葛城の迷宮 -25ページ目

『戦火の馬』

監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ジェレミー・アーヴァイン
    エミリー・ワトソン
    デヴィッド・シューリス
    ピーター・マラン

イングランド南西部、デヴォン。
村の小作人であるテッド・ナラコット(ピーター・マラン)は、耕作馬を買い付けるために地元の市場で行われる競売に訪れていた。
そこへ牽いてこられた若い雄馬は、サラブレッドの血が入った見事な馬体をしていた。
テッドは貧しい家の家計事情も顧みず、村の地主であるライオンズ(デヴィッド・シューリス)と競った挙句、大金をはたいて雄馬を購入してしまう。

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案の定、妻のローズ(エミリー・ワトソン)は激怒するが、息子のアルバート(ジェレミー・アーヴァイン)は感激する。
この雄馬が近くの牧場で産まれた瞬間、まだ仔馬の頃から成長するのをずっと見守ってきたからだった。
彼はこの馬に“ジョーイ”と名付け、熱心に調教を開始する。
アルバートの親友アンドリューは、この様子をからかい半分で見ていたが、やがてアルバートとジョーイの間に強い絆が生まれている事を感じた。

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ナラコット家はライオンズから家と耕作地を借りて生活をしていた。
父親のテッドは脚が悪く、酒ばかり飲んでいて日々の暮らしにも困窮するような毎日。
支払いを迫るライオンズに、テッドは新たに荒れ地を開墾してカブを栽培し、その売り上げで地代に利息を付けて必ず支払うと誓う。
しかし、開墾するための鉄製の鋤を牽くには、ジョーイはあまりに不向きな馬体だった。
ここで生活していくために、無理にでもジョーイに作業をさせようとするテッド。
そんな父を尊敬することができずにいたアルバートに、母のローズは納屋の奥から隠し持っていた一枚の赤い旗を出して見せた。
それはテッドが若い頃、南アフリカでの第2次ボーア戦争に従軍した際の連隊旗だった。
父の脚の怪我は、戦闘中に友人を救った際に負った名誉の負傷だとローズは話す。
アルバートはそんな父を誇りに思い、ジョーイと一緒に荒れ地の開墾に挑むことを決意する。

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ライオンズも含めた村の住民たちは、ジョーイが潰される瞬間を見るために、荒れ地の周りに集まって来た。
アルバートはジョーイに鋤を牽かせようとするが、なかなか前に進むことができない。
やがて激しい雨が降って来た時、牽き方のコツを掴んだ彼らは一日足らずで荒れ地を開墾して見せ、住民たちを驚かせる。
植えたカブは順調に大きくなり収穫間近になった頃、激しい嵐が村を襲う。
不安は的中し、栽培していたカブは全滅していた。
地代の支払いが不可能となり、絶望の淵に追い込まれたナラコット家。
そんな時、第一次世界大戦が勃発し、英国の参戦が決定したという報が村に届いた。

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ある朝、アルバートは納屋の扉を開けると、ジョーイがいないことに気付く。
慌てて村の中心部に向かうと、テッドがジョーイを軍馬として売却をしたところに出くわす。
全ては家族が生活をしていくための、テッドの苦渋の決断だった。
ジョーイと別れることに諦めがつかないアルバート。
そんな彼に話しかけてきたのは、ジョーイを買い取ったニコルス大尉だった。
彼はアルバートにジョーイが素晴らしい馬だということを伝え、戦争の間だけ貸してほしい、戦争が終わったらジョーイを返す、という提案をする。
渋々アルバートは承諾し、出発するジョーイの手綱に父の連隊旗を結び付ける。

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ジョーイは軍事行動用の訓練を受けることになり、真黒で自分より大きく立派な馬体を持つトップソーンの隣に繋がれる。
突撃訓練でも目覚ましい働きを見せたジョーイは、ニコルス大尉と共にフランスへ配置されることとなる。
駐留するドイツ軍への奇襲攻撃を決行する前日、ニコルス大尉はアルバート宛てに手紙を認め、ジョーイのスケッチと共に郵送の用意をした。

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数日後、家族と共に畑作業をしていたアルバートの元に、ニコルス大尉から郵便物が届く。
封を開けてみると中に入っていたのは、ジョーイのスケッチ、それとニコルス大尉の戦死を伝える旨の手紙だった。
ジョーイの生死も不明となり、絶望するアルバート。

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フランス北部、ソンム。
様々な出会いと別れを繰り返し、今ジョーイはトップソーンと共にドイツ軍の大砲を曳いていた。
丘の頂上まで辿り着き、砲兵により砲弾を込められる大砲。
轟音と共に放たれた砲弾が炸裂する相手陣地には、懐かしい姿が。
そこには親友アンドリューと共に、英国軍の志願兵としてやってきたアルバートの姿があった・・・

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『タンタンの冒険』に続いてスティーヴン・スピルバーグが監督した『戦火の馬』
児童小説として発表されていた物語を元に、戯曲化されて話題となっていた作品を映像化。
過去にも『プライベート・ライアン』等の戦争映画を撮っていたけど、今回は子供でも鑑賞できるように人が死ぬ瞬間のアップや流血などの残酷なシーンは一切ナシ。
何となくスピルバーグ作品らしくない画作りだなって思ってたら、いつものビスタサイズ(1.85:1)じゃなくて、シネマスコープサイズ(2.35:1)で撮ってるから。
インディシリーズ以外では、30年振りくらいかな?
撮影監督のヤヌス・カミンスキーも、打ち合わせでビックリしたんじゃないだろうか。

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あくまでジョーイを主人公として描くため、スター俳優は全く出てこない。
クレジットの一番最初はエミリー・ワトソン、次にデイヴィッド・シューリスが続いて、後は無名の俳優が続く。
アルバート・ナラコット役のジェレミー・アーヴァインは、映画初出演で初主演。
製作陣としては有名俳優の出演で、ジョーイの存在が霞まないようにという配慮だったのかも知れないけど、
この馬の存在感は圧倒的。
そこいらのスター俳優とは比べ物にならないほどの演技力を、ジョーイは表現してみせる。

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戦争は常に残酷な結果しか残さないが、ロマンティックなエピソードや悲壮感ゆえの美しさがあるのもまた事実。
第一次世界大戦は機動力を重視する騎兵が最後に活躍した戦争であり、物語の舞台にもなる“ソンムの会戦”で登場した戦車に、その座を取って代わられることになる。

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ジョーイは様々な国の人々と関わることになるが、話す言語は英語のみ。
ドイツ兵やフランスの村民まで英語を話すのは不自然だと思うだろうけど、この映画はあくまで子供が鑑賞できるように作られた作品。
最低でも英語圏の子供たちが字幕なしで観るためには当然の措置で、日本でも子供が一緒なら吹き替えで充分。
『ヒューゴの不思議な発明』はパリのオルセー駅が舞台で、フランス人の登場人物で、フランス人の映画監督の物語なのに、みんな英語を話してる。
それが許容できるなら、この作品も受け入れるべきだと思う。
映画マニアを対象にした、『イングロリアス・バスターズ』とはちょっと趣旨が違う。

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最近の映画としては珍しく、驚くほどストレートな話の展開。
オムニバスのように登場人物や舞台は変わるけど、中心はやっぱり主人公のジョーイ。
古き良き時代の終焉を描いた今作の画作りには、懐かしささえ感じる。
何も考えずに鑑賞していたら気付かないかも知れないけど、VFXを極力使用せずに撮影したらしいこの映像。
ドキュメンタリーでは無いので馬にも演技をさせているんだろうけど、
驚嘆の映像美を何の疑問も感じないように見せてくれる。
美しい映像を盛り上げてくれる音楽も素晴らしい。
スピルバーグ作品に欠かせない作曲家、ジョン・ウィリアムズ御大も今年で80歳。
今回もフルートソロを基調にしたスコアをたっぷり聴かせてくれる。

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ジョーイは逞しさと強さ、人を惹き付ける魅力を兼ね備えた“奇跡の馬”
生きるために森の中を、戦場を、関わった人たちの運命が変わる瞬間を駆け抜けて行く。
まるで生きてさえいれば、いつかアルバートに会えるということを知っているかのように・・・