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イきがみ②

イキガミ 3―魂揺さぶる究極極限ドラマ (ヤングサンデーコミックス)/間瀬 元朗
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どれくらい玄関に立ち尽くしていただろうか・・・。
ふと握っていた「イきがみ」を見つめた。
自分の写真の下に大きく「AM7:00」とプリントされている。
「あはは・・・朝7時・・・。」
俺は一人ごちた。
考えてみれば先ほど後藤が玄関に現れた時間が24時間前のはずだ。
「あはは・・・・。」
俺は笑い続けた。気が触れたわけではない。悲しすぎたからだ。
いくらなんでもこれはない。「イきがみ」の存在も、「国家繁栄維持法」の意義
も今はどうでもよかった。
 

『イきがみ』………「発射予告証」が発行された国繁対象者はその予定時刻の2
4時間前からの「発射行為」は禁止されている。
というより、「発射」できない体となる。
しかしながら予定時刻の24時間内に限り、公共風俗施設及びビデオレンタルシ
ョップでのAVレンタル、書店での俗に言う「ビニ本」を無料で購入する事がで
きる。


朝7時に開いてる風俗店は皆無だ。
ビデオレンタルは前の晩に借りてもいい。しかし借りてすぐさま観ることはでき
ない。見たところでどうする事もできない。


「あなたの「発射」を決して無駄にはいたしません…」

先程訪れた「藤本」の言葉が思い浮かんだ。

「あの野郎、マニュアルどうりの台詞か…」

俺は吐き捨てた。
あまりに悲しい。24時間後…一人でビデオを見ている自分を想像して俺は身震
いした。
 こうしてはいられない。パートナーを探さなくては。一方的に押しつけられた
「発射」だとしても「有意義」にできるはずと………。 

俺は行動を起した。 
                                                              《つづく》

イキガミ①




ある日、自宅のベルが鳴った。

ドアを開けるとそこには20代半ばと思われる男性がスーツ姿で立っていた。

「市役所、戸籍課の藤本と申します。」


嫌な予感が頭の中を走り抜けた。
何故ならこんな時間に役所の人間が一般家庭を訪れるのは、「あれ」ぐらいしか
思い当たらないからだ。

「何でしょう?」


俺は極めて冷静を装い問い掛けた。


「○○さんですか?」

確実に俺の名である。


「……ええ。」

「○○さん宛の『発射予告証』をお届けにまいりました。」


ビンゴだ…俺は心の中で叫んだ。嫌な予感は的中した。


「『イきがみ』………」


真っ白になった頭が思考する前に口をついて出た言葉だった…。


『イきがみ』………。

「国家繁栄維持法」の名のもと、小学校入学と同時に男子全員が「国繁予防接種
」を義務付けられている。
そのワクチンにはたいした意味はないが、その注射器の0.1パーセントに特殊
なナノカプセルが混入している。
約1000人に1人の確率でそのカプセルを注入された男性は、18歳以上にな
るとある日に血液中のナノカプセルが下腹部で起爆、その刺激によって「発射」
してしまうのである。

その「ナノカプセル」を誰に注入されたかは、国民には知る事ができない。
国民のもとには「発射」の24時間前にその日時が記された「発射予告証」が配
達される………通称『イきがみ』である。

「間違いございませんか?こちらが証明書になります。ご確認ください。」

藤本と名乗った男の声が俺の意識を目覚めさせた。
証明書を受け取る。

そこには俺の写真の乗った『イきがみ』が貼り付けてあった。

藤本は黙って『イきがみ』を見つめる俺をショックで言葉を失ったとみたか、

「これは24時間を有意義に過ごしてもらうための国からの配慮です。あなたの
「発射」を決して無駄にはいたしません。」

事務的な台詞が俺の耳から入って来る。

「承諾書に印鑑を頂けますか?」
俺は居間へと戻り印鑑の入っている引き出しを開け、玄関へと踵を返す。
印鑑を押させた藤本は心持ち安堵の表情を浮かべたかと思った刹那、硬い表情を
取り戻し

「では○時丁度に予告証をお渡し致しましたのでこれで失礼します。○○さんの
勢いあるご発射を心よりお祈り致します。」

直立した格好から、律義に頭を垂れ、そして藤本は静かにドアを閉め、玄関を後
にした。
俺ははっきりとしない意識の中で「イきがみ」を掴んだまま立ち尽くしていた。



≪つづく≫














prologue





皮膚を刺すような冷たい風が吹いていた。

この時期は決まって街は色とりどりにデコレーションと言う名の下に西洋化される。
凍てつく寒さで空気は澄み切ってその色をはっきりと写しだしていた。

そんな風景の中にひとつだけ異質な光景があった。
いいや。
異質に見えるがある意味溶け込んでいるとも言えるのかも知れない。
何故ならその光景が展開されている意味を、その理由を知らないものが居ないのだから。

通行人は皆一様にすれ違い様にその光景を目にして何食わぬ顔で立ち去ろうとはするのだが、目には憐れみの表情がうかんでいるのだった。

その光景とは大きな木を飾ったオブジェの前で男が女の前で土下座をしているのだった。

その男女は、この季節に方を寄せ合い街を闊歩する若者と同年代であろうが、今のその姿は全く異なっていた。
男は言葉を発することはなく顔を冷たいアスファルト付けるほどに頭を垂れ、その目には涙が溢れていた。

その涙の意味が屈辱も含まれてはいるであろうが、切迫する懇願から来るものである事も、土下座を目の前にし、困惑しながらもただ呆然と立っている女の意図も、その二人の横を通り過ぎる通行人達は解っていた。




何故ならば男の握りしめられた手には、紙がにぎられていた。



実際目にしたことはなくとも皆知っているその紙の存在………





その紙は「イきがみ」と呼ばれているのだった………。