「木でできた海で、どうやってボートを漕ぐ?」
退屈なほど平和な町、クレインズ・ヴュー。警察署長のフラニーがある日埋葬してやったはずの見知らぬ犬。
いつのまにか犬の死体は舞い戻り、喧嘩ばかりしていた夫婦が忽然と姿を消し、フラニー自身は見知らぬ未来へと放り込まれる。
「一週間で何事かを成せ」と詰め寄る者たちは、神なのかエイリアンなのか。
- 木でできた海 (創元推理文庫)/ジョナサン・キャロル
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おお、久しぶりにジョナサン・キャロルらしいメチャメチャな(ほめことば)お話が!!
いやー上記のあらすじを読んでも何が何だか分からないことと思われますが、これ以上説明しても分かりやすくなりようがないので、まあこれくらいでよろしいかと。
いえ、誤解されては困るのですが、本作は決して難解な文学などではなく、えーあー、なんといったらいいのか、「ストーリーを気にしてはいけない物語」なのですね。あくまでもキャロルの人生についての語りを! 語りを! 聞くための物語であって、間違っても「あそこが辻褄あわない」「あの伏線回収できてない」などと、賢しげにつべこべ文句を言ったりしてはいけないのです。
(ビックリしたことに巻末の解説のひとまでが「気にするな!」みたいなことを書いていて笑えた……)
しかしですね、この作者さんもデビュー作品(「死者の書」)とその後の三部作くらいまではきっちり筋の通った物語を書こうという姿勢が見受けられたのですが、その後の迷走ぶりは凄まじい。
コツコツまともに大人のドラマを語ってきたかと思うと、いきなりチクワに変身してチャネリングで高次の存在と交信しはじめる(というわけではないけど雰囲気で察していただけると……)ようなマネをするので、読み手としてはいつもいつも終盤はボーゼンとするしかなかったわけです……が!
今回のジョナサン・キャロルはちがいます。
どれくらい違うのかと言えば、「いつもここらへんでちゃぶ台をひっくり返すのでは……」というところで踏みとどまり、未解決のまま物語を終えているのです。
そう、未解決。そうか、この手があったか!!
謎を謎のままでおくこと。
あとは読み手の解釈に委ね、奇跡を解き明かさずにそのままにしておくこと。
これはフツーの小説の場合には、まったく褒められたことではないのですが、この作家さんにかぎっては「よくぞ我慢した!」と思ってしまうのです(だっていつも結論がヘンだから)。
上のあらすじにある「木でできた海」についても解答らしきものは出ないのですが、いやー、そんなもの最初から出ないとは思っていたよ! 賭けてもいいけどこの謎かけはただの思いつきだと思います。
おそらくは作者さん本人にも自分のスタイルに迷うところがあったのか、クレインズ・ヴューという町を舞台にしたこの一連の物語で、
1作目「蜂の巣にキス」では不思議いっさいナシのミステリーを書いて(つまらねえし)、
2作目「薪の結婚」ではちょっとがまんしきれなかったのか前作が不評すぎたのか、またいつもの奇跡を起こし(この「他人の宝物を奪う」というテーマ自体は「我らが影の声」と同じものですよね……しかしこの世に真のオリジナルなんてものは存在しないと思うので、これを罪とする作者さんのこだわりは私には謎なのですが……)、
3作目の本作「木でできた海」では、とうとう! とうとう大ブレイク。そう、壊れるほうのブレイクですよ! やあやあ辻褄なんて気にしねーよ的な語りっぱなしスタイルへと進化をとげているのです!
いやー、本当に面白かった。
書かれている物語に価値があるというよりも、語られていること自体が素晴らしい、そういった物語。
キャロル復活と言ってもよい作品かと思われます。
(しまった内容についてまるで語ってないわ……イスズのビークロスが重要な小道具として出てきたので驚きました。そうかあっちでもアレは売ってたのかー!)