ゲレンデスキーで心拍数はどこまであがるのでしょうか(その2) | 旅はブロンプトンをつれて

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(前回からの続き)
やはり通勤時の早朝、近所の駅までブロンプトンで走るよりも、スキーのダウンヒルをやる方が心拍数はあがるようです。
ためしにコブ斜面も降りてみたのですが、こちらは長い距離を一定の速度で降りることができず、どうしても休み休みになる関係上、心拍数は普通の運動程度までにとどまるようです。

(もしモーグル選手のような滑りを立て続けにできるのなら、もっと心拍数も上昇するでしょうが)
翌日は八方尾根よりもお客さんの少ないHAKUBA47スキー場にて午前中だけ滑ったのですが、こちらは視界が悪くて慎重に滑っていた最初のうちは軽い運動程度にとどまっていたものの、視界が開けてきた10時以降は総滑走距離3,800mのダウンヒルを繰り返していたら、心拍数は120以上最大175(自分にとっての最大値を振り切ってしまいました)まで尻上がりに上昇してゆきました。
どうも心拍数を上げてゆくには、何のスポーツでも一定の時間以上苦しく感じる程度に運動を継続し、負荷をかけ続けることが大事なようです。
そしてスキーにおいては、危険にならないギリギリ程度のペースで、急斜面を含む全長5㎞以上(技術的に滑り降りることが可能なら、急斜面が続く3㎞くらいのコースでも良いかもしれません)の圧雪されたロングコースを大回りから小回りも含めてターンしながら止まらずに下ることのようです。
たしかに息を止めて行う短距離走では有酸素運動にはなりませんから、持久走に近い運動ほど効果があるということと合致します。

この「苦しくともどこかしらが楽しい」という体の動かし方に、健康のための秘訣があるような気がします。

でもスキー場においてこうした運動を続けるには、条件が3つ揃わないと実現できない気がします。
1番目には、そもそもロングダウンヒル(長い距離を滑ること)ができるコースをもつゲレンデでないと、まとまった距離を一度には滑れません。
それも緩急がついて、きちんと圧雪されているコースが上から下まで幅広に続いていることが条件です。
私が知っている限りでこういう条件を備えているスキー場は、長野県の野沢温泉、新潟県の妙高杉ノ原、そして今回滑った八方尾根やHAKUBA47スキー場ということになる気がします。

(北海道ならニセコだと思いますが、あそこは遠いし最近敷居が高くなったみたいで…)
ロングコースのランキングだけ見ると、山形県の蔵王や天元台、長野県の竜王などが出てきますが、これらのスキー場は交走式の索道(2台の搬器が交互に往来するタイプ)にどこかで乗らないと下からてっぺんまで登れないので、どうしても駅での待ち時間が長くなるように思いますし、今はどうか知りませんが、上越国際や湯沢高原など、昔は山の上まで短いリフトを何本も乗り継いでゆかねばならず、そのたびに待ち時間がのびてゆくのでした。
また、みつまた・かぐらスキー場のように、コース途中でいったん短いリフトに乗らないと山麓まで降りられないスキー場も条件を満たしてはいないことになります。


つまり、距離の長いリフトやゴンドラリフトで短時間に一気に山頂まで上がって、そこから同じく止まらずに下ってこれるスキー場でないと、心拍数を上昇させて滑るのが難しいのです。
スキー場の最長滑走距離というのは、ゲレンデがある山の高さや性質に左右されますから、上記を見てもらえればわかる通り、標高の高い山に設けられたスキー場の方が、どうしても有利になります。
ビッグネームなのに苗場スキー場が入ってこないのは、ゲレンデが横に広くて縦には長くないからでしょう。
それよりも魚沼川のより下流に位置する上越のスキー銀座にあるゲレンデは、八海山など一部を除いて、ゲレンデの標高差がそれほどないので、長い滑走距離を望めません。
また、中央道から見える富士見パノラマリゾートも見た目は縦長なのですが、最上部の標高が1,800m程度で山麓のそれが1,040mなので、最長滑走距離は3㎞ほどにとどまります。
それから、斜度の緩急は雪質や雪面の状況にも左右されます。
春以外は粉雪で乾燥している北海道のスキー場なら、急斜面でも深雪が積もっていればそんなにスピードは出ないのですが、シーズン中晴天が多い人工雪のスキー場(軽井沢や車山、上述の富士見パノラマ等が代表例)は、バーンが硬い分どうしてもスキーが前へと走り易くなり、その分ターンの数を増やさないと、同じスピードで制御・維持できませんから、抑えようとするぶん心拍数はあがると思われます。
要するに、あまり気持ちよく楽に滑っては有酸素運動にはなりにくいようなのです。


2番目には、いくら縦に長く滑れるゲレンデでも、ゲレンデに出ている人が少なく、すいていないと、上から下まで止まらずに降りてくることはできません。
バブルのころなど、下にいる人たちがどかないと滑り出せないほどの混雑でしたし、リフトに乗車するための待ち時間が長いと、休んでばかりの運動になってしまいます。
この点で、今のガラガラにすいているゲレンデは有酸素運動しやすい条件になっています。
なにせリフト乗り場に滑り込んでそのまま乗車できる場合が殆どですから。
それでも、スキーコースの途中に狭くて急な斜面があって、そこがボトルネックになって混雑していると、安全のためにどうしても一時停止しなければならなくなってしまい、自分のような怠け者は「ついでに少しここで休んでゆくか」と、他人の滑りの見物になってしまいます。
そうすると、せっかく上昇してきた心拍数がすぐに落ち込みます。


考えてみれば、例えば水泳で同じ運動をしようとしたら、長水路(50mプール)で200m、400m、800mなど長距離競技の練習をするか、50m、100mなどの距離の短い競技を短水路(25mプール)で練習するにしても、時計を脇においてインターバルトレーニングをしないと心拍数を上げることはできません。
実際に測っていないのでハッキリしたことはわかりませんが、ただ水に浮いているだけ、水中歩行を延々と行ったところで、心拍数の上昇は普通の運動にも届かないのではないでしょうか。
しかし、今の公営プールの開放日や、スポーツクラブの屋内プールにおいて、個人でそのような練習ができる場所があるでしょうか。
きっとマスターズ競技大会を目指すようなクラブに入って、プールを貸し切ってトレーナーのもとで時計を回しながら泳ぎ込まないと、そのような有酸素運動は継続できないと思います。
そう考えると、今のガラガラに空いているゲレンデは、(リフト券の高騰という頭の痛い問題はあるにせよ)チャンスなのかもしれません。
もしかしたら、ニセコスキー場の上部や、中央アルプスの千畳敷カールのように、スキーを担いで斜面を登り、そのすぐ後に長い距離を下れば、さらに重負荷のトレーニングになるのかもしれませんが、今の自分にはもう少し痩せないと無理だと思います。


3番目には、これが一番難しいのでしょうが、長い距離をある程度のスピードで途中止まらずに降りてくるということは、それなりの技術が無いと続きません。
今のカービングスキーは昔の板よりもターンがしやすく止まりやすいとはいえ、有酸素運動として長い距離を滑り降りてゆけば、後半はどうしても体全体がバテ気味になってきます。
すると両足に乳酸がたまってきて腰はガタガタ、膝もガクガクになり、両板がばらけてきます。
そんな時、うまく手を抜きながら心拍数を下げずに滑り続けるには、基本的な姿勢や操作がしっかりしていないと難しいのです。
これも水泳で比較してみると分かりやすいと思います。
未経験者にとって、4種目の中で一番難しい泳法はバタフライだと思います。
(背泳ぎも身体の硬い人には難しいかもしれませんが)
でも、バタフライの泳法をきちんとマスターしている人なら、1ストロークをゆっくり大きく動作する、いわゆる無駄なところに全く力が入っていない手抜きのバタフライで泳ぐことができます。
これに対し、バタフライが上手に泳げない、泳げても形だけで基本ができていない人は、優雅にバタフライを泳ぐなどということはできません。
それと同じで、タイムトライアルではないゲレンデスキーでも、長いコースの中には「ここは真剣着実にスキーを回し込みながら下る斜面」と「ここはわりとラフな感じでずらしたり、流したりして滑る斜面」と分けて滑らないと、最初から最後まで気合入れてキュンキュンとターンしていたら、或いはダウンヒル選手よろしく失敗したら命の危険があるような滑りをしていたら、5㎞以上のダウンヒルを止まらずに滑り切るなんて、普段ちゃんとトレーニングしていない自分はまずもってコースアウトで途中棄権だと思います。


だから、何のスポーツでもそうですが、はじめてからしばらくの間は、スクールに入るなどして基本的な姿勢や動作を身に着けて、それからゲレンデを自由に滑るようにした方が、生涯スポーツとして長く楽しめると思うのです。
いったん癖のある滑りが身についてしまい、それを大人になってから矯正しようとしても大変ですし、それは昔より道具が変化して技術的には容易になった今でも変わらないと思います。
でも、これってたとえばラジオ体操とかジョギングでも同じではないでしょうか。
基本ができている人って、大人になって体型が変わっても、いざ動くと美しい動作がちゃんとできます。
ラジオ体操のような一般的な体操も、続けていればだんだん身体が動くようになりますが、そのためには基本的な体の動かし方を知っていないと続かないのではないでしょうか。
ある程度の距離を走るのだって、太っていてもフォームがしっかりしてちゃんとした靴を履いて、その時の限界を弁えていれば、身体を壊すような走りにはならないと思います。
そのうちに痩せてくれば走れる距離も長くなります。
東京から京都まで尺取虫方式で踏破したときも、3日目くらいから歩く際のフォームに注意を払うようになりました。

もし心拍数をあげる運動を継続的に習慣として行いたいのであれば、むかし学生時代などにある程度の練習を積んでいて、基本的な動きが身についている種目を選ぶと続けやすいかもしれませんし、歩くことや走ることで挑戦するのであれば、最初に基本に注意して始めると良いと思われます。
いくら心拍数があがっても、三日坊主や途中でアクシデントに遭遇して終わったら意味がないですから。
私は、来シーズンからは他のゲレンデに行って長い距離を滑り、心拍数を測ってみようと思いました。
また、今回ゲレンデスキーで心拍数を測たことで、普段の自転車通勤で同じことをするにはどうしたら良いかについて、走る時間帯、区間、走り方を考え直す切っ掛けになりました。
皆さまも、趣味のスポーツに心拍計を持ち込んで計測してみると、改めて客観的に自己を眺め、普段の何気ない運動も変えてゆくことができると思います。
(おわり)