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秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

金曜日、11時30分


たかたかたかたかしー

 酔っ払った、今代々木

 立川行きの電車だから寝ても大丈夫かなぁ

 おやすみ~


RE:たかたかたかたかしー

 座ったらいかん



RE:たかたかたかたかしー

 あ、たかしが起きてた~

 おやすみ~


RE:たかたかたかたかしー

 寝るなー

 おやすみー


??私は寝ちゃいけないけど、自分は寝るってこと?




日曜日、メールすらウンでもスンでもない。

ちょっと冷たすぎない?



教えろー

 土日の行動


RE:教えろー

 土曜日 横浜(たかしの実家)

 日曜日 引越しの手伝い


RE:教えろー

 お疲れ様~

RE:教えろー

 3往復したー 



これだけ???

そっけなさ過ぎ。まったく冷たい奴だ。

まぁ、立場が逆でも私も同じような返事をするだろう。私たちはなんて忙しいのだろう。

ちょっとだけ詰まらないけど、またそのうちね。







10時頃時間の都合はつくかな?


ごめんその時間PTA


違うこれから


都合付ける!


後はもう寝るばかりにして、ちょっと用事があるからと家を抜けた。家の前にたかしの車が止まる音。その日二度目。
「たかしは大丈夫なの?」
「doorがもの欲しそうだったから」
「だって変なところ触るんだもん、たかしのほうが先でしょ」


たぶん私たちは生命力が強すぎるんだろう。もうそろそろ枯れてきてもいい年齢なのに。
性欲は個人の内的要因だけど、対象が面前にあるから想起されるとも言えて目の前に居る相手がとにかく欲しくてたまらない。


「いい年してどうしてこんなに欲しくなっちゃうのかなぁ」
「こんなに気持ちが良いなんてdoorに逢うまで知らなかったんだよ」
2人も子供を作っておいてどうだか…


そうして私たちは文字通り貪り合う。前に逢えたのは何時だったか、次に会えるのはいつか、つまり出された食事はとにかく喰らい尽くしてしまいたい。
そしてお腹が空いていれば、たいていのものは美味しく頂けるってことを私は知っていた。

ホテルのレストランで食事をしていた。

「これからどうしようか」

そのとき私の電話が鳴った。

「おかあさん、僕何時に学校に行くんだっけ」

「2時よ、2時になったら電話するから」

「僕が帰ってくる頃にはお母さんも帰って来てる?」


あぁ、せっかくその気になったのにぃ。

「わからないわ、早く帰るようにするから、じゃぁね」


少しだけお母さんはお休みしたい。中途半端な細切れの時間をやりくりして逢う。そんなに簡単に自分のモードを切り替えられない。

納得し、計算して決めたことだけど辛いときがある。

「ごめんね」

たかしは微笑んだ。


「結局お姉ちゃんは一人で暮らすの?」

「うん」

「たかしは寂しくならない?心配じゃない?」

「別に」

「そう」

家からそう遠くない大学に入ったばかりの娘が学校の近くに一人暮らしをしたいらしい。

「doorだって一人で暮らしたかったでしょ」

「そうだけど」

私のときは親に対する反発や締め付けの厳しさがあった。たかしの娘の理由は何だろう。

上の娘が大学生になったのだからお弁当はもうひとつでいいんでしょ?と聞いたら彼女の希望で未だに2つ作っていると聞いた。その関係が良く理解できない。

「たかしのうちは2人になっちゃう、それでいいの?」

「うん」

「そうか」

そう言われたらそれ以上何も言えない。なにか基本的な感覚が違うのだろうと思う。

「door、2時だよ、電話しなきゃ」


別々の家庭、中途半端な時間、時に彼を非常に遠く感じる。マニュアルがほしくなるときがある。


私が帰ってきた翌日、今度はたかしが北海道出張。

翌日の写メは、道路脇に雪が積みあがっていて

「寒いよ~眠いよ~」と、書いてあった。


今の季節の北海道で屋外の徹夜作業は辛かろう。

「うわぁ、こんなに積もっていたら私の愛じゃ溶かせないなー」

何事にも限界はある。


「doorは疲れてないの?」

「タイにいる間毎日2時間マッサージを受け続けたから元気、元気」

「そりゃ元気だ」


疲れているだろうと土曜日は放置。

今朝

「おはよー

 入学式の準備しなきゃだから今週は無理だー

 ごめんよー」

「こっちも新学期の準備だから気にしないでー」


早くゾウさんを渡したい。

目をつぶらせて小指を出してもらって、その上にそうっと落ちないように乗せるんだ。



「じゃぁ、お土産は象の置物だからね」


「こんなちっちゃいヤツにしてくんない?」たかしは笑いながら自分の小指の先を親指で切り取った。
「そんなちっちゃいヤツ探すほうが大変だよ、忙しいんだからっ
 大きいのは嫌でも目に入るけど、小さいのは探さなきゃなんない」
「もう…」
「嫌ならチーク材のテーブルだよ」
彼は苦笑いをした。


始めはお土産は何が良い?と聞いたのだった。
「別に…」とか「何でも」という答えを、私が大嫌いなのをそろそろ理解して欲しい。
果物が美味しかったんだったら、果物が食べたいと言えばいいのだ。
ブラジャーの中に隠して少量密輸するくらいなんでもないのだもの。(イケナイコトです)


まぁ、お土産なんてどうでもいいことだし、逆の立場なら私も同じことを言うだろうとすべて理解した上で、たかしをちょっと困らせるのが私の趣味だ。


そうして苦し紛れの戯言をかなえるのも私の趣味。

秘密の扉

やっぱりあなたの望むことなら実現させたいと思うの。

通訳のタイの女の子がとても可愛い。きらきらした目を持つ美人で、よく気がついて、健気で、しっかりしていて、なによりホスピタリティに溢れている。私が男だったら絶対に惚れてしまうだろう。仕事にかこつけて通いつめてしまうに違いない。
「恋人は居ないの?」
と、話を振ったら
「いないんですぅ
 タイは男の人が少ないんですぅ。悪い男の人は2人も3人も彼女が居たりしますぅ。そういう良くない男の人多いですぅ」
こちらが客という立場にあるから当然なのかもしれない。それを差し引いても、彼女たちのホスピタリティには心を動かされるものがある。

相手に喜んで欲しいと願うのはつまるところ人間性なのだと思う。そのような人間性に触れると、こちらも相手に喜んで欲しいと感じることになる。


彼女はあれも美味しい、これも美味しいと街なかの屋台で立ち止まる。タイのすべてを知って欲しい。タイの全てを好きになって欲しいと、伝わってくる。


でも彼女の存在だけで充分感動的なんだな。
どうあがいてもたった2,3日でタイの美味しい食事を制覇できないじゃない。観光地だってまだひとつも回っていない。

これから先も彼女に仕事を続けて欲しいと思う。そして私も彼女にまた会えるように日本でがんばらなくちゃ。

なんだか妙なことになってきた。

バレンタインデーはガトーショコラの材料を自分のものと勘違いした息子のために焼いた。一昨日もまたガトーショコラを焼き、今日はチーズケーキ。

この分では太ってしまいそうである。

いったいどうしてこんなことになってしまったのか、


誰か

止めて。


息子が湯船に入れておいたアザラシのおもちゃ。

浴室の明かりを消して七色の光を見つめながら

実は自分の心の闇を覗いていた。



出来るのかな

今でさえいっぱいなのに


何もかも投げ出したくなる

怖くて震えそうな時も

失敗する怖さは身をもって知っているから


もう一皮剥けなきゃならないのかなぁ

好きだから喜ぶ顔が見たい。何でもしたいと思う。そこを惜しむのは愛ではない。
でも自分が気の進まないことをするってことは知らず見返りを求めてしまいたくなる。
悲しいけれど、それが人の弱さで、パートナーという相手と対等な関係だからこそ、相手にも何か求めたくなるのだ。
忙しい生活の中で、わずかに空いた自分の時間はせめて好きなこと、やりたいことをしたい。
もしこれが「セーターを編んで!」と言うリクエストならどんなに大変でも喜んで作っただろう。


「愛ってなんかカツカツのところでやり取りしてるじゃん
 あげたんだから返してよっみたいな…」


結局ガトーショコラ問題はエネルギー問題で、限られたエネルギーを奪い合っている世界を反映している。
もし世界がもっと豊かで必要なものが十分あれば。もし私にもっと時間があって余裕があれば。
私たちは生きていくだけでカツカツだから、相手から無理にでもエネルギーを分けてほしくなる。
甘くて手のかかるケーキを。


理想を言えば女神様のように常に与えることのできる人間でいられればいいのだろう。
でも「私はちっぽけな人間で彼と同じようにエネルギーを分けて欲しいと常日頃思っているのだ。


さて材料を揃えていつでも作れるように準備したら抵抗感が無くなって来た。ケーキ型もふるいもあるから明日作って冷凍しちゃうのも手かな?15センチのホールをたかしは一人で食べるのだろうか…
濃厚なガトーショコラをワンホール食べなきゃいけないのも困るだろうな。うふふ


ベルギーの高級チョコレートは父にでも渡そう。びっくりするだろうな。

入試シーズン真っ最中。今年はたかしの娘たちもパパにケーキを焼けないだろうし、一丁焼いてやるか!