水の中。 -8ページ目

水の中。

海外小説のレビューと、創作を。

水中で凍りつく万次と凛。
尸良の策略にはまり、絶体絶命の二人の前に現れたのは、二組の意外な人物だった――

無限の住人 25 (アフタヌーンKC)/沙村 広明
¥550
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いやー、とうとう決着がつきました尸良VS万次。
大方の予想どおりの結果ですが(主人公がここでいなくなるわけにいかんじゃろ……)、意外にもひさびさにかっくいー万次さんを見ることができてときめきましたよポッ。←はじらいつつ



しかしなんだ、死に際の法則とでも言うのでしょうか、どれほどイヤな上司でも去り際には良い人になってしまうのにも似て、えー、なんか死ぬまぎわにマトモなこと言っちゃってるよ尸良のくせにー。


あんなこともこんなこともしたくせに!!


今さら何を言ったって、錬造のような小便くさいガキじゃあるまいし、あたくし騙されなくってよ!! と毛を逆立てて警戒する読者のわたくしだったのですが、当のれんぞーはすっかり感化されて「あいつ(尸良)とコイツ(万次)のどこが違うって言うんだよ!!」とか叫んでます。



あーめんどくさ。れんぞーめんどくさ。



心優しい登場人物たちはマトモに対応してあげていますが、あんな屁理屈いちいち相手せずに「おだまり!」でいいと思いますですハイ。


というわけで、ひとつずつ過去のしがらみを片付けつつ、物語は収束しそうでありますが、残るはアレですね、


逸刀流VS吐鉤群。



(ところで今の逸刀流って、天津影久と阿葉山のほかに誰が残っていましたっけ……? アレ?)


合併相手の松越デパートの改革に乗り出す絹恵。
きめ細かいサービスと伝統を重んじる老舗の「松越イズム」を目の当たりにして、あっけにとられるのだが……

Real Clothes 8 (クイーンズコミックス)/槙村 さとる
¥440
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えーと物語は百貨店の吸収合併のお話になっているようなのですが、
そのへん、この業界を知らない私ですらリアリティなさすぎなエピソードにビックリさせられ
(あの規模の企業で、一介のバイヤーがしゃしゃり出てくるよーなしょぼいコンペで経営方針を決めるとかありえん……)、
吸収合併先の稲村さんが絡んでくるエピソードには無数のハテナマーク???を飛ばし
(言いたいことは言っていいんだよってあのー、心を開かない生徒のいるホームルームとかじゃないしーここどこなの本当に会社なの……???)、
しかしまあこのへんは漫画的デフォルメとしてアリでしょう! ということで置くとして。
物語の主人公である絹ちゃんについて、ちょっと気になることが。



この頑張り屋さんな主人公を、なんでまた私という読み手はしつこく好きになれないのかと考えてみたのですが、この巻でようやく分かったような気がします。



ああー、そうか。この「小さな女の子」気質だわ!!



伝説のスーパー上司・美姫サマに頑張り屋さんなところ見出されたスタートといい、
偶然出会って助けてくれる大物たちといい、
なんじゃその可愛がられを期待する(?)体質は!! 
けなげに頑張ってる不器用で地味な女子なら助けてもらえると思うんかいー!



……とか思うらしいのです、自分。
いえ、決して頑張ってないわけではないのですよ、この絹ちゃんは。
むしろプライベートな時間すらすらたいして持たず、いつもいつもいつも仕事ばっかりしてるような人なのですよ、この主人公。
しかし口でどう言ったところで頑張って倒れりゃいいと思ってるオマエは根っこのところで覚悟が足らんのじゃー!!
と私はイラッとしてしまうのですよね……。
まあ、残念ながら、絹ちゃんがこの先どう成長しようとも、美姫サマみたいになる日は来ないだろなーという気はします。

(会社を去る美姫サマに何やってるのと思われないようにします、なんて言ってるからダメなんじゃないかなー。上位者にほめられるためでなく、自分のためにやらなきゃだめだ、自分のために。)




うーんん。
リアルでは全然ない、このリアル・クローズですが、
このように読み手を刺激していろいろと考えさせるあたり、さすがベテランの作者さんだなーと思いますね。



花を見殺しにしたこと、そしてレイプ未遂を告発された安吾。
「出て行くぞ」と背を向けて離脱を促すが、仲間たちの反応は意外なものだった――

7SEEDS(セブンシーズ) 16 (フラワーコミックスアルファ)/田村 由美
¥420
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おお! とうとう放逐されてしまった安吾(そしてやはり安吾についていく涼……)でございますよ。
そこまでは読者の予想の範囲内であると思いますが、なんとなんと、この離脱した二人とバッタリ出会ってしまうのが、元いじめられっ子であるナツひきいる(率いてない)問題児グループ夏Bチーム!



いやー、面白いですね。
このふたつくらい対照的な集団もいないわけで、未来へ行くためのエリート中のエリートとして生き残った安吾が
「何かの罠じゃないのか?!」
と勘ぐってしまうのも無理はないのです。



実際には何のウラもなく、彼らはただ自分たちで楽しむための演芸大会(蝉丸がナツにコンビ漫才を強要する不思議……)の練習をしているだけだったりするのですが……。



アレですよね、安吾が彼らを理解できないのは、生き残る技術、そして生きのびる非情さだけをひたすらに磨かされ、肝心の「何のために生きるのか」という部分を教官たちに奪われ続けてきたからなのですよね。



評価されなくても、誰も見ていなくても、競う相手がいなくなっても自分を生かしつづけていかなくてはならない、人生というもの。



秋チームの秋ヲさんが「パンピーなら誰でもやってんだよ」と指摘するように「外の世界を知らない偏狭なエリート」である安吾が、初めて直面する困難であるわけです。



しかしこれは面白い出会いだなあ。
ここまでは、ただただ後味の悪い(殺人とかレイプとか逆恨みとかー)安吾のエピソードでしたが、救いようのないところまで堕ちたかに見えた彼にも、ちょっと未来の出口のようなものが見えてきたような気がします。楽しみ。





そういえば、犬の顔を見に久々に実家へと顔を出したところ、
母が図書館で借りてきたとゆー本が置いてあったのですが……


「ふーんん……」


ペラペラと最初のほうだけページをめくり、
「それで、このひと(主人公)は親友の不倫相手と関係しちゃうわけ? このプリザーブド・フラワーには盗聴器とか仕掛けてあったりするの?」
と、その後の展開について尋ねたところ、「ええー、こまかいところは忘れちゃったわよー」という返事が。



まだ読んでいない、ではなく、忘れちゃったとはナニ?



「え? だって読んだんでしょ?」
「ちがうのよー、このまえ借りたばっかりなのに、間違ってまた借りてきちゃったのよ」
「あ、そうなんだ……」
頷いてみたものの、よくよく考えてみると、借りたばかりの本の内容がこたえられない(だいたい、こまかいとこではなかろう……)とは如何に。



ここで感想などを書き始める前には、同じ本を何度も購入していた自分としては、ひとを責められた立場ではありませんが。


そんなに忘れてるならさー、いっそもう一回読んでもいいんじゃねえのと思いました。



ちなみにその本とは、↓この作品。
(それで親友の彼氏とはどーなったのだろう……)


エリカ/小池 真理子
¥1,575
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無理心中をした父、毎日のように「死にたい」という母、定時制高校に通いながら働く職場は理不尽な叱責ばかり、
自由に飛べるのはハンドボールをしている、この時間だけ――

明日のない空 (ビッグコミックス)/塀内 夏子
¥540
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と書いてしまうとあまりに悲惨な、
しかし実際のところ悲惨な身の上にある17歳の主人公なのですが、
これが不思議と暗いばかりの物語でもない、なんだかんだ言いつつたくましく生きる少年たちのラブあり友情ありの青春物語なのですよね。


ハンドボールという素材は置くとして(もう置くのか!)、
いやーこのお話はすごくいいです。面白い。


作者さんにピッタリと合っているフィールドなのでしょうか、まったくいつもと同じ調子の塀内漫画なのですが、前作のフィギュアスケート少女マンガのようなヘンなツッコミどころもなく……。
これは「少女まんが」「少年まんが」というジャンルの問題ではなく、おそらく「大人の世界を描くか」「少年たちの世界を描くのか」という違いなのでしょうね。
中学高校くらいの時というのは、「世界」というのは「友達」「学校」「親」くらいの、本当に自分の半径数メートルくらいの身の回りのことだったりするので。



そうか、ほめておきながらイヤな言い方になってしまいますが、逆に言えば大人の視点での物語というものが描けない(描いても傍目には現実感のない、「ハア?」みたいなことになってしまう)ということなのかも。
しかしこういうことって、作者さん本人はなかなか自覚できるものではないのですよね。
知人が「あなたは子供しか描けない」とか言ってくれるわけもないしなあ……。



え、ええと。なんだか結論がよくないところへ迷い込みそうですが、とにかく久々に面白い塀内作品です。
やっぱり塀内せんせーはこういうのがいいなあ……。




サボっていたぶんの感想を少しずつ更新――


とか殊勝なことをぬかしていた私ですが、なんというかめんどくさ……いえ記憶が薄れてしまいつつあるので、
簡単に一言感想でまとめてみました!



「スパイダー・スター」マイク・ブラザートン(中原尚哉訳)


スパイダー・スター〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)/マイク ブラザートン

¥819
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スパイダー・スター〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)/マイク ブラザートン
¥819
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なんといいますか、子供向けSF小説ぽい作品。
「現役の天文学者が描く迫真の宇宙SF!」だそうですが、そーゆーカンジは微塵もなかったなあ……。肝心の未知との遭遇も「交渉術でクリア☆」てだけの話だし、結局なにを書きたかったんだ、「恒星間飛行ってもータイヘン!」て話なのか?
そしてキャラクターの行動選択にいまひとつ共感できないのですよね……。
そもそもフランクが家族を捨ててまでこの遠征に参加する意味が分からんので、最後のハッピー・エンドも「勝手に出ていっといてなに泣いてやがるんだか」としか思えなかったり……。



「AXIS」R.C.ウィルスン(茂木健訳)

無限記憶 (創元SF文庫)/ロバート・チャールズ・ウィルスン
¥1,302
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じゃなかった「無限記憶」でしたっけ(でも表紙まんなかに原題がババーン!とくるなら邦題つける意味ないんじゃ……)。
三部作の二作目である本作、前作の「時間封鎖(SPIN)」は単体でも楽しめる名作でしたが、この二作目は……うーん、三作目への布石のような物語ですねえ。
とらえどころのない展開(まだ明かせない謎があるからかなー)でありながら、いつのまにか先へ先へと読ませてしまうあたり、作者さんの物語作家としての力量はたいしたものだと思います。
思いますがしかし! 正直わたしのボンヤリした脳みそは「えーとアレ、『仮定体』って結局なんだったんだっけ……?」と前作の結末を思い出せずに苦しみましたので、もーちょっと「前作のおさらい」ぽい部分を希望。
いや、そんなの無いほうが絶対カッコイイんですけどね……。



「蛹令嬢の肖像」ヘザー・テレル(宮内もと子訳)

蛹令嬢の肖像 (集英社文庫)/ヘザー テレル
¥750
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このタイトルに薄暗いフンイキのこの表紙、申し訳ないのですが最初に見かけたときは「エロ小説……?」と思いました(なんかロマンポルノ的な)。
かかっていた帯の「ダ・ヴィンチ・コードの衝撃!」うんぬんの文句が無ければ、そのまま素通りしていたかもしれません。
しかし内容としては、考えぬかれた展開にあふれる職業的うんちくにもかかわらず、えーとですねヒロインであるマーラの内面が幼すぎて読むべきところが見当たらず……。
なんだかなー、彼女はすんごいやり手のエリート弁護士さんなのですが、なのになんでこんなにコドモなんだ。大物政治家である父親の強大な父権の前に萎縮しちゃってこうなりました、という理屈は分からなくもないのですが、それにしても自分の頭でモノを考えなさ過ぎる……。そして倫理観も無さ過ぎる……。
これ、マーラが成長して父の支配から脱したのではなくて、ただ単に「いきおいにまかせて行動してたら道を外れてしまい、父親の期待に沿えなくなりました」というだけでは。


「静かなる天使の叫び」R.J.エロリー(佐々田雅子訳)

静かなる天使の叫び〈上〉 (集英社文庫)/R.J. エロリー
¥740
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静かなる天使の叫び〈下〉 (集英社文庫)/R.J. エロリー
¥740
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タイトルは寝言みたい(だってさー)ですが、中身はとても素晴らしい物語。
連続殺人を扱ったサスペンスですが、そちらの事件よりも主人公の「孤独な青年の半生記」としての部分のほうが読ませます。そういう意味では同じレーベルである上の作品とは非常に対照的ですね。

……とりあえず今回の「いろいろ」はこのへんで。

ではまた!





進化からとりのこされた孤島・ヘンダース島を訪れた、海洋ドキュメンタリー番組「シーライフ」のTVクルー達が見たものとは――




フラグメント超進化生物の島 (ハヤカワ・ノヴェルズ)/ウォーレン・フェイ
¥1,890
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こここ、こわいこわいこわい! ヘンダース島に足を踏み入れたが最後、数秒でヤラれてしまう! という、ロストワールド的でよくありそうな、しかし類を見ないスーパー進化(虫なんだか甲殻類なんだかなーな)をとげたモンスターたちが襲いかかってくるという、SFパニック巨編。



後半の意外なまでのほのぼの展開は好き嫌いの分かれるところかと思いますが、うわー、面白かったです!! 
なんといっても、限られた世界で生物たちがひしめくように生きる、ヘンダース島の生態系がすんげえ怖いのです。


生きるのも死ぬのも喰われるのも、目にもとまらぬ秒単位です。


ゆとり世代(じゃないけど)には眩暈のするよーな過当競争です。


こーわーいー。



しかしなんですね、見事なまでに読後には何も残らない物語でございまして……あれっ、登場人物の名前すら出てこないわ。
あー、そうそう! 怒涛の展開にすっかり忘れ去っていましたが、冒頭あたりでわけありそーに出てきたヒロインの亡くなった母にかかわるトラウマ? だとか、「決まったパートナーなんていらないわ主張」とかはいったいどこへ?
中盤以降にようやく現場にくるあの博士(すみませんもう名前が出てこない……)の恋愛オンチ? についてはどうなったのじゃろう……あっさり恋愛が実っているようですが。



よくよく考えてみると、登場人物の抱える内面の問題については、フリだけしておきながら何ひとつ回収していないのですよね。
てゆーか何でそんなものを匂わせたりしたのだろう……どうせ書かないのなら、最初から書かなきゃいいのに。ヘンなの。



というわけで、今となっては記憶に残るのは「ヘンダーのつくるイケてるチリ(食べてみたいけど材料がな~)」「生物の寿命は自分の子と交配できないよーにセットされてる仮説(これすごい面白いですよね!)」くらいのもので。


なんにも残らん、だけど読んでいる間はすっごく楽しませてもらったよ! という物語でした。


いやー、なんだかんだ文句を言っていますが、今期ナンバー1に推したいくらいの、ワクワクするエンタテイメント。
思うのですが、わたしのこのあたりの冒険物語好き感性は小学校3年生くらいから成長してないのでは、とゆー気がします。人によってはこういう作品て……アホらしくて読んでいられないのかもしれないですね……。





何の予告もしておりませんでしたが、ただいま小樽に来ております。

あのー、このへんは昔来たことがあるので、どーしても歩きまわりたいわけではないのですが、それにしても暴風雨なんですけど!!

というわけで、あまり語りどころのない北海道の旅ですが(旭山動物園て素朴ですね……)、帰りましたらまた報告させていただきます~。


(本当はVaio type Pを持ってきているのですがホテルがワイヤレス環境でなかったので繋げられず……やはりモバイルは事前の準備が大事ですね)


同居の事実が会社の同僚に知られてしまい、あっというまに窮地に陥る蛍と高野部長。
ところが、まったく動じない高野部長はといえば「独立する」「結婚しよう」などと言い出して……?


ホタルノヒカリ 14―IT’S ONLY LITTLE LIGHT IN MY LIFE (講談社コミックスキス)/ひうら さとる
¥440
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あー……
どういうことでしょう。


なんと言いますかこう、きちんと読んでいるつもりなのですが、お話としての理屈はぜんぜんおかしくないのですが、ハートにすんなり響いてこないと言うのでしょうか。うーむ。
いやー、「蛍ちゃん自立します宣言!」という、すんごいマトモな結論なのですが。うーむ。
マトモで優等生な結論が、今になって出ているようなのですが、しかし。



待て待て待て。そんないきなり修行僧みたいにならんでもいーんでないのか。
蛍ちゃんアンタそんな子だったっけか……?



ちょっと置いていかれた感のある読者のわたくしですが、
いえ、思えば何度も何度も執拗に「蛍ちゃんいつまで甘えてるねん!」などと文句を言い続けていた自分ですが、いざ蛍ちゃんとゆー干物主人公にキッパリハッキリ自立されてみると「そりゃーちがうんでないの」と言いたくなってしまうこの不思議。


何故だ。


どうも私はですね、そんな「イイ女的成長を見せる蛍ちゃん」ではないものを求めていたのではないかと……!!
まあ、そこらへんは私の勝手な「自分が思いもつかないよーなミラクル回答を出してくれ!」という物語への願望であるので、それはとりあえず脇へ置くとして。
今回の蛍ちゃんと高野部長の関係の変化を見て、思うところがあったのですよね。



ああ、やはりこの二人の関係がホッとするような優しいものであったのは、ぶっちゃけ恋愛でもなきゃ何の約束もなく利害も発生しない、人生のすきまに落っこちたようなウッカリな偶然から生まれた「ただの同居人」であったから、なのですよね。
しかし、そのようにして「大事かも……」と思ってしまった相手と、いざ恋愛関係となってみたら、どうなのか。

言ってみればアレですよ、ちょっとナナメ方向に遠いカンジのたとえで申し訳ないのですが、案外あてはまるのではないかと思うのが「不倫」なのです。



妻との暮らしが家族としての関係になり、刺激がなくてヨソで若い女の子と恋愛して燃え上がっちゃったりして、しかしいざ妻と離婚して不倫相手と結婚してみれば、そこにあるのはやはりただの家庭でしかない現実、みたいな。
……つまり他のシチュエーションに逃げてみたところで、問題つーのは実は自分の中にあるわけですよ、という。



蛍ちゃんと高野部長の、のんびりまったりな縁側生活が終わってしまったのは寂しいかぎりですが、だけど好きになってしまったのだからそれも受け入れて変わっていくよ、という蛍ちゃんの決意はいいなーと思いました。
おや? そう考えてしまうとなんだかすんなりイイ話のような気が……ああでも、作中でスッキリこのあたりを納得できないのは、どうもヘンに「自立」というキーワードにこだわりすぎているためなのか「それって男に守られる生活だよね」みたいな発言があるからかもしれません。



あのー、自立する、というのはそう単純な話ではないんすよ。
自立してりゃいいというものでさえないんですよ。
頼って頼られて生きなくてはいけないのだし、守られているように見えるほうが、実は相手を守っているのかもしれないのだし。



というわけで、蛍ちゃんにはあんまり型どおりなイイ女になってほしくないわけなのですが、さあ最後はどうなるのでしょう……。




「木でできた海で、どうやってボートを漕ぐ?」
退屈なほど平和な町、クレインズ・ヴュー。警察署長のフラニーがある日埋葬してやったはずの見知らぬ犬。
いつのまにか犬の死体は舞い戻り、喧嘩ばかりしていた夫婦が忽然と姿を消し、フラニー自身は見知らぬ未来へと放り込まれる。
「一週間で何事かを成せ」と詰め寄る者たちは、神なのかエイリアンなのか。

木でできた海 (創元推理文庫)/ジョナサン・キャロル
¥1,155
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おお、久しぶりにジョナサン・キャロルらしいメチャメチャな(ほめことば)お話が!!



いやー上記のあらすじを読んでも何が何だか分からないことと思われますが、これ以上説明しても分かりやすくなりようがないので、まあこれくらいでよろしいかと。
いえ、誤解されては困るのですが、本作は決して難解な文学などではなく、えーあー、なんといったらいいのか、「ストーリーを気にしてはいけない物語」なのですね。あくまでもキャロルの人生についての語りを! 語りを! 聞くための物語であって、間違っても「あそこが辻褄あわない」「あの伏線回収できてない」などと、賢しげにつべこべ文句を言ったりしてはいけないのです。



(ビックリしたことに巻末の解説のひとまでが「気にするな!」みたいなことを書いていて笑えた……)




しかしですね、この作者さんもデビュー作品(「死者の書」)とその後の三部作くらいまではきっちり筋の通った物語を書こうという姿勢が見受けられたのですが、その後の迷走ぶりは凄まじい。
コツコツまともに大人のドラマを語ってきたかと思うと、いきなりチクワに変身してチャネリングで高次の存在と交信しはじめる(というわけではないけど雰囲気で察していただけると……)ようなマネをするので、読み手としてはいつもいつも終盤はボーゼンとするしかなかったわけです……が!



今回のジョナサン・キャロルはちがいます。



どれくらい違うのかと言えば、「いつもここらへんでちゃぶ台をひっくり返すのでは……」というところで踏みとどまり、未解決のまま物語を終えているのです。


そう、未解決。そうか、この手があったか!!



謎を謎のままでおくこと。
あとは読み手の解釈に委ね、奇跡を解き明かさずにそのままにしておくこと。
これはフツーの小説の場合には、まったく褒められたことではないのですが、この作家さんにかぎっては「よくぞ我慢した!」と思ってしまうのです(だっていつも結論がヘンだから)。
上のあらすじにある「木でできた海」についても解答らしきものは出ないのですが、いやー、そんなもの最初から出ないとは思っていたよ! 賭けてもいいけどこの謎かけはただの思いつきだと思います。



おそらくは作者さん本人にも自分のスタイルに迷うところがあったのか、クレインズ・ヴューという町を舞台にしたこの一連の物語で、


1作目「蜂の巣にキス」では不思議いっさいナシのミステリーを書いて(つまらねえし)、


2作目「薪の結婚」ではちょっとがまんしきれなかったのか前作が不評すぎたのか、またいつもの奇跡を起こし(この「他人の宝物を奪う」というテーマ自体は「我らが影の声」と同じものですよね……しかしこの世に真のオリジナルなんてものは存在しないと思うので、これを罪とする作者さんのこだわりは私には謎なのですが……)、


3作目の本作「木でできた海」では、とうとう! とうとう大ブレイク。そう、壊れるほうのブレイクですよ! やあやあ辻褄なんて気にしねーよ的な語りっぱなしスタイルへと進化をとげているのです!



いやー、本当に面白かった。
書かれている物語に価値があるというよりも、語られていること自体が素晴らしい、そういった物語。
キャロル復活と言ってもよい作品かと思われます。



(しまった内容についてまるで語ってないわ……イスズのビークロスが重要な小道具として出てきたので驚きました。そうかあっちでもアレは売ってたのかー!)