スタッフの連絡先など、夫の職場に
「医師妻」として、堂々と出入りすることは
可能で、履歴書などは容易に手に入る。
元々、江原は
夫が歯医者を開業した当初、
一人娘が幼稚園に行っている間だけ
受付として勤務し、配偶者を見張っていた。
開業前のクリニックから引き抜き、
連れてきた歯科衛生士(仮名 白川)を
江原ゆきは警戒していた。
バツイチ子持ちのこの女性。
学童の迎えに間に合わないときは
仕事を途中で抜けて子どもを迎えに行き
休憩室で待たせて
遊ばせていたのが気に入らなかった。
夫に「白川さんだけ特別扱いは許さない。
途中で抜ける時間が長すぎて
その分、働いてないじゃない!」と訴えても
「彼女に全て任せているから、
いてもらわないと困る。
衛生士の仕事も受付もできるのは彼女だけだ」
と断られる。
江原ゆきは
夫が、他のスタッフには
怒鳴り散らし、セクハラ発言も繰り返して
次々やめていくのに
白川にだけは「○○ちゃん」と、
下の名前でよび、
露骨に特別扱いする嫉妬した。
江原の夫が浮気に走ったのは
今回が初めてではなかった。
そのトラウマが抜けない。
またいつ、浮気癖が再発しないか
気が気ではない。
そして、江原は受付に居座っている時間、
白川に執拗に嫌がらせをした結果、
江原ゆき自体が夫から
「彼女に辞められたらこまる。
君は専業主婦に戻って育児に専念してほしい。
こちらの手伝いはいいから
娘が幼稚園に行っている間、
趣味のフラワーアレンジメントの教室を自宅で開いたら。」
と言われ、バッサリ切り捨てられた。
遠回しに、「職場に来てほしくない」と
言われることが許せない。
歯医者の待合室に飾る用だと
頻回に花を届けては、院内の様子を見に行くも
夫が露骨に
妻の出入りを嫌がった。
「先生~?これはどうしますぅ?」
ぴったりくっつくようにして
細かく指示をあおぐ白川と
夫のやり取りが
特別な関係にあるように
江原ゆきには見えた。
私から「あなたの配偶者は愛人がいる」
と言われた一言で、
やはり相手は白川だ。と江原の疑いは
突如、確信に変わった。
あいつしかいない。
バツイチ女だから
夫に資金面も援助してもらっているはずだ。
離婚するヤツはろくでもない。
「シングルは人のものを泥棒する」
からという妄想で
私にパイプ椅子を投げ飛ばした日の夜、
以前から把握していた住所をたどり
白川の家に乗り込んだ。