
※6年前に書いた記事に、現在のカメラ業界事情に合わせた修正を加えて再編集して掲載します。
春の運動会の季節になりました。
学校写真業者数社さんから、「運動会の撮影頼みます」という依頼がいっぱい来ます。
この仕事って、報酬がすごく低くて、今の若いカメラマンはやりたがらないそうです。
それで、体力も落ちた年配カメラマンにも声がかかるようで。
「報酬が安すぎ」「遠方に行かされる(さらに、学校というのは駅から遠いことが多い)」「その割に撮影枚数が多く、撮影後の現像&整理に多大な時間がかかる」「雨で中止になると報酬ゼロ、もしくはわずかなキャンセル料しかもらえない」「5月でもすごく暑いことがある」ということもあり、あまり受けたくないのですが、この不況下、そうも言ってられないため、受けられる時は受けてしまいます。
さて、「プロが運動会を撮影する」となると、「ものすごく高級な機材を持っていくんでしょ」「すっごく大きな望遠レンズとか使うんでしょ?」って思う人が多いようです。
私も、現場の学校に行くと、私よりも立派な機材を持っているお父さんたちがいっぱいいて、その人達に「あんた、その機材で撮影しているの?」って不思議がられます。
そう、実は、私たち、学校写真のプロが運動会に持っていく機材は、そんなに高級じゃないんです。
「あちこち動き回らないといけないから、重くて大きな機材は持っていられない」
「大きな機材を持っていると、後方から撮影している、ご家族カメラマンに、”お~い、じゃまだ!”と怒られる。このため、すごく姿勢を低くしていないといけない。軍隊の匍匐前進みたいに」(昔は、保護者カメラマンは少なかったが、今は観客全員がカメラマンになっている)
「大型の望遠レンズはボケがすごいので、”画面の中にいる子どもたち全員にピントを合わせたい”という学校写真の考え方には不向きであり、ボケが小さい小型の機材のほうが、ピントが合う範囲が広く、運動会写真としての良い写真が撮れる」(この理由から、フルサイズカメラよりもAPS-Cカメラのほうが有利)
「学校写真は、一人の子どもの上半身のアップといった極端なアップは不要で、望遠であっても、なるべく多くの子どもの姿を撮りたいので、鳥を撮る際に使うようなすごい望遠レンズは使わない」
「風が吹くと土埃がすごかったり、機材をぶつけたり、機材が傷む場合があるので、自前で高級な機材は持って行きたくない」
「大伸ばしにするわけでもなく、フルサイズの超高級機でなくても性能は十分」(最近は、CanonのR10みたいに、初級機とされる安価なカメラでも、きれいな絵が撮れるし、十分な連写性能やバッファ容量の大きさがある)
「砂埃が舞うところでレンズ交換をしたくないため、画質的には多少劣るかもしれないが、便利な高倍率ズームレンズを使用する」(「18mm-200mm」とか)
「基本、日中の屋外での撮影のため、AF性能がそんなに高くなくてもいい」
「フルサイズの高級機を持っていくほどの報酬の仕事ではない」
といった理由から、高級機材を持っていきません。高級機材を持っていても、本当の学校写真のプロは、あえて、運動会には持っていかないのです。
望遠ズームレンズも、ダブルズームキットについてくる安価な「75-300mm f4-5.6」なんかで十分なんです。

お父さんたちは「運動会は、アマチュアカメラマンにとっての晴れの舞台」「被写体は自分の子供だけ」ということで、すごい高級な機材を持っていきますが、プロは考え方が根本的に違うのです。
(※ただし、運動会競技の撮影だけでなく、「運動会終了後に学年全員での大集合写真を撮る」なんていう予定がある場合は、それ用に、フルサイズの高級カメラと高級標準ズームレンズや、大きなストロボを持って行く場合があります)
というわけで、私の場合、「万一ぶつけて壊れても気にならないような機材」を持っていきます。(こういう仕事に備えて、そういうカメラも売らずに保管しています)
なお、「プロならでは違い」としては、
「押さえの意味もあり、カメラは2台で並行して撮る。万一の故障に備え、さらに予備用のカメラも持参」
「逆光の場合もある。帽子の庇で顔が黒くなる。という場面に備え、晴天の屋外でも、フラッシュを使用する」(フラッシュを使用するため、その際に邪魔になる、キャップ式の野球帽みたいな帽子はかぶらない。)
「レンズにはきちんとフードを取り付けている。レンズ保護フィルターも装着」
「大事な撮影なので、記録メディアがダブルスロットになっているカメラを使用」
「ハリケーンブロワーを常に持っている」
「動きに無駄がない。次の場面を予測した動きをしている」
といったことがありますので、見る人が見れば、たとえ、安い機材を持っていても、「あ~、やっぱり、あの人はちゃんとしたプロだ」というのはひと目でわかります。
逆に言うと、運動会の撮影で「70-200mm f2.8」とかの大きな望遠レンズを使っているとか、「超高級機だけど、1台しか持っていない」というプロがいたら、「ああ、あの人は学校写真の本当のプロじゃないな」とわかります。
<お断り>
上記記述の「考え方」はあくまでも個人の考え方であり、「運動会であっても、自分が持っている最高の高級機材を持っていく」という立派な考えのプロカメラマンも存在し、私もその考えを否定はしません。

<保護者カメラマンさんたちへのアドバイス>
◎運動会のグランドは土埃がすごいです。屋外でのレンズ交換は絶対にしないほうが賢明です。レンズを交換したい場合は、最初から複数台のカメラを使用するか(1台は標準ズーム、もう1台は望遠ズーム)、もしくは、カメラ1台で済む、10倍ズームなど、高倍率ズームレンズを使用しましょう。
◎晴天時の屋外では「カメラ背面液晶画面」はほとんど見えません。ファインダー付きのカメラを使用しましょう。そして、ファインダー内で撮影画像確認ができる「ミラーレスカメラ」のほうが便利です。
◎動きの早い被写体では「電子シャッター」で撮影すると、画面が歪みます。機械式シャッターを使用しましょう。
◎連射機能のすごいカメラを使用すると、予想をはるかに上回る枚数を撮ってしまいます。記録メディアは「これで十分」と思っても、それ以上の大容量のものを装填しましょう。そして、屋外でのメディア交換も厳禁です。万一に備えて「予備のカード」「予備のバッテリー」も持っていきましょう。
◎三脚を持っていっても、おそらく使いません。(場所取りの道具としは役立ちますが)
◎レンズにはフードと保護フィルターを装着しましょう。運動会ではレンズがかなり汚れます。ホコリ除去用のハリケーンブロワーを用意しましょう。(安物ならダイソーでも売ってます)
◎帰宅後はカメラの掃除をきちんと行ないましょう。
◎撮影ポジションの取り合いで喧嘩しているお父さんたちがいます。仲良くやりましょう。どうしても、最前列で撮りたい時は、「このレース、うちの子が出てるんです!」って大きな声で言いながら、場所取りをして、撮影して、自分の子の出番が終わったら、すぐに移動して別の人に場所を譲る。お互い様の精神でそうやると、うまくいく場合が多いです。
◎「望遠レンズを使って自分の子どものアップの写真だけ撮る」という人が多いですが、「こういう運動会だったんだ」という記録を、全体の景色が撮れる広角レンズで撮っておくことも大事です。(これはスマホのカメラでもOKです)