葛城の迷宮 -27ページ目

『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』

監督:スティーヴン・ダルドリー
出演:トーマス・ホーン
    トム・ハンクス
    サンドラ・ブロック
    マックス・フォン・シドー
    ヴィオラ・デイヴィス
    ジェフリー・ライト




ぼくの名前はオスカー・シェル。
ニューヨークのアッパーウエストに住んでいる。
パパのことが大好きだ。
パパはいろんなことを教えてくれた。
パパとしたテコンドーは楽しかった。
パパはクローゼットに宝物を隠していた。
子供のころのフィルムや、パパのパパが使っていたカメラとか。

$葛城の迷宮-01


パパとよく“調査探検ゲーム”をした。
たとえば、“20世紀に共通する物探し”とか。
ぼくは他の人と接するのが苦手だった。
パパはこのゲームを通じて、他の人と話したり聞いたりすることに僕を慣れさせようとしていた。

パパにヒントを聞いたときの、肩をすくめるしぐさが好き。
答えを出したときに褒められると、とても嬉しかった。

最後の調査対象は、“幻のN.Y第6区”を捜し出すこと。
これは今まででいちばん難しい調査だ。
葛城の迷宮-02





パパのことが大好きだった。



そしてあの日がやってきた。
9月11日、突然パパは死んでしまった。

$葛城の迷宮-03


パパは留守電にメッセージを6回残していた。
ぼくは、そのメッセージを誰にも聞かれないように隠した。
パパのお葬式をした。
みんなが泣いていて、空っぽの棺を土の中に埋めたいた。

$葛城の迷宮-13


あの日からママは泣いてばかりいる。
ぼくはママとあまり話をしなくなった。

ぼくは1年振りにパパの部屋へと入った。
あの日のまま全く変わっていない部屋。
クローゼットの中もそのまま。
ぼくは手を伸ばしてパパの宝物を取った。
そのとき、青い花瓶が上から落ちて割れた。
割れた花瓶の中から、小さくて黄色い封筒が出てきた。
その封筒の中には鍵がひとつ。
黄色い封筒には、“BLACK”と書かれていた。

$葛城の迷宮-04


これは、パパがぼくに残してくれたメッセージだ!
“ブラック”は人の姓に違いない。
そのブラックさんのところには、この鍵に合う鍵穴があるはず。
ぼくはニューヨークをブロック毎に分け、472人のブラックさんと会うための計画を立て始めた・・・

$葛城の迷宮-05


『リトル・ダンサー』、『めぐりあう時間たち』、『愛を読むひと』
を撮ったスティーヴン・ダルドリーが監督。
今作はオスカー少年の視点から描く、一人称の物語。
作品が地味に感じるし宣伝も下手なので、観に行くことに躊躇している人も多いと思う。
でも、上記の作品をひとつでも観たことがあるなら、彼の大胆で丁寧な演出を知っているはず。
優しく、苦しく、透明。
そして太くて真っ直ぐだ。


$葛城の迷宮-05


オスカーの父親役は、久しぶりに見たトム・ハンクス。
最近どうも、細川たかしと区別がつかなくなってきて困ってたんだけど、今作では眼鏡を掛けてくれたおかげで大丈夫!
スター俳優って、だいたい下の3パターンに当てはまると勝手に思ってる。
 ①長く人気を維持している大スターだけど、最近の役名が憶えられない
 ②昔人気があったけど、今は落ちぶれてしまった元スター
 ③今現在ブレイクしてきている、旬なスター

トム・ハンクスは、①に当てはまると思うので、このような作品には不向きだと考えてた。
しかし今回の役名は、基本”パパ”で、出演時間も短い。
自分が出演する効果をいちばん理解した方法で、とても印象に残った。

$葛城の迷宮-06


主人公オスカー役のトーマス・ホーン。
今作が映画デビューらしい。
オスカーは人並み以上の知識があるため、周りの大人を小馬鹿にしたり、無愛想に振舞ったりするクソ生意気なガキンチョだ。
しかし人と接するのが苦手だったり、アスペルガー症候群のテストを受けたり、精神的に弱い部分がある。
ブランコさえ怪我の可能性を考えたら、恐くて漕げなかった。
しかもあの事件以来、苦手なモノが増えてしまった。
外出時は常にタンバリンを鳴らしていないと、不安感を抑えることができない。
時折どうしようもない悲しみが襲ってきて、気持ちを逸らせるために自分の背中をつねって紛らわす。
弱音を吐く代わりに、自分の身体へ赤い華を散らすかのごとく・・・

$葛城の迷宮-07


『スピード』、『デモリッションマン』でサンドラ・ブロックを初めて見たとき、スグに消えていくなって思ってた。
最近の彼女は年齢相応の役を素敵に演じていて、今さらながら良い女優になったなと心から思う。
まぁ、ちょっと疲れた感が妙に色っぽいのだけど、こんな映画をオトコ目線で見ちゃイカンな。
夫を失った悲しみと、心を閉ざしてしまった息子に、どう接していいか分からない。

$葛城の迷宮-12

向かい側のアパートに住む祖母の部屋に、間借りしている老人。
途中からオスカーと一緒に調査へ参加することになる。
過去のトラウマが原因で声を失っているために筆談だけど、簡単な質問ならスグ答えられるように左手の平に”YES”、右手のひらに"NO"タトゥーが入っているお茶目な人。
マックス・フォン・シドーは、『エクソシスト』で40代でありながら、老人役のメリン神父を演じていた俳優。
あの頃から寸分変わらず老人のままだ。
オスカーが父親としていた”矛盾語ゲーム”をしてみたり、時折肩をすくめる仕草を見せる。

$葛城の迷宮-08


ヴァイオラ・デイヴィスや、ジェフリー・ライト、ジョン・グッドマン、ジェームズ・ガンドルフィーニなど芸達者な俳優が、短い時間ながら印象の強い役柄で出演している。
生意気なオスカーを優しく見守る大人たちの様子が、まるで初出演のトーマス・ホーンをフォローするかのような演技をする彼らと重なる。


$葛城の迷宮-14


父親が死んだ事実を認めたくない一心で始めた、この鍵穴探し。
調査をしている間は、父親がまだ近くにいてくれるような気がする。
しかしオスカーも、薄々見つからないことが分かってる。
子供らしく振舞えなくなってしまった彼は、勇気が無くて出来なかった後悔をずっと引きずったまま。
勇気を出して新しい一歩を踏み出すことで、彼は子供に戻ることができる。


唐突に物語が展開すると感じる部分があるかも知れない。
この物語は、主人公のオスカーからの目線で描いているため、彼の知らないことは観客も知らない。
しかし、オスカー以外の登場人物の時間も並行して動いている。
皆、いつまでも悲しみに浸っているわけにはいかない。

$葛城の迷宮-15


流行りの泣かせる映画だと思うかも知れない。
9.11をテーマにしたら、誰でも感動的な作品を撮れると思うかも知れない。

オスカーと同じように偏見で世の中を見ているのなら、それは不幸だと思う。
(ぼくも含めてね。)
素直な気持ちで観てみたら、新しい感動が発見できるかも。

あの事件の日、高層ビルの谷間から見た空は狭かった。
でも怖かったブランコを思い切り漕いでみたら、
オスカーも目の前の空が大きく広がっていることに気付いた。




ものすごくうるさくて、ありえないほど近い/ジョナサン・サフラン・フォア

¥2,415
Amazon.co.jp