こんばんは。


すでに結果をご存知の方も多いかと思いますが、第2回囲碁電王戦の第3局目は見事な内容で治勲先生が勝利しました。


碁の内容については、すでに棋士の方々が発信されていますので、1局を通して見えた所感を簡単に述べましょう。


・山っ気なし、まじりっ気なしの趙治勲でした。

⇒第1局目、第2局目とも、治勲先生はある程度の趣向を凝らしていました。

 しかし、本局はまったくもって遊び心のない、勝負に徹した様子がうかがえました。


・Zenは新たな大局観を示唆しました。

⇒治勲先生も言及されていましたが、Zenはこれまで人間が学んできたこととは

  異なる視野で本局だけでなく、本シリーズを通じて碁を打っていた気がしました。

  Twitterでは、棋士の方々が所々の局面で黒の確定地が多く黒優勢と言っていたのですが、

   私は各所にある黒の不安定な石たちが果たして無事にするのか、わからなかった。

  Zenが、比較的簡単に追及を止めたのが、やむを得なかったのか、Zenの楽観に拠るのか、

   これは専門家の評価を待ちたいところです。


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今日は趣向を変えて、対局後のコメントをほぼ改変せずに載せたいと思います。

そのほうが良い気がしました。

以下は対局場での代表質問の一部です。

(途中、検討室に画面が切り替わり、一部質問のやりとりはわかりません)


ちなみに、場所を移しての記者会見はまだテープ起こししてません・・・(気が向いたらやるかも)


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代表質問

記者:本局を振り返って一言。勝因などあれば。


治勲:たくさん地をくれたからね。いいのかと思ったらそうでもないですね。
    だからこういう打ち方があるんだね。これで全然自信なかったんですよ。
    これでもし白が勝ったら、あれだねぇ、今までの布石とか考え方とか、

     なんか変えなくちゃいけないですね。
 
記者:2勝1敗で電王戦の勝者となったご感想を。


治勲:えーと、なんだろうねぇ。やっぱり強いですねぇ。
    ただ、すごく強いところと、弱いところがあってね。
    だからその、でも弱いところはすぐ克服できると思う。
    でも強いところはめちゃくちゃ強いですね。
    あの、少なくとも僕よりは全然強いですけれども。
    なんかこのシリーズは人間みたいなポカをちょっとやったような気がする(笑)。
    あのー、なんか少し人間味のある、人工知能ですね。


記者:もう少し具体的に人間との違いなど。


治勲:人間との違い、心の葛藤とかね、なんか感情とかね。

    だけど、なんかこう、今回3局打ってて、あんまり、あのー、なんていうか人工知能って言うか、

    まぁロボットいうか、ねぇ、コンピュータというかと打ってる感じはしなかったですねぇ。

    なんか人間と打っているような感じがして。
    ちょっと人間臭さが出過ぎたような気がする。
    改良するとすれば、なんか人間じゃないみたいな、愚かな人間が、ちょっとあの、

    出ちゃったような気がしますね。
 
記者:最後に、相手が人工知能、コンピューターだったわけですが、3局を通して

    平常心で臨めましたでしょうか。


治勲:僕はね、すごく楽しみにしてきていて、コンピューターに負けるとかね、そういう、

    負けたら恥ずかしいとかね、そういう気持ちはまるでないですね。
    その、こんなに強くなってくれてね、これだけ強くなってこういうふうなソフトが出てくれば、
    みんなそれで勉強すれば良いわけですね。
    僕に例えば碁を教えてもらうとアマチュアの人がいるとすると、いろいろと

    大変じゃないですか。制約とかね。
    でもソフトはそこに1つあればいつでも打ってくれるわけです。
    そしたらもう、人類みんなが碁を打てるようになるわけだからねぇ。
    それはもうめちゃくちゃすごいことだし、そしてどんどん強くなれば、僕らがもっとまた、

    勉強してね、もっと強くなればいいわけだから、すごい、ここまで強くなってくれて、

    感謝の気持ちしかないですね。


(中略・・・検討室に画面が切り替わる)


記者:.どういう背景があって強いところと弱いところというものが出てくるのか。

    どういう風に分析されているのか。


加藤:1局目がヨセのあたりがはっきり良くなかった、この碁で言えば中央の過大評価ですね、

    まぁ全体に楽観するのはある程度プログラムはしょうがないんですが、中央の課題や、

    振り返ればこの序盤の損ですね、こういうのが過小評価されている。
    あと弱いところといいますとですねぇ、やっぱりほんとはまぁ厳密に言えば死活とか

    その攻め合いとかもまだまだ人間には差があるとかですね、今回の対局では出て

    きませんでしたが、そういうところもまだまだ弱点がある。
    人間はだいたいこう、序盤もできれば死活もこんくらいできる、と平均的じゃないですか。

    だけどプログラムって言うのは機能が別々に作られてますんで、やっぱりうまくいくところ、

    いかないところ、特に今ディープラーニングを使いますと、序盤は非常にうまくいくんですね、

    人間以上の能力を発揮する。
    しかし他の手どころの部分とかはまだございまして、その部分が機械学習ではなかなかうまく

    行かない部分とかありまして、その部分がまだ弱点になっているところ。
    あとさっき大脳がない、と言いましたでしょう。これがその両コウとか、ややこしい攻め合い

    とか、あと時間の使い方とかですね、人間ですと大脳を使っていますね。

    その部分がまだ入れられないので、技術的な問題で。
    やはり弱いという。まだまだ課題はたくさんございます。


記者:その弱点を改善していくために具体的にどんなことをしてくのでしょうか。


加藤:今プログラムになっている部分をなるべく機械学習に置き換えること、あとはですね、

    試行錯誤をいろいろやらないといけない、と思ってます。

    Zenは手作りの部分が多いので、そこがまだ弱いんですよ、その部分が序盤に比べて
    4子くらい弱い、そこが1つの弱点になってて、それがいろんなところに悪影響を及ぼすことが

    わかっています。
    そこをなんとかしたいんですが、ある程度のめどはついてるんですが、やってみないと

    わからないところも多い。


記者:グーグルのアルファ碁を超えたいということで、そのために必要なことは。


加藤:達成していないから、何が必要かということはよくわかりませんが、技術的には、彼らが

    やっているわけで、彼らの論文の丸コピーすれば、彼らと同じくらいにはなれるかも

    しれませんが、それでは面白くないということもございます。

    ZenはZenらしくやっていくと、その部分がちょっと難しいかなと。工夫が必要だろうと。
 
記者:これからどんどん強くなっていくうえで、Zenらしさ、Zenらしい打ち回しというのは

    なかなか難しいのか。


加藤:100点満点の答案と言うのは個性がないということもございまして、これは、

    序盤なんかは似ているわけで、しょうがないところはあるんですけれども、まだまだ満点には

    程遠い所もいっぱいあります。

    攻め合い、死活など序盤はかなりすごいレベルになっていますが、それ以外は

    まだまだまだまだ、まだ味付けができると思います。
 
記者:プロジェクトとしてはまだ8か月ちょっとですけど、全体の行程で言えば何合目くらいか。


加藤:とりあえずセドル戦の、今年の3月くらいのアルファ碁は(Eloレーティングが)

    3600くらいと見ていて、今のZenが平均すると3100くらい、まぁ強いところはあるが、

    弱いところをあわせると3100見当かなと思っています。
    はじめる前は3200くらい来たかなと思っていたんですが、どうも対局してみると

    3100程度かなと。
    あと500ですね。これがまず最低線といった形で、だいたいなんとかなる感じはあります。
    しかしむこうさんもね、どんどん強くなっている、4000いくつという話もございますので、

    そうなると、これはたしか尾島が申しておりましたけども、とにかく置いていかれないように、

    ちょっとでも差を詰める。
    あせってもしょうがないので。できるだけのことをやるだけです。


記者:もう少し時間が欲しかったということはありますか。ディープラーニングは重ねれば重ねるほど

    強くなるのか。


加藤:そう単純な話でもございませんで、どういう形で何を使ってどこをどうするのか、

    他にもいろいろ調整しないといけないこともある。

    特に今回の場合にはディープラーニング以外の部分がかなり弱いと言うことが判明したのが
    実は我々にとって収穫でございます。

    そこをなんとかしないとこの先ダメだなというのがわかったのが大きな収穫です。
    その意味では、この時期になるべく早くやったことは結果的に良かった。
    本当に趙先生には感謝しています。


記者:1,2局目を振り返って、多少のチューニングをされて第3局に臨まれたのでしょうか。


加藤:基本的には、ネットワークの学習をちょっと進めたと。

    ちょっと前からやっていたんですけども。第1局が終わったあたりから、3日ぐらいずっと。

    あと、消費時間、第2局でもだいぶ残ったので、もうちょっと使うようにしました。

    第2局が(第1局目の)1.6倍、第3局がその(第2局目の)1.25倍なので、第1局目から

     すると2倍ちょうど。それでもまだこっちの方が少ない。


記者:先ほど、大脳の部分がないとのことでしたが、一方ディープラーニングでは

    どういうところができているのか。


加藤:現在、ディープラーニングで実現できているのは視覚野と小脳です。
    論理的な思考はディープラーニングができませんから。

    ニューラルネットワークでデータが入るとパッとなんか出る。ボトムアップになっている。

    トップダウンの、論理的な思考とか、そういうのはできないですね、単独では。


記者:プログラムのところも、ディープラーニングが使えるということは、今回技術的な

    ハードルと言うのはあったか。


加藤:どこをどう切り分けて、どういうやり方をするか、っていうのはかなりの試行錯誤が必要

    になると思っています。いろんなやり方を試すつもりでいます。


    ※村上註 記者はこれまでの取組みについて質問したと思われますが、加藤さんは

           今後のZenの改良についての受け取ったものでしょう。


記者:Zenは人間棋士に例えるとどういう人か。


治勲:あのね、1局目からそう思ったんだけれども、まったく中央志向ですね。

    それで、中央で、この布石が確立されたら、僕らが今まで勉強してきたことは根底から

    変えていかないといけないくらい、そんな感じですね。
    

    (誰先生に似ていますか?)誰先生っていうと、メイエンさんとかね、今日いる覚さんとかね、

    武宮さんなんかも中央志向なんだけど、ちょっとそれとは違う、中央なんだけど別にそこで

    中央を地にするという感じじゃないですね。
    メイエンさんみたいな感じですね。

    少し、彼も碁はめちゃくちゃ強いんだけど、ちょっと人間味が時々出るもんだから(笑)
    あの、ポカが出るって言うか(笑)、そういうところがあってね、こういう碁の打ち方って言うのも

    あるんだっていうことを。

    僕、この3局目はね、僕がもし白だったらとてもこういう風には打てないですね。
    でもこういう風に打ってけして白が悪くないんでね、僕もちょっと悲観派なんですけど、

    僕は途中悪いと思ってました。
    といって今聞いたら、人工知能のパーセンテージがすごく低くて、ずっと人工知能が悪いって

    言ってた、だから、そういう悲観派なのも人間味があってね、だからそういう、3局全部通じて

    思うことは、機械と打ってるとか、なんかロボットと打ってるとか、そういう感じは全然なかった

    ですね。
    普通に人間と打っているような、感じがしたし、感動ですね。


記者:個性みたいなのはどこから出てきているのか。


加藤:その前に1つ訂正、コンピューター自体はとても楽観的でして、一番高い時には70%

    近く行ってましたですかね。
    私が癖を知っているのでですね、補正していたわけです。

    だから、コンピューターが50%と言った時には、実質的には35%とかそういう。

    だいたい10%くらい、局面に拠って変わるんですよ、どのぐらいずれるかは。
    これがまだ正確になれば、もっと強くなるんですけども。

    コンピューター自身は非常に楽観的です。
 

    今の質問に対しては、結局はネットワークの構成であったり、どんなものを使って

    学習させるか、あとはモンテカルロ碁は、モンテカルロシミュレーションと言うランダム

    シミュレーションがございます。
    そこをどうするかとか、いろんな要素でちょこちょこっと味付けが変わりますかねぇ。

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大事なことはね、つまり、お二人とも感謝しているわけですよ。

これほんと大事。

こんばんは。


さっそくですが、お知らせがございます~。


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23日(水・祝)に囲碁サロン渋谷で予定していた「第2回囲碁電王戦第3局」の鑑賞会ですが、

権利関係の事情により中止とさせて頂きます。

本件、準備不足で申し訳ありませんでした。


いろいろありますね~、私も勉強不足でした。

反省、反省。

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さて、昨日打たれた第2回囲碁電王戦第2局目は、Zenが治勲先生の大石を殺しての中押し勝ちとなりました。

「シノギの名手」と言われた治勲先生の大暴れを封じ込めるというのは、経緯がどうであれ、大変なことなのですよ。

(でも、最近ちょくちょく死んでるけど)


ただ、この生きるか死ぬか、のつばぜり合いに治勲先生が持ち込む前に、すでにZenがある程度の優勢を構築していたことは、瞠目に値することです。


黒番:Zen   白番:趙治勲名誉名人


図1 Zenの仕掛け、治勲先生の受け応え(黒5~白6)

治勲先生の4手目、左下隅の目外しは第1局と同様、作戦の匂いを感じます。

この目外しに対し、黒1と三々に入ったのは「深々と」と形容してよいでしょう。

他にも、目外しに臨むアプローチはいくつか考えられますが、もっとも目外しに対して

「あたりが強い」一着を選んだと言えます。

これに対し、白2の大ゲイマは柔らかい受け応えで、A、B、Cといった次の候補手が考えられます。


そもそも、AIは「ツケ」や「カタツキ」といった手法を好むようです。

なぜかというと、相手の石に「あたりが強い」手であればあるほど、相手は受け応えする必要性が高くなり(=手を抜きにくくなり)、その周辺での折衝が始まります。

そういう展開は、AIにとってその後の進行が予測しやすくなるようです。

リソースを効率的に投入できる、ということでしょうかね??


したがって、黒1の三々に入った手も、上記の特性が表れているのかな?というのが私の感覚でした。


一方、治勲先生の白2は、知ってか知らずか、黒の次の一手の選択肢が多くなる手を選んでいます。

Zenはできるだけ選択肢の少ない一本道となる進行を、治勲先生はできるだけ手広い局面に持ち込もう、というせめぎ合いをこの2手の応酬にかすかに感じました。


図2 自然の流れ(黒17~黒19)

黒白双方の弱い石が点在する中、黒1とまず左下を強化しながら白を攻め、白2が左辺の黒に迫った瞬間に黒3と補強に走る・・・。

このあたり、ごく自然の流れと言ってしまえばそれまでですが、石の方向や追い方についていろんなパターンが考えられる中、もっとも無理なく、そして自然の流れに石をゆだねられるというあたり、並の力量ではないですね。

自然の流れ、というのがあいまいな表現ですが、なんとなく理にかなっているように思えるのです。


図3 大局観(白24~黒25)

この白1を治勲先生は大いに悔やんでいました。

もともと、持ち時間を後半に温存する作戦だったようで、白1のハネは当然黒が左下を応対するものと即断したようです。

しかし、黒2と手抜きして左下を封鎖される手をうっかりしたようです。

白1では、中央に進出を図るところでした。


図3-1 Zenの地合予測

ニコニコ生放送では、Zenがどのように地合を予測しているか、を可視化するシステムが導入されていました。

これは「厚み」をどう評価しているか、という点が示唆されているように感じます。


白地の予想は、まぁ人間と大きな乖離はありませんが、着目すべきは黒地予想の濃淡です。

この絵をじっと見ていると、2つのポイントが浮かび上がってきます。


ポイント①:各勢力の距離感を認識している。

黒はおおざっぱに言うと、右上隅、右下隅、左辺と勢力が3つに分かれています。

それぞれの近くが濃い黒なのはわかりますが、それらの中間に位置する右辺、そして上辺から中央にかけても薄い黒が広範囲に分布しています。


ポイント②:黒の勢力が白の勢力を相殺している。

白の勢力は3つあり、発展性が認められるのは左上と下辺の2つです。

しかし、黒と比較して白の濃淡の広がりが非常に狭いです。

これは、黒の勢力(特に左辺)が白の発展性を阻害していると認識しているのでしょう。


人間は「黒地が○目、白地は×目が確定地。黒は右辺に△目作らないといけない」というように、けっこうデジタルな計算をします。

しかし、AIがこのような連続性のある濃淡で局面評価をしているのは、アナログっぽくてとても興味深いですね。


図4 白の実利、黒の外勢(黒43)


コウがからんだ左下の折衝の結果、白は左下一帯に25目ほどの実利を、黒は大いなる外勢を手に入れました。

コウの過程で、黒はもっと良い局面に導くことができたかもしれませんが、おおよそこの局面では黒の外勢に分がある、という評価が多かったように思います。


図5 強烈な一撃!(白44~黒47)


白1と左上に白地を確保したと見えた瞬間、黒2のハサミツケがZenの才能(?)をみせる強烈な一撃でした。


通常、黒2のツケは実戦のように白3と出られると、黒2子(△)との間を真っ二つに割かれる「サカレ形」の典型と言えます。

しかし、この場合はもう少し下に目を移せば、黒の鉄壁が待ちかまえており、黒としては痛痒を感じません。

どちらかといえば、黒4と左上の白地に侵入され、上下の白が分断されかかっている白の方が苦しい戦いです。


治勲先生、そんなことは百も承知でしたが、黒2に対して自重することなく、あえて危険に身をさらしました。

ほとんど意地のようにも見えますが、あるいは「シノギの治勲」の矜持でもありますか。


図6 Zen、優勢を盤石に(黒63)

白は上下の白をどうにか生きることはできました。

しかし、黒は左上の白地を荒らしながら、上辺の大場に自然と向かうことができました。

白地の確定分はせいぜい40目(左下:25目、左辺:5目、左上:10目)ですから、それほど潤沢に白地があるとは言えません。

黒は上辺~右辺と中央の厚みが呼応し、大模様ができそうなロマンがあります。


図7 全局のバランスを見た一手(白74~黒77)

白1~3は右下の定石の過程ですが、ここで黒4が部分的な定石の折衝に捉われない、全局のバランスを見た一着。


この手そのものは、治勲先生相手に互角以上の戦いを進めているZenでは驚くことではないです。

ポイントとしては、AIはそもそも「定石」というくくりで学習していません。

常に盤面全体を1枚の絵のように見て、どこが大きいのか、勝つための最善を考えているだけです。


囲碁でも「定石を覚えて2目弱くなり」という言葉がありますし、仕事や人生だって、目的を忘れて些事にとらわれることはあまりいい結果を生まないものですから。

人間よりもAIのほうが、戦略的な観点が強いというのは、なかなか興味深いことです。


図8 矛を収める(黒95~黒97)


黒1に対して、白2のツケはサバキの常用の手筋で、黒の受け応えを見て自分のサバく方針を決めていく、ということです。

通常、ツケは相手に対して「あたりが強い」手なのですが、これを無視して黒3と白の進出を止めた手が、本局では人間の感性からもっとも離れた手と言って良いでしょう。


いくつかの疑問が浮かびます。


①・・・作戦/路線変更なのか?

⇒AIはそもそも「作戦」や「路線」などという概念はありません。

  繰り返しにその局面で最善の手を打つだけ・・・です。


②・・・黒1で最初から黒3の場所に打ったら何が問題だったのか?

⇒おそらく、白に黒1の点に一間トビを打たれるのでしょう。

  よく読んでみると・・・黒1と白2の交換は悪手ではない・・・むしろ黒に取って良い交換になっている?


黒3のような、ツケに手を抜くという発想は人間に取って盲点に入る良い例でしょう。

しかし、これで簡明に封鎖してしまうのが良いのか・・・。


図9 確かな形勢判断(黒111)

右上の折衝が終わり、白が大いに黒地を荒らしましたが、中央一帯がさらに黒模様を確かにしています。

ざっと形勢判断をすると・・・


白は左下(25目)+左辺(4目)+左上(10目)+右上(7目)+右下(10目)≒約60目

黒はとても計算しづらいですが・・・黒1と囲ったラインを境目とすると、約50目。

コミを含めて逆算すると、中央付近に20目ほど黒地があればおつりがくるかな、という感じですね。

20目というと、4×5ほどの長方形が描ければよいのですが、一見してもっと大きそうな四角形が描かれています。

したがって、黒がはっきり優勢でしょう。


このまま何事もなければ、中央の谷が深すぎる。

ここから、「シノギの治勲」が顔を出します。


図10 ふしをつける(白118~白124)


白1から、中央の黒模様の破壊をもくろんだのは、治勲先生の真骨頂でした。

治勲先生のシノギの極意は、厚みと思われる黒の壁にあるわずかな弱点を見極め、相手の弱点をつきながらあわよくば黒を攻めよう、という姿勢を見せ続けることで、相手の攻撃の勢いを遅らせることにあります。

シノギという言葉は通常、防御的なニュアンスがありますが、「攻撃的なシノギ」が治勲流といえましょう。


図11-1 治勲先生がもっとも悔やんだ手(白128~黒129)

私的本局のハイライトの場面です。


治勲先生が「攻撃的なシノギ」であると表現しましたが、この白1のハネもその傾向があります。

すなわち、上辺の黒の形に少し不備があり、これを衝きに行った手でした。

しかし、黒2のコスミが治勲先生曰く「見ていなかった」とのことで、このたった2手の交換だけで白のシノギが非常に難しくなってしまった、ということでした。


図11-2 軽くサバかなければ・・・

白128では、ここに二間トビをすれば、おそらく死ななかったのではないか、というのが治勲先生の弁でした。

真偽はわかりませんが・・・。


局後のインタビューで、治勲先生は「もっと軽くサバかなければいけなかった。勝ちに行ってしまったね。」と語っていました。

前半の意味はわかりますが、後半の「勝ちに行ってしまった」とはちょっと聞いただけでは、よく意味が分かりません。


私はこう解釈します。

「中央の白の一団を生きると共に黒模様を蹂躙し、勝ちを完全に確かなものにする」ことを目指してしまった。


一方「軽くサバく」というのは、例えば「白の中央の一団を捨てても、どこか黒の包囲網を突破する」とか「右辺の白1子だけはこじんまりと生きる」とか、そういう浅い目標を複数視野に入れた状態で打ち進める、ということです。


前者の完全な目標にまい進することに比べると、後者の浅い目標を見ながら進める、というのは「しのぐ=勝利」には必ずしも結びつきません。

しのぎ方、生き方次第では、全滅を免れたとしても、形勢は白に好転していない、というケースが考えられます。


治勲先生は、前者の「完全な目標」をひたすら目指し、短期決戦を挑み、そしてしのげなかった。

実際には生きることができたのか、やはり無理な目標設定だったのか、それはわかりません。

しかし、心身共に充実していた頃であれば、後者の長期戦を選んでいたかもしれない。


「勝ちに行ってしまった」という言葉に、自らの老いを自覚したかのようなニュアンスを感じ取ったのは・・・

私の妄想であれば、良いのですが。


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さて、これにて1勝1敗。

勝負の行方は最終局に持ち込まれることになりました。

興業的には、おおいにけっこう。

私は純粋に楽しみです。


手番も決まっていないので、試合を予想することは難しいですが・・・。


1局目、2局目とも治勲先生は目外しを打ちました。

3局目も目外しを打つとは限りませんが、少なくともなにかしらのテーマを踏襲している、ということはうかがえます。

2局とも、「穏やかに打つか、激しく打つか」の岐路に立った時、治勲先生は常に激しい方を選んでいる。

これが、テーマと見ました。


本局の「シノギきれなかったこと」の悔恨が強ければ、3局目も実利を稼いでから、Zenの大模様に突入する、という展開に導くかもしれません。

しかし、治勲先生は逆張りをするような気がしますね。


したがって、こう予想しましょう。

治勲先生が大模様を張り、Zenの石の大捕物を展開する。


模様を張るなら、治勲先生が黒番の方がやりやすいかな~?
あたったらほめてね。

こんばんは。


いや~、ZENが治勲先生に勝ちましたね。

よかったよかった、面白くなったな~。


日本製の人工知能「Deep Zen Go」国内トップ棋士の趙治勲名誉名人を破る

(ライブドアニュース、リンク切れはご容赦ください)


3月にAlphaGoがいきなりイ・セドルに勝ってしまったので、みんなちょっと感覚がマヒしちゃっているかもしれませんが、1年前までは(ごく一部の情報通を除いて)プロ棋士が互先で負けるのは、まだ10年は先だろう、という風潮だったはずなんです。

人間の順応性が高い、といういうべきですかね?


23日に行われる第3局目がものすごく楽しみになりました。

ZENはこれから強くなっていく一方でしょうが、治勲先生がもっとも若くて集中力があるのは、今しかないんです。

この瞬間にどのような姿を見せてもらえるのか、勝負師・趙治勲を見届けましょう。


投了の瞬間。アゲハマを盤上に置く。


「この石が死んじゃいけないねぇ」と語る

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本日は囲碁サロン渋谷で本局の鑑賞会を企画しました。


家からチャリで渋谷に向かっていたところ、途中で故障してしまいまして・・・。

近くの商店街に自転車屋があるということで望みをつなぎましたが、まさかの(?)定休日。

これは何かの暗示かと思い、Twitterでこうつぶやきました。


『今日の治勲先生は「危機迫るもシノギの筋を発見!しかし予想外の落とし穴にハマりシノげず。」を予想します。』


ほぼ正解やないか・・・。


実は、その後電車で振り替えるも乗る電車を間違えるなどのチョンボをしてしまい、渋谷についたのは予定よりも40分ほど遅れてしまい・・・。

1時からの鑑賞会に向けて準備の時間がなくなってしまい、本日ご参加いただいた方にはみっともないところをお見せしました。


今日の鑑賞会の課題として


・ディスプレイと解説用大盤のレイアウトが悪い

・ニコニコ動画の音声、私の声が(たぶん)聞きづらい

・私がニコニコ動画を角度的にうまくみれなかったので、話のネタを拾いづらい


などなど、いくつかあったので、これを見直すこととしました。

23日の鑑賞会は、もっとご参加いただいくみなさんの声、質問をすぐにお答えできるようなこじんまりテイストでやります~。

大盤も使わず、普通の碁盤をみんなで囲むような感じのイメージとおもいねぇ。




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さて、昨日打たれた第1局からポイントを振り返ってみましょう。

昨日の記事にもチラと書きましたが、大橋拓文六段、大西竜平二段、星合志保初段らに話を聞きながら観戦していたので、その辺の声も含めてですね。


黒番:趙治勲名誉名人  白番:Zen


初戦、治勲先生がどのような立ちあがりを見せるか、というのが衆目の集まるところでした。

また、Zenに限らず、AIは手番の好みとしてやや白番を好む傾向にある、という噂があります。

したがって、黒番の治勲先生の仕掛けに対し、Zenがどう受け止めるか、というのが戦前の

ポイントと私は見ていました。


ニコニコ生放送では解説:一力遼くん、聞き手:万波奈穂さんという布陣。

一力くんは若干19歳ながら、異常に落ち着いてますね。(囲碁界にはまれにやたら老成した若者がいる)

万波さんのいい加減さを10%くらいおすそわけすると、ちょうどいいブレンドになると思います。

誰か、一力くんにテキトーさを仕込んであげてください。


まず、本局は序盤~中盤にかけて非常に早いペースで進行しました。

治勲先生は、基本的には序盤~中盤にかけて構想力が必要とされる局面で湯水のように時間を使う傾向があります。

しかし「秒読みの鬼」と呼ばれ、時間が短い中でも正確に読み切ることができたのも今は昔。

寄る年波には勝てない、という自覚があるのでしょう、時間を後半に温存する作戦に出ました。


ほんとは、序盤~中盤で構想を練るあたりのタイミングが、碁打ちにとってすごく楽しい時間帯のはずなんです。

でも、その欲求を抑えてでも勝負に徹しにいったことがわかるんですね。

「治勲先生、本気だね」ということです。


図1 目外し、目外し、からの・・・


治勲先生、さすがに魅せてきました。

2つの目外しも珍しいですが、さらにこの7手目(△)の構えは珍しい。

大上段の構え、という感じでしょうかね。


AlphaGoとイ・セドルの第1局目も、このような趣旨の手をイ・セドルが打ったのですが、イメージとしては「間合いをずらす」と捉えて良いでしょう。


とはいえ、この程度でZenがどうなるとは露ほども思っていないでしょう。

どちらかというと、観戦している方々へ「俺はいろいろやったるけんね」というメッセージ発信を兼ねていたのかもしれませんね。


図2 先制攻撃!

治勲先生、右上の白に先制攻撃を仕掛けました。

右上の白は隅を占めていたように見えますが、その肺腑を抉る急所の一撃、という感じです。

ただ、実際には右辺の黒4子もけして強い石とは言い難く、一方的に白が攻められる、という展開ではありません。

つまり、穏やかな進行を選ばず、お互いが弱い石を抱えながら競い合う展開に治勲先生が誘導した、という一着でした。


図3 星を見捨てる

黒が右下にカカった場面(△)で、白1~黒6まで、右下の星に打たれている白石を忘れているかのような挙動です。

ふつう、こういう進行は白の立場では「すごく怖い」んです。

だって、2手目に星に打ったって言うのは、価値が大きいと思ったから打ったわけです。

そんな大事な石を、たかだか30手後になったら、もう「お前には失望させられたよ」と言わんばかりに放置して、白は右辺に注力しちゃっていますからね。


でも、右上から始まった戦いを視野に入れると、Zenは右下の白がどうなるか、ということよりも、右辺の白石たち、そして右上から伸びている黒の一団を狙う方がよっぽど大事な局面になっている、と判断したのですね。


このあたりが、人間らしい感傷(=右下星の白石は価値が高い)とは無縁で、AIらしい大局観の良さを示している進行だと思いました。


ちなみに、一緒に観戦していた騎士の面々も「いやー、勇気ありますねー」という感じでしたね。

宇宙人と言えども、しょせんは生物か。


図4 攻守逆転

さらに手は進みこの局面。

右下の白はダメージを負ったものの、右辺の黒の一団はまだ少し弱い状態です。

また、右上の白の一団は、やや中央に勢力を蓄えました。

このあたり、試合前に治勲先生が表現した「石の力学」に関してZenが優秀な感性を発揮した、といえるかもしれません。

(ただし、人間にはこのあたりの評価が難しい)


そして、白1と右上の黒に大いに迫る一撃!

もともと、黒が右上の白の一団を攻めようと「肺腑を抉る急所の一撃」を繰り出したのですが、40手程進んだこの局面では、逆に白が右上の黒を攻める展開になっています。


ニコニコ生放送では、このあたりで本局の立会人である張栩九段が登場し、一力くんとのダブル解説をしていました。

張栩さんはこの手を評し「手広い場面(≒いろいろな選択肢が考えられる場面)でZenが打った白1のハサミは、おそらく最善の一手に思われる。この手をごく短時間で打てることはものすごく強い」という趣旨のことを言っていました。


図5 勝負手


白が△にアテた局面で、治勲先生は本局で初めて長考されました。

通常、アタリをされたら逃げるのが人情(?)ですが、実は右上の黒の一団はまだ生きが確定していません。

上辺の白3子を飲み込みながら、地を持って生きてしまおう、という趣旨でしたが・・・。


図6 Zen、流れに逆らわず

上辺、白は抵抗する手段もありましたが、実戦は流れに逆らわず上辺の白数子を平然と捨てました。


しかし、代わりに左上に突入。

上辺から中央にかけて白の壁がどどんと出現しましたから、図1で黒が大上段に構えた、というのがこの場合は隙だらけのかっこうにさせられてしまった、という感じです。

このあたりで、白は優勢に立った、と見て良いでしょう。


図7 Zen、ソッポを打つ?


左上で折衝がありましたが、このあたりではニコニコ生放送の一力さん、張栩さんとも「Zenが疑問手を打ったのでは」というニュアンスでした。

また、黒が△にハネたところでZenは左上を放置して、下辺へ!

このあたりの挙動が、人間が違和感を覚えるところですね。


確かに、普通の人間の感覚ではそのとおり。

ただ、ここでZenの思考を無理やり解釈すれば、意外にも一理あるかもしれない、という話を棋士のみなさんとしていました。

長くなるので本記事では割愛し、後日、別記事としてまとめます。


図8 治勲先生がもっとも悔やんだ1手

ここが本局のハイライトです。

ニコニコ生放送で、局後のインタビューで治勲先生がもっともこの黒1を悔やんでいました。

ポイントは2つです。


ポイント① そもそも、右下の白を取るよりも下辺に展開する方が大きかった


図8-1 下辺に展開

黒1と、下辺に3間ビラキが良い見当でした。

右下は、白2~4などと打てば生きることができますが、これらの価値は約30目です。

(白地が5目できるか、黒地が25目できるかの差)

黒1は感覚的には35目前後の価値があります。

(黒地が10目できるか、白地が25目程度できるかの差)

地の大小だけでなく、他にも別の要素があって、実戦よりもよほど下辺に展開していた方が優っていた・・・ということでした。


ポイント② 右下の死活で読み落としがあった


図8-2 死活の読み落とし

113手目の黒の一着(△)に対し、白1が治勲先生が読み落としをしていたようです。

(局後のインタビューで治勲先生が言及)


この手を打たれた直後、治勲先生は本局で最長の考慮時間を投入しました。

ボヤく、ボヤく、ボヤく・・・。

おそらく、本局でもっとも苦しい一瞬だったのでしょう。


死活がからむ、非常に難しい局面でした。

正確に打てば、Zenはここではっきりと優勢を築くことができた、はずです。

はずでした。


図9 敗着

白1とマゲた手が、敗着です。

この手では、最善手を打てば、少なくとも白は無条件死ではなくコウに持ち込むことができました。

この手を治勲先生が見た瞬間、ボヤキがピタッと止まりました。


この手がダメな理由は図示しません(実戦には後に現れる)が、9手の読みが必要です。

しかし、ほぼ分岐のない一本道ですから、棋士、あるいは相応の棋力がある人間なら10秒もあれば十分読めてしまう程度には易しいところでした。

すなわち、治勲先生を相手に伍して戦ってきたZenが、このような簡単な読みを間違えてしまうというのはものすごくアンバランスなことなのです。


このあたりも、囲碁AIの課題が内包されているように感じました。

これも後日まとめます。


歴戦の勇者、趙治勲。

この白の1手を境に、本局を収束に向かいました。

実際には、まだZenが最善を尽くせばまだ形勢不明だったのかもしれないようでしたが・・・(局後の検討で張栩さんが言及)。


本局、治勲先生は「形勢は、ずっと自分が悪いと思っていなかった」とのことですが、時間の使い方などをみると、上辺の折衝、そして右下付近の瞬間は相当に苦しかったと想像します。

ただ、治勲先生がもっとも悔やんだ手(図8)が皮肉にもZenの敗着(図9)を呼び寄せたような気がします。


大橋拓文六段はTwitterでこうつぶやいていました。


「対コンピューター戦を見て思うことは勝利を呼び込むのはやはり気合いだということです。人間から見たら不可解な挙動でコンピューターがおかしくなるというのが人間の勝ちパターンですが、そこに至るまでには【渾身の○○】としか形容し得ない何か、が必ずあります。そのような所にぜひ注目して下さい。」


図8の一手を【渾身の】と表現したら、治勲先生はどう感じるかなぁ?


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2局目も本記事に含めようと思ってましたが、もうけっこういい時間(深夜2時20分)なので、明日にまわします~。

例によって長くなりすぎました。ごめんね。