第一条EP3 四十九条賭場物語 紺桔梗ノ歌(コンキキョウノウタ)エピソード3
サヤカ>私はアキラを連れて、貧民街の一角の集落に歩みをすすめる。
ちょっと薄汚いバラックのうちの一件・・
そこがわたしのグループの「隠れ家」だった。
アキラ>こんなとこにすんでたんすね、サヤカさん。
サヤカ>ああ。ちょっと小汚いところだけど、我慢してくれ。すまない。
アキラ>それは、別にかまいませんよ・・
サヤカ>ふう・・・・
アキラ>それで、次はどうするんですか?
サヤカ>なんのはなしだ?
アキラ>鉄蔵への復讐ですよ。
どうやって立ち向かうのですか?
サヤカ>アキラ・・・
大丈夫だ それなら 手はずを説明しておこう
組のほうで行われる花会。
そこに、君は賽振りとして参加するんだ。
アキラ>ボ、ボクがですか・・・?
サヤカ>そうだ・・・
前回の賭場でのはたらきは、皆の記憶に残っている。
今回はそこ。知名度を利点としてつかわせてもらう。
アキラ>ちょ・・ちょっと待ってくださいよ・・・
前回のアレで、
ボクは顔が割れちゃってるじゃないですか・・・
サヤカ>確かに、割れてるが・・・
今回はそれを逆用する・・・
アキラ>逆用する・・・?
アキラN>そういうと サヤカはボクに耳打ちする。
ボクたちの長い一日が始まろうとしていた。
アキラN>四十九条賭場物語 エピソード3
アキラN>午後6時。
ボクは第一条の中心部にある高級料亭「飛天」にあった。
お気に入りの赤いさらしをまき、
黒と赤の羽織を纏って、大広間へ入る。
そして主催である鉄蔵に一礼。
それから、ボクは賭場の盆に座った。
鉄蔵>おう、あんちゃん。久しぶりじゃのう
はい、お久しぶりです
鉄造親分にはその節はお世話になりました
鉄造>ところであのアバズレはどうした。
アキラ>はっ。野に咲く一輪の黄色い百合のように
性根だけは強く生きておったようですが、
所詮は 孤独に咲く花。
あっさりと力尽きたようでございます。
鉄蔵>ございます?
一緒だったのではないのか?
アキラ>滅相もございません。
あの夜はたまたま助っ人として頼まれただけで。
用が済んでそれっきり。
私はカタギの小さな身なれば。
あの女とは住む世界が違います。
鉄蔵>そうじゃろう。そうじゃろう。
小さきもの弱き者は、強くて大きい者に従うのが
世の中の理ということじゃな
アキラ>左様にございます。
鉄蔵様のお力添えがございましてはじめて
我々下っ端が生きれるというものでございますゆえ。
鉄蔵>わっはっは!! 左様か!!
良い良い!これまでのことは水に流そう。
その他の事は気に入った。
アキラ>ありがたき幸せ。
鉄蔵>では、アキラくん。はじめてくれや
アキラ>ハイ。かしこまりました。
では、お時間まで今しばらく失礼します。
アキラM>ちっ・・・なにが はじめてくれや だよ・・・
仲間を 売った やつが・・!
イユリ>はじめまして あなたが 今夜の賽ふりのひとね?
わたしは イユリ。
アキラ>はじめまして
イユリ>よろしく。
ん。なんか気が弱そうね・・・
まあいいわ。教えてあげる。
いい?わたしが 右足を上に座りなおしたら 丁
左足を上に座りなおしたら 半。
きちんと出してね。ボスの・・あの人のために、ね・・・
アキラ>これって・・イカサマ ?
イユリ>シッ!!大きな声ださないの!
こんなの聞かれるの非常識なんだからね
鉄様からの 命令。いいわね?
アキラM>鉄様、ねぇ・・・
ったく、どっちのほうが 非常識なんだよ・・・・
イユリ>なんか 言った!?
アキラ>い・・・いえ・・・・
イユリさんのお召し物があまりにも素敵で・・・
イユリ>うんうん
アキラ>その・・・あまりにもエッチで・・・
イユリ>もう!!見とれてないで!!
アキラ>(笑)しかしその時、
イユリの頬がかすかにいろめいたのを
ボクは見逃さなかった。
アキラN>時間だ・・・賭場の盆が開く。
そうして、ボクは賭場をすすめていく。
イユリという女の指示通りに、面白げもなく、
淡々と、ただ、しずしずと・・・
サヤカN>かび臭い 地下の一室で 賭場は続いていた。
賭場は 決して盛り上がることなく 安定して 進んでゆく。
儲かるものもあれば 損するものもある。
だが、ひとりだけ・・・
気づかれないように 勝ちを決めている男がいる。
鉄蔵だった。
鉄蔵>はっはっはっ 負けてしもうたわい。
だけどそんなこともあろうわな なぁ?イユリ
イユリ>そうですわ
桜の花と賽の目は思う通りにはいきませんものね。
あんまり言っては 賽振りさんに 失礼 というものですよ。
アキラN>、言葉尻からは負けているように感じる。
しかし、あくまで これは ブラフだ。
目立たないが、 確実に 勝っている。
それは素人のボクでもわかっていた。
イユリ>さあ、 さあ、 次 参りましょう
アキラN>そして すべてが バレないのは
この女の存在があるからだ。
すべて 計算ずくで 場を牛耳っている・・・
そのときだった。計算外が起こる。
アキラN>ええっなんですって!!
店主さん、これだけ盛り上がってるんです。
そこをなんとか。
ええっ。
明日の仕込みがある?そ、そうですか。
アキラ>その時僕は顔が真っ赤になるのに気づいた。
時間がなさすぎる
あと30分・・・だと・・・
イユリ>アキラさんどうしたん?
家あと半月ほどでここお開きにしてほしいという店主からのお願いです
半刻それはまだ物足りんな
仕方がありませんがそれはお店の都合というものもあるでしょうもしここで問題起こしてた次から使えなくなってしまいます
そうかがやむを得んな
いつも降りそうなわけやよろしく頼む
わ・・・わかりました・・・
僕は背筋に冷たい汗が流れるのがわかった。
30分だと・・・いくらなんでも時間が足りなさすぎる
たちまちボクのさらしは汗でぐっしょりと濡れる。
ヤバい・・・ヤバい・・・ヤバい・・・
僕は我を失いかけていた。
サヤカ>それはこのやり取りを密かに聞いていた
私とて同じであった。
私たちの勝算は、
賭場で起きるトラブルを逆手にとるものだった。
話が進むにつれてレートが上がり、
そうすれば当然、負け越す人間が出る。
負けたほうは その原因がイカサマ芸にあると考えるので、
負けた苛立ちは 不平不満に変わり、
やがてそれはカネを巡る狂気に変わるはずだ。
それが爆発すれば、当然、盆は混乱する。
そこが狙い目だった。
混乱に乗じて私が登場し、鉄蔵を殺害する。
同じく、頭領を殺されたヤクザの混乱に乗じて脱出する。
だがこの計画は今、もろくも瓦解しようとしていた。
サヤカ>少ない残り時間。焦る自分。
その時私の耳に作った青い傷が
自分の気持ちを表すかのようにうずき出した。
その青い傷は特別な傷だった。
途端に私の心に勇気が宿る。
次の瞬間私は潜んでいた場所のふすまを蹴破った。
サヤカ>鉄蔵!!覚悟しろ!!いつかのお返しだ!
鉄蔵>何をする!!
イユリ>ふんっ!
サヤカ>キャアアアアア!!
イユリ>鉄蔵親分、捕まえました。
鉄蔵>うむ。ご苦労。
サヤカ>くっそう・・・・!!
鉄蔵>ん?お前はどこかで見たことがある・・・
おお!あの雅と辰とかというヘッポコとつきあってた
サヤカではないか!!
サヤカ>ケッ!
鉄蔵>そや!せっかくの酔狂の時・・・ワイに粋なアイデアがある!
アキラ>!
サヤカ>!?
鉄蔵>ひとりはおなごで、覚悟の入れ墨をほった者。
ひとりはカタギあがりでこの世界に惚れた者。
なんともおもしろい顔ぶれや。これも一興というもんや。
ここはちょと勝負してもらいまひょ。
そやな・・・「サシの賽振り勝負」できめまひょ。
3本連取が勝利条件。決着がつくまでやりましょ!!
賽ふり同士の、覚悟、ワイにみせてもらおうか!?
アキラ>その場は異議を唱えるものはいなかった。戦いがいま、始まろうとしていた
サヤカN>勝負第1場賽ふり私サヤカ。
サヤカ>はじめは私の番ね。はいります・・・しょうぶ!
アキラ>は・・はやい・・・
サヤカ>さあ、どうぞ・・・?
アキラ>・・・。
サヤカ>しょせん カタギはカタギ。こんなとここないでおとなしくやっていればよかったのに・・・ね?
アキラ>うるさい・・半だ!!
サヤカ>ふっ・・・バカ・・
アキラ>4ー5の丁・・・し、しまった!!
アキラ>ボクは、全身から汗が吹き出るのがわかった。
アキラN>勝負第2場賽ふりボク
アキラ>では、はいります・・・しょうぶ!
サヤカ>・・・ふっ
アキラ>なにが可笑しい?
サヤカ>相変わらず・・素敵な賽ふりだと思ったから、笑みがこぼれたの
アキラ>なっ・・・
サヤカ>だけど・それは素人相手のはなし!私には通じないわよ!半・・・
アキラ>2ー5の半・・・くううう・・・
サヤカ>勝負第3場賽ふりわたし。
サヤカ>それじゃ、はじめるわよ?それとも、降参する?
アキラ>・・・フン!
サヤカ>後悔してもおそいわよ・・・はいります!・・・
アキラ>・・・・
サヤカ>・・・さあ、どうぞ。
アキラ>まった!
サヤカ>!?
アキラ>まった、だ!
サヤカ>な、なにいって・・・
アキラ>その賽をしらべてくれ!!至急だ!
サヤカ>な、なにやってんの!!ただじゃすまないわよ!!
アキラ>うるさい!とにかく、改めてくれ!!
サヤカ>あっ!
アキラ>・・・! ほらみろ!なんだこの賽は!3が3つも!偶数は2の目一つじゃないか!!
サヤカ>ううう・・・あんた!裏切るのね!?
アキラ>なんのことだ!
サヤカ>ひどい・・・わたしは、あなたを信じてすべてをさらけ出したのに・・あんたはそんな私をみても、まだ裏切るのね・・・
アキラ>親分、鉄蔵さま・・すみません。この女のいうこと、真に受けちゃいけませんぜ
サヤカ>アキラ!
アキラ>生来、女という生き物は化けるもの。いわば、女狐(めぎつね)とよばれる妖(あやかし)なんです。色気を武器に、涙を武器にして、男を手玉に取って生きようとするものなんです。
サヤカ>女狐(めぎつね)だとっ!!かなしみの涙を武器にだと!!ひどい!あんまりだ!!この横着者め(おうちゃくもの)偽善者がっ!
アキラ>それがし、かたぎの者ではございまして、あまり怒りを露にすることはしない性分なのではございますが、
こう・・偽善者といわれたからには・・オトシマエはそれがしに取らせていただきたく存じますが。
サヤカ>うううっ・・・!
アキラ>オトシマエの件、了承いただきまして、至極恐縮。それでは、失礼します。
サヤカ>く、くっそう!!くっそう!!アキラ!!のろってやる!のろってやる!死んでも呪い続けてやる!
アキラ>見苦しいぞ。サヤカ。それに、助けを請うのは人間だけができること。貴様みたいな女狐がやってよいことではないのだぞ。
サヤカ>うううう・・・あんたを信じた、アタイがバカだった!雅!辰!いま、あたしも逝くからね!
アキラ>泣け!わめけ!ほら、親分の目の前につれてきてやったぞ!
サヤカ>ああっ・・・
アキラ>サヤカ!今生のわかれを親分にするんだ!そのあと、その首を親分に献上となるがな・・
サヤカ>!!
アキラ>ひとつだけ、おしえてやろう。
貴様の方に掘られた、桜色の桔梗。それが指す花言葉のことだ・・・
サヤカ>なっ・・
アキラ>花言葉は・・・薄い幸せだ・・・
サヤカ>・・・!
アキラ>入れ墨は、真実を語ったな・・覚悟!
サヤカ>くっ・・・・もう・・ダメだ・・・
アキラ>名刀、備前長船よ・・・この女狐を浄土の旅へ・・誘え・・はあっ!
鉄蔵>ぐ・ぐああああああっ!!
アキラ>隙あり! サヤカ!
サヤカ>てぇいっ!
アキラ>大丈夫か?サヤカ!
サヤカ>うん!ばっちり打ち合わせのとおりだもん!
言葉、ちょっとチクッときたけどね・・
アキラ>すまない・・
皆のものよく聞け!
貴様たちの悪行、すべて、この、鉄蔵が仕組んだもの!
サヤカ>こいつは、我が友、雅・ならびに辰を暗殺した張本人!
アキラ>この咎(とが)否めるものはかかってくるがいい!
サヤカ>われらもこの刃に乗じて、加減はせぬ!さあ、こい!!
イユリ>なぜ・・なぜ・・わたしたちを裏切った!
アキラ>裏切った!・人聞きの悪い・・・君たちのほうがむごいことをしただろうが!
イユリ>そうね・・・違いない・・・でも、こっちも負けない!
アキラ>ちっ・・・このまんまじゃラチがあかない!どうする?
サヤカ>どいて!アキラ!!
アキラ>わかった!!
サヤカ>雅と辰の敵!食らえ!
イユリ>ぐ・・・・さすがだな・・・
だが、この場は立ち去らせてもらう・・・ふん!
アキラ>終わった・・・のか?
サヤカ>・・・ああ。
アキラ>イユリは?
サヤカ>・・・逃げられた。
アキラ>そ、そうか・・・
・・・早くここを出よう。長居は禁物だ・・・
サヤカ>そうね・・・行きましょう。
アキラ>鉄蔵を討ったボクたちは、地下道へと逃れた。
その一角で・・・ボクたちは一息つくことにした。
サヤカ>はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・・
アキラも私も、汗と返り血でびっしょりになっていた。
アキラ>はあ・・・はあ・・はあ・・・サヤカ・・追手は?
サヤカ>こない・・どうやら、引き返したみたいだ・・
アキラ>そうか・・・よかった・・・
サヤカ>アキラ・・怪我は?
アキラ>大丈夫だ・・なんとかな・・・・
サヤカ>良かった・・・
もともと鉄蔵はドス職人として有名だったけど・・・
組の中では評判がいいほうではなかったから・・・
アキラ>追っ手も派遣しなかった・・・か。
向こうにとっても都合がよかったということか。
・・・よかった
アキラ>なあ、サヤカ・・
サヤカ>・・・・ん?
アキラ>これから、俺たち、どうしようか?
サヤカ>・・・まだ、終わってはいない
アキラ>え・・?
サヤカ>イユリよ・・・彼女はまだ諦めてはいない。
アキラ>そ、そうなのか・・・
サヤカ>・・・早く戦いが終わってほしい・・・
アキラ>え・・?
サヤカ>・・・そしてなんのしがらみもなく、
純粋に 賽振りを楽しみたい。キミのように
アキラ>え・・?
サヤカ>そして、いろんな人に出会うんだ。いろんな人にこの賽子遊戯(さいころゆうぎ)を楽しんでもらうんだ。
それで、いろんな人の笑顔をみていたいな。
アキラ>そっか・・・素敵だ。
サヤカ>もちろん、ついてきてくれるんだよね?
アキラ>えっ・・・
サヤカ>よくも薄い幸せの入れ墨なんか彫ったね!、いつか幸せの印にとっかえてもらうからね!
アキラ>ああ!わかったよ!!その約束、引き受けた!
サヤカ>ふふふん♪引き受けられた。
アキラ>いつしか太陽は水平線の近くに沈もうとしていた。
サヤカ>オレンジの光のなかで、わたしたちは将来をちかう。
アキラ>遠い空に、2人の幸せへの誓いを見たとき・・・
サヤカ>わたしたちの新しい話はまた、幕をあける・・・
エピソード3 おわり