日本のモンキーレンチ-1
戦前編
コンビレンチからスパナに興味が広がってきましたが、初期のロブスターとTOPのモンキレンチを手に入れたこともあり、モンキーレンチにも目が行くようになりました。
(最近はブログ名の『コンビレンチ・コレクション』から完全に逸脱していますね)
実物が無くとも広告から商品を探り出すワザを身に付けましたので、戦前のモンキーレンチをまず本稿で解説します。
さらに、JIS認証を取得したメーカーを年代順に取り上げていきます。
『国産モンキーレンチは、このブログを見れば全てが分かる』に近づければ良いと思っています。
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戦前のモンキーレンチ広告からイラストを掲載します。
9社+αが見つかっていて、さらにその内の5社は実物が確認できています。
各社タイトルの年表示は、日本理器だけは販売開始年、他は広告の掲載年を示しています。
旧式タイプのモンキーレンチでは無く、いわゆるクレセント型を対象とします。
↑クレセント型と旧式タイプ
1. 竹内スパナ製作所…1927年
私が知る限り国産モンキーレンチに関する日本で最初の情報(広告)です。
そして、広告のイラストと同一の"S.T"モンキーレンチが見つかっています。
翌年1928年には日本理器からモンキーレンチが登場します。
1929年/昭和4年に自動車ジャッキ製造に事業転換していますので、モンキーレンチの製造は1929年までだろうと思います。
↑1928年広告
↓1927年広告("MONKEY WRENCH"と表示されたモデルもあった模様)
↑1927年『東洋金属名鑑』、1928年『同』
↑1959年『日本商標大辞典』、1928年『大日本帝国商工信用録』
・1914年/大正3年に"竹内鐵工所"を設立し、スパナとモンキーレンチの製造販売を開始。(⇒"竹内スパナ製作所" ⇒ 1938年"竹内工業所" ⇒ 1950年~現在"竹内工業")
・ロゴ"ST"は、スパナの"S"と竹内の"T"の組合せ。
・1929年/昭和4年にスパナから車用ジャッキに事業切り替え。
★日本で最初のモンキーレンチについて
日本で最初のモンキーレンチ広告は、私が確認した限りでは前述の通り1927年の竹内製作所/S.T印です。
それでは、最初のモンキーレンチ製造販売は、どこだったのでしょうか?
竹内製作所/S.T印は、『1912年/大正元年に工具の生産販売に着手』と説明されていてますが、モンキーレンチの存在が確認できるのは広告の1927年です。
但し、それ以外の主要メーカーは、以下の通り全て1927年以降ですので、竹内製作所/S.Tが一番最初の可能性が高いと思います。
しかしながら、情報源が主に広告であり、広告を出せない中小メーカーが、米国クレセントの形状を真似て1927年以前に可鍛鋳鉄で簡易にモンキーレンチを作っている可能性もあるだろうと思っていますので、引き続きウォッチしたいと思います。
可能性のある中小メーカー名は、非JIS編のこちらにて。(日本製:全56社)
=主要なモンキーレンチメーカーの状況=
・日本理器…製造開始1928年(社史より)
・東邦工機…創業1926年、工具メーカーに転換1935年、初広告1936年
・恩加島鉄工所(現・日本鍛工)…HAPPY印工具1930年、初広告1935年
・政井金属工業所…創業1933年、初広告1936年
・大阪工具/O.K.N…創業1919年、商標登録1934年、広告1939年
・東京鍛工所/TDF…創業1918年、スパナ製造も1918年、モンキーもスパナと同時期とされていますが、恐らく作っていたのはモンキーでは無くパイプレンチ
※『戦前のスパナ』は、こちらにて。
2. 日本理器/RK印…1928年、エビ印…1929年
① 日本理器モンキレンチの第1号/◇RK印…1928年
・商品本体には会社名表示(日本理器)が無いため、どこ製だろうと思っていましたが、日本理器がRK印の広告を出していました。(日本理器 ⇒ RIKI ⇒ RK)
② エビ印/LOBSTERとしての第1号…1929年
・RK印の翌年1929年に本命のエビ印が登場します。
・最初/1929年~1932年は、部分鍛造(ジョー部のみ鍛造、本体は可鍛鋳鉄)。
※日本理器モンキーレンチの最初の2種①、②については、更なる詳細をこちらで解説しています。
③ 初の全型打鍛造…1932年

・1932年に製造方法を可鍛鋳鉄から鍛造/Drop Froging(落とし鍛造)に変更すると共に、全型打鍛造/All Drop Frogingによる製作に成功。
・鋼材は軟鋼を使用。(戦後の1949年まで)
※軟鋼:炭素含有量(約0.18-0.30%)、硬鋼/俗に炭素鋼(約0.40-1.00%)
・販売開始時期の説明がありませんが、同年または翌年1933年。
・上の実物写真は、その1933年製。
★初期のモデル変遷
日本理器のモンキレンチは1928年に始まっていますが、『ロブテックス創業120年史』より最初の5年間(1928年~1932年)に4段階の変化があるのが分かります。
(1) 赤枠…1928年/日本理器としての第1号モンキレンチ/RK印
(2) 青枠…ウォールナット部と下アゴ部を改良/RK印
(3) 緑枠…1929年/ロブスターブランドの第1号モンキレンチ
(4) 紫枠…1932年/全部品を鍛造化
・上段に"ANGLE WRENCH"、下段に"LOBSTER"、その右にエビ印ロゴ、さらに裏面に"DROP-FORGED-STEEL"という基本デザインは、前述の全型打鍛造1932年に始まり、戦後のJIS認証取得モデル(1951年)まで続きます。
・細かな差はあり、1932年モデルだけエビ印ロゴとマル孔の間隔が狭く、1941年~1951年の裏面は"DROP FORGED STEEL"(ハイフォン無し)、1951年にはJISマーク。
★エビ印として最初の商標登録
エビ印の最初の商標登録は1930年で、エビ印とRK印が合体しています。
RK印が1928年、エビ印が翌1929年とほぼ同時に商品が登場していますが、エビ印を新たにロゴにすると決めたものの、会社名の理器/RKも入れたいという迷いがあったのかなと推測しています。
ちなみに、このエビ印とRKの合体ロゴは、結局商品にも広告にも登場しません。
戦前モンキーレンチ群の中で日本理器に関しては戦前についても豊富な情報があります。
戦後も含めた詳細は、日本理器まとめページのこちらにて。(全モデルを掲載)
3)ハッピー印/恩加島鐵工所 (現・日本鍛工)…1935年
日本鍛工HPに『1930年にHAPPY印作業工具の製造開始』と説明されています。
1930年の製造にモンキーレンチが含まれているかは不明ですが、少なくとも1935年の広告にはモンキーレンチが掲載されています。
↑↓1935年9月版『全国工場通覧』
日本鍛工のロゴは、"◇θ"(シータではなく、デザイン化された漢字の"日")なのですが、この時の会社名は恩加島鐵工所ですので、◇に"O"(恩加島/Okajimaの"O"?)になっています。
広告と同一の"HAPPY"モンキーの写真を読者の方から頂きました。
現場で今も現役で使用しているとのこと。
裏面の”HAPPY TOOL MFG CO."は、広告内にあるように販売が『ハッピー工具販賣會』で、その英語名になっています。
ロゴの"◇D OK F"は、恩加島鐵工所の鍛造品/"OKajima Drop Forged"から来ているのだと思います。
恩加島鐵工所は1937年に日本鍛工に名称変更していますので、このモンキーは1930年~1937年製となります。
4)モンキー印/東邦工機…1936年
東邦工機のモンキーレンチは、まさしくモンキー印でした。
S字型と通常のクレセント型の2種類がありましたが、最初の広告(1936年、37年)はS字型でしたので、まずS字型から発売されたのだろうと思います。
モンキレンチに"HIT"ロゴが登場するのは戦後になってからです。

↑東邦工機の広告に載ってはいるものの、"BANKO"が正体不明です。
↑1936年『工業仕入案内』と1938年『工業仕入案内』
戦後も含めた詳細は、東邦工機まとめページのこちらにて。(全モデルを掲載)
5)サウンド印/政井金屬工業所…1936年
サイズ5種類が全て広告に掲載されています。
↑1936年『標準機械大観』
↑1938年『大阪市工場一覧』
6)O.K.N印/大阪工具…1939年
クレセント型"O.K.N"(全鍛造)とバーコ型"SERPENT"の2種を製造していた模様。
↑1939年『東京川口神奈川機械器具商工業者要覧』
↓1941年『標準機械大観』
↑1935年『日本政府登録商標大完』(1934年に商標登録)
↑1939年『工業人名大辞典』、1934年『工業評論』
・1919年に大阪工具製作所設立
(『恩加島鍛工所より独立』、『鉄道省より独立』との異なる資料があります)
・1935年に大阪工具(株)へ改編
7)◇BK印/阪南工具製作所…1940年
・裏面の"HANNAN TOOL CO."より大阪の阪南工具製作所と分かります。
・1940年にだけ会社資料が存在しますので、戦前だけの会社だったようです。
・ロゴが◇BKになっています。
・"DROP FORGED"との表示がありませんので、ジョー部も含めて可鍛鋳鉄製なのかと思います。
↓可動ジョー部の当たり面下方が細くなっているのが特徴的です。
↑1940年『工具取引案内』
8)大王印/旭工具製作所(現・旭金属工業)…1941年
傾きが23度とほぼ0度の2種が広告に載っています。
↑1941年『工具取引案内』、1942年『工業年鑑』
9)不二工具製作所…1941年
村山機器工業という工具商社のカタログに不二工具製作所製を謳った作業工具やタップなどの切削工具が多数掲載されています。
但し、会社情報としては東京(旧・芝区)で1925年/昭和元年に創業との情報があるだけで、詳細については不明です。
モンキーレンチの商品情報としてカタログに複数種類が載っています。
No.962のS字は独GEDOREに似ていて、No.963は東邦工機のモンキー印(猿印)のモンキーレンチに見えます。
また、バンコ印として独GEDOREとスエーデンBAHCOが載っていますが、バンコ印は東邦工機の広告に自社製として登場するブランド名です。
正直なところカタログの内容が良く理解できず、不二工具製作所製のモンキーレンチについては良く分からないというのが正直なところです。
↑1941年 村山機器工業『機器総合型録 第3号』
↑1935年『全国工場通覧』
10)テイコク印/帝国工具製造…1943年
1938年に航空機、自動車部品と工具製造を目的として創業した帝国工具製造も太平洋戦争が始まってからモンキーレンチの広告を出しています。
戦時中のイラスト付き広告は、非常に珍しいと思います。
商標が"テイコク"では無く"テイコウ"に読めます。
↑1943年『機械工作雑誌』7月号、8月号
↑1938年12月15日発行『官報』
【参考-1】TDF/東京鍛工所
100年以上前から鍛造によるスパナを生産していた東京鍛工所が、モンキーレンチも作っていたと会社説明に書かれています。
一方で、全鍛造製品の集合写真にスパナは含まれているものの、モンキーレンチは写っていません。
また、TDFスパナの広告はあるものの、モンキーレンチは含まれていません。
したがい、TDFモンキレンチが存在していた可能性は50%程度と考えています。
【参考-2】サンダー印/伊藤商店
サンダー印という鍛造工具ブランドがあり、大同機械工具製作所が生産し、伊東商店が販売していて、解説資料によるとモンキーレンチも含まれています。
但し、下の広告を見ると旧式モンキーレンチが載っています。(左のスパナ上)
クレセント型は確認できませんので、参考扱いとします。
↑1939年『躍進工業大観』、2つ共に
★BAHCO/バーコとCRESCENT/クレセントについて
1)BAHCO
モンキーレンチは、スエーデンのJ.P.ヨハンソン氏が1891年に考案、1892年に特許を取得しています。
さらに、ヨハンソン氏も会社立ち上げに加わったBAHCO (B A Hjorth & Company) により商品化されました。
↓1892年スエーデン特許公報
↑最初のバーコ
↓1926年バーコ
BAHCOカタログ1926年(モンキーレンチ特許解説)⇒ こちら
同 上 (モンキーレンチ商品解説)⇒ こちら
Alloy Artifact "BAHCO"解説 ⇒ こちら
2)CRESCENT
1906年に創業した米国CRESCENT TOOL社をスエーデンからの客人が訪れ、ヨハンソン氏特許に基づくBAHCOモンキーレンチについて口頭で説明。
それにインスパイアを受けてCRESCENT TOOLS社が傾き23度のモンキーレンチを作り上げ、1909年に発表しました。
これがクレセント型と呼ばれ、モンキーレンチ(Adjustable Wrench)のスタンダード形状になります。
↑アメリカ工具解説サイト"Alloy Artifact"より(1926年頃のクレセント)
↓クレセント1926年カタログNo.17より。
CRESCENTカタログ1926年/No.17 ⇒ こちら
Alloy Artifact "CRESCENT TOOL"解説 ⇒ こちら
100年も前の話なのに、全ページカタログから商品解説まで揃っているなんて、アメリカの工具文化が羨ましいです。
3)日本での戦前カタログ
↑1930年『日本標準工具型録』
↓1941年 村山機器工業の『機器総合型録/第3号』
・右側にBAHCO15度モンキーレンチが載っていますが、何故か"バンコ印"と記載されています。(東邦工機の1938年"BANKO"モンキーレンチと関係があるのか??)
この回、終わり
日本のモンキーレンチ/全13編には、こちらから




















































