炎を纏ってやって来る陽炎を見ても、俺には反撃の意思が湧かなかった。それも仕方がないと思う。何故なら、最愛の人を失ったつらさを知りすぎているから。そのような事を考えている俺に、燐は涙ながらに力強く叫びたてる。


「アンタのっ・・・・んっ・・・ひぐっ・・・・覚悟は・・・・・そんな物なの・・・?アンタが『彼女』を失って・・・・。その時立てた誓いはそんなものなのっ・・・・?・・・・・・立てっ・・・和田 樹・・・・見せてみろ・・・・『忍として生きる覚悟』をっ!・・・・佐助先生を殺した理由をっ・・・・私に見せてみろ・・・!」


「悪い・・・・大事なことを忘れてた・・・・。奥に居るんだった・・・・。この戦いの禍根がよぉ・・・・。そのためには・・・・アンタに貰った命・・・・ここでは捨てらんないんだよ・・・・。なぁっ!?・・・・陽炎・・・?」


 俺は着物の上半身部分を脱ぎ、月下美人の効果領域を上半身全体に広げる。その瞬間、髪は白く目は碧く変化する。そして、そのまま陽炎を抱きしめる。熱と冷気がぶつかり合い、周りには凄まじい衝撃がいきわたる。


「ごめんなっ・・・陽炎・・・・。あの時も・・・・今も・・・俺が弱いから・・・・守れなかった・・・。でもっ・・・・俺・・・・負けないから・・・・もう・・・負けないから・・・・・。ごめんな・・・陽炎・・・・。」


「いやっ・・・・アンタは強くなったよ・・・樹・・・。あたしは・・・・・アンタみたいな部下を持てて・・・すごく喜んでいる・・・。忍としても・・・・・・女としても・・・・。」


 最期に、陽炎は笑った。こんな状態であったのに。月下美人をといた俺の前には氷の柱が残った。その中にある人影は、もう左月のものとなって居た。右月は元の姿に戻り、絶叫する。


「左月姉さま・・・・!姉さまあああああ!」


 しかし、次の瞬間、彼女の姿は佐助の姿に戻る。


「都合良いときに戻ってんじゃねぇ・・・・。猿飛様は・・・・タダで操られたりしねぇ・・・。オイっ・・・・燐!?俺がコイツの動き止めておくから、止めを入れろ。」


 佐助は笑顔であった。彼は知っているのだ。彼女にとっても、自分にとっても、今この時は不の財産になりつつあると。それ故に彼女を忍として成長させようとしているのだ。


「でもっ・・・佐助先生・・・!私には・・・・・出来ません。」


「馬鹿者!んなもん・・・忍の世界じゃ通用しないぞ・・・・なぁっ、水龍の旦那!?アイツを見習え!誓いを立てろ・・・!俺を殺したアイツに『忍として』勝て!」


 涙ながらに燐は佐助に最期となる一撃を喰らわせた。


「先生・・・ごめんなさい・・・。」


「頑張ったねぇ~♪よーしよし。」


 そういって俺は彼女の頭を撫でる。すると彼女は高潮して俺の手を払いのける。


「ふ・・・・ふっ・・・ふざけるなっ!・・・・アンタこそ・・・・。・・・・・・行くぞっ!」


 最終決戦を前にして、燐とのわだかまりが解けた、そんな気がした。