藤林と廻神は思わぬ足止めを食っていた。風魔五鬼の一である『煙鬼』であった。あちらの攻撃もきかなければ、こっちの攻撃もきかないという厄介な相手である。文字通り煙であるので、掴む事も出来ない、射る事も出来ないとなると、まったくお手上げである。


「ぬぅ・・・甲賀の・・・・彼奴の動きを止めれるか・・・?」


「ほぉ・・・ご老体・・・策でもあるか・・・?」


 藤林は年だからやりたくもないと愚痴を零すが、それを無視して廻神は光となって煙鬼の下へ向かう。


「煙を捕まえる事なんて出来るわけないだろうが!!」


「案外・・・・そうでもないんですよ・・・・袋小路に連れ込めば・・・ね・・?」


 光は煙鬼の周りをひたすら回る。回りながらも光を放つ。するとどうか、何層もある光の玉が煙鬼を捕まえる。そして彼は人の姿になって剛蘭の隣に戻る。


「ご老体・・・貴方の番ですよ・・。」


「甲賀の・・・・腰を抜かすなよ。」


 剛蘭は凄まじい重力磁場を作り上げる。そしてその空間にポッカリと穴が開く。現代で言うブラックホールである。それが煙鬼を光の玉ごと吸い込んでいく。


「ほれっ、いくぞ・・・甲賀の・・。」


「お見事でした・・・ご老体・・・。」




 一方、俺達二人が合流したにもかかわらず、風魔小太郎には勝てていなかった。彼の体は全身鉄で出来ている様子で、風を纏った拳の破壊力は凄まじいものである。


「白・・・・・攻略法・・・ある・・・?」


「んー・・・・。ないかも・・・。樹君は・・・?」


 そのような事を言っていると、その場に一陣の風が吹く。そして難攻不落の小太郎が吹き飛ぶ。


「おいっ!遅刻だぞ・・・馬鹿!いつまで寝てんだよ・・・。」


「・・・・・・」


「シカトかよ!」


俺も、綾乃も、白も笑顔に戻る。ついに、風雅が帰ってきたのだ。

 炎を纏ってやって来る陽炎を見ても、俺には反撃の意思が湧かなかった。それも仕方がないと思う。何故なら、最愛の人を失ったつらさを知りすぎているから。そのような事を考えている俺に、燐は涙ながらに力強く叫びたてる。


「アンタのっ・・・・んっ・・・ひぐっ・・・・覚悟は・・・・・そんな物なの・・・?アンタが『彼女』を失って・・・・。その時立てた誓いはそんなものなのっ・・・・?・・・・・・立てっ・・・和田 樹・・・・見せてみろ・・・・『忍として生きる覚悟』をっ!・・・・佐助先生を殺した理由をっ・・・・私に見せてみろ・・・!」


「悪い・・・・大事なことを忘れてた・・・・。奥に居るんだった・・・・。この戦いの禍根がよぉ・・・・。そのためには・・・・アンタに貰った命・・・・ここでは捨てらんないんだよ・・・・。なぁっ!?・・・・陽炎・・・?」


 俺は着物の上半身部分を脱ぎ、月下美人の効果領域を上半身全体に広げる。その瞬間、髪は白く目は碧く変化する。そして、そのまま陽炎を抱きしめる。熱と冷気がぶつかり合い、周りには凄まじい衝撃がいきわたる。


「ごめんなっ・・・陽炎・・・・。あの時も・・・・今も・・・俺が弱いから・・・・守れなかった・・・。でもっ・・・・俺・・・・負けないから・・・・もう・・・負けないから・・・・・。ごめんな・・・陽炎・・・・。」


「いやっ・・・・アンタは強くなったよ・・・樹・・・。あたしは・・・・・アンタみたいな部下を持てて・・・すごく喜んでいる・・・。忍としても・・・・・・女としても・・・・。」


 最期に、陽炎は笑った。こんな状態であったのに。月下美人をといた俺の前には氷の柱が残った。その中にある人影は、もう左月のものとなって居た。右月は元の姿に戻り、絶叫する。


「左月姉さま・・・・!姉さまあああああ!」


 しかし、次の瞬間、彼女の姿は佐助の姿に戻る。


「都合良いときに戻ってんじゃねぇ・・・・。猿飛様は・・・・タダで操られたりしねぇ・・・。オイっ・・・・燐!?俺がコイツの動き止めておくから、止めを入れろ。」


 佐助は笑顔であった。彼は知っているのだ。彼女にとっても、自分にとっても、今この時は不の財産になりつつあると。それ故に彼女を忍として成長させようとしているのだ。


「でもっ・・・佐助先生・・・!私には・・・・・出来ません。」


「馬鹿者!んなもん・・・忍の世界じゃ通用しないぞ・・・・なぁっ、水龍の旦那!?アイツを見習え!誓いを立てろ・・・!俺を殺したアイツに『忍として』勝て!」


 涙ながらに燐は佐助に最期となる一撃を喰らわせた。


「先生・・・ごめんなさい・・・。」


「頑張ったねぇ~♪よーしよし。」


 そういって俺は彼女の頭を撫でる。すると彼女は高潮して俺の手を払いのける。


「ふ・・・・ふっ・・・ふざけるなっ!・・・・アンタこそ・・・・。・・・・・・行くぞっ!」


 最終決戦を前にして、燐とのわだかまりが解けた、そんな気がした。

 彼女の雰囲気、どこか憂いを感じさせるその炎、美しい黒髪、戦いの折に見せる表情、全てが、全てが陽炎自身のそれと同じであった。その様なことを考えると、赤い雪が降ってきた、そこは室内のはずであるのに。


「炎舞 一式 焔雪・・・。」


 舞い落ちる雪が俺に触れる瞬間発火する。それが技と知った時には無数の刃が俺を囲む。俺は腕に冷気を集中してそれに備える。


「炎舞 二式 炎刃・・・!」


 そう陽炎が言い放った瞬間、俺が今まで見てきた『炎刃』のそれとはまったく違った光景を目の当たりにする。全ての刃が一斉に襲ってきたのである。片手で月下美人を放ち、残った腕に氷雨を持ち、凍源郷を放ちながら炎の刃を打ち消す。最後の二つをいなした瞬間、陽炎の持った炎の刃が俺の下腹部に突き刺さる。


「炎舞 三式 炎牢・・・。」


 俺の腹部に刺さった刀を抜き去り、陽炎がそう言い放つと、俺は球状の炎の牢獄にとらわれる。そして陽炎は着物を脱ぎ、美しい肢体を露わにする。その瞬間、彼女の体に炎が纏われる。


「和田 樹・・・!アンタはここに何しに来た・・・・?アンタは過去に捕われにきたの・・・?違う・・・・全てを清算しに来たんでしょ・・?今のアンタは・・・・ただ過去に捕われてるだけじゃない・・・!?」


「お前に・・・・お前に何がわかる・・!自分が愛した最愛の人を・・・・・守れっ・・・・守れなかった辛さを・・・!?」


 俺の訴えは、何処か陽炎に放った台詞だったのかもしれない。しかし、陽炎は最後の技を繰り出す。


「炎舞 終式 焔美人・・・!」




 一方、白と綾乃が扉の奥で見たものは、血反吐を吐きながら倒れている面無の姿であった。