第二条~黎明編 四十九条賭場物語 エピソード2~
アキラ>かつてない 緊張を味わった賭場からはやひと月。
ボクはまた静かなアマチュア壷ふり生活にもどっていた。
サヤカ>そんな悠々自適な生活をしている彼の前に、私は立った。
アキラ>サヤカさん・・・!
サヤカ>アキラ!・・・ひさしぶり。元気してた?
アキラ>ま、まあ・・・元気でしたけど・・・・
サヤカ>・・・・
アキラ>偶然っすね。こんなところで出会うなんて・・・あれから、どうしてたですか?
サヤカ>・・・別に・・
アキラ>べつに・・・って、またまたあ。あれからプロの賽ふりの方では、すっかり売れっ子になっちゃったんじゃないです?
サヤカ>・・・だから・・・べつに・・・
アキラ>・・・えっ?
サヤカ>その・・さ・・・そんなに甘い話じゃなかったみたいなんだ・・・
アキラ>ど、どういうことですか?
サヤカ>この世界にもその手の問題はあるということよ。
アキラ>・・・・。
サヤカ>教えてあげる。わたし、終わるまでまってるから。
アキラ>あ、だけど・・・
サヤカ>気にしないで。決して迷惑はかけない。
アキラN>その瞬間、ボクの止まっていた時間は再び動き出すのだった。この話は、そんな背景からはじまる。
サヤカ>黎明編 四十九条賭場物語 エピソード2
アキラ>賭場、終わったよ
サヤカ>お疲れ~。アキラ。酒~
アキラ>サヤカさん! どうしたんですか・・・・
サヤカ>いいから。お酒。お酌して~~~
アキラ>・・・ハイ。どうぞ。
サヤカ>ありがと。 かーーーっ!うめぇ!!
アキラ>なんか、サヤカさん、おかしいですよ?
サヤカ>おかしい?そう? おかしい? ハハ! さあ!笑って わらって!
アキラ>相当・・・おかしいですよ?
サヤカ>・・・こうなるのだって、別におかしくないわよ。
アキラ>え?
サヤカ>あのさ、このあいだ監視役やってた、イケメン2人、覚えてる?
アキラ>ああ!たしか、雅さんと辰さん。
サヤカ>そそ。イケメン2人ね。
実はさ、あの2人ね・・・死んじゃったんだ・・・・
アキラ>!!なんですって!いつ!?
サヤカ>三日くらい前。しかも、突然、パタパタパタ・・・っと。
アキラ>どっか・・・わるかったんすか?
サヤカ>ぜんぜん・・・どこも悪くなかったよ・・・ぜんぜんね・・・
アキラ>そうっすよね・・・人間の一寸先はやみ、なにが起こるかわかんないって言いますからね。
サヤカ>うん・・・・
アキラ> で、供養とかはおわったんすか?
サヤカ>・・・おわってないよ・・・
アキラ>しないと!・・
サヤカ>うん・・・やりたかったけど・・できなかったんだ・・・
アキラ>な、なんですって・・・どういうことなんですか?
サヤカ>わたしも、2人の死後すぐにお骨を焼いて供養して・・・それで終わりになるとかんがえていたんだ。
だけど、それで終わりにはできなくなったんだ・・・・
アキラ>なぜ?
サヤカ>あとにね・・なんにも残らなかったからなんだ。なんにも。
アキラ>は?はあああ???
サヤカ>遺骨が残らないのは。あの二人、シャブやってたからだろうっていわれた・・・
アキラ>そんな・・・!実際のところは、どうなんですか?
サヤカ>・・・わからない・・・プライベートまで関与してたわけじゃなかったから。
アキラ>そ、そうですよね・・・
サヤカ>でも、自分達から足を踏み入れるようなバカでもないと思う・・・
アキラ>ま、そうでしょうけどね・・・
サヤカ>雅と辰とはね・・幼なじみなんだ。
アキラ>・・・!
サヤカ>3人でいっつもいっしょに遊んでた。そりゃ時には喧嘩とかもしたけど、とにかく、楽しかった。
アキラ>・・・!
サヤカ>ある日、組の方では、上層部にへの昇格を、あたしたちの中から選ぶという話がでたんだ。
アキラ?>へぇ・・・
サヤカ>別にあたしたちはそんなことに興味すらなかったさ。でも、この話を面白く感じてなかったヤツがいた。
アキラ>もしかして・・それが・・・鉄蔵?
サヤカ>そう。その通り。鉄蔵は私よりも6つも年上の組員で、ドス作りの名人だった。くる日もくる日もドスばっかつくっていたっけ。生まれつきの荒い性格もあって、組からの評価は低かったの。
アキラ>・・・!
サヤカ>そんなんだったから許嫁だった有紀ちゃんからも愛想尽かされちゃったくらいなのよ。
アキラ>それほど・・ひどかったのか。
サヤカ>それ以来、ずっとずっといさかいは絶えないの。
ことあるごとににらみあってた。
アキラ>じゃ、じゃあ、今回のことは・・・?
サヤカ>鉄蔵のせいじゃないかと思う。
アキラ>・・・!
サヤカ>実際、今度の事件を境に、あいつは若年寄の一員に名を寄せるようになった。
アキラ>・・・
サヤカ>自分に従うもの、言うことを聞くものを中心に、それ以外は始末するか、追放していったの・・
アキラ>何だって・・・じゃあ、もしかして、キミも?
サヤカ>ええ。周囲にはもうだれも味方はいない・・・私はもう、一人ぼっち・・・
アキラ>なんだって!!
サヤカ>今宵、あなたに声をかけたのは、鉄蔵に打ち勝つためと、雅と辰の敵を撃つため・・・
アキラ>・・・・!
サヤカ>
サヤカ>ひとりぼっち・・怖い・・・
アキラ>!?
サヤカ>だから、一緒に来てほしい。
アキラ>・・!
サヤカ>・・・おねがい・・
アキラ>わ、わかりましたよお・・店おわるまで待っててください。それからなら、どこへでもいきますから。
サヤカ>・・・・
アキラ>彼女、サヤカは無言で席を立つ。それはYESという返答の代名詞だった。
サヤカN>そのときだった
サヤカ>アキラ!あっぶない!
アキラ>!!
サヤカ>やあっ!やあっ!!
アキラ>・・・・!?
サヤカ>鉄蔵の手の者か?
?>・・・・
サヤカ>そうか。では、頭に伝えるがいい。私は、逃げも隠れもしない、とな・・・
?>・・・遠ざかっていく
サヤカ>行ったか・・・大丈夫だったか
アキラ>ああ。ボクは・・大丈夫だ・・・大丈夫だけど・・・
サヤカ>・・・・?
アキラ>もう・・後戻りは・・できないね・・・
サヤカ>・・・すまん・・・
アキラN>瞬間、再び、生活は一変することを暗示していた。少しくらい失敗しても文句はいわれないし、ひとつ一つの挙動に生活を賭けなくてもよい・・・そんな快適な生活から離れてしまうと言うことでもあった。
★★★
サヤカ>私はアキラを連れて、ダウンタウンの一角の集落に歩みをすすめる。ちょっと薄汚いバラックのうちの一件・・そこが私の家、もといアジトだった。
アキラ>こんなとこにすんでたんすね、サヤカさん。
サヤカ>ああ。ちょっと小汚いところだけど、我慢してくれ。すまない。
アキラ>それは、別にかまいませんよ・・って!!
サヤカ>?どうした?
アキラ>どうした?って・・両肩なんかはだけさせて・・いったいどうしたんですか!?
サヤカ>ちょっと・・・お願いしたいことがあってな
アキラ>な、なんですか、それ・・・
サヤカ>彫ってほしいんだ。これで。私を・・・
アキラ>彫ってほしいって・・・なに考えているんすか!?
サヤカ>もう・・何者にも散ってほしくないんだ・・だから、せめて・・私の背中に散ることのない桔梗の花を描いてほしいんだ・・・
アキラ>・・・・!
サヤカ>この気持ち、わかってほしい・・・今のワタシは咲き乱れることしか、考えていない・・・
アキラ>そ、そんな・・・たぶん、バイ菌入っちゃいますよ!ダメですよ!絶対に!!
サヤカ>大丈夫だ。それなら、策はある。これだ・・・アキラ>これって・・・焼酎!?
サヤカ>そうだ・・時折、これを吹き付けると、消毒になっていいらしい・・・
アキラ>・・・わかりましたよ・・・それじゃあ、はじめますね・・・
サヤカ>ああ、存分に・・たのむぞ・・・
アキラ>・・・・うん!(と、彫る)
サヤカ>う・・ううううっ!!
アキラ>ぶ~っ
サヤカ>うううううう!!
アキラ>もうすこしだよ・・サヤカ・・・
サヤカN>もはや絶叫しか上げることができなかった。だけど、私の左手首はアキラの手を握りしめていた。激痛のなかで、その手のぬくもりが、どことなく、ちから強かった。
アキラ>ふう・・・・おわったよ・・・
サヤカ>ありがとう・・・
アキラN>明け方・・・作業は無事終了した。
朝日が顔をのぞかせる窓のそば・・・
カラになった焼酎のびんが周囲には散乱している。
焼酎のにおいと血のまじりあったにおいが鼻を強烈についた。
当のサヤカは・・・
汗みどろの体で・・ボクの腕のなかに堕ち、静かに眠りについていた。
乱れた髪の毛が、その凄まじさを物語る・・・
そして、あとにのこるは、サヤカの右肩にひかる、桜色の桔梗紋。
朝日の中で、それは凛々しく光り輝いていた。
サヤカ>アキラ・・・ではここで、手はずを説明しておこう
まず、組のほうで行われる記念行事での花会。これの賽振りを決める予選会があるんだ。そこに出場する。そこで、選出されること。これがすべてとなる。
キミはカタギの出だが、前回、補佐として出場しているので、皆の記憶に残っているだろう。今回はそこを利点としてつかわせてもらう。あとは、私の、コレ。刺青。女だてらにこんなことする奴は過去にいなかったから、印象にのこること間違いなしだ。
アキラ>なるほど。さすがだな。すべてがいい方にうごいてくれればいいのだが・・・問題の選考会は1週間後に行われることが決まった。その間、ボクたちは目標に向かって一心不乱に動いた。
サヤカ>そして1週間後。選考会がはじまった。これで、すべてが決まる。選考会にエントリーした賽ふりはわれわれ2人だけだった。
鉄蔵>そや!せっかくの選考会、ワイに粋なアイデアがある!
アキラ>!
サヤカ>!?
鉄蔵>ひとりはおなごで、覚悟の入れ墨をほった者。ひとりはカタギあがりでこの世界に惚れた者。なんともおもしろい顔ぶれや。これも一興というもんや。ここは一風変わった決め方してもバチはあたらへん。そやな・・・そうや、サシできめまひょ。3本連取が勝利条件。決着がつくまでやりましょ!!賽ふり同士の、覚悟、ワイにみせてもらおうか!?
アキラ>その場は異議を唱えるものはいなかった。戦いがいま、始まろうとしていた
サヤカN>勝負第1場賽ふり私サヤカ。
サヤカ>はじめは私の番ね。はいります・・・しょうぶ!
アキラ>は・・はやい・・・
サヤカ>さあ、どうぞ・・・?
アキラ>・・・。
サヤカ>しょせん カタギはカタギ。こんなとここないでおとなしくやっていればよかったのに・・・ね?
アキラ>うるさい・・半だ!!
サヤカ>ふっ・・・バカ・・
アキラ>4ー5の丁・・・し、しまった!!
アキラ>ボクは、全身から汗が吹き出るのがわかった。
アキラN>勝負第2場賽ふりボク
アキラ>では、はいります・・・しょうぶ!
サヤカ>・・・ふっ
アキラ>なにが可笑しい?
サヤカ>相変わらず・・素敵な賽ふりだと思ったから、笑みがこぼれたの
アキラ>なっ・・・
サヤカ>だけど・それは素人相手のはなし!私には通じないわよ!半・・・
アキラ>2ー5の半・・・くううう・・・
サヤカ>勝負第3場賽ふりわたし。
サヤカ>それじゃ、はじめるわよ?それとも、降参する?
アキラ>・・・フン!
サヤカ>後悔してもおそいわよ・・・はいります!・・・
アキラ>・・・・
サヤカ>・・・さあ、どうぞ。
アキラ>まった!
サヤカ>!?
アキラ>まった、だ!
サヤカ>な、なにいって・・・
アキラ>その賽をしらべてくれ!!至急だ!
サヤカ>な、なにやってんの!!ただじゃすまないわよ!!
アキラ>うるさい!とにかく、改めてくれ!!
サヤカ>あっ!
アキラ>・・・! ほらみろ!なんだこの賽は!3が3つも!偶数は2の目一つじゃないか!!
サヤカ>ううう・・・あんた!裏切るのね!?
アキラ>なんのことだ!
サヤカ>ひどい・・・わたしは、あなたを信じてすべてをさらけ出したのに・・あんたはそんな私をみても、まだ裏切るのね・・・
アキラ>親分、鉄蔵さま・・すみません。この女のいうこと、真に受けちゃいけませんぜ
サヤカ>アキラ!
アキラ>生来、女という生き物は化けるもの。いわば、女狐(めぎつね)とよばれる妖(あやかし)なんです。色気を武器に、涙を武器にして、男を手玉に取って生きようとするものなんです。
サヤカ>女狐(めぎつね)だとっ!!かなしみの涙を武器にだと!!ひどい!あんまりだ!!この横着者め(おうちゃくもの)偽善者がっ!
アキラ>それがし、かたぎの者ではございまして、あまり怒りを露にすることはしない性分なのではございますが、
こう・・偽善者といわれたからには・・オトシマエはそれがしに取らせていただきたく存じますが。
サヤカ>うううっ・・・!
アキラ>オトシマエの件、了承いただきまして、至極恐縮。それでは、失礼します。
サヤカ>く、くっそう!!くっそう!!アキラ!!のろってやる!のろってやる!死んでも呪い続けてやる!
アキラ>見苦しいぞ。サヤカ。それに、助けを請うのは人間だけができること。貴様みたいな女狐がやってよいことではないのだぞ。
サヤカ>うううう・・・あんたを信じた、アタイがバカだった!雅!辰!いま、あたしも逝くからね!
アキラ>泣け!わめけ!ほら、親分の目の前につれてきてやったぞ!
サヤカ>ああっ・・・
アキラ>サヤカ!今生のわかれを親分にするんだ!そのあと、その首を親分に献上となるがな・・
サヤカ>!!
アキラ>ひとつだけ、おしえてやろう。貴様の方に掘られた、桜色の桔梗。それが指す花言葉のことだ・・・
サヤカ>なっ・・
アキラ>花言葉は・・・薄い幸せだ・・・
サヤカ>・・・!
アキラ>入れ墨は、真実を語ったな・・覚悟!
サヤカ>くっ・・・・もう・・ダメだ・・・
アキラ>名刀、備前長船よ・・・この女狐を浄土の旅へ・・誘え・・はあっ!
鉄蔵>ぐ・ぐああああああっ!!
アキラ>隙あり! サヤカ!
サヤカ>てぇいっ!
アキラ>大丈夫か?サヤカ!
サヤカ>うん!ばっちり打ち合わせのとおりだもん!言葉、ちょっとチクッときたけどね・・
アキラ>すまない・・皆のものよく聞け!貴様たちの悪行、すべて、この、鉄蔵が仕組んだもの!
サヤカ>こいつは、我が友、雅・ならびに辰を暗殺した張本人!
アキラ>この咎(とが)否めるものはかかってくるがいい!
サヤカ>われらもこの刃に乗じて、加減はせぬ!さあ、こい!!
↓殺陣しながらのセリフ。
アキラ>くうっ・・くうっつ・・ああはいってみたけど、かかってるもんだな・・
サヤカ>そうね・・・でも、こっちも負けない!
アキラ>でも、このまんまじゃラチがあかない!どうする?どうやってきりぬける?
サヤカ>もうすこし、数を減らしてから、出口へむかう!ついてきて!
アキラ>わかった!!そこは、まかせる!相方!
サヤカ>うふ♪アキラってば・・・つづきは抜けてから!
いくわよ!3、
アキラ>ああ!、2
サヤカ>1、突撃!!!
アキラ>そして、ボクたちは、バラックから脱出して、地下道へと逃れた。その地下道の先には・・森があった。
サヤカ>私たちは、森の、開けたところで、一息ついた。
アキラも私も、汗と返り血でびっしょりになっていた。
アキラ>はあ・・・はあ・・はあ・・・サヤカ・・追手は?
サヤカ>こない・・どうやら、引き返したみたいだ・・
アキラ>そうか・・・よかった・・・
サヤカ>アキラ・・怪我は?
アキラ>大丈夫だ・・誰も命をねらってこなかった・・奇跡だ!
サヤカ>もともと鉄蔵の組は、仲たがいしてできたような組。鉄蔵を殺そうという話は前々からできてくらいだから・・・
アキラ>向こうにとっても都合がよかったということか・・・よかった
アキラ>なあ、サヤカ・・
サヤカ>・・・・ん?
アキラ>これから、俺たち、どうしようか?
サヤカ>そうね・・・旅に出ようと思うの
アキラ>旅に・・?
サヤカ>そして、いろんな人に出会うんだ。いろんな人にこの賽子遊戯(さいころゆうぎ)を楽しんでもらうんだ。
それで、いろんな人の笑顔をみていたいな。
アキラ>そっか・・・素敵だ。
サヤカ>もちろん、ついてきてくれるんだよね?
アキラ>えっ・・・
サヤカ>よくも薄い幸せの入れ墨なんか彫ったね!、いつか幸せの印にとっかえてもらうからね!
アキラ>ああ!わかったよ!!その約束、引き受けた!
サヤカ>ふふふん♪引き受けられた。
アキラ>いつしか太陽は水平線の近くに沈もうとしていた。
サヤカ>オレンジの光のなかで、わたしたちは将来をちかう。
アキラ>お互いの吐息を感じ、お互いの体温を確かめられたこのひととき・・・
サヤカ>遠い空に、2人の幸せへの誓いとして、ふたり、唇をそっとあわせる。
アキラ>肌と肌がお互いのぬくもりを感じられたこの日から・・
サヤカ>わたしたちの新しい話はまた、幕をあける・・・
それは、また、今度のお話だ
エピソード2 おわり