2007年2月、武力攻撃事態や大規模災害などの緊急情報を瞬時に住民に伝達するJアラート(全国瞬時警報システム)の運用が始まりました。

 

2023年4月13日、北朝鮮のミサイル発射実験・訓練に対する7回目のJアラートが発信されましたが、今まで領海内に落下したことはありません。

 

武力攻撃事態の情報を統括する内閣府は「弾道ミサイルが日本の領土・領海に落下する可能性又は領土・領海の上空を通過する場合に発信する」としています。

 

Jアラート:消防庁資料

 

北朝鮮の核開発は1956年にソ連が設立した合同核研究所(UINR)のメンバーとなり、研究員を派遣したのが始まりです。

1963年からは寧辺原子力研究センターでソ連の協力のもと核開発は行われました。

 

1953年7月に国連軍と中朝連合軍の間で朝鮮戦争休戦協定が署名されましたが、平和条約は締結されておらず、軍事境界線を挟んで緊張状態が続いています。

このような状況下で、北朝鮮は政治体制を維持するには核の保有が不可欠であると判断したのです。

 

 

1993年6月の第1回米朝交渉を皮切りに、米北中による3者協議、3者に韓国、ロシア、日本を加えた6者協議、米朝首脳会談の場で「朝鮮半島の非核化、安全保障、平和統一」などの合意が何度かなされました。

 

しかし、北朝鮮は合意事項を守らず、核開発を断念することはありませんでした。

 

米朝首脳会談:写真はBBCから

 

「金総書記は対等に交渉を進めるために、アメリカと韓国を核攻撃する能力があることを証明できるようになるまでは、交渉のテーブルに戻ることはないであろう。」というのが現在の状況です。

 

2022年に北朝鮮が発射したミサイルの数は、同国がこれまでに発射した全ミサイルの4分の1を占めており、戦略・戦術核兵器の開発を急いでいます。

 

 

戦略・戦術核兵器としては次の構成要素が必須と考えられています。

 

1、短・中距離ミサイル、大陸間弾道ミサイル

2、ミサイルに搭載可能な小型核弾頭

3、発射前の探知が困難で、追跡・迎撃がより難しい地下発射基地、ミサイル潜水艦

 

 

戦略・戦術核兵器を開発して初めて北朝鮮は核抑止力を有し、政治体制を維持する保証を手にすることになります。

 

核抑止力は「核報復兵器を保有することによって、国家間の戦争を思いとどまらせる力、また、他国に核攻撃を思いとどまらせる力(デジタル大辞典)」と定義されています。

 

核抑止力:広島平和メディアセンター資料

 

北朝鮮の戦略・戦術核兵器の開発状況は次の通りです。

 

1、ミサイル開発

2022年には短距離ミサイル実験を複数回行い、その後は中距離ミサイル実験を行なった。

また、11月には理論上アメリカ本土に到達する能力を有する大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に成功した。

 

ミサイル開発はほぼ終了したため、今後の発射は実験ではなく訓練が中心となる。

 

2023年には、液体燃料式に比べて発射時間が短縮される固体燃料式ICBMの開発に取り組むことが計画されている。

 

ICBM発射実験:写真はKCNAから

 

2、小型核弾頭の開発

2023年3月28日、北朝鮮メディアは戦術小型核弾頭ファサン(火山)31を開発したと発表した。

 

短・中距離ミサイルに搭載可能と判断され、同弾頭を使った7回目の核実験が迫っているとの見方も出ている。

 

小型核弾頭:写真はKCNAから

 

3、発射基地・艦艇の整備

北朝鮮は通常の移動式発射台だけでなく、次の発射基地・艦艇の整備に力を入れている。

 

*地下発射基地

*ミサイル潜水艦

*核無人水中攻撃艇

 

映像は日テレから

 

北朝鮮は戦略・戦術核兵器の初期段階の開発を終え、実験、訓練、整備の段階に移行しています。

 

2022年12月の朝鮮労働党中央委員会の拡大会議では、「核兵器の開発を指数関数的に増やす」という2023年の核戦略を決定しました。

 

金総書記は「国家核兵器総合管理システム」や「核反撃作戦計画」について検討し、「いつでもどこでも使用できるよう完璧に準備してこそ、永遠に核兵器を使わないようになる。」と述べたと伝えられています。

 

拡大会議:写真はKCNAから

 

ミサイルには到達距離だけでなく、目標地点・高度で起爆できる精度が求められます。

日本の軍事力増強や日米合同軍事演習などに反発することを口実に日本の領海付近へミサイルを発射するのは、格好の実験・訓練の機会になっているのです。

 

北朝鮮が戦略・戦術核兵器を開発する目的は「永遠に核兵器を使わないようになる」ためで、北朝鮮に日本攻撃の意図はありません。

 

防衛省資料

 

アメリカのクリントン政権で国防長官を務め、北朝鮮との直接交渉に当たったWilliam J. Perryは次の通り分析しています。

 

「金正恩の最重要目的はレジーム(政治体制)を維持することなので、自ら核兵器を使用してその目的を破壊することはない。彼はこれから、北朝鮮の安全保障を維持しつつ、経済上の恩恵と世界的地位を得ることに取り組んでいくでしょう。」

 

 

もちろん、日本政府はそんなことは百も承知です。

その上で、不正確なミサイル情報に基づいてJアラートを発信し、国民の不安を煽るのは何が目的なのでしょう?

 

参考記事:

(1)北朝鮮の2023年を展望(2023年1月5日)BBCソウル特派員、ジーン・マッケンジー

(2)北朝鮮が「戦術核弾頭」初公開(2023年3月29日)同上