子どもの頃、通っていた幼稚園で販売して購入した絵本が家に何冊かあった。その中で記憶に残っている絵本は、幼い女の子がひとりで留守番をする話で、しんと静まり返った家の中で冷蔵庫のモーターの音が聞こえてきたり、おやつのケーキを食べようとするがフォークが滑って上手く食べられなかったり、お母さんが帰ってくるのを待つ女の子の心細い様子が描かれていた。本の題名はわすれてしまたったが、絵はおそらく、いわさきちひろさんだったような・・と思って探してみたら、おそらく以下の絵本かもしれない(投稿されているレビューを見ると、その可能性は高い)。
そして家にあったもう一冊が、『シャーロットのおくりもの』という絵本。これは絵本を読み聞かせの朗読が録音されたソノシート(薄い透明のレコード盤)が付いていたような、おぼろげな記憶がある。題名のシャーロットとは農場の納屋に住み着いている蜘蛛のことで、その納屋の一角には一匹の子豚が飼われていて、いずれは肉屋に売られてしまう運命にあるが、蜘蛛のシャーロットが機転を利かせて、蜘蛛の巣に細工をして子豚の命を助ける物語だ。その絵本を読んでいたのは自分は小学生低学年頃だったので1970年代半ば頃だが、その後、家の建て替え、引っ越しでそれらの絵本はどこかに行ってしまった。
しかし、5年くらい前にある出来事がきっかけで、この『シャーロットのおくりもの』の絵本を思い出し、調べてみたら、原作がE.B. ホワイトというアメリカの作家の書いた児童書であることを知った。むかし家にあったのは大きくてページ数も少ない絵本で、子供向けにだいぶ話が省略されていたものだったのだ。絵本に出てくる子豚の名前もすっかり忘れていたが、5年前にアイルランドのとある場所で、その子豚の名前と同じ名の大きな豚に会ったことや、その豚がいた場所の人々の活動などから、この絵本の物語を思い出した。早速Amazonで調べてみたら、児童書の洋書があり、Kindle本でサンプルを入手して最初の方を読んでみたら、先を読みたくなり、購入してみた。
この物語は、ある牧場で未熟に生まれた子豚が、どこかに連れていかれそうになるところを、近くに住むファーンという女の子がその子豚を引き取りウィルバーと名付けて育てるところから始まる。いつもウィルバーと共にいたファーンは不思議なことに、納屋で子豚のウィルバーや蜘蛛のシャーロット、他の動物たちが話していることが聴こえてしまうのだった。絵本の記憶ではウィルバーとシャーロットだけが印象に残っていたが、他にもネズミや羊、ガチョウなどが登場し、それぞれの動物の特徴を捉えた行動や喋り方が面白く表現されていた。また、動物たちの話のほか、子豚のウィルバーに夢中になっていたファーンが、成長して同世代の男の子に興味を持ちはじめたり、避けられない別れがあったり、はたまた動物の品評会での出来事など、動物が喋るファンタジーだけでなく、現実的な出来事も描写されていて、ファンタジーとリアリティが共存する素晴らしい物語だと思った。児童書なので英語もわかりやすく、特に自然や動物たちを描写する英語の表現が詩的で美しい。
そしてこの本を読み終えたら、巻末に同じ著者の別の作品の冒頭がサンプルとして掲載されていて、試しに読んでみたら先を読みたくなったので、Kindle本で英語版を入手してみたのが、以下の『The Trumpet of the Swan』だった。
これは『白鳥のトランペット』というタイトルで翻訳された単行本が販売されているが、あらすじは、カナダのある湿地帯の近くのキャンプ場に父親と夏休みを過ごすために来ていた少年は、ひなが生まれたばかりの白鳥の家族を遠くから観察していた。ある日、少年がいつものように白鳥を観察しに行くと、ひなを狙った動物が背後から白鳥家族に近づこうとしていて、それを少年が阻止することで、白鳥と少年の交流がはじまる。生まれたひなの一羽は声を出すことができなかった。白鳥は鳴いて仲間とコミュニケーションを取り合うため、声が出ないひなのために、音を鳴らしてコミュニケーションできるよう、お父さん白鳥がトランペットを街の楽器店から盗んでくるという突拍子もないアイデアを思いつくのだった。思いもよらない展開になり、物語に引き込まれた。白鳥のお父さんはロマンチストでいつもポエムを語ったりするが、お母さんはしっかり者で現実的。でもいざとなったらお父さん白鳥は、自分の命の危険も顧みない行動に出てしまう。声の出ない白鳥は少年と知り合ったことで、少年の通う学校で文字を覚えて人間と話せるようになり、トランペットも吹けるようになる。そして、夏のキャンプ場で起床や消灯を知らせるラッパ吹きの仕事を得て、お父さんが盗んできたトランペットの代金を返すためにお金を稼ぐのだ。渡り鳥なので、カナダと北米を股に掛けた冒険物語のようでもあり、白鳥がトランペットや、人と話をするために黒板とチョークを首からさげて、その後、また次々と所有物が増えていくのだが、そうして荷物を首にさげてあちこちに飛んで移動していく様子を読んでいたら、なんだか旅行で荷物が多めな自分は、荷物の多い白鳥にひどく共感してしまった。白鳥と言えば身一つで越冬のために遠距離を移動するが、このトランペット他を所有した白鳥の行動は人間味を帯びている。ある時は、有名な高級ホテルのリッツに泊ったり、動物園で興行をして人気を集めたり、バンドのマネージャーにスカウトされてジャズバンドに参加したりと、まるで音楽家かミュージシャンのようだし、それにまつわる苦労も描かれている。白鳥が擬人化されているところは、先の『シャーロットのおくりもの』と同様であり、また、人間の家族にもあるような白鳥一家のエピソードも印象的だった。また、白鳥の実際の習性もよく描かれていて興味深かった。
この本の巻末には、作者のファンに宛てて書かれた手紙が掲載されていて、興味深かった。このほかに、『Stuart Little』(『スチュアート・リトル』という映画になっている)もサンプルで冒頭を読んでみたら面白そうだったので、後で読んでみたいと思う。