが、地球上での活動を始める前になんとEDマン存亡の危機が早々に訪れてしまった。
我の身体は特殊な構造ゆえ呼吸の必要はないのだが、周りの人間に影響されて我も真似して肺を動かしてしまったのだ。結果、大量の活性化酸素が生成されて我の身体を蝕み始めたのだ。これぞEDマンデータベースにあった、同調圧力というものなのだろう。恐ろしや人間である。
そのせいで、今ではEDマンセンサー🤖は反応しているものの、我の万能EDマンパワー💪は生み出されたそばから身体を回復するのに消費されて、まともに使えない現状にある。
まずはEDマンとしての活動第一歩としてブログを始めたわけだが、これが一個書くのに結構な時間がかかる。なにしろインターネットというものを産まれて初めて使うーーというか我は産まれたばかりなのだ、色々と慣れるまで時間がかかった。
EDマンブログ第一話が投稿できたのはいいものの、続きのブログを書くのに結構な時間を費やしてしまった。もう年も変わって2024年。諸君、あけおめことよろである。
「うーん、そんなにEDに悩む人を助けたいんだったらいっそ個人レベルで始めたらどう?」
突然、静香が言う。
「というと?」
「最初っから世界を救うってのはEDマンパワーが使えない今、現実的じゃない。だから、まずは個人レベルで解消していくんだ。例えば……」と静香がペラペラと続ける。
「な、なぬ……」
唾を飲み込んで、我は静香の提案に耳を傾けた。
カオス
「ピンポーン」
墨田区の某マンション三階。
「はい……あの、どちら様でしょうか」
ドアがゆっくりと開くと、中年くらいであろう男の顔が覗いた。無精ひげがだらしなく伸びていて、どこか悲壮感漂う男だ。
「ボク、EDマン!!」
すかさずポーズを決めながら自己紹介をすると、
我はドアを止めようとしてーー静香がその前にドアとフレームの間
「え?」
男は腑抜けた声を出して、
「俺の自己紹介がまだだ」
静香はそう言うと腕を大きく振り回して、「
がしかし! 男はまさかのドアを勢いよく閉めると、ドアの向こうから「
我と静香は互いの顔を見合わせた。
EDマンパワー💪……18%
我はEDマンパワーの残量を確認して静香に無言で合図を送る。静香は頷くと、我の腕を掴んだ。「パワー!!」我は内に秘めし力を行使した。
「ーーこれは……ひどい、ひど過ぎる」
先程の男のベッドルーム、部屋を見渡して我はうろたえる。
「何が、どうしたって言うんだ?」
静香が食い気味に我に問うが、我はもはや指を差すことしかできない。
濃い茶色のフローリング。おいてある家具はミニマリスティックで全体的に統一感がある中、一か所、床板の色が剥げているところがあった。
とその時、ベッドルームの引き戸がガラリと開く。
「な、な、な……なんでさっきのあんた達が家の中にいるんだ!」
そう困惑し叫ぶ男。うろたえ腰をつく我に、「いったい何が何なんだ!」とフローロングを観察する静香。これをカオスと呼ばずして、何と言おうか。
実は……おっしゃる通りなんです
事情を説明すること一時間。警察沙汰にはならずに済みそうだった。
「つまり……僕がEDに苦しんでて、それから僕を救うためにあなた達が来たと」
「そうだとも金道(かなみち)。我はEDマンデータベースから君を見つけたのだ。我の力で君を救いたいのだ」
「な、なんで僕の名を……でも確かに人間業じゃないことをやってのけたし……っていうかなんで僕がEDに苦しんでるって?!」
我がEDマンだと証明するためEDマンパワー💪を使い、彼の考えていることを当てたりなど、何個か能力を披露したのだが、未だに全てを信じた訳ではなさそうだった。
「それはだからさっきも言った通り、我のデータベースから金道を見つけたのだ。君のEDの原因を我は知っている。問題ない。我が今治してやる」
「でも一体どうやって……」
金道は身を少し乗り出した。これはチャンスである。
「先ずは、金道がEDの原因に気づくことが第一歩だな。何か心当たりはないかい?」
「いや……僕には全く分からないんだ。今の彼女とも、付き合い始めの頃は全く問題なかったのに、半年の節目くらいから急に……」
「達する前にしぼんでしまうと」
「え?! そ、そんなことまで分かるのか……実はその通りなんだ」
金道は一息おいて続ける。
「彼女が急に魅力的じゃなくなったとか、そんなことじゃないんだ。僕は一年経った今でも彼女のことは好きだし、むしろ付き合い始めた時よりも愛は深まってる……と思う。けど、上手くいかない夜が何回か続いてから、お互いにそのことについては触れないようになって今ではもう……」
「完全にセックスレスなんだな?」
金道が頷く。
「きっと彼女は僕にもう愛想をつかしているんだ。男として勃たないやつなんて、魅力はもう感じないよな……」
金道は悲しそうにうなだれる。悲壮感が部屋に充満した。
「……じゃあ例えば金道は、彼女が何かの病気を患って、しばらくセックスができないなんてことになったら、彼女のことを捨てるのかい? もう魅力を感じられないと」
次第に金道の表情が変化する。最後には眉毛を釣り上げて、「そんなことある訳ないじゃないか!!」と勢いよく立ち上がった。
「彼女がどんな病気を患おうとも、どんな困難にぶち当たろうとも、僕は彼女のそばに居続ける! 彼女をサポートし続けるよ。僕は心まで男をやめたつもりはない!!」
はぁはぁと息を切らしながら言い切った。
「その通りだ」
我はゆっくりと立ち上がりながら言った。
「じゃあ彼女は同じような状況で金道を捨てるような薄情なヤツなのかい?」
はっとしたように金道は顔をあげる。
「一回しっかりと二人で向き合いながら話せばいいさ。今思ってる気持ちをそのまま彼女に伝えればいいんだ!! EDをきっかけに気持ちが少しすれ違ってるだけ。EDそのもので崩れる程の愛じゃないだろ!! 君が今苦しんでいる問題は別に一人で抱え込まなくていいんだ。むしろ、一人で抱え込んでいることに彼女さんは怒ってるのかもしれないぞ。男としてのプライドもあるかもしれないが、信頼できる相手に打ち明けることで楽になることもある。いいか! くだらないプライドは捨てて、ビシャスサークルから抜け出せ!!」
「……ビシャスサークル?」
「ああ、それは我のブログ ”勃起の定義と原因” の心因性のセクションで説明している」
「はぁ」
「まあともあれ、金道がそんな顔をできるならもう大丈夫だ」
金道の顔にもう薄暗さは感じられない。
それもその筈、我は言葉にEDマンパワーをのせていた。説得力は壮大である。洗脳……では決してないよ?😀
「早速本題に入ろう。金道のEDの原因。さあ」
我らはベッドルームへと移動した。
フローリングの謎
「静香はその様子だともう分かったようだね」
ベッドルームでは静香が椅子に腰かけてくつろいでいた。
「ああ、金道さんのEDの原因はあれだ」
そう静香が指差す先には少し色落ちしたフローリング。
同時に金道が息を飲む。
「まさか床オナ……」
「そう、その通り。解説しよう(字が汚いのはいつも通りご勘弁)」
「つまり、金道はこの強い刺激に慣れ過ぎてしまって本当の性行為で得られる刺激では勃たなくなってしまったわけだ。床板の色がはげていたのは床オナのし過ぎだな」
「最近はセックスレスのことで自暴自棄になっていっぱい抜いたから……サオへのダメージは治らないとか?」
金道が不安そうに尋ねる。
「そんなことはない。刺激を普段から弱めれば少しずつ回復していくさ。床オナはとりあえず止めた方がいい」
「そ、そうか」と安堵のため息をつく金道。
「手で自慰をする際にも強く握るのは厳禁。コンドームをつけてしたり、オナホールなんかを使って強い刺激を与えないようにすればいい。次第にその程度の刺激にも満足いくようになるさ」
「はっはっ……」
金道は力が抜けたようにベッドに腰を下ろした。
「そっか、まさか床オナのせいだったなんて……そんなの恥ずかしくて病院に行ったとしても言えなかったよ」
感じてしまったのだよ
我らは金道に感謝の言葉をかけられながら、その場を後にした。
我初のミッション第一号、なんとか解決である。
ピコーン
その時我の元に届いた一通のメッセージ。
”EDマンによるEDの緩和が認められました。EDパワー💪……25%授与されます。”
我は天を見上げた。地球に降り立ってから感じるようになった我を創った存在。我が宇宙に突然誕生し、産まれながらに使命を得ることとなった全ての現象の源。
「マスター」
我は天を仰ぎながらつぶやく……
静香は先を歩いていて、それに気づいていない様子だった。
次回もよろしくお願い申し上げる。
我、EDマンなり。我の活動にご興味ある方は、是非我の初めのブログを読んで欲しい。↓↓