数cmから1万kmの恋 -6ページ目

0cm「愛に行く」(20)

アパートを一歩外に出ると、肌に突き刺さるような寒さに身をすくめた。

「黄菜、滑りやすいから腕につかまって。」

「うん。」

私はニコリと微笑んで見せた。

新雪はまだ柔らかく、薄っすらと私とジョンの足跡を残していく。

私たちは朝食を買いに、ボデガと呼ばれる小さな店に来た。

ボデガはラテン系の人々によって経営される、とても小さなコンビニエンスストアのようなもの。

店によってはサンドイッチといった軽食をその場で作ってくれるところもある。

ジョンがいつも食べているという、ベーコン・エッグ・アンド・チーズというホットサンドイッチのような物を注文し、購入した。

「腕につかまって。」

もう一度腕に掴まってもいいものかどうか、躊躇っている様子の私を察してジョンはそう言ってくれた。

アパートに戻り出来立てのサンドイッチを食べたあと、ジョンが先にシャワーを浴びて、続いてタオルを借りてから私もシャワーを使わせてもらった。

浴室に入って服を全て脱いでいるのがとても不思議で、なおかつドア一枚隔てた向こうにジョンがいるという事が恥ずかしい気持ちにさせた。

”こんな展開など予想もしていなかった”とシャワーを浴びながら何度も思った。

小さな空間に一人でいる事で、今の自分を客観視することができていた。

”一緒になれないって言われたのに、どうしてこんなにも優しくしてくれるんだろう?”

”今日はあの寒いユースホステルに戻って寝なきゃいけないんだろうな。”

”今起きていることは絶対、両親に教えることはできないな。”

シャワーから上がってスッキリすると、昨日と同じ服に袖を通していく。

二人でベッドでスプーンした事、朝方ジョンに抱きしめられながらずっと話しをした事が脳裏から離れられず、彼と過ごした一夜がまるで夢だったかのように思えた。

まだ濡れ髪のままリビングに戻り、ふーっと大きく一息ついた。

「黄菜。メトロポリタン美術館から今日は始めてみようか?」

「いいね。行こう!」

メールでやり取りした際にリストアップした、私が行きたいニューヨークの観光名所やスケジュールが全て頭の中に入っているようだった。

初めて訪れるニューヨークだし、行ってみたい所や見てみたい所はごまんとあるのは確かだ。

しかしジョンと過ごした昨晩や今朝の事を思うと、外に出て観光するよりも2人で温かいベッドにまた潜り込みたいというのが正直な気持ちだった。

”恋愛の話し、家族の話し、子供のころの話し、今の仕事や学校の話し、どんなことでもいいので彼の胸に抱かれながら、時間を忘れるくらいずっと彼の傍にいたい。まだ夢に浸っていたい。”

そんな思いを隠しながら、私は外出準備をし始めた。