明治二十年発行の『普通讀本四編上』を紹介します。なお、読み易くするため、地の文は平仮名に統一し、文字化けを防ぐため、漢字は所々新字体に改めます。
第十七課 鯨。
鯨は動物中の最大なるものにして、長さ七丈より九丈に達し、黒色にして腹白く、頭の巨大なること、殆ど其身の三分の一に居れり。徐かに水面に浮かぶときは、島嶼の湧き出づるが如く、怒て水を撃つときは、百千雷の相震ふが如し、躍るときは、風なきに巨濤を起し、吹て水を出すときは、雲なきに驟雨を降せり、其極めて大なること以て想ふべし。鯨は其形水中に住むに適し、前肢は鰭状をなして、後肢は全く缺く、尾は水平に開きて、亦鰭状をなし、全體酷だ魚に似たれども、此れ素と水中に産する哺乳動物にして、魚にあらず。口内には齒なく、唯鯨鬚と稱ふる角質にして、板状のものありて、上齶に列生すること、恰も櫛齒の如し、工人之を用ひて各種の器物を作る、世に鯨細工と呼ぶは是なり。皮下脂肪の厚層あり、油を含むこと甚だ多く、其最も肥滿せる者は、之を得るに百斗に至ることありといふ。
【私なりの現代語訳】
鯨は動物の中で最も大きく、体長21メートルから27メートルに達し、体は黒色で腹部が白く、頭が巨大で、ほとんど全身の3分の1になります。ゆっくりと水面に浮かぶときは、島が湧き出るようであり、怒って水を発射するときは、百千もの雷が共に振動するようであり、躍動するときは、風が無いのに大波を起こし、潮吹きして水を出すときは、雲が無いのににわか雨を降らせ、それらをもって極めて大きいことを想像してください。鯨はその体形が水中で生息するのに適しており、前肢はヒレ状になって、後肢は完全に無く、尾は水平に開いて、またヒレ状になっており、全体的にとても魚に似ていますけれども、これの正体は海で産まれた哺乳動物であって、魚ではありません。口の中に歯は無く、ただ鯨鬚と呼ばれる角質で板状のものがあって、上あごに並んで生えているのは、まるで櫛の歯のようであり、職人はこれを用いて色んな種類の器物を作り、世間が鯨細工と呼ぶのはこれのことです。皮下脂肪の厚い層があり、油をとても多く含んでおり、最も肥満しているものでは、1800リットルに至る油を得たことがあるといいます。
【私の一言】
淡水魚、海水魚と来たら、次は鯨の出番というわけです。ちなみに大怪獣ゴジラの名前の由来は、ゴリラとクジラを組み合わせたものらしいです(諸説あり)。
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