今回は「特別編」です。「パリ」での、あの「大事件」から、13日でちょうど「半年」...。
どういう暦の「悪戯」か、この13日も「金曜日」です...。
そういったわけで、今回は、このような歌を4曲集めてみました。

最初の曲は、この秋、没後35周年を迎えるジョルジュ・ブラッサンス(1921-81)の1972年の作品、「mourir pour des idees "信条(思想)のために死す"」から。

mourir pour des idees, l'idee est excellente
moi, j'ai failli mourir de ne l'avoir pas eue
car tous ceux qui l'avaient, multitude accablante,
en hurlant a la mort me sont tombes dessus
ils ont su me convaincre et ma muse insolente,
abjurant ses erreurs, se rallie a leur foi
avec un soupcon de reserve toutefois:

(ref.)mourons pour des idees, d'accord, mais de mort lente,
d'accord mais de mort lente

「思想」のために死ぬ 「思想」とは素晴らしいもの
俺には「それ」がなかったために、危うく命を落とすところだった
と言うのも、みんなには「それ」があって、その、「圧倒的大多数」が、
「死ぬ死ぬ」と喚きながら、俺に伸し掛かってきたからだ
奴らは、俺だけでなく、俺の尊大なミューズ(連れの女性)までも説き伏せた
何かがおかしいと思いながらも、
結局は、奴らに味方した

(ルフラン)「思想」のために死のう いいでしょう でも、慌てずに「ゆっくり」と...

jugeant qu'il n'y a pas peril en la demeure,
allons vers l'autre monde en flanant en chemin
car, a forcer l'allure, il arrive qu'on meure
pour des idees n'ayant plus cours le lendemain
or, s'il est une chose amere, desolante,
en rendant l'ame a Dieu c'est bien de constater
qu'on a fait fausse route, qu'on s'est trompe d'idee:
(au ref.)

「慌てなくても大丈夫」ということが分かったら、
道をぶらぶら歩きながら、別の世界へ行ってみよう
だって、「速歩き」したところで、翌日になれば、「道」も尽き果て、
「思想」のために死ぬだけなんだから
あるいは、それがひどく嘆かわしいことなら
試してみれば、嫌でも分かる
俺は、道を誤り、「思想」にだまされたのだと
(ルフラン)

les saint Jean bouche d'or qui prechent le martyre,
le plus souvent, d'ailleurs, s'attardent ici-bas
mourir pour des idees, c'est le cas de le dire,
c'est leur raison de vivre, ils ne s'en privent pas
dans presque tous les camps on en voit qui supplantent
bientot Mathusalem dans la longevite
j'en conclus qu'ils doivent se dire, en aparte:
(au ref.)

「殉教」を説く(聖ヨハネのような)指導者たちは
たいてい、この世に居座っている
「思想」のために死ぬ まさにその通り
奴らにとっちゃ、それこそが「生きる理由」だ それ無しではいられない
おおよそ、あらゆる陣営には、そいつらにとって代わろうとする奴もいて
やがて、「メトセラ」(旧約聖書中の人物で、「長命」だった)のように生き延びる
断言していい 奴らは、密かに言い合っているに違いない
(ルフラン)

des idees reclamant le fameux sacrifice,
les sectes de tout poil en offrent des sequelles,
et la question se pose aux victimes novices:
mourir pour des idees, c'est bien beau, mais lesquelles?
et comme toutes sont entre elles ressemblantes,
quand il les voit venir, avec leur gros drapeau,
le sage, en hesitant, tourne autour du tombeau
(au ref.)

犠牲を要求する「思想」
様々な「セクト」が、その傷跡を示してくれる
問題になるのは、何も知らない犠牲者たちだ
「思想」のために死ぬ それはけっこう でも、「どれ」にする?
どれも似たり寄ったりじゃないか
それが「大旗」掲げてやってくるのが見えると
賢者は、ためらいながら、墓の周りをぐるぐる回る
(ルフラン)

encore s'il suffisait de quelques hecatombes
pour qu'enfin tout changeat, qu'enfin tout s'arrangeat!
depuis tant de "grands soirs" que tant de tetes tombent,
au paradis sur terre on y serait deja
mais l'age d'or sans cesse est remis aux calendes,
les dieux ont toujours soif, n'en ont jamais assez,
et c'est la mort, la mort toujours recommencee...
(au ref.)

それから「大虐殺」がいくつかあれば満足だろう
終いには、すべてが変わり、すべてがうまくいくぞ、とばかりに
これまでの、どれだけの「革命の夜」で、どれだけの人が犠牲になったのか
もうそろそろ「地上の楽園」ができても良さそうなもの
でも、「黄金時代」は、絶えず先送りされ
神々は相も変わらず渇いていて、決して「満足」することがない
そして「死」は...、「死」は相も変わらず繰り返される
(ルフラン)

o vous, les boutefeux, o vous, les bons apotres,
mourez, donc les premiers, nous vous cedons le pas
mais, de grace, morbleu! laissez vivre les autres!
la vie est a peu pres leur seul luxe ici-bas;
car, enfin, la Camarde est assez vigilante,
elle n'a pas besoin qu'on lui tienne la faux
plus de danse macabre autour des echafauds!
(au ref.)

さあ、あんたたち 「火付け役」、「聖者さん」よ...
死んでごらんよ 真っ先に! 道は譲ってあげるから...
だけどこれだけは...他の奴を道連れにするのはやめな!
どうにか生きていることが、唯一の「贅沢」なんだから...
結局のところ、「死神」だって注意深くて
「死の鎌」を振りかざしたりすることも
死刑台の周りの「死の舞踏」も、今さら、必要のないことさ!
(ルフラン)

「犠牲」を強いる「カルト宗教」、または、「聖戦思想」を、厳しく戒めた曲と言えますが、ブラッサンスは、レオ・フェレ(1916-93)のような、大衆を「扇動」するようなスタンス(現在の感覚で言うと、それ自体が「どーよ」って感じですが...)ではありませんでした。パイプをくゆらせながら、「まあ、そんなもんでしょ」という感じなのです。ブラッサンス自身、「深刻になり過ぎてはいけない...歌なのだから」と話しています。

それにしても、ブラッサンスの「自作」の詞というのは、その「長さ」もさることながら、「成句(決まり文句)」のオンパレードですね(ブラッサンスは、「推敲」に、時には「数年間」も費やしたといいます)。
第2クウプレの「il n'y'a pas peril en la demeure」(何も慌てることはない)や、
第3クウプレの「les saint Jean bouche d'or」(弁舌家、または「正直者」)などは、
このまま、「辞書」にも、「用例」として載っています。
なんか、小難しい「四字熟語」や、「ことわざ」で話をする「おじいさん」のような感じもしますが、ブラッサンス自身は、「国民的詩人」として、大衆に広く愛されました。

続いての曲は、とても「古い」作品ではありますが、現代の映画の「挿入歌」としてもよく使われ、すっかりおなじみとなった「スタンダード・ナンバー」の1つです。
「カジノ・ド・パリ」のグランド・レヴュー「うごめくパリ」(1930年)からの1曲で、アメリカ出身の女性歌手ジョセフィン・ベイカー(1906-75, フランス語読みの「ジョゼフィーヌ・バケール」も、広く使われています)を代表する曲です。

「j'ai deux amours "2つの愛"」

愛するものは「2つ」... 私の「故郷」と、そして「パリ」...

ミスタンゲット(1873-1956)の「ca c'est Paris "サ・セ・パリ"」(1926年)と並ぶ、「パリ讃歌」だと言えます。

3曲目は、久々のダニエル・バラボワーヌ(1952-86)です。1985年10月発売のラストアルバム「sauver l'amour "愛を救う"」は、全9曲のどれもが「優れた」作品だと言えますが、実際に聴かれているのは、「tous les cris les S.O.S.」「l'aziza」「sauver l'amour」の3曲が「圧倒的」ではないかと思われます。

この曲「petit homme mort au combat "無名戦士の死"」(邦題は「仮」のものです)は、当時の「イラン・イラク戦争」がテーマだと言われていますが、この動画のコメントにもあるように、「いまだに現実」の問題です。ここにきて、この曲が「再評価」されているようにも思います。

ターバンを巻いた額には汗がにじむ
「神は偉大なり!」の声が上がる...

弔いの鐘の音に合わせて、その祈りに「酔う」...
名もない戦士が戦闘で死んだ
いかなる神が「それ」を望んだというのか...
その甚大な被害を、誰が「誇り」に思うのか...

最後に選んだ曲は、実は、ブログを書き始めて間もない1月27日付けでも採り上げました(テーマも今回とほぼ「同じ」です)。

1997年に作られ、アルバム「savoir aimer」にも収録された、フローラン・パニー(1961-)の名曲「chanter "歌う"」です。

私事で恐縮ですが、半年前のあのテロ事件以降、「喪章」のように掲げているスローガンが2つあり、1つは、先述の「j'ai deux amours, mon pays et "PARIS"」(愛するものは2つ...わが故郷と、それから"パリ"だ...)
もう1つが、この「chanter」の歌い出し、「chanter pour oublier ses "PEINES"」(歌う...その"苦しみ"を忘れるため)です。

3月にはブリュッセルでもテロ事件が発生し、「忘れる」ことはできないと思いますが、私は、これらの「歌の力」を、とりあえず「信じたい」。そう思います。
(daniel-b=フランス専門)