タイプ
なかなか厳しいものがある。俺が内心でそんなことを考えているとは誰も気づかない。むしろ周囲のやつらは俺のことを、自信あり気にやっていると見てるんじゃないかな。全然そんなことねーって。コンプレックスの塊だ。多少、怖そうな人とも交渉しなくちゃいけない。それも昔のどさ回り営業の経験で辛うじて切り抜けている程度のことで。昔なんか理不尽なものだった。俺のせいじゃなく、先輩のせいなのに、クレームをつけてきた客の相手をさせられて、しかも上司らが途中で逃げ出して、俺だけ相手と一緒に取り残されたこともあった。株券投げつけて怒鳴りまくりの相手を、なんで青二才の俺が応対せにゃならんのかと泣けてきたが、会社側の立場を守ろうと必死で説明した。クレームの電話対応なんぞは何度もさせられた。客先の宝飾店で、2時間立ちっぱなしで説教くらったこともあった。宝飾店に来店する客には、何事が起こったのかとジロジロ見られながら、顔から火が出る思いで店の主人に罵声を浴びせられた。全部、俺のせいじゃないのに、先輩、上司の尻拭いをさせられた。それが俺の20代。プライドはズタズタだった。あの頃は、就職先を誤った自分の選択を呪ったものだ。それはそれでも、あの頃の経験があるからか知らないが、他の奴らよりはトラブル処理は一日の長があるのかもしれない。今でも自分でトラブルを引き起こすわけじゃないが、他の奴が招いたトラブルに誰も対応できなくなると、急遽、お呼びがかかって、その場を収めるということがままある。別にそれが俺の本来の仕事じゃないのだけど、なんとなくそういう役目が回ってくる。それなりの年配者で、従業員を多数抱える社長さんともなると、うちの若い奴らの生意気な態度にプライドを傷つけられて、手に負えないほどに怒り狂うということがわりとあったりする。うちの若い奴らの失礼な応対で起こったトラブルなれど、こちらも商売なので全面的に非を認める訳にはいかないので、その辺の微妙な駆け引きしながら相手の怒りを鎮めなきゃいけない。昔と同様、「なんで俺がこんなことしなくちゃいけないのか?」と心の中で苦笑しながら。今回も、長年銀座だか新宿で手広く商売やってる社長さんが怒りまくってるところに、リリーフで投入された。そうなった経緯も情報も何もなしで、「ややこしいことになってるから入ってくれ」と上司に言われて、準備もなしにいきなりリリーフに入った。仕方ないので、まずは、相手が怒りながら話している内容をつかむように聞いて、大体内容がわかってきたところで、こちらの理解できない箇所についての質問をしながら、通常の会話に持って行く。人の態度に対する感情論ではなく、問題点を整理する方向に会話を持っていければしめたもの。相手だって理屈の通らない商売人じゃない。商売上で発生した感情的な混乱だから、こちらが混乱を整理しようと逃げずに耳を傾けているのだということを訴えかければ、ちゃんとした社長さんなら、「こいつは話のわかる奴だ」と認めてくれる。後は、こちら側の悪かった箇所について「この点については、こちら側も改善すべきところだから、こうしろ」と若い奴に指示して「仕切り直しということで、再度、交渉をお願いします」と頃合を見計らって席を外す。俺が全部話をまとめてしまったら、若い奴にしても立つ瀬が無くなるだろうし、紆余曲折あっても最終的に話をつけられれば本人の自信にもなる。別にカッコつけるつもりじゃなくて、それでその後うまくいこうがいくまいが、正直なところ、そもそもその仕事は俺の仕事じゃないから興味がないというだけ。自分の興味がないことはしたくないタイプなだけ。