美しいと感じる対象は個体差が大きく、時代、地域、社会、集団、環境などによっても大きく異なります。例えば、整然と並ぶものに美を感じる人もいれば、ランダムに並ぶ様子に美を感じる人います。左右対称を美しいと感じる人もいれば、非対称に美を感じる人もいます。

 

龍安寺石庭

 

 無調を心地よいと感じるか否かなども美意識に関連している場合がるといえます。また、現代の建築においても、コンクリートの打ち放し建築の美についても近年問いかけられたテーマです。

 

 西欧では華美な装飾や人工的な美をその美意識の中心においていますが、日本人の美意識はむしろ自然と対立せず寺社、日本庭園に見られるように自然と一体となり、死を敵対するものではなく「侘(わび)、寂(さび)」に見るように朽ち果てゆくもの、枯れるものへの素朴な同調などが根底にあると言われています。

 

 室町時代の能役者の世阿弥は、著書「風姿花伝」の中で「秘すれば花」(注)と表現していますが、日本人には全体的調和を重んじ、自己主張を抑制し隠蔽(いんぺい)することにより受け手の想像力を刺激し、日本人特有の奥深さに美を見つけてきたと言われています。

 

 

(注)「秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず」は、秘密にする(隠す)からこそ花(感動)になり、秘密にしないと花になはらない(感動を与えない)という意味です。演劇である「能」は、動きを極限まで単純化し、無表情な面をつけ物狂、執心、怨霊などの題目で演じられる日本の伝統演劇で、観るものの想像力によって演じられる世界が広がっていきます。

 

 モノの機能を満たすという最終目標の達成に始まったデザインは、モノの姿や形の中に美を意識するようになります。美意識という言葉がありますが、それは人が美しいと感じる心の働きをのことです。

 

 西洋美術の規範である古代ギリシャやローマ美術はデザインの審美性を高め  、15  世紀に始まるルネッサンスから  19  世紀半ばの印象派に至るまでの長い期間、美のあり方の基準となりました。美の基準とは均整(Balance)、調和 (Harmony)、対称(Symmetory)でをさし、これを美の3要素と言っています。

 

 特に古代ギリシアで発明されたパルテノン神殿に用いられた建築のオーダー(様式)は近代に至るまで、西洋の公共建築に多大な影響を与えるとともに、そのモチーフが工業製品にも引用されるなどの影響が見られます。

 

パルテノン神殿 アテネ アクロポリスの丘 紀元前432年頃

イギリスの高級車 ロールスロイス シルバークラウドのフロントグリルに神殿の様式が使われた

 

美の3要素

 

Balance/ バランス

 均衡、釣り合いを意味する言葉です。一般には重量的に左右の重さが釣り合っていることを言いますが、美術や造形では、視覚的なバランスが含まれ、色相、明度、彩度が影響することで大きさの異なるものでも釣り合って見えるものがあります。これが崩れた状態を Unbalance アンバランス(不均衡)と言います。

 

同じ大きさの石でも黒いと重く感じる。

 

Harmony/ ハーモニー

 音楽の3要素であるリズム、メロディ、ハーモニーひとつである和声(和音)は、ふたつ以上の音の調和した響きで、メロディを包み込んで全体的な調和感を形成します。美術や造形では色彩や図形の調和を言います。

「Composition」1923

抽象絵画の父と呼ばれるヴァシリー・カンディンスキーはキャンバスに形態と色彩のハーモニーを生み出した

Compositinnは音楽では作曲、デザインや美術では構成と訳される

 

 

Symmetry/ シンメトリー

 一般には左右相称の意味で使われています。物体もしくは美的対象の構成が中心軸に対して色,形,性質が左右、または上下に同形に配置され,両者が均整,相称な関係にあることを言います。反対にこれらの関係がくずれた状態をアシンメトリー asymmetry(不均衡)と言います。

 

 美術の分野において、この関係が明確に表われているのは建築のデザインで,いかなる時代の様式においても,宗教建築その他の威厳や安定感を必要とする公共建築などはシンメトリーな外観を持ち、逆に個人的な趣味性の強いデザイン優先の小規模の建築や実用本位の建築にはアシンメトリーのものが多く見られます。

 

宇治平等院鳳凰堂 左右対称だけでなく池に映る姿も上下対称

釈迦の死後1200年後に訪れる末世を恐れ、生きている間に極楽浄土の世界を見たいと願った

 

 

 

 これまでデザインについて書いてきましたが、さていったいどのデザインのことなんだろうと思った人もいるのではないでしょうか。デザインの領域を分類してみると、一般に「平面」、「立体」、「空間」といった分け方が 最初に考えられます。平面は2次元であり、立体(平面+奥行き)は3次元、空間は4次元(3次元+時間)とった分け方です。次元は英語でDimention(ディメンション)なので3Dなどといった言い方の方がわかりやすいかもしれませんね。

 

 「ヒト」を中心にデザインの領域を考えると、大きく「生活(Living:リビング)」と「情報(Communication:コミュニケーション)」に分けることができます。そして、「生活」と「情報」を取り巻くものに「視覚(Visual:ビジュアル)」、「生産(Product:プロダクト)」、「空間(Space:スペース)」、「時間(Time:タイム)」、「流行(Fashon:ファッション)」の5分野があります。

 

 

 

 上図でわかるように「デザイン」の中心に存在するものは「ヒト」です。「ヒト(Humen;ヒューマン)」は一般に「消費者(Consumer:コンシュマー)」という言葉で語られることもありますが、ここでは「社会」という大きな枠の中で捉えた「ヒト」という概念です。

 

 デザイナーが何か新しい製品やプロジェクトを設計・計画する際には、必ずその中心に「ヒト」または「人々(People:ピープル)人の集まり」が存在し、そのヒトと人々には「何が必要か ? 」そして、「何を設計するべきか  ?  」を考えます。これが、現代の「デザイン」という言葉の定義において最も重要であると言えます。

 

 常にヒトを中心に考え目的を見出し、その目的を達成するための計画を作成し実現化する。この一連のプロセスこそがデザインという行為であると言えます。