一旦は閃光電球のプロジェクトを終え、その後の私は電子楽器に取り組んでいたのですが、どうにも解決の糸口が見つからない壁に当たってしまいました。閉塞感打開には気分転換も必要と思い、先日来のナショナルPB-5への不満解消の路線延長で再びフラッシュ改造に手を出し、ここに追加記事の二回目を書く運びとなりました。

 

PB-5のソケット(PB-3も同じ)はバヨネット・AG・ミゼットの3wayで一見便利そうです。しかし実用的に満足なのはミゼットだけで、AGは東芝製の電球の扱いに多少問題がありますし、何より一番使用頻度の高いバヨネット(BA15S)で使いにくいのです。それは摩擦で電球を保持する形式のために挿入時の操作性が悪いこと、それより更に困るのはソケットの可動コマと固定側電極との接触の信頼性が低いことで、球を前後左右に揺さぶると導通が切れる事態が当たり前に起こります。後にミゼット対応を廃して2wayに簡略化したPB-5Sでもこの摺動部の造作はそのままですし、メーカーも途中で金型の修正をした形跡がありますが解決しておらず結局はPB-7で東芝と同じ「スプリング+ピンロック」形式に宗旨替えをして、やっと改善を見ました。

 

東芝のP-3 IIIとナショナルのPB-7のソケットは各メーカーの最終形態でしょうか? とにかく形式の試行錯誤に関しては「これでやっと落としどころ」、という感があります。それでもP-3 IIIはナショナルAG球の保持が緩くて時々落ちる、PB-7は東芝AG球の挿入が固くてエジェクト出来ない、という不都合は残したままで、これは穿った見方をすれば相互に「放置黙認」だったのかも知れません。

 

さて、高電圧一号機にせよ、FP制御機にせよ、元々私がPB-5を選んだ理由は内部スペースが一番大きく改造し易かったからです。その観点から着目したのが操作性も向上したPB-7ですが、スペースは東芝の各機種よりは余裕はあるものの、PB-5よりは少し狭くなっています。しかしこの「少し」が恨めしくも一線を越える差で、改造は格段に手間が掛かりました。また基板の裏にはPB-5では採用しなかった表面実装型の部品も多用していますが、ともかく主要部品は全て移し、これにてPB-5(改)は役目を終えました。

 

 

今回の改造では機能的に新たな発展はないのですが、使い勝手の改善を図りました。

まず、前作のPB-5ではX接点での使用には裏蓋を開きスイッチを切り替える必要がありましたが、本機は専用にシンクロターミナルを装備し、汎用のシンクロケーブルを挿すだけで全く在来型と同じ動作の発光器になります。しかもその接続はFP動作の撮影時も外す必要はありません。それが可能な理由は順序としてX接点はFP接点よりも必ず後に閉じるからで、この結果、発光器に取り付けたボタン(またはリモコン)でシャッターを切ればFPで動作し、カメラ本体のリリースボタンを押せばXで動作するという、言わば自動切換になるのです。

 

もう一つは、前作ではリモコンや接続ケーブルには汎用品への加工や自作を必要としましたが、今回作では全て無改造で使えます。長い短いとか、スペアとか、とにかく「市販品そのまま使える事は即ち重要な使い勝手の良さ」、と言うのも学びの一つで今回の収穫となりました。


 

一旦は全ブロジェクトの終了を報告しましたが、実は仕掛りのまま自分でも放棄したような気になっていた案件があり、今般、それを急遽ですが完遂させたので追加記事とします。きっかけは今春の夜桜撮影をしていて、ナショナルPB-5の3-wayソケット(バヨネット・AG・ミゼット)の出来の悪さがどうにも我慢ならなくなったことです。フォーカルプレインの同調機能を持つ発光器はそれ一つしか作っておらず、他に選択肢はありませんでした。

 

作ろうとしていたのは、あらゆる発光器に対応する「汎用FP同調アダプター」で、シャッター・リリースボタンを備えたものです。タイミング制御回路が発光器内ではなく、リモート・スイッチの方に入った形態とも言い換えられます。

そこで今回思い立って完成させたものですが、外観に見える部分だけでも、以下に示す三個イチの構造になっています。

 

  1. 元はワイヤレスアダプターの外装。上部(メス)ホットシュー付き、

     下部(オス)シュー無しだったもの。

  2. 下部(オス)シュー。ジャンクストロボから移植。

  3. シャッター・ボタン。ジャンクカメラから移植。

 

工作で何より大変なのは押しボタンです。フォーカス・リリースの二段階の動作をするスイッチは一般的な部品とはとても言えず、少なくとも使い勝手の良いものはまず入手できません。それならば「ジャンクカメラから簡単に取れるはず」と、誰しも考えそうですが、私の率直な感想は「実物を見た後でも同じことが言えますかね?」、です。これには細かい工作を得意と自負する人でさえ手を焼くはずで、まして私はこれを組付けただけの時点で根が尽きてしまい、そこから半放棄状態になったのです。

 

 

今回の再始動に当たり、ファームウェアは当初のPB-5用のものを修正し、設定可能なタイムラグ幅は-30~97msとしました。マイナス側に幅を持たせた意味ですが、シャッターが純粋に電子式のカメラにはリリース・タイムラグが閃光電球の発光タイムラグ(20ms程度)より短い機種があるため、その場合はシャッターと閃光電球との通電の前後関係が逆転するからです。

 

以上により、発光器は無改造品でも、また既に紹介した高電圧改造品でも何であろうと選ばず、フォーカルプレインの高速シャッターで使えるようになりました。中でも目下のお気に入りはオリンバス・ペンのFLASH CLで、ホットシュー接続は楽ですし、デジカメは高感度なので、この最小サイズのフラッシュでもほとんどの用は足りてしまいます。逆に明るさ第一の場合には、グリップ式フラッシュガンでエジソンベースの22/22Bでも思いのままということで。

 

それにしても、今年の夜桜は再発掘の良い機会を与えてくれました。私のこよなく愛するヤマザクラ達には大感謝するばかりです。

冒頭から書き始めるなり突然の極論ですが、市販されていた「発光器」という製品には技術らしい技術などありません。「制御もなく電気を流して電球が焼け切れる」、という、ただそれだけです。

しかし安価に供給されたのは事実なので、コストダウンのノウハウは活きていますし、この点は中小よりも大手メーカーの方が巧みだったと思います。それは東芝・ナショナルは消耗品たる「閃光電球」の販売が目的で、発光器は単にその手段であったことを考慮に置いてもです。

一報、閃光電球の方には化学を応用した様々な工夫の開発史があります。またその発光を同調させるカメラには新たなシャッター機構の開発に伴うタイミング制御の工夫があり、これは現在のストロボ制御技術に発展しています。電子カメラの時代になってもシャッター機構は進化し続け、特に最新の電子グローバル・シャッターはローリング歪や、人工光源の同調に関する状況を一変させてしまうはずです。

 

ところで私も実験や製作の傍ら色々と調べたおかげで、閃光電球には大変詳しくなることができました。その情報ソースとしては文字資料を読んだ事だけではなく、実験にもよっています。閃光電球を純粋な撮影目的以外で恐らく200発は消費しましたが、改造発光器のテストだけならば、そこまでの数が必要なはずもありません。そのためにダミーLED電球なども作ったのですから。消費の理由は光度曲線や電気的特性などの非公表のデータまで測定をしてみたからで、それらを自ら試してみるしかなかったのは、当時の関係者が誰もウェブ上には関連情報を書き残しておらず、いくら検索しても見つかりはしないからです。

 

閃光電球は今世紀の初め頃までは市販があったので、量産技術を知る人ならば今も探せば見つかるのでしょう。しかし新技術の開発は1960年代までなので、その生き証人は現在どれだけご存命でしょうか。つまり、インターネットが普及した頃合いには最早、新製品の開発や改良に携わった人たちは既に物故されているか、少なくともネット世界に関わりを持てないご高齢に達していたのだと思います。これではインターネット上でウェブサイトを丹念に探しても何も出て来るはずがありません。このような情報の断絶現象は他の分野でも良くあることです。

 

難しい開発史どころか、ずっと易しいはずの「使い方」についてさえ、少なくとも日本語サイトには満足に解説されたものは一つもないと思います。知りたければ1970年代中期までの古本を探せば網羅的な解説も出て来ると思いますが、それでも、

「将来発明される電子カメラを壊す危険があります」

などと未来の予測まで書いてある道理がありません。また私は英語は少なくとも回路設計するよりは得意なので海外サイトも探しに行きますが、やはり開発側の人が残した情報には行き当たらないのです。

 

詰まるところ、当時の技術資料とかメーカーの技報、工業規格といった古い紙資料以外に確かな情報源はないのですが、技術資料は図書館に残るようなものではありませんし、工業規格も市場の実態とは別物、という問題があるので、総合的な理解には多方面からの推理も必要だと思い知らされました。

このブログの大きなやり残しがあるとすれば、それらから導き出した知識の紹介でしょうか。

 

何はともあれ、これにて一連の投稿を一区切りとします。

目下の私はカメラとは関係のない分野に取り組んでいるので、この続きを書くとしていつになるとも分かりませんが、いずれまた。

 

擱筆

いよいよ本シリーズの投稿も終幕が近づいて参りましたが、ここまでの読後感はいかがでしょうか。取り付きは単なる古い発光器を原状回復しようとして始まった話ですが最初に予告した通り、高電圧などのアクセサリー類の製作に始まり、そこから高電圧発光器、FP制御器の内蔵、専用計算機、の各テーマを予測できた方は皆無との確信があります。

 

色々な観察や着想から現物へと昇華する経緯は、高電圧2号のP-3 IIがFP制御器PB-5より後の工作であった事以外は、ほぼ記事に書いた通りの順序で進みました。その発展過程こそが私が記録に残す最大の価値ありと思うところです。

 

各々の改造や工作に関しては着想と概要だけの記述とし、その詳細な方法は省略してきました。そもそもAG球だの、ブルーバルブだの、M級とレンズシャッターだの・・・と、閃光電球関係の写真用語についてさえ解説の一切を省いて来たにもかかわらず、仕上がってみればこの記述量になってしまいました。仮に回路や部品の入手についても説明をすれば、たとえ(アメブロにはありませんが)「電子工作」のようなカテゴリーで書いたとしてもこの3倍の量にはなるでしょうし、ましてカメラ・写真のカテゴリーでは何をどれだけ書けば良いのか見当もつきません。申し訳ありませんが、それだけの時間を使うよりは優先したい事が多々あります。

 

ただし「はじめに」でも少し書いた通りで、「こういう物があると面白い」というオリジナリティある着想が実現までの70パーセントは占めるのであって、残りの30パーセントは回路設計や工作を得意とする他人に頼むことのできる領分なのです。しかもその方が電気や情報は専門外の私よりも良いものが出来るでしょう。また、見方を変えると電子工作の出来る人でなければ、このブログで紹介してきたような改造や製作はとても無理なのですが、仮に出来る人ならば「何を集めてどうすれば良いか」が判断できるようなキーとなる記述はしてあります。

 

ただし閃光電球の発光器、という用途なりに気を付けてもらう必要があるのは、

 

 ・「暴発」は単なる誤動作ではなく事故。要因分析して徹底的に回避する

 ・発光器は電源スイッチがないのが常識。静止状態での電力消費を無くす

 

以上くらいだと思います。その他のこと、例えばトラブル時のカメラの安全確保などは回路設計の出来る人ならば当然考えつくでしょう。

先日、夜桜撮影にFP改造ナショナルPB-5で30発あまりを使ったところ、そのソケットの操作性と信頼性の低さに少々閉口しました。このように使えば使ったなりに問題点は出て来るものなので、ある程度の我慢とともに割り切りをしないことには、なかなかプロジェクトを終了して先には進めないものです。

ここまで紹介してきた製作で発光器のトリガを電子化した恩恵により、電子カメラのみならず、ワイヤレスのリモコン、光感応スレーブアダプターなどの汎用アクセサリにも安全に接続できるようになりました。

なお一般に光スレーブユニットは「閃光電球の発光でトリガ」はできません。理由は誤動作防止のため入射光の極めて急峻な立ち上がりを検出して動作する設計だからで、それができるのはストロボの発光だけです。

また別な応用例として、YONGNUOのワイヤレスリモコン・RF603をFP制御構改造のPB-5に簡単に接続できるように細工をしました。この汎用リモコンはシャッターもフラッシュも操作でき、しかも送信機と受信機がスイッチを切り替えるだけの兼用、つまり同じ物を数揃えるだけでスレーブ多灯照射にも複数個所からの操作にも使える、という便利な道具ですが、そのうち一個を送信専用とするためアクセサリーシューの雄雌両方を撤去して身軽にしています。

改造ではこのような割り切りを厭わないのが秘訣です。「元の機能は全部残しつつ」は邪魔な考えで、それを前提に置いては本当に使い勝手の良いものは出来ません(もっともこのケースでは割に簡単に戻せますが)。

これならばカメラのグリップと一緒に握ることも可能ですし、有線式よりも接続パーツは増えますが結果として操作性は非常に良好です。

 

 

ここで一旦、アイデアだけは出たが未実施の案件を整理しておきます。

 

まず、ワイヤレスの受信機はさすがに自作は無理です。しかし、市販品の基板を取り出してFP制御の回路と一緒に発光器内に組み込むことならば? 実物を分解してみた感想としては、電卓の基板の入れ替えよりは簡単そうです(もちろんソフト抜きのハード改造のみの手間との比較です)。

 

次に、露出計算機をスマホのアプリで作るということ。これは部品も工具も必要ないので、別に私でなくとも出来る人は沢山いるでしょう。

 

計算機のハードに手を入れ直すのであれば、レーザーか超音波式の短距離用の距離計を組み込めそうなスペースは残っており、距離入力まで自動化することもできそうです。計測には既に内蔵しているマイコンの余力で充分です。但しワイヤレス受信機組み込みの件も同様ですが、いま不可能なことが可能になるわけではないので、実行に移すかどうかはその時々の興味の持ち様によります。

 

カメラのシャッター・タイムラグを測定する目的では即製の回路をバラックで組み立てましたが、タイムラグや実シャッター速度は役に立つ実用データです。特に機械式シャッターでは許容幅か30%もあって最高速近くは公称より遅くて当たり前ですので、この案件はいずれ完品を作るかも知れません。

 

最後のアイデアはこれは大物で、現代のカメラとストロボがホットシューで交換しているデータの解析と利用です。

まさか今時、「あれはレディ信号とTTL発光停止と・・」などと言わないで下さい。シューの形は昔のままでも、今のカメラと高機能ストロボは多くのデジタルデータをあの部分を経由して相互通信しているのです。

しかしそのデータの解析にはハッカー的な集中力が必要かと思われ、まずその気になるまでが難儀そうですが、あらゆる応用に繋がりそうな発展性を秘めており興味はあります。