Football goes on 特別編 ~itch ブラジルへ行く~ vol.16
「リベルタドーレス決勝1st レグレポート」
フットピーポーよ!拠点をリオのバビロニアというファベイラに移したitchです。シティ・オブ・ゴッドな風景の中からお届けします!
今回はそんなファベイラの人達と一緒にバーでTV観戦した、いろんな意味でスリリングだったリベルタドーレス決勝1stレグを振り返ってみたいと思います。
今回のキックオフもセミファイナルと同様に22時!しかもここはファベイラ!まず観戦するだけで命がけですよ!といいながらも試合をTVで流すお店にはここ毎日顔を出して食事をしてたので、顔を出すと、おお、来たか!みたいな感じで席を作ってくたんで無問題!当初はガロのユニを着て行ってやろうかとも思いましたが、さすがにここでは自殺行為だと思うのでヤメました(笑)
さて試合ですが、まずは国際基準を完全に無視して満員電車のような状態になったオリンピアのホーム「Estadio Defensores del chaco」のあの観客たちを無視してはこの試合は語れません。ひさしぶりにあんな無茶苦茶な状態のスタジアムを観ました。
その雰囲気に気圧されてしまったのが審判です。かなり、オリンピアには甘く、ミネイロには辛い笛だったと思います。
試合はその力関係から守るオリンピア、攻めるミネイロの展開でした。この日もジョのポストプレーは冴えわたっていました。僕の中でジョはクライファートとダブります。少し引き目のジョのポストプレーからミネイロの攻撃はほぼ始まります。
ただこの日のミネイロには、ベルナールがいませんでした。セミファイナルで審判に抗議をした際に痛恨のイエローを受けてしまいサスペンド。その影響はあまりに大きかったです。最初は代役のルアンが健闘していましたが、オリンピアコスの激しい、というよりもファールまがいのディフェンスに沈黙。ミネイロの活路はタルデッリの突破のみになっていきます。
本当はそんな状況で違いを見せチームを救わなければいけない王様ロナウジーニョも、この日のオリンピアの激しいディフェンスに精彩を欠きました。
ファベイラの人達は試合中しきりにロナウジーニョの話題を話していました。ロナウジーニョはついこの間まで、フラメンゴに所属していました。ファベイラに住むような貧しい庶民から絶大な支持を受けるフラメンゴ。きっとこの人達も「メンゴー(フラメンゴファン)」なんだと思います。
愛憎半ばのロナウジーニョの出来について、「今日は全然ダメだ!」から「ロナウジーニョはクラッキ(名手)か論」に発展していき、最後は試合そっちのけでケンカしてました(笑)
でも「こういう試合で活躍してこそクラッキ」という説には大きく僕も頷きました。
そしてそんなお喋りが前半24分に止まります。カウンターで右サイドを駆け上がるオリンピア3番がそのまま中へカットイン。ミネイロの4番レーベルの寄せが甘く、フリーの状態で撃たれたミドルシュートは右ポストを叩き、ボールはゴールの中へ跳ね返りました。オリンピアにとってはしてやったりの先制点。
確かにオリンピア3番のカットインとミドルシュートは素晴らしかったのですが、ミネイロの守備の拙さも目立ちました。ミネイロはディフェンスラインが低く、前がかりになる前線と間が開いてしまい、バイタルがぽっかり空いてしまう。この試合ではそのスペースをオリンピアのカウンターが襲います。
攻撃している、というよりも持たされている。先制点後にはそんな展開になっていきます。スタジアムの観客を凍りつかせるシーンを作れず、前半は終了。ハーフタイムに入る前にブラジルの放送局は、しつこくオリンピアのファールまがいのディフェンスのリプレイを流して視聴者を煽ります。
リオの人達が、唯一ブラジルで生き残ったチームとは言え、ベロオリゾンテのチームの試合に対してどのようなリアクションを取るのか興味がありました。
ヨーロッパでは、同じ国のチームだからといって無条件で応援したりはしません。特にそれがライバルチームだったりした時には、あからさまに相手チームを応援します。憎きライバルチームが無様に敗北する姿を望むのです。
ブラジルもそうなんじゃないかと思っていたのですが、一緒に観ていた人たちは普通にミネイロのチャンスで沸き、ピンチにヒヤリとし、ミネイロサイドで試合を観ていて意外でした。まあこれが例えばリオの嫌われチームであるフルミネンセとかだったりしたら、また違ったのかもしれませんが。
ハーフタイムでもロナウジーニョ論は続きます。こちらの人は何かを比べる時に手のひらで高さを示して、比較対象との差をその高低で表現するの好きです。ロナウジーニョはクラッキか?クラッキだと主張する人に、違うと反論する人が過去の英雄たちの名を並べ手で高さを作っていきます。
まず出る名前はペレ。ペレはもう彼の手が届くマックスの高さに設定されます。次に出た名前がロマーリオでした。誰も反論はありません。ロマーリオはペレからだいぶ下の頭の高さぐらいです。次に出たのが意外にもロナウドです。そしてこれも異論はなし。さらに驚いたのがロナウドの評価でロマーリオとほぼ同格。ほんのちょっとだけ下に設定されていました。
このトップ3に共通している事は「ゴール」でしょう。しかも重要な重いゴールを決めたか否か。だからジーコも、レオナルドもまったく出てきません。彼らブラジル人が評価するのはあくまで「ゴール」のようです。
第4位からは異論が続出、リバウドだ、いやベベットだとまとまりません。そこで本題に戻り、じゃあロナウジーニョはどの高さか、と彼が表現したのがもうお腹のあたりの高さ!なぜか?「奴はセレソンで点を取っていない」。クラッキは名手と訳されますが、実情はもっと複雑でシンプルです。国を救った英雄か、否か。
話はそこからお約束の口ゲンカになり、お互いのプレーの下手くそさをゼスチャーで表現しあい、お互いの体をドンドン突つきあう言い争いになり、さあそろそろ殴り合いという所で後半が始まりました(笑)
後半も基本的に前半の繰り返しでした。1-0ならホームインディペンデンシアで充分逆転可能な範囲でしたが、ミネイロはボールを持たされ、いい所まで行けるので徐々に前線は前へ、ディフェンスラインは追加点を恐れ下がり、前半以上にバイタルにスペースが生まれます。
そしてロナウジーニョが残り30分ぐらいを残して早くも交代してしまいます。ロナウジーニョはかなり不服そうな表情で、嫌々、という感じで交代しました。たしかにこの日のロナウジーニョは完全に相手のマークに抑えられ、交代もやむなしという感じでした。勝ち誇ったようにロナウジーニョ非クラッキ論を展開していた親父が「な!」という感じで自慢します。
ロナウジーニョがいなくなったミネイロからは中盤が消えます。ジョめがけてロングボールを放り込み、そこにタルデッリや、交代で入ったセミファイナルの救世主ギレーミがからむという攻撃。オリンピアは全員守備でこれを跳ね返し続けます。
それでも1-0だったら御の字と思っていたロスタイムでした。ぽっかり空いたバイタルエリアにオリンピアが蹴りこんだロングボールの競り合いで、主審はミネイロのファールを宣告します。あれは観客が吹かせた笛です。同じプレーでミネイロは吹いてもらえない笛でした。
そしてそのゴール前絶好の位置のFKを、オリンピアコスの8番に決められてしまう!痛恨の2-0にファベイラの人達は手を挙げて「なにやってんだ!」と本気で怒ってました。ブラジル愛です。
こうして我がガロはセミファイナルとまったく同じシチュエーションで、2ndレグを迎える事になってしまいました。どんだけ学ばないのか!ベルナールがいないのであれば、もう少し守備を意識した戦いをしても良かった気が…
今頃ベロオリゾンテのガロどもの合言葉はまた「トレイス、ゼロ!(3-0)」でしょう(笑)。さすがに2試合連続でこの過酷な条件をひっくり返すのは難しいと思います。それだけに!やはりこの勝利のタリズマンitchが必要でしょう。
幸い、今日アミーゴのフェルナンドからチケットがなんとか手に入りそうだというメールも届きました、そんな訳で次回はまた、インディペンデンシアのゴール裏からお伝えしたいと思います。いやあセミファイナルであれですからね。一体どんな事になるのか、ちょっと怖いぐらいです!それでは!トレイス、ゼロ!ガ~~ロォォォオ~~!!!!
苦労してチケットを手に入れ、下見もばっちり。いよいよコパ・リベルタドーレスセミファイナル2nd レグ、アトレチコ・ミネイロ×ニューウェールズ・オールドボーイズの試合会場、インディペンデンシアへ向かう。
スタジアムに出る前にフェルナンドから注意を受けた。今日は試合が終わったら0時を超える。メトロはもうやっていない。試合が終わったらタクシーを拾ってすぐにホテルに帰れ。特にガロが負けたときは危ないぞ。絶対に1人になるな。
自分がどういう所にでかけていくのかリアリティーが湧いてきた。さらにフェルナンドは付け加える、「今日はデモもあるぞ、セントロには近づくな」
いつもは出かける時にウエストバックを前にたすき掛けにして財布、携帯、メモ帳を持ち歩いているけど、今回は必要最小限の装備をポッケに突っ込み、バックを持たずに出かける。カードもホテルに置いていき、タクシー代を考えて現金は70レアルだけ持った。カメラはいつもどおりベルトループにカラビナでカメラバックを固定してそこに入れる。
試合が始まる2時間前にホテルを出た。メトロの駅に近づくと、既にガロのシャツを着た人が多数集結。ホームでガロのチャント(応援歌)を合唱している。いい感じだ。
電車が到着し、乗り込む。一両すべてが黒と白に染まっていた。乗った駅から4つめが目指す「HORTO」の駅。駅に止まる。ドアが開く。なだれ込んでくる黒と白。それが3回繰り返されて「HORTO」に到着するころはもうパンパン。そして全員が降りた途端に待ってましたと歌いだす。
電車から降りてホームを抜けて改札を出るまでに、3曲のチャントを彼らは歌い終わっていた。こっちもテンションが上がってくる。
駅を出るとそこは戦いの場だった。

コンフェデレーションカップの会場を覆っていたお祭り感はゼロ。今日はエンジョイする試合じゃないようだ。「トレイス、ゼロ(3-0)」という厳しい勝利条件を、彼らは内心では分かっている。笑顔は無い。一応友達と会うと「オラ!ガッロッ!」と言って笑うけど、目が笑ってない。
会場を目指す途中、そこいらで爆竹が炸裂する。地上で、または打ち上げ式のも含めて、それが彼らのお約束なのか「ドカン」と炸裂すると、即座に「ガ~ロ~!」と叫んでレスポンスする。
一回、左前方3メートルぐらいの所で爆竹が炸裂して身体がビクっとなった。鼓膜キンキン。前方を歩いていた親父も突然の炸裂に身体がビクッとなっていたけど、即座に「ガ~ロ~!」と叫び返していた、さすがだ!
ただ危険さは感じなかった。湧き上がってくるのは逆の感情だ。強烈な連帯感。同じシャツを着る大量の仲間がいることからか、アクション映画を観終わって映画館を出るときのような、身の丈以上に気が大きくなっていく感覚。たぶんこの感覚が暴走してアウェイサポーターとのケンカや、破壊行動に繋がっていくんだろう。
テレビや雑誌でお馴染みの発煙筒も盛大に焚かれていた。インディペンデンシアの周囲は、あまり上品な景観では無いのだが、そんな風景に発煙筒の炎がすごくマッチしていてカッコ良かった。

ビールを飲みたかったけど我慢した。まだ緊張感を持ってなきゃいけない雰囲気だった。
試合開始1時間前になったので、いよいよスタジアムに入る。凶器や花火など危険な物を持っていないか、時間をかけた念入なボディーチェック。そしていよいよチケットチェック!頼むから偽物じゃないでくれよと祈りつつ、チケットをゲートの投入口に入れる。ランプはグリーンに点灯してくれた。警備員の男性がウインクして言う「ようこそ」
チケットにはゲート6、そして「SERTAO ESPECIAL」と書かれていた。誘導されるがままに進む。チケットに書かれたエリアに到着して「ESPECIAL(特別)」の意味に気づいた。
ゴール裏ど真ん中。ウルトラスまっただ中のチケットだった。
一瞬、たじろいだ。周りには背中に「TORCIDA(竜巻)」と書かれた白いブルゾンを羽織る男たちが。彼らはガロのウルトラス。ゴール裏は真ん中、左サイド、右サイドの3つに仕切られていて、そのエリア内なら自由に座ってよいようだったので、とりあえず後ろの方に座った。
周りの様子を探る。以外にも普通のおじさんやおばさんもいる。ちょうど5列ぐらい前に、教授風の知的な男性が1人で来ているのを発見。せっかくのこの流れ、どうせだったら身を委ねてみようと思い、その男性の列まで前進した。前の列にはおばさんもいるし、大丈夫だろ、と。
初めて訪れるインディペンデンシアは凄かった。何が凄いってその潔いデザイン。
「Estadio Independencia」

なんとアウェイゴール裏が無く吹き抜けになっている!ゴール裏から見ると写真のように、ベロオリゾンテの山々の稜線が見えて、解放感のある雄大な風景が広がっていた。ちょっと他に観たことがない。
試合開始30分前ぐらいになると、一気に周りが埋まりだす。そしてニューウェールズサポーターとの応援合戦がヒートアップしてゆく。
そこには基本的に相手を認めるリスペクト精神なんてものは存在していなかった。ニューウェールズが何かを歌うと、即座にそれの3倍ぐらいの声量のチャントでかき消してしまう。前方には段ボールで作ってきたニューウェールズのカラー、赤と黒に塗られた棺桶をアウェイ席に向かって振っている若者がいた。中指を立てながら。

すると突然耳をつんざく盛大な指笛がスタジアムを包む。ニューウェールズの選手たちがアップの為にピッチに登場したのだ。もはやブーイングというレベルじゃない。「呪い」レベル。気の毒なのはキーパーだった。インディペンデンンシアはピッチと観客席の間が手の届くぐらいの距離なのだが、その至近距離から彼はありとあらゆる罵声を浴びながらアップをしなければいけなかったのだ。
途中であまりの罵声に怒り、振り向いて何かを言い返したのだがそれは火に油を注ぐようなもの。ただちに数人がフェンスに顔をくっつけるようにして、今ままでの倍ぐらいの勢いで罵声を浴びせる。これが、南米のアウェイなのか。
しばらくしてやっとニューウェールズの選手はブーイングから解放される。我らがヒーロー、ガロの選手がピッチに姿を現したのだ。大歓声に次ぐ大歓声。8割ほど埋まってきた周りではありとあらゆるチャントのメドレーが始まる。
するとどうだろう、隣の知的な教授風の男性の人格が豹変した。そのチャントを絶唱する姿にもはや知性のかけらは存在せず、あるのはただただアドレナリンが駆け巡っている野生の姿のみ。前方のおばさんをみるとやはりこちらもガロのマフラーを掲げて絶唱していた。人は見た目では分からない。
やっぱり元の位置に戻ろうかと振り返るともう人の壁だった。腹をくくった。
いよいよキックオフを迎える。オーロラビジョンに「Bem-vindo à nossa casa.Vamos! GALO!!」というメッセージが表示される。「俺らの家によく来たな!いくぞガロ野郎ども!」メッセージと共に大音量の音楽がかかり、屋根からは打ち上げ花火が上がった。いよいよ戦いが始まる。
「コパ・リベルタドーレス2013セミファイナル2ndレグ アトレチコミネイロ×ニューウエ-ルズ」
声援はキックオフされる前からとんでもなかったのに、キックオフされるとさらに限界値が跳ね上がった。ゴール裏では誰も座ってなどいない。それどころから全員がシートの上に立っているので、自分もそれにならう。
試合は2点のビハインドを取り戻すガロが、大声援をバックに、序盤からトップギアの猛攻を見せる。
ガロのサッカーはセンターハーフのジョズエが作っていた。ちょうど日本代表で言うと遠藤のような役割だ。ジョズエは長短のパスを使い分け、ゲームを作っていく。前半のガロの攻撃で有効だったのがジョのポストプレーだ。空中戦をことごとく制し、サイドやトップ下のロナウジーニョにボールを落としていく。
ジョ、ロナウジーニョ、ベルナール、タルデッリ、このチームの攻撃の中心の選手たちは、3日前のカンピオナートブラジレイロで温存され欠場していた。ちなみにその試合をガロはBチームで3-2の勝利を収めている。攻撃陣はコンディションが良さそうだった。
そして開始3分、いきなり試合が動く。動かしたのはマジコ(魔術師)・ガウショ、ロナウジーニョだった。
波状攻撃を仕掛けるガロに混乱するニューウェルズはロナウジーニョのマークを外してしまった。バイタルエリアで前を向き、フリーでロナウジーニョがボールを持つ。沸き立つ大歓声。ロナウジーニョはあの独特の股を大きく開くフォームでスルーパスを放った。
歓声が止み、スタジアムの全員が息を飲む。
最初パスはちょっと強すぎる、と思った。しかしそのパススピードは快速のサイドアタッカー、ベルナールの全力疾走にドンピシャだった。ベルナールはキーパーとの1対1に迷いなく左足を振りぬいた。ボールはキーパーの脇を破り、ファーサイドに突き刺さった。全て目の前10メートルぐらいで起こった。
インディペンデンシアが揺れた。表現じゃなくて本当にグラグラと。いつのまにか教授との間に割り込んできてたメガネをかけた白人系の男が、何の面識も無い自分を抱きしめる。右隣にはおそらく10代の黒人の痩せた子がいたが、彼は喜びすぎて椅子から転げ落ちた。左前方にいたカシージャスにそっくりな若者は、チャントも歌わないようなシャイな青年だったけど、その羞恥心を捨てて暴れていた。それ以後、彼はチャントを歌いだす。前方ではウルトラスが一斉にフェンスの方に押し寄せて、絶叫している。前後左右あらゆる人とハイタッチが交わされ、おかげさまで開始3分で何も遠慮せずに、彼らと一緒に試合を観戦できるようになれた。ありがとうロナウジーニョ、ありがとうベルナール。
観客が冷静になるのは意外に早かった。最低でも後1点。勝利するにはさらに1点が必要なのだ。さらなる得点を求める怒号のようなチャントがインディペンデンシアに響き渡る。ニューウェールズの声援はまったく聞こえない。

ガロのゴール裏にコールリーダーのような存在はいなかった。あるのはリズム隊とバンディエラ(旗振り)だけだ。終始リズム隊はダンスカ、ダンスカ、ダンダン、ダンスカと、基本となる8ビートを打っていて、誰かが状況に合わせてチャントを歌い始めると、そのチャントが適切な場合は周りが歌いだし、それがゴール裏に広がるとリズム隊は即座にそのチャントに合わせてリズムを変える。そしてそのチャントがバックスタンド、メインスタンドに広がっていく。誰もがコールリーダー。歌い奴が歌って、乗っかりたい奴が乗っかる。ガロの応援はそんな感じだった。
リズム隊のダンスカ、ダンスカが興奮とマッチし、ずーっとダンスカ、ダンスカのリズムに合わせて身体を揺らしていた。気持ちが良かった。
得点後もガロの攻撃は冴えわたった。特にベルナール。彼のプレーに釘付けになる。ベルナールは1対1だとほぼ相手を抜く。2対1でも時に抜き去る。緩急じゃなくてスピードにモノを言わせて、直角に切り返して相手を置き去りにしていくモロに好きなタイプのドリブラーだ。そう遠くない将来、彼はヨーロッパに渡ると確信。
今でもブラジル人プレーヤーで一番好きなロナウジーニョもキレていた。全盛期のスピードこそ無くなったものの、その柔らかいタッチと、自由なアイデアは健在だった。ボールを持つと「ガウショ!」と期待の声が飛ぶ。ちなみにロナウジーニョのチャント中、サポーターは両手を上げては前に倒すを繰り返す。王様にひれ伏すジェスチャーだ。
追加点は時間の問題かと思われたがここで流れを変えるプレーが出る。
ヨーロッパから母国アルゼンチンに戻ってきたエインセがゴール前の競り合いで派手に痛がりピッチに倒れこむ。ずるがしこいエインセのキャラを全員知っているゴール裏の観客は、時間稼ぎだ!早くピッチから出せ!とアピール。しかしエインセはピッチから運び出すカートが到着してからも、ゴロゴロ痛がって転がり、そのカートから逃げ回るという離れ業を披露!しかも怒れる観客の目の前で。
時間にして3分ぐらいだが、この中断でガロは一息ついてしまった。恐るべしエインセ。
この後もエインセはほぼワンプレーごとにピッチに倒れこんだ。全観客から凄まじい罵声を浴びても、エインセは顔色一つ変えずにそれを繰り返した。いったいどういう神経をしているんだろうと思っていると、前半残り10分ぐらいで交代した。本気で痛めていたらしい、オオカミ少年エインセ(笑)
エインセは交代時に、時間稼ぎのためにこれ以上ないぐらいの牛歩でゆっくり、実にゆっくりと優雅に歩いて行った。もちろん盛大なブーイングが飛ぶ。そのブーイングが大きければ大きいほど、彼は仕事をした、という事になる。顔色一つ変えずに凶悪なサポーターの目の前をゆっくりと歩いていくエインセは、頭上で拍手もしてみせた。めちゃくちゃカッコ良かった。
圧倒した前半でガロは2点目を取れなかったのが痛かった。ハーフタイムを挟んだ後、ニューウェルズはしっかりとディフェンスを修正してきた。
まずジョのポストプレーを徹底的に抑えた。そして運動量が落ちたロナウジーニョに5番を張りつかせる。中央の攻撃経路を潰されたジョズエは、ベルナールにボールを集めるが、ベルナールも前半を飛ばしすぎた影響か、足が止まりだす。ガロの攻撃は単調な可能性の低いロングボールが繰り返されるようになる。
前半を飛ばしすぎたガロに、ニューウェルズの荒々しいディフェンスが襲いかかる。前半からもその傾向は強かったけど、この日の審判はコンタクトプレーに寛容だった。PKをとってもいいようなファウルを受けたジョに対してノーファールだった時に、全員の怒りが爆発していた。
特に右隣の若い黒人の子は本当に怒っていた。彼はかなりガロの勝利に対して切実で、ワンプレーごとに感情を爆発させていた。後半が始まる前に、彼は椅子から降り、床にひざまずき、本気で神に祈りを捧げていた「神様、どうかガロを勝たせてください」真剣に祈ってた。そんな彼は審判に向かって拳銃をバンバン撃つジェスチャーをしていた。覚えておけよ、そんな感じだ。たぶん家に帰ればあるんだろう。
サイドが変わった後半、目の前のゴールにニューウェールズの目を覆いたくなるようなきわどい攻撃が襲いかかる。特にガロは左サイドからやられる事が多かった。対面するニューウェルズの右サイド、マキシ・ロドリゲスに。
マキシ・ロドリゲスもエインセ同様にヨーロッパからの帰国組の1人だ。マキシ・ロドリゲスのドリブルは、ベルナールとはまた違って凄かった。何というかリアル「日向君のごういんなドリブル」というか、細かいフェイントなど一切せず、体をぶつけ、手をうまく使い、ディフェンダーに当たられてもそのまま突き破るように突破していく。
突破したマキシ・ロドリゲスが中央に合わせ、リターンをもらいキーパーと1対1になりシュートを放った時は、終わった、と思った。だがシュートは後半のヒーロー、キーパーのヴィクトールの腕に当たり、ポストを叩いた。
致命的なアウェイゴールが生まれそうな流れを変えたのは、アクシデントだった。
突如、バックスタンド側の照明が片方のラインのみになってしまう。試合は一時中断された。この間に選手たちはドリンク補給と簡単なミーティングを行っていた。一方、後半に入り元気が無かったゴール裏は、試合が止まったこの時に、誰からともなくチャントのメドレーを歌いだす。
その歌声は瞬く間にバックスタンドまで広がり、そしてメインスタンドも巻き込む。キックオフ時のような大合唱にあっという間に発展し、さっきまでの苦しい時間帯は悪い夢だった事にして、新たな朝を迎えたように目覚めた。
やがて照明は復旧。今になって思えば本当にあれはアクシデントだったかどうか怪しい。そしてガロは息を吹き返す。ロナウジーニョがルーズボールに対して怪我しそうなスライディングでマイボールにしようとする。湧き上がるインディペンデンシア。
ここでガロの監督は勝負に出る。残されていた交代枠2枚を一気に使い切って両サイドのタルデリ、ベルナールを代える。スリートップに変更した。
ベルナールの交代に観客は怒っていた。隣の例の祈れる若者は、頭の横で指をくるくるさせてた、気は確かか!
しかし、その交代で入ったギレーミがガロを救うのだ。
残り、5分。パワープレー気味になりつつあるガロの攻撃を、ニューウェールズは楽々と防いでいた。周りの観客はガロのディフェンスラインがロングボールを蹴ると怒っていた。やはり右サイドに大きく蹴ったボールを競り合い、スローインを獲得したガロは、ここでもロングスローを選択する。そのロングスローは難なく跳ね返されるが、そのこぼれ球をギレーミが思い切りミドルレンジからシュートした。
反対側のゴールだったが、ゴール右隅に吸い込まれていくのがハッキリ見えた。ニューウェールズはツイていなかった。誰かがミスした訳でも、チームとして致命的なミスを犯した訳でもない、ただただ、ギレーミの右足が素晴らしすぎただけ。
先制点の時もぶったまげたけど、このトータルイーブンとなるゴールは輪をかけて凄まじかった。左隣りのメガネは前方に疾走。教授はもはや野獣と化し、おばさんは頭を抱えて号泣。グラグラ揺れるインディペンデンシア。どうやって持ち込んだのかあちこちで炸裂する爆竹。これは歓喜なのか悲鳴なのかよく分からない絶叫。
ふと我に返り右隣の若者を見た。彼は跪いて天に向かい一点を見つめ、なにかブツブツ言っていた。ガロを土壇場で救ってくれた神様と対峙していたのだ。写真を撮ろうと一瞬思ったけど、控えた。
残り5分で追いついたガロはその後もひたすらロングボールを相手陣内に放り込むも、タイムアップ。トータルスコア2-2で試合は終わった。
延長戦が始まるものだと思っていたが、いきなりペナルティーキックゲームが始まりだし焦った。
実はペナルティーキックゲームが好きだ。しかもこういった大きな試合の。大きな試合は充分に極限状態だけど、その中でもペナルティーキックゲームはとびきりの極限状態。よくペナルティーキックは運だ、という意見もあるが違うと思う。ペナルティーキックゲームはメンタルの勝負だ。その極限状態の前に、人間性が否応なしに出てしまう。すごく残酷で、だから不謹慎だけど面白い。
初めてペナルティーキックゲームをスタジアムで観る。
ペナルティーキックゲームはホームゴール前、つまり目の前で行われた。先行はガロ、1人目は交代で入ったフォワードのアレッサンドロ。蹴る直前にスタジアムは一斉に静まり、かすかにアウェイ席からのブーイングが聞こえた。
観ているこっちが辛くなってくるような空気の中、大事な1本目をアレッサンドロは成功させる。
続いて後攻のニューウェールズ、名も知らない1人目の選手がペナルティーアークにボールを置く。はるかその前からインディペンデンシアは呪いの指笛に包まれていた。みなが外せと願う中、その選手、後で調べて名前を覚えたフォワードのスコッコは、ユーロのイングランド戦ででピルロが見せた「パネンカ」、ループシュートをど真ん中に決めた。どんな神経をしているんだろう。アルゼンチン人はエインセといい、この手のくぐってきた修羅場の数が違う選手が多い。
ペナルティーキックゲームは1回ごとに、その重責が行ったり来たりするロシアンルーレットのようなもの。前の選手が決めたか、外したかが次の選手に色濃く影響を与える。パネンカという大技を目にして次に蹴るのはこの試合の救世主、ギレーミ。しかしギレーミは落ち着き払ってゴールを決め、今度はプレッシャーをニューウェルズの2番手にかける。
再び訪れる呪いの時間。数分で繰り返される祈りと呪いの転調になんだかよく分からなくてなってくる。ニューウェルズの2番手は本田のようにど真ん中に思いっきり打ち込んで決めた。
3番手、ゴール裏はジョのチャント。ジョはゴールの左スミにグランダーで狙ったが、ボールはポストの外に転がってゆく。誰も一声も発さない。「ウー」とか「アー」とか一切なし。ただ沈黙とアウェイ席からかすかに聞こえてくる喜びの声だけ。
しかし次のニューウェルズの3番手が魅入られるように外してしまう。救われたゴール裏はお祭り騒ぎ、ただしその騒ぎは長くは続かなかった。ガロの4番手の20番は明らかに様子がおかしかった。ボールのセットから助走までがやけに早く焦っている。この重責を早く終わらせたいのが有り在りと見て取れた。外すな、と思ったその通りに彼の蹴ったボールは遥かクロスバーの上を外れていった。
外してくれて追いついた後の、この力ないキックはサポーターにとって許せなかったらしい。ジョの時とは違い、みなが20番に悪態をつく。そんな異様な空気の中、ニューウェルズの4番手がボールをセットする。対照的に彼は落ち着き払っているように見えた。
ブーイングが弱い。さっきの失敗でみなの心は折れてしまった。もう見たくないとこちら側、つまりゴールに背を向けて上空を見つめている人もいる。その人は次の歓声で何が起こったか分かったはずだ。ニューウェールズ4番手のキックはクロスバーに当たり、外れた。
4人連続でキックが外れている異様な流れの中で、肩を組む列から歩き出したガロの5人目は、ロナウジーニョだった。

これまで外すわけのない5人目のキッカーが失敗するシーンを何度も見てきた。ロナウジーニョだから大丈夫、そう信じつつも、4人連続失敗という重い空気が、何かを起こしそうだった。
ロナウジーニョ独特の、ボール対して大きく開いた真横からの助走。選択したコースは右上。読んでいても届かない位置に見事に決めてみせた。
全員が例の両腕を上下に倒す、王様を崇めるジェスチャーを行いながらガウショのコール。ロナウジーニョはガロのエンブレムを力強くバシバシ叩き応えた。
ニューウェルズ5人目のキッカーはマキシ・ロドリゲスだった。
ここまで2ターン、先制されていたガロにとって、久しぶりにプレッシャーをかける余裕が復活していた。みながあらゆるアイデアを総動員して、マキシ・ロドリゲスの集中を乱そうとする。中指を立てる、罵声をあびせる、指笛を吹く、ホイッスルを吹く、ユニを脱いでブンブン振り回す、そして前方にはマキシ・ロドリゲスに向かってケツを出している人も、素晴らしいアイデアだ。
そしてマキシ・ロドリゲスは「外すわけのない5人目のキッカーが失敗する」に、なってしまった。狙ったコースはロナウジーニョと同じだったが、そのコースは甘く、ガロのキーパービクトールに弾かれた瞬間に、インディペンデンシアも弾けた。
絶叫と絶叫と絶叫、そして絶叫。とにかく空いている人と誰彼かまわず抱きしめ合う。肩に回される誰かの腕、回した腕が抱く誰かの肩。個人という感覚が消えて巨大な「ガロども」になる感覚。この勝利の祝福を一番かけてあげたい右隣の若者を探した。彼は天の神様に感謝する事も忘れて、ピッチにいる神々に向かって喜びを爆発させていた。肩を叩くと家族や親しい人にしか見せない、無防備な彼の本当の顔で、120%の笑顔をこちらに向けてきた。
言葉が分からないので目に「やったな!おい!」という意思を載せて彼に笑いかえした。首をブンブン上下に揺らしてうなずく彼と抱き合った。彼のあの表情は忘れない。
彼だけじゃない、人間本当に嬉しい時は、無防備な子供の顔になることを知った。誰もが子供にかえっている。何の悩みも無く、世界は素晴らしさに満ちていた人生最高の時に。
「Copa Libertadores2013 Semi Final Atlético Mineiro×Newell's Old Boys 2-0(3-2)」
選手たちはみんなユニフォームを脱いで、ピッチ上でジャンプしてブンブン振り回していた。歓喜の爆発を終えて我に返りだした人から選手と一緒にユニを回し始める。ニューウェールズの選手達は腰に手を当てうなだれていた。マキシ・ロドリゲスはペナルティーアークの傍に座わりこみ自分が蹴ったコースを見つめていた。インディペンデンシアに響き渡る勝利の凱歌。アニメのポパイの曲を原曲にした勇壮なチャントが、この日聞いたチャントの中で一番のお気に入りになった。
名残惜しいけどペナルティーキックゲームまでもつれ、途中の中断もあり、時刻は午前1時前ぐらいになっていた。フェルナンドの忠告を思い出し、隣の若い子に「チャオ」と別れを告げる、彼は「アテ・ローゴ・ファイナウ」と返してきた。「じゃあまたファイナルでな」と。
試合ハイライト動画
インディペンデンシアを出てみると、外は試合前とは180 度変わって、お祭り会場と化していた。
「インディペンデンシア前、シルビアーノ・ブランドン通りの様子」
その雰囲気に安心して、禁じていたビールを買う。もちろんうまい、めちゃくちゃにうまかった。
全ての車がクラクションを鳴らし、行きかう人の挨拶は「ガ~~~ロォォォ~~~っ!」の絶叫。車の窓には箱乗りでフラッグを構える人。そこかしこで爆竹が鳴り、その直後にはお約束の「ガーロー!」。リベルタドーレス決勝進出を祝いに祝う、しつこいようだけど時刻は平日深夜午前1時。
フェルナンドはタクシーを拾え、と言っていたがさっきからシルビアーノ・ブランドン通りの車はまったく動かず、止まっているタクシーには全て人が乗っていた。仕方が無いので他の人がそうするように、タクシーが拾えそうな別の大通りに向けて歩いた。
ガロが勝利してくれたおかげで、周辺は幸せな空気が流れていて、さほど危険は感じなかった。シルビアーノ・ブランドン通りをホテルの方角に向かって歩いて行ったけど、まったく車は動く気配が無い。そして誰かとすれ違う時には相変わらず「ガ~~ロ~~!」の挨拶。自分みたいな初めて観戦する奴がおこがましいけど、ノリが悪い方が場違いな空気だったので、こっちも「ガ~~ロ~~!」と返しながら歩く。
シルビアーノ・ブランドン通りとクロスする、クリスチャーノ・マチャド通りでタクシーを拾えた。乗り込んだ瞬間に運転手が「ガ~~ロ~~!」。いかに凄い試合だったか、単語を並べながら説明し、ガロの事を褒めちぎり、ホテルに到着した。メーターは11レアルちょっとだったけど、ガロが勝ったから10レアルで言いと感動的な事を言うので、12レアル渡して「ガ~ロ~!」と挨拶してお釣りを拒否してホテルに戻った。
フェルナンドは「まっすぐ帰ってこい!」とか言ってたくせに、そこから1時間後ぐらいにガロのチャントを大声で歌いながらベロベロになって帰ってきた。もうベッドに入っていたからそのまま目を閉じたら、ドカドカ音がして部屋に(ドミトリータイプで2段ベットが4つの部屋)入ってきて、俺が寝てるのを確認すると、隣のベッドの下の段に倒れこんで、1分ぐらいで寝た。素晴らしい職場だ、うらやましい。
面白かった試合はこれまで何度も観てきた。だけど、価値観が揺さぶられて、人生観も変えられるような試合は初めてだった。なぜ人はサッカーが好きなのか、なぜ人はサッカーを必要とするのか、なぜ人にはサッカーがあった方が良いのか、それを体で感じる事ができた。
翌朝目覚めるとフェルナンドは既に起きていた。ガロのシャツを着て。俺の顔を見るなり「ガ~~ロ~~っ!」と職場に相応しくない声の大きさで素敵な朝の挨拶。そこからしばらく昨日のゲームについて話す。うまくポルトガル語が話せないのが悔しい。フェルナンドに携帯で撮ったムービーを見せると「ESPECIAL?」と驚き、自分の携帯で撮ったムービーを見せてくる。
ほぼ自分の席から横に数メートルの視点だった、もっと前の方だけど。フェルナンドは「俺はバンディエラなんだよ」と言って指差す。フロントのチェストにどでかいミネンセのエンブレムが入ったフラッグが置いてあった。
この朝からフェルナンドは名前で呼んでくれるようになった。ペシペシブログを打っていると、「オイ(oiは同じ意味なのだ!)、イチカーワ!」とか声がかかり、行くとテレビで昨日の試合のハイライトがやってたりする。
フェルナンドは「ファイナル、行くんだろ?」と聞いてくるので、行きたい、だけどチケットってどうやって買うの?と答えると自慢げに会員証を見せて、「俺が買ってやる」と頼もしい事を言ってくれた。
ただし、全てのガロファンがファイナルにはやってくるから、俺でもチケットを取れるかどうかは分からない。ダメだったら諦めろ。とも付け加えた。ムイント・オブリガード。
チェックアウトする時にメールアドレスを交換し、チケット状況が判明したらメールを送るとの約束を交わし、熱い抱擁を交わし、最後に「ガ~~ロ~~ッ!」の挨拶を交わし、ベロオリゾンテを発った。
本当に今回の旅では、ベロオリゾンテで何かが起きる。ベロ、ホリゾンチ。直訳すると「美しき地平線」。ビーチが無いけど、それ以上に愉快なガロ達がいるこの街が大好きだ。フェルナンド、チケット、マジで頼んだぞ!
スタジアムに出る前にフェルナンドから注意を受けた。今日は試合が終わったら0時を超える。メトロはもうやっていない。試合が終わったらタクシーを拾ってすぐにホテルに帰れ。特にガロが負けたときは危ないぞ。絶対に1人になるな。
自分がどういう所にでかけていくのかリアリティーが湧いてきた。さらにフェルナンドは付け加える、「今日はデモもあるぞ、セントロには近づくな」
いつもは出かける時にウエストバックを前にたすき掛けにして財布、携帯、メモ帳を持ち歩いているけど、今回は必要最小限の装備をポッケに突っ込み、バックを持たずに出かける。カードもホテルに置いていき、タクシー代を考えて現金は70レアルだけ持った。カメラはいつもどおりベルトループにカラビナでカメラバックを固定してそこに入れる。
試合が始まる2時間前にホテルを出た。メトロの駅に近づくと、既にガロのシャツを着た人が多数集結。ホームでガロのチャント(応援歌)を合唱している。いい感じだ。
電車が到着し、乗り込む。一両すべてが黒と白に染まっていた。乗った駅から4つめが目指す「HORTO」の駅。駅に止まる。ドアが開く。なだれ込んでくる黒と白。それが3回繰り返されて「HORTO」に到着するころはもうパンパン。そして全員が降りた途端に待ってましたと歌いだす。
電車から降りてホームを抜けて改札を出るまでに、3曲のチャントを彼らは歌い終わっていた。こっちもテンションが上がってくる。
駅を出るとそこは戦いの場だった。

コンフェデレーションカップの会場を覆っていたお祭り感はゼロ。今日はエンジョイする試合じゃないようだ。「トレイス、ゼロ(3-0)」という厳しい勝利条件を、彼らは内心では分かっている。笑顔は無い。一応友達と会うと「オラ!ガッロッ!」と言って笑うけど、目が笑ってない。
会場を目指す途中、そこいらで爆竹が炸裂する。地上で、または打ち上げ式のも含めて、それが彼らのお約束なのか「ドカン」と炸裂すると、即座に「ガ~ロ~!」と叫んでレスポンスする。
一回、左前方3メートルぐらいの所で爆竹が炸裂して身体がビクっとなった。鼓膜キンキン。前方を歩いていた親父も突然の炸裂に身体がビクッとなっていたけど、即座に「ガ~ロ~!」と叫び返していた、さすがだ!
ただ危険さは感じなかった。湧き上がってくるのは逆の感情だ。強烈な連帯感。同じシャツを着る大量の仲間がいることからか、アクション映画を観終わって映画館を出るときのような、身の丈以上に気が大きくなっていく感覚。たぶんこの感覚が暴走してアウェイサポーターとのケンカや、破壊行動に繋がっていくんだろう。
テレビや雑誌でお馴染みの発煙筒も盛大に焚かれていた。インディペンデンシアの周囲は、あまり上品な景観では無いのだが、そんな風景に発煙筒の炎がすごくマッチしていてカッコ良かった。

ビールを飲みたかったけど我慢した。まだ緊張感を持ってなきゃいけない雰囲気だった。
試合開始1時間前になったので、いよいよスタジアムに入る。凶器や花火など危険な物を持っていないか、時間をかけた念入なボディーチェック。そしていよいよチケットチェック!頼むから偽物じゃないでくれよと祈りつつ、チケットをゲートの投入口に入れる。ランプはグリーンに点灯してくれた。警備員の男性がウインクして言う「ようこそ」
チケットにはゲート6、そして「SERTAO ESPECIAL」と書かれていた。誘導されるがままに進む。チケットに書かれたエリアに到着して「ESPECIAL(特別)」の意味に気づいた。
ゴール裏ど真ん中。ウルトラスまっただ中のチケットだった。
一瞬、たじろいだ。周りには背中に「TORCIDA(竜巻)」と書かれた白いブルゾンを羽織る男たちが。彼らはガロのウルトラス。ゴール裏は真ん中、左サイド、右サイドの3つに仕切られていて、そのエリア内なら自由に座ってよいようだったので、とりあえず後ろの方に座った。
周りの様子を探る。以外にも普通のおじさんやおばさんもいる。ちょうど5列ぐらい前に、教授風の知的な男性が1人で来ているのを発見。せっかくのこの流れ、どうせだったら身を委ねてみようと思い、その男性の列まで前進した。前の列にはおばさんもいるし、大丈夫だろ、と。
初めて訪れるインディペンデンシアは凄かった。何が凄いってその潔いデザイン。
「Estadio Independencia」

なんとアウェイゴール裏が無く吹き抜けになっている!ゴール裏から見ると写真のように、ベロオリゾンテの山々の稜線が見えて、解放感のある雄大な風景が広がっていた。ちょっと他に観たことがない。
試合開始30分前ぐらいになると、一気に周りが埋まりだす。そしてニューウェールズサポーターとの応援合戦がヒートアップしてゆく。
そこには基本的に相手を認めるリスペクト精神なんてものは存在していなかった。ニューウェールズが何かを歌うと、即座にそれの3倍ぐらいの声量のチャントでかき消してしまう。前方には段ボールで作ってきたニューウェールズのカラー、赤と黒に塗られた棺桶をアウェイ席に向かって振っている若者がいた。中指を立てながら。

すると突然耳をつんざく盛大な指笛がスタジアムを包む。ニューウェールズの選手たちがアップの為にピッチに登場したのだ。もはやブーイングというレベルじゃない。「呪い」レベル。気の毒なのはキーパーだった。インディペンデンンシアはピッチと観客席の間が手の届くぐらいの距離なのだが、その至近距離から彼はありとあらゆる罵声を浴びながらアップをしなければいけなかったのだ。
途中であまりの罵声に怒り、振り向いて何かを言い返したのだがそれは火に油を注ぐようなもの。ただちに数人がフェンスに顔をくっつけるようにして、今ままでの倍ぐらいの勢いで罵声を浴びせる。これが、南米のアウェイなのか。
しばらくしてやっとニューウェールズの選手はブーイングから解放される。我らがヒーロー、ガロの選手がピッチに姿を現したのだ。大歓声に次ぐ大歓声。8割ほど埋まってきた周りではありとあらゆるチャントのメドレーが始まる。
するとどうだろう、隣の知的な教授風の男性の人格が豹変した。そのチャントを絶唱する姿にもはや知性のかけらは存在せず、あるのはただただアドレナリンが駆け巡っている野生の姿のみ。前方のおばさんをみるとやはりこちらもガロのマフラーを掲げて絶唱していた。人は見た目では分からない。
やっぱり元の位置に戻ろうかと振り返るともう人の壁だった。腹をくくった。
いよいよキックオフを迎える。オーロラビジョンに「Bem-vindo à nossa casa.Vamos! GALO!!」というメッセージが表示される。「俺らの家によく来たな!いくぞガロ野郎ども!」メッセージと共に大音量の音楽がかかり、屋根からは打ち上げ花火が上がった。いよいよ戦いが始まる。
「コパ・リベルタドーレス2013セミファイナル2ndレグ アトレチコミネイロ×ニューウエ-ルズ」
声援はキックオフされる前からとんでもなかったのに、キックオフされるとさらに限界値が跳ね上がった。ゴール裏では誰も座ってなどいない。それどころから全員がシートの上に立っているので、自分もそれにならう。
試合は2点のビハインドを取り戻すガロが、大声援をバックに、序盤からトップギアの猛攻を見せる。
ガロのサッカーはセンターハーフのジョズエが作っていた。ちょうど日本代表で言うと遠藤のような役割だ。ジョズエは長短のパスを使い分け、ゲームを作っていく。前半のガロの攻撃で有効だったのがジョのポストプレーだ。空中戦をことごとく制し、サイドやトップ下のロナウジーニョにボールを落としていく。
ジョ、ロナウジーニョ、ベルナール、タルデッリ、このチームの攻撃の中心の選手たちは、3日前のカンピオナートブラジレイロで温存され欠場していた。ちなみにその試合をガロはBチームで3-2の勝利を収めている。攻撃陣はコンディションが良さそうだった。
そして開始3分、いきなり試合が動く。動かしたのはマジコ(魔術師)・ガウショ、ロナウジーニョだった。
波状攻撃を仕掛けるガロに混乱するニューウェルズはロナウジーニョのマークを外してしまった。バイタルエリアで前を向き、フリーでロナウジーニョがボールを持つ。沸き立つ大歓声。ロナウジーニョはあの独特の股を大きく開くフォームでスルーパスを放った。
歓声が止み、スタジアムの全員が息を飲む。
最初パスはちょっと強すぎる、と思った。しかしそのパススピードは快速のサイドアタッカー、ベルナールの全力疾走にドンピシャだった。ベルナールはキーパーとの1対1に迷いなく左足を振りぬいた。ボールはキーパーの脇を破り、ファーサイドに突き刺さった。全て目の前10メートルぐらいで起こった。
インディペンデンシアが揺れた。表現じゃなくて本当にグラグラと。いつのまにか教授との間に割り込んできてたメガネをかけた白人系の男が、何の面識も無い自分を抱きしめる。右隣にはおそらく10代の黒人の痩せた子がいたが、彼は喜びすぎて椅子から転げ落ちた。左前方にいたカシージャスにそっくりな若者は、チャントも歌わないようなシャイな青年だったけど、その羞恥心を捨てて暴れていた。それ以後、彼はチャントを歌いだす。前方ではウルトラスが一斉にフェンスの方に押し寄せて、絶叫している。前後左右あらゆる人とハイタッチが交わされ、おかげさまで開始3分で何も遠慮せずに、彼らと一緒に試合を観戦できるようになれた。ありがとうロナウジーニョ、ありがとうベルナール。
観客が冷静になるのは意外に早かった。最低でも後1点。勝利するにはさらに1点が必要なのだ。さらなる得点を求める怒号のようなチャントがインディペンデンシアに響き渡る。ニューウェールズの声援はまったく聞こえない。

ガロのゴール裏にコールリーダーのような存在はいなかった。あるのはリズム隊とバンディエラ(旗振り)だけだ。終始リズム隊はダンスカ、ダンスカ、ダンダン、ダンスカと、基本となる8ビートを打っていて、誰かが状況に合わせてチャントを歌い始めると、そのチャントが適切な場合は周りが歌いだし、それがゴール裏に広がるとリズム隊は即座にそのチャントに合わせてリズムを変える。そしてそのチャントがバックスタンド、メインスタンドに広がっていく。誰もがコールリーダー。歌い奴が歌って、乗っかりたい奴が乗っかる。ガロの応援はそんな感じだった。
リズム隊のダンスカ、ダンスカが興奮とマッチし、ずーっとダンスカ、ダンスカのリズムに合わせて身体を揺らしていた。気持ちが良かった。
得点後もガロの攻撃は冴えわたった。特にベルナール。彼のプレーに釘付けになる。ベルナールは1対1だとほぼ相手を抜く。2対1でも時に抜き去る。緩急じゃなくてスピードにモノを言わせて、直角に切り返して相手を置き去りにしていくモロに好きなタイプのドリブラーだ。そう遠くない将来、彼はヨーロッパに渡ると確信。
今でもブラジル人プレーヤーで一番好きなロナウジーニョもキレていた。全盛期のスピードこそ無くなったものの、その柔らかいタッチと、自由なアイデアは健在だった。ボールを持つと「ガウショ!」と期待の声が飛ぶ。ちなみにロナウジーニョのチャント中、サポーターは両手を上げては前に倒すを繰り返す。王様にひれ伏すジェスチャーだ。
追加点は時間の問題かと思われたがここで流れを変えるプレーが出る。
ヨーロッパから母国アルゼンチンに戻ってきたエインセがゴール前の競り合いで派手に痛がりピッチに倒れこむ。ずるがしこいエインセのキャラを全員知っているゴール裏の観客は、時間稼ぎだ!早くピッチから出せ!とアピール。しかしエインセはピッチから運び出すカートが到着してからも、ゴロゴロ痛がって転がり、そのカートから逃げ回るという離れ業を披露!しかも怒れる観客の目の前で。
時間にして3分ぐらいだが、この中断でガロは一息ついてしまった。恐るべしエインセ。
この後もエインセはほぼワンプレーごとにピッチに倒れこんだ。全観客から凄まじい罵声を浴びても、エインセは顔色一つ変えずにそれを繰り返した。いったいどういう神経をしているんだろうと思っていると、前半残り10分ぐらいで交代した。本気で痛めていたらしい、オオカミ少年エインセ(笑)
エインセは交代時に、時間稼ぎのためにこれ以上ないぐらいの牛歩でゆっくり、実にゆっくりと優雅に歩いて行った。もちろん盛大なブーイングが飛ぶ。そのブーイングが大きければ大きいほど、彼は仕事をした、という事になる。顔色一つ変えずに凶悪なサポーターの目の前をゆっくりと歩いていくエインセは、頭上で拍手もしてみせた。めちゃくちゃカッコ良かった。
圧倒した前半でガロは2点目を取れなかったのが痛かった。ハーフタイムを挟んだ後、ニューウェルズはしっかりとディフェンスを修正してきた。
まずジョのポストプレーを徹底的に抑えた。そして運動量が落ちたロナウジーニョに5番を張りつかせる。中央の攻撃経路を潰されたジョズエは、ベルナールにボールを集めるが、ベルナールも前半を飛ばしすぎた影響か、足が止まりだす。ガロの攻撃は単調な可能性の低いロングボールが繰り返されるようになる。
前半を飛ばしすぎたガロに、ニューウェルズの荒々しいディフェンスが襲いかかる。前半からもその傾向は強かったけど、この日の審判はコンタクトプレーに寛容だった。PKをとってもいいようなファウルを受けたジョに対してノーファールだった時に、全員の怒りが爆発していた。
特に右隣の若い黒人の子は本当に怒っていた。彼はかなりガロの勝利に対して切実で、ワンプレーごとに感情を爆発させていた。後半が始まる前に、彼は椅子から降り、床にひざまずき、本気で神に祈りを捧げていた「神様、どうかガロを勝たせてください」真剣に祈ってた。そんな彼は審判に向かって拳銃をバンバン撃つジェスチャーをしていた。覚えておけよ、そんな感じだ。たぶん家に帰ればあるんだろう。
サイドが変わった後半、目の前のゴールにニューウェールズの目を覆いたくなるようなきわどい攻撃が襲いかかる。特にガロは左サイドからやられる事が多かった。対面するニューウェルズの右サイド、マキシ・ロドリゲスに。
マキシ・ロドリゲスもエインセ同様にヨーロッパからの帰国組の1人だ。マキシ・ロドリゲスのドリブルは、ベルナールとはまた違って凄かった。何というかリアル「日向君のごういんなドリブル」というか、細かいフェイントなど一切せず、体をぶつけ、手をうまく使い、ディフェンダーに当たられてもそのまま突き破るように突破していく。
突破したマキシ・ロドリゲスが中央に合わせ、リターンをもらいキーパーと1対1になりシュートを放った時は、終わった、と思った。だがシュートは後半のヒーロー、キーパーのヴィクトールの腕に当たり、ポストを叩いた。
致命的なアウェイゴールが生まれそうな流れを変えたのは、アクシデントだった。
突如、バックスタンド側の照明が片方のラインのみになってしまう。試合は一時中断された。この間に選手たちはドリンク補給と簡単なミーティングを行っていた。一方、後半に入り元気が無かったゴール裏は、試合が止まったこの時に、誰からともなくチャントのメドレーを歌いだす。
その歌声は瞬く間にバックスタンドまで広がり、そしてメインスタンドも巻き込む。キックオフ時のような大合唱にあっという間に発展し、さっきまでの苦しい時間帯は悪い夢だった事にして、新たな朝を迎えたように目覚めた。
やがて照明は復旧。今になって思えば本当にあれはアクシデントだったかどうか怪しい。そしてガロは息を吹き返す。ロナウジーニョがルーズボールに対して怪我しそうなスライディングでマイボールにしようとする。湧き上がるインディペンデンシア。
ここでガロの監督は勝負に出る。残されていた交代枠2枚を一気に使い切って両サイドのタルデリ、ベルナールを代える。スリートップに変更した。
ベルナールの交代に観客は怒っていた。隣の例の祈れる若者は、頭の横で指をくるくるさせてた、気は確かか!
しかし、その交代で入ったギレーミがガロを救うのだ。
残り、5分。パワープレー気味になりつつあるガロの攻撃を、ニューウェールズは楽々と防いでいた。周りの観客はガロのディフェンスラインがロングボールを蹴ると怒っていた。やはり右サイドに大きく蹴ったボールを競り合い、スローインを獲得したガロは、ここでもロングスローを選択する。そのロングスローは難なく跳ね返されるが、そのこぼれ球をギレーミが思い切りミドルレンジからシュートした。
反対側のゴールだったが、ゴール右隅に吸い込まれていくのがハッキリ見えた。ニューウェールズはツイていなかった。誰かがミスした訳でも、チームとして致命的なミスを犯した訳でもない、ただただ、ギレーミの右足が素晴らしすぎただけ。
先制点の時もぶったまげたけど、このトータルイーブンとなるゴールは輪をかけて凄まじかった。左隣りのメガネは前方に疾走。教授はもはや野獣と化し、おばさんは頭を抱えて号泣。グラグラ揺れるインディペンデンシア。どうやって持ち込んだのかあちこちで炸裂する爆竹。これは歓喜なのか悲鳴なのかよく分からない絶叫。
ふと我に返り右隣の若者を見た。彼は跪いて天に向かい一点を見つめ、なにかブツブツ言っていた。ガロを土壇場で救ってくれた神様と対峙していたのだ。写真を撮ろうと一瞬思ったけど、控えた。
残り5分で追いついたガロはその後もひたすらロングボールを相手陣内に放り込むも、タイムアップ。トータルスコア2-2で試合は終わった。
延長戦が始まるものだと思っていたが、いきなりペナルティーキックゲームが始まりだし焦った。
実はペナルティーキックゲームが好きだ。しかもこういった大きな試合の。大きな試合は充分に極限状態だけど、その中でもペナルティーキックゲームはとびきりの極限状態。よくペナルティーキックは運だ、という意見もあるが違うと思う。ペナルティーキックゲームはメンタルの勝負だ。その極限状態の前に、人間性が否応なしに出てしまう。すごく残酷で、だから不謹慎だけど面白い。
初めてペナルティーキックゲームをスタジアムで観る。
ペナルティーキックゲームはホームゴール前、つまり目の前で行われた。先行はガロ、1人目は交代で入ったフォワードのアレッサンドロ。蹴る直前にスタジアムは一斉に静まり、かすかにアウェイ席からのブーイングが聞こえた。
観ているこっちが辛くなってくるような空気の中、大事な1本目をアレッサンドロは成功させる。
続いて後攻のニューウェールズ、名も知らない1人目の選手がペナルティーアークにボールを置く。はるかその前からインディペンデンシアは呪いの指笛に包まれていた。みなが外せと願う中、その選手、後で調べて名前を覚えたフォワードのスコッコは、ユーロのイングランド戦ででピルロが見せた「パネンカ」、ループシュートをど真ん中に決めた。どんな神経をしているんだろう。アルゼンチン人はエインセといい、この手のくぐってきた修羅場の数が違う選手が多い。
ペナルティーキックゲームは1回ごとに、その重責が行ったり来たりするロシアンルーレットのようなもの。前の選手が決めたか、外したかが次の選手に色濃く影響を与える。パネンカという大技を目にして次に蹴るのはこの試合の救世主、ギレーミ。しかしギレーミは落ち着き払ってゴールを決め、今度はプレッシャーをニューウェルズの2番手にかける。
再び訪れる呪いの時間。数分で繰り返される祈りと呪いの転調になんだかよく分からなくてなってくる。ニューウェルズの2番手は本田のようにど真ん中に思いっきり打ち込んで決めた。
3番手、ゴール裏はジョのチャント。ジョはゴールの左スミにグランダーで狙ったが、ボールはポストの外に転がってゆく。誰も一声も発さない。「ウー」とか「アー」とか一切なし。ただ沈黙とアウェイ席からかすかに聞こえてくる喜びの声だけ。
しかし次のニューウェルズの3番手が魅入られるように外してしまう。救われたゴール裏はお祭り騒ぎ、ただしその騒ぎは長くは続かなかった。ガロの4番手の20番は明らかに様子がおかしかった。ボールのセットから助走までがやけに早く焦っている。この重責を早く終わらせたいのが有り在りと見て取れた。外すな、と思ったその通りに彼の蹴ったボールは遥かクロスバーの上を外れていった。
外してくれて追いついた後の、この力ないキックはサポーターにとって許せなかったらしい。ジョの時とは違い、みなが20番に悪態をつく。そんな異様な空気の中、ニューウェルズの4番手がボールをセットする。対照的に彼は落ち着き払っているように見えた。
ブーイングが弱い。さっきの失敗でみなの心は折れてしまった。もう見たくないとこちら側、つまりゴールに背を向けて上空を見つめている人もいる。その人は次の歓声で何が起こったか分かったはずだ。ニューウェールズ4番手のキックはクロスバーに当たり、外れた。
4人連続でキックが外れている異様な流れの中で、肩を組む列から歩き出したガロの5人目は、ロナウジーニョだった。

これまで外すわけのない5人目のキッカーが失敗するシーンを何度も見てきた。ロナウジーニョだから大丈夫、そう信じつつも、4人連続失敗という重い空気が、何かを起こしそうだった。
ロナウジーニョ独特の、ボール対して大きく開いた真横からの助走。選択したコースは右上。読んでいても届かない位置に見事に決めてみせた。
全員が例の両腕を上下に倒す、王様を崇めるジェスチャーを行いながらガウショのコール。ロナウジーニョはガロのエンブレムを力強くバシバシ叩き応えた。
ニューウェルズ5人目のキッカーはマキシ・ロドリゲスだった。
ここまで2ターン、先制されていたガロにとって、久しぶりにプレッシャーをかける余裕が復活していた。みながあらゆるアイデアを総動員して、マキシ・ロドリゲスの集中を乱そうとする。中指を立てる、罵声をあびせる、指笛を吹く、ホイッスルを吹く、ユニを脱いでブンブン振り回す、そして前方にはマキシ・ロドリゲスに向かってケツを出している人も、素晴らしいアイデアだ。
そしてマキシ・ロドリゲスは「外すわけのない5人目のキッカーが失敗する」に、なってしまった。狙ったコースはロナウジーニョと同じだったが、そのコースは甘く、ガロのキーパービクトールに弾かれた瞬間に、インディペンデンシアも弾けた。
絶叫と絶叫と絶叫、そして絶叫。とにかく空いている人と誰彼かまわず抱きしめ合う。肩に回される誰かの腕、回した腕が抱く誰かの肩。個人という感覚が消えて巨大な「ガロども」になる感覚。この勝利の祝福を一番かけてあげたい右隣の若者を探した。彼は天の神様に感謝する事も忘れて、ピッチにいる神々に向かって喜びを爆発させていた。肩を叩くと家族や親しい人にしか見せない、無防備な彼の本当の顔で、120%の笑顔をこちらに向けてきた。
言葉が分からないので目に「やったな!おい!」という意思を載せて彼に笑いかえした。首をブンブン上下に揺らしてうなずく彼と抱き合った。彼のあの表情は忘れない。
彼だけじゃない、人間本当に嬉しい時は、無防備な子供の顔になることを知った。誰もが子供にかえっている。何の悩みも無く、世界は素晴らしさに満ちていた人生最高の時に。
「Copa Libertadores2013 Semi Final Atlético Mineiro×Newell's Old Boys 2-0(3-2)」
選手たちはみんなユニフォームを脱いで、ピッチ上でジャンプしてブンブン振り回していた。歓喜の爆発を終えて我に返りだした人から選手と一緒にユニを回し始める。ニューウェールズの選手達は腰に手を当てうなだれていた。マキシ・ロドリゲスはペナルティーアークの傍に座わりこみ自分が蹴ったコースを見つめていた。インディペンデンシアに響き渡る勝利の凱歌。アニメのポパイの曲を原曲にした勇壮なチャントが、この日聞いたチャントの中で一番のお気に入りになった。
名残惜しいけどペナルティーキックゲームまでもつれ、途中の中断もあり、時刻は午前1時前ぐらいになっていた。フェルナンドの忠告を思い出し、隣の若い子に「チャオ」と別れを告げる、彼は「アテ・ローゴ・ファイナウ」と返してきた。「じゃあまたファイナルでな」と。
試合ハイライト動画
インディペンデンシアを出てみると、外は試合前とは180 度変わって、お祭り会場と化していた。
「インディペンデンシア前、シルビアーノ・ブランドン通りの様子」
その雰囲気に安心して、禁じていたビールを買う。もちろんうまい、めちゃくちゃにうまかった。
全ての車がクラクションを鳴らし、行きかう人の挨拶は「ガ~~~ロォォォ~~~っ!」の絶叫。車の窓には箱乗りでフラッグを構える人。そこかしこで爆竹が鳴り、その直後にはお約束の「ガーロー!」。リベルタドーレス決勝進出を祝いに祝う、しつこいようだけど時刻は平日深夜午前1時。
フェルナンドはタクシーを拾え、と言っていたがさっきからシルビアーノ・ブランドン通りの車はまったく動かず、止まっているタクシーには全て人が乗っていた。仕方が無いので他の人がそうするように、タクシーが拾えそうな別の大通りに向けて歩いた。
ガロが勝利してくれたおかげで、周辺は幸せな空気が流れていて、さほど危険は感じなかった。シルビアーノ・ブランドン通りをホテルの方角に向かって歩いて行ったけど、まったく車は動く気配が無い。そして誰かとすれ違う時には相変わらず「ガ~~ロ~~!」の挨拶。自分みたいな初めて観戦する奴がおこがましいけど、ノリが悪い方が場違いな空気だったので、こっちも「ガ~~ロ~~!」と返しながら歩く。
シルビアーノ・ブランドン通りとクロスする、クリスチャーノ・マチャド通りでタクシーを拾えた。乗り込んだ瞬間に運転手が「ガ~~ロ~~!」。いかに凄い試合だったか、単語を並べながら説明し、ガロの事を褒めちぎり、ホテルに到着した。メーターは11レアルちょっとだったけど、ガロが勝ったから10レアルで言いと感動的な事を言うので、12レアル渡して「ガ~ロ~!」と挨拶してお釣りを拒否してホテルに戻った。
フェルナンドは「まっすぐ帰ってこい!」とか言ってたくせに、そこから1時間後ぐらいにガロのチャントを大声で歌いながらベロベロになって帰ってきた。もうベッドに入っていたからそのまま目を閉じたら、ドカドカ音がして部屋に(ドミトリータイプで2段ベットが4つの部屋)入ってきて、俺が寝てるのを確認すると、隣のベッドの下の段に倒れこんで、1分ぐらいで寝た。素晴らしい職場だ、うらやましい。
面白かった試合はこれまで何度も観てきた。だけど、価値観が揺さぶられて、人生観も変えられるような試合は初めてだった。なぜ人はサッカーが好きなのか、なぜ人はサッカーを必要とするのか、なぜ人にはサッカーがあった方が良いのか、それを体で感じる事ができた。
翌朝目覚めるとフェルナンドは既に起きていた。ガロのシャツを着て。俺の顔を見るなり「ガ~~ロ~~っ!」と職場に相応しくない声の大きさで素敵な朝の挨拶。そこからしばらく昨日のゲームについて話す。うまくポルトガル語が話せないのが悔しい。フェルナンドに携帯で撮ったムービーを見せると「ESPECIAL?」と驚き、自分の携帯で撮ったムービーを見せてくる。
ほぼ自分の席から横に数メートルの視点だった、もっと前の方だけど。フェルナンドは「俺はバンディエラなんだよ」と言って指差す。フロントのチェストにどでかいミネンセのエンブレムが入ったフラッグが置いてあった。
この朝からフェルナンドは名前で呼んでくれるようになった。ペシペシブログを打っていると、「オイ(oiは同じ意味なのだ!)、イチカーワ!」とか声がかかり、行くとテレビで昨日の試合のハイライトがやってたりする。
フェルナンドは「ファイナル、行くんだろ?」と聞いてくるので、行きたい、だけどチケットってどうやって買うの?と答えると自慢げに会員証を見せて、「俺が買ってやる」と頼もしい事を言ってくれた。
ただし、全てのガロファンがファイナルにはやってくるから、俺でもチケットを取れるかどうかは分からない。ダメだったら諦めろ。とも付け加えた。ムイント・オブリガード。
チェックアウトする時にメールアドレスを交換し、チケット状況が判明したらメールを送るとの約束を交わし、熱い抱擁を交わし、最後に「ガ~~ロ~~ッ!」の挨拶を交わし、ベロオリゾンテを発った。
本当に今回の旅では、ベロオリゾンテで何かが起きる。ベロ、ホリゾンチ。直訳すると「美しき地平線」。ビーチが無いけど、それ以上に愉快なガロ達がいるこの街が大好きだ。フェルナンド、チケット、マジで頼んだぞ!
Football goes on 特別編 ~itch ブラジルへ行く~ vol.15
さ、という訳でスキミング被害の保険がきく事を信じて、アメリカンエキスプレスで借金をしながら続けるこの旅。次なる目的はコパ・リベルタドーレスの観戦だ!
簡単に説明するとこのコパ・リベルタドーレスは、南米大陸各国で行われるリーグ戦でチャンピオン、もしくは上位を獲得したチームのみが参加することを許される大会。
このリベルタドーレスを制したチャンピオンチームは、南米大陸チャンピオンとして翌年に開催されるクラブ・ワールドカップに参加する権利が与えられる。昨年総勢2万人ものブラジル人が応援の為にやってきて、そのお行儀の悪さから日本を震え上がらせたコリンチャンスは、去年のリベルタドーレスの覇者、という訳ですね。
ブラジル渡航前に、コンフェデが終わった後に観戦できる試合を調べていたらリベルタドーレスが観戦可能だと知った。さらに現在ベスト4まで絞られたリベルタドーレスで、ブラジルのクラブで唯一生き残っているのがアトレチコ・ミネイロ!このブログを読んでくれている人なら覚えているでしょうか、コンフェデの日本×メキシコで滞在したベロオリゾンテのチームです。
その滞在中にミネイロのオフィスにお邪魔した時、広報の親父がタダでキーホルダーとピンバッジをくれてから、俺の心は白と黒に染まり、「必ずリベルタドーレスを応援に行く!」と心に誓ったのだっ
語尾に小さな「っ」が着く前のめりな感じで、ベロオリゾンテに到着!ベロオリゾンテ滞在終盤、利用していたユースホステルに向かう。
ここのフロントマンのフェルナンドは大のサッカー好き。コンフェデのブラジル対ウルグアイの時には昼間から仕事もせずに飲み倒し、試合が終わってホテルに帰ってみると、ブラジルの勝利からさらにビールが進んだご様子でもうベロンベロン。でかい声で「俺はピザを頼むけど、誰か割り勘しないかーー」と叫び、誰も乗らないと「じゃあ俺一人で食うーー!誰にもやらんぞーー!」と宣言したのち、届いたピザをふた切れぐらい食べただけで「オーケーー、俺の負けだーー。お前ら残り食っていいぞーー!」と振る舞ったりするとてもラブリーな人だ。
そして彼がその時に着ていたのは、カナリア色のシャツでは無く、黒と白の縦じま、つまりはアトレチコ・ミネイロ、通称ガロのシャツだったんである。そう彼は熱狂的なミネイロファン「ガロ」なのだ。
リベルタドーレスのチケットはどう調べても買い方が分からなかったので、フェルナンドなら分かると思いさっそく聞いた。帰ってきた答えは
「ベリー・ベリー・ディフィカルト」
フェルナンド曰く、リベルタドーレスのセミファイナルだぞ?当日にチケットなんてあるわけないだろ!と。ただし、俺はもってるけどね!という聞きたくもない情報まで教えてくれた。どうすればいい?と聞くと。カンビスタだな、と教えてくれた。
カンビスタ、それは日本の野球場なんかにもいる、どういった訳かチケットが余っているらしく、欲しい人にそれなりの値段で分けてくれる、心優しいあのダフな人達だ。
フェルナンドに相場を聞く、200レアルだな今日は、との答え。日本円にしておよそ1万円。奇しくも何度数えてもマンの残り全財産。(何のことか分からない人は前回のブログを読んでね)
しかもフェルナンドは、200で買えればいい方で、お前はジャポネスだからふっかけられるから300ぐらいかも。それと偽物チケットに気をつけろ!とアドバイスをくれた。が、リベルタドーレスの本物のチケットなんぞ見たことがないから気をつけようがない。
どこにカンビスタがいるかを聞いたらスタジアムの周辺か、ガロのオフィスの前だと言う。ダフ屋がクラブオフィスの前にいる?にわかに信じられない情報だけど、現地のサポが言う事だから間違いはないだろう。
しばし悩む。もちろん経済問題でだ。しかしベロオリゾンテまで来てテレビで観るぐらいだったら、リオでも良かった訳だし。リミットを200レアルに設定して、チケットを買う事を決断。試合当日朝から行動を開始した。
まず場所を知っているガロのオフィスに行き、そこでうまくいかなかったら試合開始までスタジアムで探す、という作戦をたてた。フェルナンドに試合会場「インディペンデンシア・スタジアム」への行き方を聞く。「あそこは俺の家だ!」とイカすセリフを吐き、フェルナンドは完璧に教えてくれた。
舐められないために、前日あえてシャワーを浴びず、顔も洗わず、髭もそらず出かける。アッピールする為に世界遺産オーロ・プレットで買ったあからさまに偽物のガロのレプリカユニフォームを着て出かけた。コンセプトは貧乏なガロファン。歯はさすがに磨いた。人として。
2週間ぶりに訪れたベロオリゾンテは、秋の空気に変わっていた。アッピールするために半袖のレプリカユニで出かけたことをちょっと後悔。しかしその悲惨さが良い感じに貧乏臭さを演出するはずだと信じる。ホテルから歩くこと30分、前方にガロのオフィスが見えてくれる。
するとダフ屋がいるわいるわ!日本でダフ屋というとどこか後ろ暗い、属性で言うとダークな方向のオーラを漂わせ、こそこそと物陰でやりとりを行っているイメージだが、ブラジルでは違う。めっちゃオープン!日曜朝市のノリでがんがん売っていた。
しかもここはガロのオフィス前だ!一番ダフ屋がいちゃいけない場所だろっ!念のために言っておくと、ここブラジルでもダフ屋はもちろん違法行為。しかしガロのオフィス前は完全にチケット売ります!買います!の場となっていた。時折パトカーが「まあ上に言われてさ、メンドクセーけど、いやいや見回りで来ました」的にやる気なく登場すると、ほんとコントみたいに口笛を吹きながら展示しているトロフィーを観に来た人の演技なんかを演じて、しかもそれでやりすごす事ができてしまう。素晴らしきこの国のおおらかさ。
さっそく交渉開始!と言っても高度なポルトガル語はできないので、「テイン・ビレーチ?(チケットある?)」と「クワント・クスタ?(いくら?)」と「ン・カーロ~(高いよ~)」の3ワードのみでの交渉だ。
のっけから「500レアル」「400レアル」がぼんぼん飛び出す。こっちは下手くそな「ン・カーロ~」で応酬するも、その発音で日本人だというのがバレて、まったく値が下がらない。諦めずにオフィス周辺の売人ほとんどに声をかけるも、300レアルが精一杯。とりあえず欲しがって無い事をアピールするために、もう既に見たトロフィーを眺めたり、記念撮影を取ったりして、ありもしない余裕を見せつける作戦にでた。

するとその効果あってか、250レアルまで値下げに応じる奴が現れた!しかしこの男がどうもうさん臭い。スペイン代表監督デル・ボスケに似た感じの白人系の奴だったが、チケットをしっかり見せてくれないのだ。
ブラジルのチケットというのがこれまたうさん臭さを加速させる作りで、日本のチケットみたいにしっかりした感じじゃなくて、ペッラペラのできの悪いテレカみたいな感じ。印刷も乱雑。全部が全部、偽物に見えるのだ。
こっちは本物かどうかを見抜く目なんてないけど、「俺は知ってんだぞ」というハッタリをかます為にじっくり見ようとすると、デル・ボスケはサッと取り上げるのだ。
しかもデル・ボスケの目が気に入らなかった。人を馬鹿にしきっている目だ。信用できない。それにこいつから買うのはなんかヤダ。そう判断して交渉のステージをスタジアムに代えようと、駅の方角に歩き出した。
すると、オフィスから外れた横道で、俺は家族の為にも捕まれないんだよ、という雰囲を醸し出す緊張感のある黒人の売人を見つける。こちらはサングラスをしている事をいい事に、相手の目の動きをじっくり観察しながら「テイン・ビレーチ?」と慣れた感じで低く囁く。すると彼はこう言った。
「ボリビアーノ?(ボリビア人か?)」
俺はこう答える。
「シン(ああ、そうだ)」
キターーー!ここ連日リオの海岸で焼いた肌が、思いもよらない効果を与えた!「貧乏なガロファン」というコンセプトを上回り、「貧乏なボリビア人のガロファン」という斜め上の結果を生んだ!しかしながらちょっと複雑な心境!
いきなり交渉が250レアルから始まる。イッツ、ア、ボリビアンパワー!しかもこの売人の目は、真剣であり切実であり、目がぜんぜん泳がず信用できた。チケットを見せてくれと頼むと、こちらが納得するまで見せてくれる。あえてたどたどしい口調で「200レアルが精一杯なんだ、頼むよ」とお願いすると、しばし考えた後、分かった。200でオーケーだと交渉成立。
念のために、ちょっと待っていてくれと言い、一旦その場を離れ彼を遠くから観察した。彼はそこから微動だにせず、待っている。スタジアムに行けばもしかしたらもっと安く買えるかもしれないけど、フェルナンドが言っていた相場だし、まさかボリビアーノを騙す奴もいまいと、決断した。
200レアルを手渡し、彼からチケットを受け取る。彼は50レアル札4枚を一枚一枚丹念にチェックし。親指を立ててこういった「今日は俺らのガロが3-0で勝つぞ」
たぶんこのチケットは本物だと思った。そう言って笑った彼の目にはサッカーへの愛があったから。
「これがコパ・リベルタドーレスのチケットだ!」
(表)

(裏)

昼休憩を終えて、いよいよメトロに乗ってインディペンデンシアへ。セントロからメトロでたったの10分「HORTO」という駅が最寄りの駅だ。クルゼイロのホーム、ミネイロンよりもアクセス抜群だ。
「HORTO」で降りる。だけど、周囲はなんか住宅街の雰囲気で本当にこんな所にスタジアムが?駅員に聞くとガロのシャツを指差しながら「ガロ~」と言い笑顔で道順を教えてくれた。駅から出たら一回右に曲るだけ!その曲るポイントでも念のために道を聞くと、やはりガロのシャツを指差して「ガロ~」と言い笑いながら教えてくれる。「HORTO」ではこのシャツの威力がハンパない!
険しい坂道を10分ほど歩くと、丘の斜面に広がる住宅街の頂上付近で突然風景が切れ、いきなりデーンとでかいスタジアムが目の前に姿を現す。
「Estadio Independencia」


日本だったら絶対に苦情の対象になるような住宅街のすぐそば、というかその中心に君臨するようにそびえ立つスタジアム。本当になんて国だ。
周囲をぐるりと散策。周辺住民は苦情を言うどころか心からガロを愛しているようで、窓という窓にガロのフラッグが飾られている。
この日の試合はなんと夜の22時キックオフ!試合が終わるのが、じゃなくてキックオフが22時だよ。これまた日本では絶対にあり得ない設定だと思う。下見で訪れたのは16時ぐらい。キックオフ5時間前だったのでさすがに人影は見当たらず。
ただスタジアム入り口前のバーで親父どもがワイワイやってるので、中に入ってみる。試合までにヒマしている親父たちにとって、謎の闖入者は格好の酒の肴。たちまち質問攻めに合う。
ここで言われたのは「アルゼンチーノ?」だった。おそらくインディオ系の。さらに言えばこの日のガロの相手はアルゼンチンのクラブ「ニューウェールズ・オールドボーイズ」だったからか。
「いやいや、俺は日本人だよ、ほら」とサングラスを外すと、オー!と歓声が(笑)。当たり前の質問が来る。「なんで日本人が?」彼らを納得させる答えが無いのでシンプルに「ロナウジーニョとベルナールが好きなんだ」と答えておいた。
この試合を観に日本から来たのか?と聞かれたので、嘘をついて、そうだ、と答えると一斉に「クレイジー」と頭の横でクルクル指を回し、よし!飲め!とビールが注がれる。俺も名古屋で「俺は小川が好きなんだ、その為に来た」とか言っちゃうグランパスの小川のユニを着た外人と出会ったら、喜んでビールを奢ると思う。
みなでスコア予想が始まる。話の内容はチンプンカンプンだけど、数字なら分かる。みんな口々に「トレイス、ゼロ(3-0)」という。
セミファイナルの1stレグをガロは2-0で落としていた。ガロがファイナルに進出するには3-0が必要で、もし1点でも取られたらアウェーゴールルールの関係で4点が必要になる。正直かなり難しい条件だ。だから親父どもの予想は予想じゃない。願望だ。
親父どもに礼を言い、一旦ホテルに戻る。フェルナンドにチケットをゲットした報告をする。いくらで買ったか聞かれたので200だと答えるとやるじゃん的な感じで「グッ~ド!」と称えてくれた。その後に俺は定価の60レアルで買ったけどね、と付け加えるのもフェルナンドは忘れなかったけど。
フェルナンドも「今日はトレイス、ゼロだ」と言い切る。今日1日ガロのユニを着て街をウロウロしていたら、「ガ~ロ~!」と声をかけてきた人のほとんどが挨拶代わりに「トレイス、ゼロ!」と言い指を立てた。パン屋のおばさんまでが!
かなり難しい試合になると思うけど、なんだか本当に「トレイス、ゼロ」が起こりそうな気がしてきていた。1日ぶりのシャワーを浴びて決戦に備える。初めてのブラジルクラブサッカーの観戦、しかもキックオフは22時。期待と不安が入り混じった気持ちで、キックオフを待った。
さ、という訳でスキミング被害の保険がきく事を信じて、アメリカンエキスプレスで借金をしながら続けるこの旅。次なる目的はコパ・リベルタドーレスの観戦だ!
簡単に説明するとこのコパ・リベルタドーレスは、南米大陸各国で行われるリーグ戦でチャンピオン、もしくは上位を獲得したチームのみが参加することを許される大会。
このリベルタドーレスを制したチャンピオンチームは、南米大陸チャンピオンとして翌年に開催されるクラブ・ワールドカップに参加する権利が与えられる。昨年総勢2万人ものブラジル人が応援の為にやってきて、そのお行儀の悪さから日本を震え上がらせたコリンチャンスは、去年のリベルタドーレスの覇者、という訳ですね。
ブラジル渡航前に、コンフェデが終わった後に観戦できる試合を調べていたらリベルタドーレスが観戦可能だと知った。さらに現在ベスト4まで絞られたリベルタドーレスで、ブラジルのクラブで唯一生き残っているのがアトレチコ・ミネイロ!このブログを読んでくれている人なら覚えているでしょうか、コンフェデの日本×メキシコで滞在したベロオリゾンテのチームです。
その滞在中にミネイロのオフィスにお邪魔した時、広報の親父がタダでキーホルダーとピンバッジをくれてから、俺の心は白と黒に染まり、「必ずリベルタドーレスを応援に行く!」と心に誓ったのだっ
語尾に小さな「っ」が着く前のめりな感じで、ベロオリゾンテに到着!ベロオリゾンテ滞在終盤、利用していたユースホステルに向かう。
ここのフロントマンのフェルナンドは大のサッカー好き。コンフェデのブラジル対ウルグアイの時には昼間から仕事もせずに飲み倒し、試合が終わってホテルに帰ってみると、ブラジルの勝利からさらにビールが進んだご様子でもうベロンベロン。でかい声で「俺はピザを頼むけど、誰か割り勘しないかーー」と叫び、誰も乗らないと「じゃあ俺一人で食うーー!誰にもやらんぞーー!」と宣言したのち、届いたピザをふた切れぐらい食べただけで「オーケーー、俺の負けだーー。お前ら残り食っていいぞーー!」と振る舞ったりするとてもラブリーな人だ。
そして彼がその時に着ていたのは、カナリア色のシャツでは無く、黒と白の縦じま、つまりはアトレチコ・ミネイロ、通称ガロのシャツだったんである。そう彼は熱狂的なミネイロファン「ガロ」なのだ。
リベルタドーレスのチケットはどう調べても買い方が分からなかったので、フェルナンドなら分かると思いさっそく聞いた。帰ってきた答えは
「ベリー・ベリー・ディフィカルト」
フェルナンド曰く、リベルタドーレスのセミファイナルだぞ?当日にチケットなんてあるわけないだろ!と。ただし、俺はもってるけどね!という聞きたくもない情報まで教えてくれた。どうすればいい?と聞くと。カンビスタだな、と教えてくれた。
カンビスタ、それは日本の野球場なんかにもいる、どういった訳かチケットが余っているらしく、欲しい人にそれなりの値段で分けてくれる、心優しいあのダフな人達だ。
フェルナンドに相場を聞く、200レアルだな今日は、との答え。日本円にしておよそ1万円。奇しくも何度数えてもマンの残り全財産。(何のことか分からない人は前回のブログを読んでね)
しかもフェルナンドは、200で買えればいい方で、お前はジャポネスだからふっかけられるから300ぐらいかも。それと偽物チケットに気をつけろ!とアドバイスをくれた。が、リベルタドーレスの本物のチケットなんぞ見たことがないから気をつけようがない。
どこにカンビスタがいるかを聞いたらスタジアムの周辺か、ガロのオフィスの前だと言う。ダフ屋がクラブオフィスの前にいる?にわかに信じられない情報だけど、現地のサポが言う事だから間違いはないだろう。
しばし悩む。もちろん経済問題でだ。しかしベロオリゾンテまで来てテレビで観るぐらいだったら、リオでも良かった訳だし。リミットを200レアルに設定して、チケットを買う事を決断。試合当日朝から行動を開始した。
まず場所を知っているガロのオフィスに行き、そこでうまくいかなかったら試合開始までスタジアムで探す、という作戦をたてた。フェルナンドに試合会場「インディペンデンシア・スタジアム」への行き方を聞く。「あそこは俺の家だ!」とイカすセリフを吐き、フェルナンドは完璧に教えてくれた。
舐められないために、前日あえてシャワーを浴びず、顔も洗わず、髭もそらず出かける。アッピールする為に世界遺産オーロ・プレットで買ったあからさまに偽物のガロのレプリカユニフォームを着て出かけた。コンセプトは貧乏なガロファン。歯はさすがに磨いた。人として。
2週間ぶりに訪れたベロオリゾンテは、秋の空気に変わっていた。アッピールするために半袖のレプリカユニで出かけたことをちょっと後悔。しかしその悲惨さが良い感じに貧乏臭さを演出するはずだと信じる。ホテルから歩くこと30分、前方にガロのオフィスが見えてくれる。
するとダフ屋がいるわいるわ!日本でダフ屋というとどこか後ろ暗い、属性で言うとダークな方向のオーラを漂わせ、こそこそと物陰でやりとりを行っているイメージだが、ブラジルでは違う。めっちゃオープン!日曜朝市のノリでがんがん売っていた。
しかもここはガロのオフィス前だ!一番ダフ屋がいちゃいけない場所だろっ!念のために言っておくと、ここブラジルでもダフ屋はもちろん違法行為。しかしガロのオフィス前は完全にチケット売ります!買います!の場となっていた。時折パトカーが「まあ上に言われてさ、メンドクセーけど、いやいや見回りで来ました」的にやる気なく登場すると、ほんとコントみたいに口笛を吹きながら展示しているトロフィーを観に来た人の演技なんかを演じて、しかもそれでやりすごす事ができてしまう。素晴らしきこの国のおおらかさ。
さっそく交渉開始!と言っても高度なポルトガル語はできないので、「テイン・ビレーチ?(チケットある?)」と「クワント・クスタ?(いくら?)」と「ン・カーロ~(高いよ~)」の3ワードのみでの交渉だ。
のっけから「500レアル」「400レアル」がぼんぼん飛び出す。こっちは下手くそな「ン・カーロ~」で応酬するも、その発音で日本人だというのがバレて、まったく値が下がらない。諦めずにオフィス周辺の売人ほとんどに声をかけるも、300レアルが精一杯。とりあえず欲しがって無い事をアピールするために、もう既に見たトロフィーを眺めたり、記念撮影を取ったりして、ありもしない余裕を見せつける作戦にでた。

するとその効果あってか、250レアルまで値下げに応じる奴が現れた!しかしこの男がどうもうさん臭い。スペイン代表監督デル・ボスケに似た感じの白人系の奴だったが、チケットをしっかり見せてくれないのだ。
ブラジルのチケットというのがこれまたうさん臭さを加速させる作りで、日本のチケットみたいにしっかりした感じじゃなくて、ペッラペラのできの悪いテレカみたいな感じ。印刷も乱雑。全部が全部、偽物に見えるのだ。
こっちは本物かどうかを見抜く目なんてないけど、「俺は知ってんだぞ」というハッタリをかます為にじっくり見ようとすると、デル・ボスケはサッと取り上げるのだ。
しかもデル・ボスケの目が気に入らなかった。人を馬鹿にしきっている目だ。信用できない。それにこいつから買うのはなんかヤダ。そう判断して交渉のステージをスタジアムに代えようと、駅の方角に歩き出した。
すると、オフィスから外れた横道で、俺は家族の為にも捕まれないんだよ、という雰囲を醸し出す緊張感のある黒人の売人を見つける。こちらはサングラスをしている事をいい事に、相手の目の動きをじっくり観察しながら「テイン・ビレーチ?」と慣れた感じで低く囁く。すると彼はこう言った。
「ボリビアーノ?(ボリビア人か?)」
俺はこう答える。
「シン(ああ、そうだ)」
キターーー!ここ連日リオの海岸で焼いた肌が、思いもよらない効果を与えた!「貧乏なガロファン」というコンセプトを上回り、「貧乏なボリビア人のガロファン」という斜め上の結果を生んだ!しかしながらちょっと複雑な心境!
いきなり交渉が250レアルから始まる。イッツ、ア、ボリビアンパワー!しかもこの売人の目は、真剣であり切実であり、目がぜんぜん泳がず信用できた。チケットを見せてくれと頼むと、こちらが納得するまで見せてくれる。あえてたどたどしい口調で「200レアルが精一杯なんだ、頼むよ」とお願いすると、しばし考えた後、分かった。200でオーケーだと交渉成立。
念のために、ちょっと待っていてくれと言い、一旦その場を離れ彼を遠くから観察した。彼はそこから微動だにせず、待っている。スタジアムに行けばもしかしたらもっと安く買えるかもしれないけど、フェルナンドが言っていた相場だし、まさかボリビアーノを騙す奴もいまいと、決断した。
200レアルを手渡し、彼からチケットを受け取る。彼は50レアル札4枚を一枚一枚丹念にチェックし。親指を立ててこういった「今日は俺らのガロが3-0で勝つぞ」
たぶんこのチケットは本物だと思った。そう言って笑った彼の目にはサッカーへの愛があったから。
「これがコパ・リベルタドーレスのチケットだ!」
(表)

(裏)

昼休憩を終えて、いよいよメトロに乗ってインディペンデンシアへ。セントロからメトロでたったの10分「HORTO」という駅が最寄りの駅だ。クルゼイロのホーム、ミネイロンよりもアクセス抜群だ。
「HORTO」で降りる。だけど、周囲はなんか住宅街の雰囲気で本当にこんな所にスタジアムが?駅員に聞くとガロのシャツを指差しながら「ガロ~」と言い笑顔で道順を教えてくれた。駅から出たら一回右に曲るだけ!その曲るポイントでも念のために道を聞くと、やはりガロのシャツを指差して「ガロ~」と言い笑いながら教えてくれる。「HORTO」ではこのシャツの威力がハンパない!
険しい坂道を10分ほど歩くと、丘の斜面に広がる住宅街の頂上付近で突然風景が切れ、いきなりデーンとでかいスタジアムが目の前に姿を現す。
「Estadio Independencia」


日本だったら絶対に苦情の対象になるような住宅街のすぐそば、というかその中心に君臨するようにそびえ立つスタジアム。本当になんて国だ。
周囲をぐるりと散策。周辺住民は苦情を言うどころか心からガロを愛しているようで、窓という窓にガロのフラッグが飾られている。
この日の試合はなんと夜の22時キックオフ!試合が終わるのが、じゃなくてキックオフが22時だよ。これまた日本では絶対にあり得ない設定だと思う。下見で訪れたのは16時ぐらい。キックオフ5時間前だったのでさすがに人影は見当たらず。
ただスタジアム入り口前のバーで親父どもがワイワイやってるので、中に入ってみる。試合までにヒマしている親父たちにとって、謎の闖入者は格好の酒の肴。たちまち質問攻めに合う。
ここで言われたのは「アルゼンチーノ?」だった。おそらくインディオ系の。さらに言えばこの日のガロの相手はアルゼンチンのクラブ「ニューウェールズ・オールドボーイズ」だったからか。
「いやいや、俺は日本人だよ、ほら」とサングラスを外すと、オー!と歓声が(笑)。当たり前の質問が来る。「なんで日本人が?」彼らを納得させる答えが無いのでシンプルに「ロナウジーニョとベルナールが好きなんだ」と答えておいた。
この試合を観に日本から来たのか?と聞かれたので、嘘をついて、そうだ、と答えると一斉に「クレイジー」と頭の横でクルクル指を回し、よし!飲め!とビールが注がれる。俺も名古屋で「俺は小川が好きなんだ、その為に来た」とか言っちゃうグランパスの小川のユニを着た外人と出会ったら、喜んでビールを奢ると思う。
みなでスコア予想が始まる。話の内容はチンプンカンプンだけど、数字なら分かる。みんな口々に「トレイス、ゼロ(3-0)」という。
セミファイナルの1stレグをガロは2-0で落としていた。ガロがファイナルに進出するには3-0が必要で、もし1点でも取られたらアウェーゴールルールの関係で4点が必要になる。正直かなり難しい条件だ。だから親父どもの予想は予想じゃない。願望だ。
親父どもに礼を言い、一旦ホテルに戻る。フェルナンドにチケットをゲットした報告をする。いくらで買ったか聞かれたので200だと答えるとやるじゃん的な感じで「グッ~ド!」と称えてくれた。その後に俺は定価の60レアルで買ったけどね、と付け加えるのもフェルナンドは忘れなかったけど。
フェルナンドも「今日はトレイス、ゼロだ」と言い切る。今日1日ガロのユニを着て街をウロウロしていたら、「ガ~ロ~!」と声をかけてきた人のほとんどが挨拶代わりに「トレイス、ゼロ!」と言い指を立てた。パン屋のおばさんまでが!
かなり難しい試合になると思うけど、なんだか本当に「トレイス、ゼロ」が起こりそうな気がしてきていた。1日ぶりのシャワーを浴びて決戦に備える。初めてのブラジルクラブサッカーの観戦、しかもキックオフは22時。期待と不安が入り混じった気持ちで、キックオフを待った。