前回は“汗”についての話をさせて頂きました。
記事はこちらからご覧下さい⇒http://ameblo.jp/csc-lab2015/entry-12186345027.html
今回は水分補給の仕方がどのように考えられているかの歴史をご説明させて頂きます!
実はこまめにどんどん飲めばいいというわけではないのです・・・
●水分補給に対する考え方の歴史
まず水分補給の歴史についてですが、1960年代まではスポーツ現場ではパフォーマンスを低下させるという考えから水を飲まない方がいいと考えられており、スポーツ活動中の飲水は禁止されていました。
しかし、1970年代から科学的検証が開始され、マラソンレースで水分補給を行わずに脱水の症状が進行すると熱中症の発症リスクが高まるということが明らかになり、スポーツ活動中の水分補給が脱水を防ぎ、パフォーマンスの向上・熱中症の予防に有効であるという考えが広まっていきました。
また、この時代にスポーツドリンクが商品化され、スポーツ現場では積極的に水分補給を行うようになりました。
アメリカスポーツ医学会は1975年から1996年まで度々スポーツ活動時には意図的に水分補給をするように勧めてきました。その量は1時間あたり600~1200mLという具体的な数字でした。
ところがそのアメリカスポーツ医学会が2007年に大きな内容の変更をしました。
それは水の飲みすぎによる弊害を再び報告したのです。
●アメリカ医学会による近年の報告~水の飲み過ぎによる弊害~
水の飲み過ぎによる血液中のナトリウム濃度が低下する低ナトリウム血症(水中毒)によってめまいや頭痛などの脱水状態と似た症状を呈することもあります。
特にマラソンなどの長時間の持久的スポーツで起こりやすくなる傾向が強く、水の飲み過ぎによって細胞内の水が多くなりナトリウムの濃度が低下(正常であれば0.9%に調整されている)してしまうことで起こります。
それはマラソン・トライアスロンなどの競技のトップレベル選手であればレースにより脱水症状を起こし、レース前よりもレース後では体重が減少しているのですが、一般レベルのランナーは近年の給水ポイントでは必ず水を補給しましょうという働きかけによって飲水し、レース後には体重が増えていることが多く、低ナトリウム血症になっている報告がされています。
ではなぜ体重が増えてしまうのか?それは一般選手(特に初心者選手)はトップ選手と比べて発汗量が少ない身体機能であるのにも関わらず、「水はできるだけ多くとりましょう」という働きかけによって多くの水分補給をしてしまい、水の飲み過ぎを招いてしまっているのです。
このため、アメリカスポーツ医学会は2007年の報告で飲水量を「体重の減少が2%以上」にならない量というように改め、水の飲みすぎによる低ナトリウム血症の予防を喚起する内容を追加しました。このため、水分補給量も個人差を考慮し選手個人による裁量に委ね、具体的な数値を提示しなくなりました。わが国においても、日本体育協会は体重減少が2%を越えない飲水を勧め、ランニング学会でものどの渇きに応じた水分補給を勧めています。ちなみにこの2%という数字ですが、一昔前の報告ではわずかな脱水においても運動のパフォーマンスが低下すると報告されていたために積極的な飲水が勧められていましたが、2%程度の脱水であればパフォーマンスは低下しないということが現在では認められています。特異的な例ですが、エリートマラソンランナーはレース終了後に8%にも及ぶ脱水状態になっているという報告もあります。
つまり、決まった量を全員に飲ませるのではなく、個々の体調や機能などによって飲水の量を調節することが必要です。普段から、運動後の尿の色・量をチェックしたり、細かく測定するには運動前後で体重を測定して脱水状態をチェックする事も必要でしょう。
これで水分補給に対する考え方の歴史の説明を終わりにします。
次回は“暑熱順化”についてのご説明をさせて頂きます!!










