戦国時代にタイムスリップした俺、和田樹は『刃心』という『異端な力を付加する液体』を使用し、『五行術』のうちの『水遁』を使う忍者となり、初任務に臨んだ。任務を終了してまた忍の里に戻ってきた。


 「ただいま。」我が家に帰った俺は戸をあけると、バタバタと奥の部屋から少女がかけて来る。「お、おかえりなさいませ、樹さま!!」とその少女、おりんは走った勢いが余ってつまづき、前にのめりこむように倒れる。俺は一歩前に出て自分の胸でおりんを支え、手を添えてギュッと抱きしめる。「わぷ!!・・・・・ぇ?・・・・す、すいません、樹様・・・・・。」顔を真っ赤にするおりんに対して、すこし意地悪をしたくなった俺は「なんであやまるんだよ、りん。転ぶのは仕方ないことだろ?りんは悪くないよ。」といい、おりんは「ぃぇ・・・・。その・・・・・。だ・・・だだ・・・抱きつぃてしまっ・・・・・。」ゼロ距離である今でも聞き取れないほどゴニョゴニョというおりんに駄目押しで「あぁ、俺に抱きしめられるのが嫌ってことか、ごめんごめん。」と笑って見せると「そ、そんなことありません、わ、私は樹様をお慕いしております・・・・。」俺はてれながら「じゃ、不幸が転じて・・・・ってことか?」とおりんに笑顔を見せる。「はぃ・・・。そ、そのぉ・・・・。も、もぅすこしのぁぃだ・・・・このままで・・・。」というおりんに対して「わかった。」と返す俺がいた。帰ってくると迎えてくれる人がいる喜びをひしと感じていた。


 それからの生活は、昼には山へ修行と飯を調達しに行き、夕方からはおりんと二人で過ごした。そんなある日のことだ。修行をしにいつもの山まで行くと、肩までの長さの髪をした少年が先にいた。その少年はもじどおり一瞬で俺の懐へもぐりこみ、膝蹴りを腹部に打ち込んだ。平穏はつかのま、また俺の前に新たな敵があらわれた。

 陽炎はゆらりと敵の頭領である女の前へ出た。沈黙のうちに戦いは始まる。女が刀を振るう。陽炎はまるで揺れ落ちる木の葉の如く相手の刃を避け続けた。陽炎は苦無を投げつけて応戦するも、相手には決してあたらない当たらない。約数分同じ状況が続いた。流石の陽炎にも疲労の色が見え始めた。


 このままでは埒が明かないと思った陽炎は前進を試みる。肩の部分を掠ったが、確実に相手の背後を捕らえた。「終わりだ。」そういった陽炎は相手の左胸に苦無を突き刺した。『パキン』という金属音が鳴り響く。


 陽炎の苦無は確実に相手の心臓を貫く・・・・はずだった。金属音と共に苦無の刃が宙に舞う。そして『左手』で肘打ちを食らわす。陽炎は2,3m後ろに吹っ飛び、軽く吐血した。女はいやらしくこう言い放つ「痛いだろぉぉ?『この』肘打ちはぁぁ?あたしの左半身はねぇぇ、鋼鉄のように硬いの、五行の『金』にあたるのよぉぉ?」


 女の発言を聞いた陽炎はこう返す。「なり損ないの五行術者なんて里には五万といるよ、でもね、うちの里では誰一人と『純粋な五行術』が使えないと自分で『五行術者』なんて言わないのよ。理由は二つ。アンタみたいな下衆じゃぁないから、もう一つ。『真の五行術者』の凄さを知っているから。アンタにも見せてあげる、『真の五行術』をね。」


 陽炎の右手に炎の玉が出現し、そのまま相手へ飛ばし、相手が炎を振り払う瞬間に距離をとった。二人の距離、約『7m』敵の蛇腹刀が届く距離。女が蛇腹等を振り下ろし、凶刃を持った蛇は速度をつけて陽炎へと襲い掛かる。しかし、陽炎は避ける素振りを見せない。まさに刃が陽炎に突き刺さろうとしたとき、俺は我を忘れて叫んでいた。「陽炎おおおおおお、避けろおおおおお!!」


 しかし陽炎は避けず、刃は『陽炎』を引き裂き、地面に喰らい付いた。『陽炎』は確かに真っ二つにされたはずなのに、傷一つなかった。『蜃気楼』という奴だろうか。俺らが見ていたのは幻だった。『陽炎』の本体はまたもや相手の後ろをとっていた。そして左胸を『炎で赤く光る右腕』で貫いた。『圧巻』 まさにその言葉が似合う勝ち方だった。


 コレにて俺の初任務は終わった。帰り道、陽炎に「さっきは心配してくれたみたいだな?ありがとう。あの時は必死だったなぁ、お前。」といい、屈託のない笑みを見せた。コレは俺が初めて見た陽炎の笑顔だった。その笑顔のせいか台詞のせいか、俺の顔は真っ赤になっていた。「お?照れたかぁ?この、このぉ!!」と言いながら俺をヘッドロックに固める。胸に顔を押し付けられた俺の顔はさらに真っ赤になる。後で犬千代と花に聞いたのだが、あんな陽炎はそうそう見れるものじゃないらしい。この時からだろうか、陽炎に対して特別な感情を抱きだしたのは・・・・。

 犬千代との共同作戦の始まりだった。これはただ、犬千代の機動力だけを買っているわけではなく犬千代が狼へと変化することに重点を置いた策である。俺は自身の水術の一段階変化を使用する。『氷』ではなく『水蒸気』まぁもっと簡単に言うなら『霧』である。忍者らしく言うなら『忍法、霧隠れの術!!』とでもいうんだろうが、恥ずかしいのでやめておく。


 俺の読みは的中だった。俺はアジト全体を『霧』で覆い隠す。犬千代は自慢の機動力と『鼻』を駆使して相手の居場所を掴み、敵を殲滅してゆく。相手は霧の中大群で刀を振るうとどうなるかぐらい分っているだろう。それ以前にてきとうに振った刃が犬千代に当たるとは思えない。おそらく50人ほど倒したであろうころ、花の声が沈黙を切り裂く「犬千代、退いて!!」


 「ハッ、樹のやつ、やりやがる。」犬千代は一人で約五十人ほど殺していた。しかし、花の声が聞こえる『退け』と。そして犬千代は殺気を感じる。尋常ではない殺気。その瞬間たてがみを一瞬にして切断された。霧が晴れる。そして犬千代が見たのは、いくつもの間接がある刀をもち、右目に傷がある女。その女から禍々しい殺気は放たれていた。犬千代が引こうとした瞬間、女が刀を振るう。間接が伸び、刀身は犬千代にまで届く、その間合いは広く約7mほどであろう。再び犬千代はたてがみを持っていかれた。


 俺らのいる場所に戻ってきた犬千代に陽炎は声をかける。「よくやった、犬千代。お前じゃすこしきつい相手だ。私に任せろ。花、周りに注意を払っておけ、何かあれば樹と犬千代に対する命令権はお前にある。そして樹、お前はできるだけ私の戦いを見ろ。わかったな?」そういってゆらりと陽炎は前へでる。おそらく伊賀忍者最強のくの一であろう陽炎の戦いが、今始まる。