第13章 バトル -51- | d2farm研究室

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―51―

 1回目のバトルの結果は、ルーパスチームのパドックのメインモニターに映し出されている。
その映像を見て、ルーパスチームの応援団が、当然ながら歓声を挙げる。
全てのゲートにおいて、バトルに勝利して、1位でレッドゾーンを通過する──
そのノルマを、きっちり果たしたのであるから、優勝するための必要条件の一つを、クリアしたと言っていい。
今まで、漠然と期待感だけがあった優勝の二文字が現実のものとなった瞬間だったからだ。
「作戦も、何もないよね……勝つしかないんだから……勝ち続けるしかないんだから」
 ミリーが、モニター映像を見ながら、エイクに甘えるように話しかける。
「人間なら燃料補給とか考える必要なく突っ走れるんだけどな……機械というのは不便だよな……でも、イチロウさんもハルナも、この状況で、きっちり仕事するんだから大したもんだ」
「そうだよね……あの二人が、なんか、ちょっとだけ、カッコよく見えちゃった。
 あのZカスタムは、無限エネルギーで飛ぶ事だってできるんだけど……このレースは、制限多いからね……その制限が、いろんな面白要素なのは、間違いないんだけど」
「俺は、宇宙用のクルーザーとか乗ったことないからなぁ……その制限とか無限エネルギーってのは、ちょっとピンとこない」
「だったら、あたしが、連れて行ってあげる……エイク…さんが行きたいところ」
「ありがとう…ミリーちゃんは、やっぱり、かわいいなぁ。その時は、ユーコも一緒でいいか?あいつも、宇宙を飛び回ったりすることは、滅多にないから、喜ぶと思うよ」
「あ……そうだね。ユーコさんも一緒がいいよね」
「太陽系レースのアマチュア規定がなくなれば、俺やユーコもパイロットで参加できるんだけどな」
「その時は、あたしがナビゲータやってあげるよ」
「嬉しいけど、プロ参戦OKとなったら、スポーツ選手が揃って参戦すると思う……そうなれば、無理してミリーちゃんにお願いしなくても、ナビゲータは見つかると思う」
「そうか…そうよね。やっぱり、アマチュア規定は、そのままのほうがいいのか…」
「先のことは、レースが終わって、ユーコやハルナが帰ってきたら、ゆっくり温泉にでも浸かって計画を立てよう……ハルナたちが、あんなに頑張ってる……しっかり応援してあげようぜ……ね、ミナトさん」
「そうですよ……ミリーちゃん、エイクさんを口説くのは、全部、終わった後で」
「いいなぁ、ミナトさんは……しっかりイチロウの心をゲットしちゃったんだから……にやけすぎですよ」
「あ……わたし、そんなに……にやけてますか?」
「はい……思いっきり」
「だって、イチロウくん、ずっとトップのままなんですよ……ミリーちゃんだって、カッコいいって思うでしょ」
「う~ん、あたしは、普段のイチロウを知ってるから……カッコいいとは思えない」
「あれ?さっき、ちょっとカッコいいって、思ったって……」
「ミナトさんって、地獄耳……」
「壁に耳あり……障子の裏にミナトありって……覗きのプロ……ミナト・アスカワに聞こえないものなんかないんですよ」
「それって、自慢していいことじゃないですよね」
「え?わたし、いつも自慢してますよ……ミリーちゃんの全身の黒子の位置も全部記憶してますし……」
「ミナトさん……あのぉ……言っておきますが、覗きは、犯罪ですよ」
「?……へぇ……ミリーちゃんも、イチロウくんと一緒のこと言うんだね……ということは、イチロウくんと、そういう関係なんだ」
「そんなわけないじゃない!!誰が、あんな下品なイチロウとなんか……」
「そっか、近くにいるっていうのも、いいことばかりじゃないんだ……イチロウくんのいいところ……っていうか、本質……ミリーちゃんには見えてないんだね」

 Zカスタムを中央に挟む形で、5機のトップ集団が形成されている。
そして、さらに、ここに1機の機体が加わってきた。カナリがパイロットを務めるポリスチームのポルシェ9281RP…通称カナリア・バードである。
『ついに、女子パイロットを擁する全てのチームがトップ集団を形成する形となりました……カナリア・バードは、Zカスタムを阻止することができるでしょうか?』
『いえ、ポリスチームの狙いは、Zカスタムではなく、クイズセッションでトップ通過を果たしたウイングチームです』

「予定にない作戦は、お前らしくないと思うが、だいじょうぶなのか?」
「ウイングチームが、いつもと異なる行動に出ています。あいつらの行動目的を確認するため、このバトルは、今、仕掛けないといけません……それに、トップ5を、無名チームだけで争わせることは、わたしのプライドが許せません」
 ジョン・レスリーの問いかけに、カナリは、即答する。
「本音を言ったらどうだ?」
「本音?」
「バトルがしたいのではないのか?」
「部長は、したくないのですか?」
「今回は、しっかり勝ちに行かないと……お前に、文句を言う度胸のある奴はいないが、私に対しては、勝てないことを批判する輩がいるんだよ」
「そんな輩は無視されれば、いいですよ」
「カナリ……笑っているのか?」
「はい……ボクシングでも、作戦変更は、よくあること……相手に合わせた的確な作戦の変更ができる事が、常勝に繋がるのです。作戦は、あくまでも作戦……それに、わたしだって、堅いだけの頭ではないのですよ」
 ポルシェ9281RP……カナリア・バードは、ターゲットをウイングチームに絞り、ウイングチームのポイント的独走を止めるため、トップ集団に襲いかかる。
Zカスタムのレッドゾーン進入は、敢えて無視し、オレンジゾーンを1位で突破するコースに進入していく。

『カナリアバードが、1位通過を狙っています。この行動は、Zカスタムも気付いたはずです。どのような行動に出るか、楽しみですね』
『位置的には、どうなっていますか?』
『トップ4の位置は、まず、ルーパスが、第2ゲートまで、後30秒の位置ですね。コースは、最高得点のレッドゾーンコース……そして、そのZカスタムと同じく、レッドゾーンコースに、ハートゲット、サットン、ウイングの3チームが固まっています。ゲートまでの距離は、31秒といったところですね……そして、ポリスチームが、オレンジゾーンコースを残り33秒で通過できるところに位置付けていて、なおも増速中です』
『ルーパスチームが1位通過を必須条件と考えているなら、ポリスチームに合わせて、スピードアップをしてくるはずです』
『今、Zカスタムのバーニアが点火されたようです…ここは、スピード勝負に行くしかないでしょう』
『ポリスチームの1位通過を阻止するためには、ポリスチームにバトルを仕掛けて、ポジションをポリスの前に取る必要がありますが、ポリスの位置が、オレンジの位置なので、バトルを仕掛ける為に、コースを移動してしまうと、レッドゾーンから外れてしまう』
『そうです、そうです。レッドゾーンをキープしながら、ポリスの前に出るには、スピードアップしかないですから……Zカスタムが1位通過する為には──』

「カナリさん……先のこと考えてるのかな?」
 なんの躊躇もなくスピードアップを選択したイチロウが、ハルナに問いかける。
「ポルシェの燃費が向上したって話は聞いてないから、作戦変更して、うちに合わせてくれたってことなんじゃないかな?」
『うちに合わせることのデメリットがいかに大きいか……思い知らせてあげようね』
 イチロウとハルナの会話に、エリナも加わる。
「チアキさんたち、ついてくるかな?」
「チアキさんは、当然、ついてくるでしょうね……ハートゲットも、当然ってところかな?」
「ポリスは、まだスピードアップ中か?」
「ここでスピードを緩めたら、スピードアップした意味がまるでないでしょうから……ゲート通過ギリギリまでは……あ……ポリスの狙いは、ウイングか」

『ポリスチームは、ウイングチームの真下に機体を位置づけています』
『ルーパスチームは、敢えて前に行かせて……ウイングチームにポイントを取らせない作戦ですか?』
『そういうことになりますね……ルーパスが、1位でレッドを通過すれば、ハートゲット、サットン、ウイングは、コースを変更しない限り、無得点となってしまいます。
 ハートゲットとサットンは、バトル後、下に障害物がありませんから、オレンジ、イエロー、またはグリーンに、それぞれコース進入位置を変更することができますが、真下にポリスがいるウイングチームは、レッド通過が果たせなかった場合、コース変更が不可能になります』

「婦警のお姉ちゃんに、にらまれたみたいね……どうする?」
「イチロウさんとのバトルは、一時お預けね……あたしたちと勝負したいっていうなら、あのポルシェ……相手にしてあげよう」
 ウイングチームも、作戦変更を躊躇わない。
ウミからコントロール機能を奪い取っているサエが、ポリスチームの意図を汲み取ると、すぐさま、ポリスチームの下……イエローゾーンぎりぎりの位置へとダブルウイングの機体を移動させた。既に、ゲートは眼の前に迫ってきている。
 一瞬の躊躇いが、この高速バトルでの結果を左右することを熟知しているサエは、自由に行動していいとウミから許可が下りた以上、絶対に、決断を遅らせることはない。
Zカスタムを標的としていた作戦を、あっさりと捨てて、カナリア・バードの迎撃のための位置取りを即時に決定した。

 ダブルウイングのトップ集団からの離脱を確認したサットンチームは、第2ゲートでのZカスタムへの体当たりのタイミングの変更を検討していた。
「ヒットアンドアウェイしかないようだね……ルーパスに体当たりを仕掛けた後、無理そうなら、ポリスにアタックを仕掛ける……グリーンまでは遠すぎるから……ポリスの鼻っ面を抑えて、オレンジゾーン通過を狙う」
「それしかないか……ノ―ポイントだけは避けないと」
 そう決断したサットンチームのプラチナリリィが、ゲートの少し手前で、Zカスタムに体当たりを仕掛ける。
体当たりをかわされた場合を考え、上方から下方へ……つまり、レッドゾーンからオレンジゾーンの方向へ押し出すようなコース取りで、Zカスタムにプレッシャーをかける。
Zカスタムは、加速バーニアを噴射したままの体制で、下方スラスターを噴射させる。そうやって、最接近を果たした、サットンのプラチナリリィを上方に跳ね上げる。
Zカスタムをレッドゾーンからの追い出しに失敗したことを瞬時に認めたサットンチームは、上方回避の後、ポリスチームに次の標的を定め、前方位置であることの利を生かし、ポリスチームのポルシェの鼻っ面に機体を押しつける。
カナリの乗るカナリア・バードは、サットンチームが仕掛けてきた瞬間、一瞬の判断遅れにより、スピードアップもコース変更もできず、プラチナリリィのプレッシャーを前方向から、もろに受け、機体のコントロールを失う結果となった。
レッドゾーン通過は、ルーパスチーム。
サットンチームとウイングチームが、ほぼ同時に、それぞれ、オレンジとイエローを2位通過する。
公式のタイム表示では、2位がウイング……そして、3位がサットンという結果が表示される。
かろうじて、Zカスタムとのバトルを避ける判断を下したハートゲットチームが、グリーンゾーンに機体を移動させることに成功し、4位通過。
サットンチームにより通過フラグが立ったオレンジゾーンを通過してしまったポリスチームは、ノーポイントという結果となった。

「機体の性能だけで、勝ってきた婦警さんチーム、意外とバトルに弱いみたいね……いきなり、飛びこんできたとこまでは、カッコ良かったけど……無策もいいところ……ね、お姉ちゃん」
『所詮、脳筋の婦警さんに、緻密な作戦は無理ってことね……バトルのリスクを避けて、ちまちま、ポイントを追加するほうが、得だって気付いたんじゃないかな?』
「わからないよ……油断は禁物……カナリ・オカダの覚醒は、まだ先かもしれないし、次には目覚めるかもしれないんでしょ……
 それより、ルーパスへの体当たり……生ぬるいかな?もっと、強く当たったほうがいい?」
『チアキが、プラチナリリィを制御できる範囲で、うまくやってくれればいいよ』
「うん……わかったよ……このじゃじゃ馬、ほんとうに言うことをまともに聞いてくれないから」
『エリナちゃん……面白い女の子だよね』
「やっぱり、お姉ちゃん、エリナちゃん、ほしくなっちゃったんじゃない」
『だから、何度も言わせるなよ…あたしは、胸のない女は相手にしないんだ』
「違うよ……メカニックとして……あの腕は、ちょっと異常な能力だと思うよ」
『まぁな……第3ゲートは、任せる……どうせ、こんなバトルを続けてたら、第2周の途中で限界になるだろうから、そこまでは、目いっぱい楽しんでくれ……第4周で、どの位置に戻れるかが…このレースの分岐点になる……少なくとも、今は、3位以上をキープできれば上出来だ』

 ゲートを4位で通過したハートゲットチームのコックピット内では、シエンとリーシャが、次の作戦を、どうするかで悩んでいた。
「困ったな~」
 言葉を発したのは、シエン。
「何を困ることがあるんだ」
「バトルはしたいんだけど……ノーポイントは、やっぱ、まずいよね」
「そうだな」
「素直に、3位狙いで行こうか?」
「それも、厳しい状況じゃないか?」
 リーシャの言葉の後、少しだけの沈黙の時間があり、シエンが、考えの淵から還ってこない状況に業を煮やしたように、リーシャが、次の言葉を発する。
「ポリスチームは、結構、雑だから、相手にならないと思うけど……問題は、ウイングのおちびさんたちだよね……あの状況で、2位キープって、どれだけ、スキル高いんだろう」
「もうさ……他のチームは、好きにやらせておいて、ノーポイント覚悟で、ルーパス狙いもありだけどね……あ~バトルしたい!!バトルしたい!!バトルしたいよ~」
 好戦タイプのシエンが、『バトルしたい』を繰り返す。
「終盤なら、それでいいけどさ……今は、ちょっと……」
「でも、Zカスタムだってさ、2周で限界だよね……あのスピードを維持するのって」
「3周目まで、あの調子だったら、どうする?」
「どうするって?」
「ルーパスが、ノーストップ作戦でくることはないと思うけど、ワンストップ作戦で、3周目、4周目まで全開で行けるとすると、状況は変わってくるよ……あの性能で、7周フルで飛ばしまくられたら……ついていけないよ」
「他のレギュラー組の判断は別にして、ウイングチームは、その可能性を見てるってことだよね……ここで、抑えに来た……もしくは、ポイントを取りに来たってことはさ」
「3周めでピットインするかどうか……見極めてからにしようか?」
「ピットインしなかったらどうする?ここで、ノーポイント覚悟で、ルーパスのポイントゲットを阻止しなかったら……独走されちゃうよ」
「次…やってみようか?」
「そうだね……まずは、ルーパスの前に出ないと勝負にならない……今から仕掛けようか」
「それしかないと思っていたよ」
 ルーパスとの真っ向勝負を決定したハートゲットチームは、1位を快走するZカスタムに、第3ゲートのずっと手前から仕掛ける体制を整える。

「畜生……あの女子チーム……わたしに喧嘩を売って、ただで済むと思っているのか……次、体当たりをしてきたら、絶対潰してやる」
 サットンチームの体当たりにより、このゲート通過をノーポイントで終える結果となったポリスチームのカナリは、相当、熱くなっていた。
「今のノーポイントは痛すぎる……」
「もともと……受けの戦法は、わたしの性に合わないんです。部長……次は、ウイングを直接、追い落としに行きます」
「こっちから、仕掛けるか?」
「今から、ガチバトルを仕掛けます。そうすれば、他のチームが割り込んで来ないでしょう」

 第2ゲートのバトルも制したルーパスチームに、パドックの応援団は、またしても大きな歓声を上げた。
「シラネさん……そんな、おっかない顔してないで、一緒応援しましょう」
 ミナトが、パドック入口で睨みを利かせたままのエリナ付きの執事……シラネに腕を絡めて、パドック内に連れていこうとしたところへ、ピットリポーターのスナオ・ハヤカワが、顔を出した。
「あの……メカニックのエリナさんにインタビューしたいんですが……よろしいですか?」
「駄目だ!!」
 シラネが即答する。
「ちょっと、シラネさん……そういう時は、一旦、エリナさんに取り次いでからが礼儀ですよ」
 ミナトが、怯えた顔で下をうつむいてしまった、スナオの手を取る。
「しかし、この娘が、刺客であれば、エリナ様に害が及ぶ可能性が……」
「そういうのは、ないから!!この子は連れていきます……シラネさんも、入ってください……大切なエリナ様を守りたいなら……エリナ様を一所懸命に応援することです」
 ミナトは、シラネに一瞥をくれると、スナオの手をぐいぐいと引っ張って、パドック内のコントロールルームへ連れて行く。
「エリナさん……インタビューですって…受けますよね」
「はい……スナオさんでしたっけ?」
「あ……ありがとうございます」
『お?ハヤカワさんですね…今、どのピットですか?』
「はい……わたしは、ルーパスチームのピットに来ています。メイン・メカニックのエリナさんにインタビューができるということで、マイクをいただけますか?」
『おお……もちろんです』
「エリナさん……いきなりの先行逃げ切り作戦……ここまでは、順調のようですが、このまま、突っ走りますか?」
「クイズセッションのマイナスを取り戻すには、この作戦しかありません……余裕は、まったくありませんから」
「この作戦の要となります、燃料補給は、何周目を予定されていますか?」
「それ……いわないとダメ?」
「いえ……でも、できれば、お聞きしたいなと思って」
「あたし、嘘へただから……燃料がなくなったら、補給します……これじゃ、答えになってないかな?」
「あ…でも……では、質問を変えます。1周目の現在のスピードが、公式計測で、49kmになっています。他の機体も、これに付いてきていますが、かなりの高速フライトですよね……減速のタイミングは、いつになりますか?」
「見てれば、わかりますよ……その綺麗な瞳で、しっかり、あたしたちの戦い……未届けてね……スナオさん」
「わかりました……エリナさんは、自信たっぷりで、このゲートセッションに臨んでいます。この1周目、おそらく、このまま行けば、ぶっちぎりのトップ通過が見えてきました。残り、6ゲートがんばってください……」
「あれ?残りは、62ゲートですよね」
「あ……はい、もちろんです。残り62ゲートのトップ通過を期待しています」
『ハヤカワさん……レポートありがとうございました』
『ルーパスチームのピットからは以上です』
『すごい自信ですね……ただ、減速のタイミングと給油のタイミングは知りたかったです……見てればわかると言われればそれまでですが……』
『おっと……すいません。今、ハートゲットチームが、ルーパスチームとバトルを開始した映像が捉えられました』
 確かに、トップを快走するZカスタムに、ハートゲットチームのハートオブディーノの機体が体当たりする映像が、メインモニターに映し出されている。
微妙に体当たりを避けるように左右に振り回されるZカスタムは、スラスター噴射を最低限に抑えることに必死となっていることが映像から伺える。
『今までのバトルは、ゲート通過前の1回のアタックで、追い出す方法を、どのチームも取っていましたが、今回のハートゲットチームは、燃料消費を無視した、執拗なアタックを繰り返しています』
 体当たりを仕掛けるたびに、ハートオブディーノのスラスターから、光線の矢が放出される。その光線が一方向ではなく、複数方向に噴射される場合もあり……どれだけ、このバトルに、エネルギーを費やしているのか、相当量の消費であることは、映像を見守る誰もが、容易に想像することができた。
「すごいな……レース終盤でもないのに、あれだけのしつこいアタックをするチーム……見たことないぜ」
 ルーパスパドックのエイクが、信じられない光景を見るように、モニターのバトル映像に眼を奪われ、誰に言うともなく、素直な感想を口に出す。
 ミリーが、心配になり、エリナのいるコントロールルームへ足を運ぶ。
そのミリーが、コントロールルームのドアを開けた時、ピットレポーターのスナオが、ちらりとコントロールモニターの燃料ゲージに視線を合わせる。
そのスナオの行動を察知したミリーが、コントロールルームの計器盤を隠すように体を移動させる。
ちらりと見えたZカスタムの燃料ゲージの位置……その位置は、95%を示していた。消費燃料は、ここまで、わずか5%という意味である。
(スタート時の加速……そして、その後の再加速と、ここまでのバトル3回で、燃料消費が5%って……)
 スナオは、太陽系レースのピットレポートを何度か経験しているが、このレースでの、燃料消費率の激しさは、良く知っていた。
だから、今、見た数値…燃料残量を示す数値の意味を、咄嗟には、見誤ったとしか思えなかった。
「エリナ……どう?」
「今、見られちゃったかな?」
「かもね……まぁ、見られたからって、減るもんじゃないから」
「見られて増えるなら、このブシランチャーの全員に、見てもらいたいくらいだよ」
 コントロールルームのドアを閉じて交わされた、エリナとミリーの会話は、当然、ピットリポーターのスナオの耳には入らなかった。
「今のバトルで、ハルナが、超一流のパイロットなんだって……実感したよ……ミリー、凄いよ……ハルナは……本当にすごい」