藤林は陽炎に語りかける。「樹も・・・おりんも・・・このような状態じゃ・・・。陽炎・・・『近き戦』はお主への負担が大きくなるという事を念頭に置いておけ・・・。」そして陽炎はこう返してその場を去る。「はい・・・剛蘭様。『奴ら』もそろそろ仕掛けてくるでしょう・・・。戦力不十分なりとも・・・私が穴を補いまする・・・・。」


 一方、犬千代と花に話しかける京香の話は核心へと迫っていった。「ある日ね・・・。『奴ら』が襲ってきたの・・・この里を・・。奇襲ってやつよ・・・。でも、最初に狙われた場所があの山だったから、私たちの被害は小さくて済んだ・・・。でもね・・・山の狼は全滅・・・。そう、銀色の毛をした狼の長も・・・。少年は・・・重症だった・・。でも・・・銀色の狼はその力を振り絞って少年の中に宿った。おそらく・・・その狼は何らかの形で『刃心』を口にしていたみたいだった・・・。そして、重症の少年は刃心の力によって一命を取り留めた・・・。そして私たちがその子を受け取った・・・・って訳さ・・・。」


 「そうだったのか・・・。」驚愕する犬千代と花。自分の中にいる狼が自分の親だと知り、なんともいえない気落ちがこみ上げてきた。「ういっす。犬千代。しんみりした顔しやがって!」近くを通った俺は犬千代に話しかける。「きにするなよ、あえてお前の過去は聞かないけどよ!お前はお前だ。俺にとってそれは絶対だからな!」


 犬千代は嬉しさが顔に出るのを隠しながらも「ばかやろっ・・・。」と小さく言った。三人、同じ道を通っていろいろな話をした。すると、大きな白い花が咲いていた。「月下美人よ!この国じゃ見られない花なの!」そう花は興奮気味に俺と犬千代に声をかける。俺はなんとなく花に「花言葉は?」と問いかける。「はかない美・・・。」


 この言葉は今でも俺の心の中奥深くにそっとしまいこまれてある。決して無くさないように。

 京香はそのまま話を続ける。「一匹の狼と少年の物語・・・だ。大野家が所有する山には多くの狼がすんでいる・・・。お前も知っているだろ?十年以上前、そこの狼の長をしていた狼がいた。毛は銀色で、勇猛果敢、山の狼たちはみな、尊敬してた。丁度・・・十年前ぐらいだろうか・・・。狼の長のもとには、一人の子供がいた。」


 「それが・・・犬千代なの?」花の問いを無視して京香は続ける「その子は山に捨てられた子供だった。狼の長は彼にとって親のようなものとなっていた。一人と一匹、寄り添いあって生きていったの。でもね・・・その生活は長くは続かなかったの・・・。」


 京香の話が続く一方、俺は藤林との圧倒的な力の差を見せつけられていた。速度、一撃の重さ、何をとっても今まであった忍の中で抜きに出ていた。その上、彼の力が何かをつかめぬまま俺は地面に這いつくばる事となった。攻撃はあたらず、捻じ曲げられた。完全なる敗北だった。


 「どうでしたか・・・彼は?」藤林の後方より陽炎の声が聞こえる。「まぁまぁじゃ、間に合うかどうかじゃな・・・。して、『おりん』の具合はどうじゃ・・?」陽炎は冷やかに答える。「未だ・・・『覚醒』はしていない模様です・・・。」

 俺は藤林の屋敷へとやってきた。屋敷に入ると藤林は各国から寄せられた依頼書を呼んでいるところであった。「長老、失礼します。」そう俺が挨拶をすると藤林はにこやかにこう返す「もうそろそろやってくる頃だと思っていたよ、樹殿。」俺は戸惑いながらも自分の意思を告げることにする「長老、自分の力を・・・試したいです。」


 その一方、犬千代は花とともにある人物の元へ訪れた。「本当に・・・私もいいの・・?」と不安げに聞く花。「いいぜ、お前には、一緒に聞いててもらいたい・・・俺の過去を・・・。」犬千代の声は多少引き攣っていた。彼の過去に何があったのか、不安になるのは不思議ではない。


 「ごめんね、遅れたわ。」そう言って二人のもとに現れたのは京香であった。「犬千代、今一度聞くわ、覚悟はいいのね?」そう京香に問われた犬千代は「もちろん・・・だ。」と言って強い視線を投げ返す。京香は次に花を見つめる。「貴方も・・・覚悟は出来てるの・・・?あの子の過去を・・・人一人の過去を知る重み・・・解る?」花はただ京香を見つめてコクリと頷く。


 京香の口が開かれる。「犬千代、あんたは大野家の子供じゃ・・・ないんだ・・・。」