最近の人事関連のカンファレンスやイベント登壇では、「アフターコロナ」や「ウィズコロナ」におけるチームビルディングや人材マネジメントについての話題がとても多いです。

 

日本の大企業でも、グローバルカンパニーでも、スタートアップの経営者でもよく話題にあがるキーワードが「熱量・一体感」。リモートでもリアルでも、すごいチームは熱量も高いし一体感もあります。しかしこれらの言葉は抽象的でとらえ所がない部分もあり、リーダーが試行錯誤している話もよく聞きます。

 

たとえば「熱量」というキーワード。組織の一人一人が「夢中になっているか」「熱狂しているか」「没頭しているか」などが熱量が高いと言えますが、これがチームで伝播できているとすごいチームになっていきます。こういう点を踏まえて、今後は「熱量を運用する」という考え方が組織開発において重要になると考えています。

 

努力と工夫で、熱量は伝播します。オンライン上での仕事だとしても、会話の言葉の力強さで熱量を感じることもありますし、仕事の細部へのこだわりで熱量を感じることもあります。熱量が伝播すれば自分への鼓舞にもなりますし、協力しようという姿勢も生まれて成果へのこだわりや粘りも生まれるます。今後はオンラインとリアルのバランスを各社でとっていくことになりますが、この熱量の差が業績に直結していくと考えています。

 

リアルだと伝わっていたのに・・・という思いもリアルに慣れていた人にはあると思います。だからと言って何もしないとなると、熱量は下がっていくのは間違いありません。状況が変わった以上、自分たちも変化対応してより良いものを試すチャンスです。

 

リモートワークが増えている状況の中で、組織の熱量を上げる方法として価値があがっているものを整理してみました。

 

 

 

■リモート時代のすごいチームのポイント

 

1)組織目標

2)信頼残高

3)言葉の開発

4)期待と抜擢

5)自走環境

 

 

1)組織目標

 

「集団目標は高い業績を生む」という考え方が心理学的経営という本で紹介されていますが、個人目標以上に重要度が高まっているのが組織目標です。オンラインになると自分の業務に集中できるメリットがある一方で、他者の状況は見えにくくなります。意図して観察をしないと基本的には個人ごとに業務が縦割りとなり、連携も協力もしにくくなります。それを乗り越えることができるのが組織目標です。

 

複数人の共通目標である組織目標を持って、個人の目標をその組織目標にひもづける。まずは個人目標の達成自体が組織への貢献となりますが、組織目標を理解していれば、個人だけでなくチームの目標達成についても視点が向くことになります。自分の目標は達成できたとしても、組織目標への達成を意識すればオンラインでは見えてこなった自分以外の課題にも気づくことができ、自然と他の仲間に対する協力や配慮が生まれます。

 

組織や集団の人数規模は、まずは最小のチーム単位から考えることがおすすめです。たとえば3人チームとか6人チームなど、最小の単位で共通の目標を議論する。いろいろやることはあると思いますが、その中からあえて一番を決める「マストワン」という考え方を使うのもおすすめです。サイバーエージェントでは組織の目標をみんなで議論して冊子やポスターにまとめる「プロレポ」という取り組みをやっていますが、毎半期ごとに組織目標を議論できるのでとても有益です。

2)信頼残高

 

信頼関係の量と質がどうなっているかを意識するということです。今日の信頼関係は、これまでの関係性が積み重ねたもの。信頼関係というのは基本的に放っておくと劣化していきます。人は信頼されるとその信頼に応えようとするオキシトシンというホルモンの効用があるとのことですが、信頼の構築にはその手段にあった方法を考えることが大切です。リアルだからこそできていたこともあると思いますし、オンラインだからこそできるようになったこともあると思います。

 

信頼をつくるために最も効果的なことは何かというと、実は成果です。「勝てば官軍」「成果は全てを潤す」などの言葉のように、成果を出せるというのは重要な信頼構築の柱となります。成果という表現以外だと、成長などと考えることもできます。この組織にいると成果が出せるし、成長もできる。この上司や仲間とやると、大きな挑戦が実現できる。こういった過去から積み上げられた信頼があると、未来への期待感も高まり信頼が強くなります。

 

とはいえ最初から成果が出せない組織もあると思います。上司が変わったばかりの部署や、できたばかりのスタートアップなどでは成果で引っ張ることは難しいので別の工夫が必要です。サイバーエージェント社内の勉強会では信頼のKKSというモデルを紹介しています。KKSとは、興味・共感・率直さ。興味をもって相手のことを理解し、褒めなどを通じて共感を増やし、お互いの成長のために率直に対話する。信頼という言葉はとらえどころがありませんが、興味・共感・率直さを大切にすることで信頼をすこしづつ高めることがおすすめです。

 

3)言葉の開発

 

言葉や文字の価値が上がっています。リアル中心の働き方からオンライン中心の会議での大きな変化として、対話における情報が減るという点があげられます。オンラインの場合、画面の範囲に収まる情報だけになるので、リアルで得られる情報と比べると情報量は少なくなります。またオンラインの会議が増えることにより、リアルで起きていたオフィス内での偶然の出会いも難しくなりますし「ちょっといいですか?」といった相談などの声がけがしにくいと思う人もいます。


チャットでのやりとりや、画面だけでのコミュニケーションが多くなって他の情報が減る分、伝達メディアである言葉や文字の影響力が上がります。「会議の時間は短くなった+自分の意図を正確に伝えるコミュニケーション力が大事」という調査データもありますが、成果を出しているリーダーは効果的な伝達方法がどのようなものか、いろんな実験をしたりして試行錯誤を繰り返しています。

 

ポイントとしては「少ない文字で人を動かす」ということ。長い話、長いメール、長いメッセは誰もが嫌だと思います。逆に選び抜かれた言葉は人の心にインパクトを与え、記憶に残ります。記憶に残ればそれが行動につながり、新たな成果につながります。人に動いて欲しいと思った時に、どう伝えればスムーズに動いてくれるのかをよく考えて伝えること。伝わる言葉を開発する工夫の差が、業績の差になります。

 

4)期待と抜擢

 

期待をかけることや意図して抜擢することで人の成長は加速しますが、これをやる会社と減る会社で二極化すると考えています。オンラインの時間が増えて物理的に仲間の動きが見えくなると、良い才能を見逃すことが増えます。新しい仕事を依頼する時でも、安心感のある人や声をかけやすい人だけに行きがちです。そうなると業務の偏りが生まれるだけでなく、伸びるだろう人にチャンスが回らなくなります。

 

抜擢というとハードルが高いかもしれませんが、「抜擢とは期待すること」に他なりません。その人の才能を見つけだして、もっと伸びることを期待して任せる。人は期待する人に、期待するものです。期待をかけてくれる人にはその期待に応えようと動きますし、その期待を上回ったらもっとチャンスをくれるのではと期待する。期待をしあう組織というのは非常に前向きな雰囲気ができますし、協力姿勢も生まれます。

 

期待と抜擢で重要なことは、強みを活かすこと。仲間の強みが何なのかをよく観察し、本人もフィードバックした上で議論し、どのように活用すると本人の成長が加速するのかを期待を込めて伝える。マンツーマンの面談で期待をこめて伝える効果は絶大なので、全てのリーダーに期待したいことです。またグロースファインダーというワークショップのようにチームの仲間どうしで期待をつたることで、期待の連鎖が生むこともできます。まずは自分から他の人に期待を伝える。これだけでも前向きな雰囲気につながります。

 

5)自走環境

 

自走できる環境を用意することがリーダーの大事な役割。相手をサポートするのが先であるというサーバントリーダーシップという考え方につながるものです。オンライン業務においては、マイクロマネジメントの相性がよくありません。自分の時間の自由度が上がるオンラインにおいては、マイクロで管理されることというのは自由度が奪われる感覚が高まりやすい傾向にあります。

 

もちろん業務の進捗が心配だったり、成果を早く出したいという気持ちをリーダーが持つことも理解できます。その気持ちを大事にしつつ、メンバーの自由度や裁量を増やす。これを両方セットで考えることが、オンラインを活用しながら成果を出すために重要になります。先日オンラインで業績を上げているチームの責任者に聞いた話では、朝会と夕会をやるようにしたらチームの状態がよくなったという話がありました。元々は朝会だけだったとのことでぱっと聞くとマイクロマネジメントのように見えますが、朝会と夕会ではみんなで協力できることを話して、それ以外の時間は各自に任せるとメリハリをつけたら集中度合いが高まったとのことでした。

 

自走環境をつくるために大切なことは「言わせてやらせる」という考え方です。本人に意見を求め、考えを聞き、良いものであればどんどん任せる。この流れで小さくても成功体験を持てると、どんどん発言してくれるようになります。会議の時間が短くなっている場合「まずは聞く」ということが減る可能性があります。アジェンダを事前に決めて各自の意見を持ち寄ってもらうなどの工夫で、本人の意見を出してもらうように場をつくることもできます。聞いて、言わせて、やってもらう。この繰り返しで、より自走が進むような環境をつくれば業績も高まります。

 

上記の5つを、リモートにおいても成果を出すチームのポイントとして整理してみました。今後もいろいろ試す中で、ブラッシュアップしていこうと思います。

 

最近、サイバーエージェントの人事では「リモ熱(りもねつ)」という言葉を使っています。リモートにおいても熱量高いチームをつくるにはどうすればいいか。リアルだろうとオンラインだろうと熱量が高いチームというのはどういうものか。様々な試行錯誤をくりかえし、知見を増やしていこうと様々なプロジェクトを立ち上げています。これを推進するために次世代ワーク推進室という部署も新設しました。社員のみんなの力を借りて、熱量の運用力を大いに上げていこうと思います。