prologue
皮膚を刺すような冷たい風が吹いていた。
この時期は決まって街は色とりどりにデコレーションと言う名の下に西洋化される。
凍てつく寒さで空気は澄み切ってその色をはっきりと写しだしていた。
そんな風景の中にひとつだけ異質な光景があった。
いいや。
異質に見えるがある意味溶け込んでいるとも言えるのかも知れない。
何故ならその光景が展開されている意味を、その理由を知らないものが居ないのだから。
通行人は皆一様にすれ違い様にその光景を目にして何食わぬ顔で立ち去ろうとはするのだが、目には憐れみの表情がうかんでいるのだった。
その光景とは大きな木を飾ったオブジェの前で男が女の前で土下座をしているのだった。
その男女は、この季節に方を寄せ合い街を闊歩する若者と同年代であろうが、今のその姿は全く異なっていた。
男は言葉を発することはなく顔を冷たいアスファルト付けるほどに頭を垂れ、その目には涙が溢れていた。
その涙の意味が屈辱も含まれてはいるであろうが、切迫する懇願から来るものである事も、土下座を目の前にし、困惑しながらもただ呆然と立っている女の意図も、その二人の横を通り過ぎる通行人達は解っていた。
何故ならば男の握りしめられた手には、紙がにぎられていた。
実際目にしたことはなくとも皆知っているその紙の存在………
その紙は「イきがみ」と呼ばれているのだった………。
