春のダイヤ改定に先立って春休み~ゴールデンウイークの臨時列車の告知がJR各社から発表される頃になりました。
しかしその裏では青春18きっぷの愛好者を筆頭に人気のあった東京~名古屋・大垣間の夜行快速「ムーンライトながら」(以下「ながら」)が廃止されることになり、鉄道ファンの間では残念がる声が相次いでいました。
東日本旅客鉄道:春の増発列車のお知らせ
https://www.jreast.co.jp/press/2020/20210122_ho01.pdf
東海旅客鉄道: ”春”の臨時列車の運転計画について
https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000040932.pdf
時事通信:「ムーンライトながら」運転終了 大垣夜行、歴史に幕
JR東日本とJR東海は22日、東京駅と大垣駅(岐阜県大垣市)を結ぶ臨時の夜行快速列車「ムーンライトながら」の運転を終了すると発表した。国鉄時代から「大垣夜行」として親しまれてきたが、車両の老朽化に加え、深夜高速バスや安価なビジネスホテルの充実で使命が薄れ、歴史に幕を閉じる。
大垣夜行は普通列車として運行。普通・快速列車が乗り放題となる「青春18きっぷ」で利用でき、安価な移動手段として人気だった。1996年からは全席指定の「ムーンライトながら」として運行してきた。
近年は夏休みなどに合わせた臨時列車となっていたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で昨年3月以降は運行されていなかった。
2009年3月改定まではJR東海の373系電車で定期列車として毎日運行されていましたが、同改定から臨時列車に格下げされてしまいました。
その後運行期間を短縮しながらもJR東日本が保有する183系や185系といった国鉄から継承された旧型の特急電車を使い、老体に鞭打つかのように深夜の東海道本線を駆け抜けていきました。
しかし執筆時点では183系は引退済み、185系も廃車が始まっていること、中央本線(甲府方面)の特急あずさから東京から伊豆方面の特急踊り子に転用されたE257系や成田エクスプレスのE259系で運行しようにも今度はJR東海仕様のATSを搭載したりJR東海サイドで乗務員やメカニックの教育訓練が必要になります。
373系ならながらに復帰できるじゃないかと思うかもしれませんが、今度は373系からJR東日本仕様のATSを外してしまったため再度取り付ける工事が必要になります。
また停車駅では深夜に改札を開けて駅員を配置しなければならず、指定席料金を徴収しているとはいえながら運行時の駅員や乗務員の勤務シフト管理などを考えると採算性が悪いため、これらのコストパフォーマンスを考えると本音としては一日も早くながらを廃止させて保線作業時間やJR貨物にながらの枠を譲りたかったのかもしれません。
臨時列車の快速「ムーンライトながら」につきましては、お客さまの行動様式の変化により列車の使命が薄れてきたことに加え、使用している車両の老朽化に伴い、運転を終了いたします。
この一文に批判が集中していましたが、東海道新幹線の車両の世代交代が進んでスピードアップが図られたこと、駅周辺の安価なビジネスホテルが普及したこと、JR東海にとってはグループ会社とはいえながらの競合相手となるJR東海バスが運行するドリームなごや以外にも高速ツアーバスから転換された高速バスが増えたことが挙げられます。
高速バスではながらとは対称的にパーキングエリアでの休憩を除いて基本的に深夜帯の乗降はなく、車内の照明も深夜も煌々と灯すながらに対して高速バスは真っ暗とは行かないまでも明かりを落として運行されるため、安眠を妨害される要素が少なくなります。
また高速バスでは国鉄バス時代のドリームなごやに回帰するかのように運賃を抑えて4列シートの車両で運行される路線も現れ、JR東海バスも対抗的に青春ドリームなごやを運行しています。
4列シートの高速バスで一人客はなるべく同性同士で隣り合うように座席を割り振る路線がほとんどですが、現行のJRのマルスシステムでは座席指定券で男女別の考慮がないため、万が一の犯罪行為を考えると女性客としてはながらを不安に思うかもしれません。
その過程で新幹線や高速バスでは客席に携帯電話充電用の電源コンセントやUSBポートを設置する車両が増えましたが、臨時列車として旧型の特急用車両で運行されるながらにはそれらがなく、移動中の充電ができないことから、JR東日本&JR東海の指す「お客さまの行動様式の変化」にはこれらの環境も含まれているという意見もあるようです。
ながらの廃止理由に利用者の行動様式の変化というのが挙げられてたけど、充電の必要な機器を持ち歩くようになったのに対して車両をアップデートしないもんだから、夜行列車を宿代わりにするような旅行がしにくくなったというのもあるかもしれない
— T-24(08nl) (@3710dc205) January 22, 2021
ただ静岡空港があるとはいえ羽田空港・成田空港・セントレアへの便はないため、静岡県から3空港への早朝便への需要は少なからず存在するのと、登山家やコミケ参加者のように夜討ち朝駆けで活動する場合に高速バスでは不都合な部分も発生することから、天下の東海道本線としては何らかのフォロー策を求めたいところではあります。
また周遊きっぷ廃止もながらを窮地に追い込んだ影響のひとつと考えられます。
中部日本放送:CBCテレビのYouTubeチャンネルに大垣夜行375Mの最終運行の映像が上がっていましたが、もうこんな旅もできなくなるとなると寂しさを感じます。
ながらを廃止に至らしめたほかの要因には利用客や鉄道ファンの不正行為や暴走もあります。
一つは座席指定券のまとめ買いによる不正利用。
AB席とかCD席のように隣り合った2席を同時に購入して隣を手荷物置き場に使うのは序の口、前後の2席もオットマン代わりに買い占めて4人向かい合わせにして一人で独占するケースもありました。
車内改札を担当する車掌にとっては座席指定券を没収しなければならないとはいえ頭痛の種だったと思います。
もう一つはその座席指定券をまとめ買いしてヤフオクやメルカリなどのインターネットオークションサイトで転売するダフ行為。
510円の座席指定券に万単位の価格が付いたこともあるようですが、特に臨時列車移行後はそのトラブルが相次いだように思います。
転売できず売れ残った座席指定券はマルスという予約システムのサーバーに戻されたかは存じませんが、旅行スケジュールの変更で不要になった座席指定券はなるべく早く駅の出札窓口やJR券を扱う旅行会社、ないしは各鉄道会社のウェブ予約サイトで取り消し手続きを行い、乗りたい人が一人でも恩恵を得られるようご協力をお願いします。
そして3つ目はさよなら運転を追いかける鉄道ファン、俗にいう葬式鉄の暴走行為です。
近年は愛称付き列車の廃止や旧型車両の引退で最後の姿を記録しようとする鉄道ファンが駅や沿線の撮影スポットに殺到するようになり、さまざまなトラブルが相次いでいます。
対象の列車を理想的な構図で撮影すべく、駅のプラットホームで白線から線路側にはみ出すどころか沿線で鉄道敷地内や民有地に立ち入って他の列車に支障を及ぼしたり、それが元凶で鉄道ファン同士どころか駅員・警備員・警察官・地主・地域住民とトラブルになって鉄道ファンが締め出されたケースもあります。
このように鉄道会社が鉄道ファンの暴走に頭を痛めた結果、さよなら運転に及び腰になったことで最終運用も特別列車も告知せず「人知れずさよなら」的に引退させる方向に向かう可能性も危惧しなければなりません。
実際2020年に行われた東京メトロ日比谷線の車両大型化に伴う03系から13000系への置き換えでは、千代田線6000系の最終運行で懲りたのか特別な告知もなく人知れず03系を撤退、今回のながら運行終了もこの形になったものと思われます。
僕の大垣夜行~ムーンライトながらの履歴は中学卒業時の名古屋行き375Mが初めてでした。
ただ東京着が早すぎるため復路は日中か夜行バスになることが多く、このときは熱海or小田原から215系の快速アクティ、学生時代の卒論取材では京阪神ミニ周遊券を使い往路ながらで米原から朝の新快速通勤輸送を視察、復路はドリーム大阪のヨンケーレモナコに乗りました。
社会人になってからは記憶があやふやですが、愛・地球博や知多乗合のFCHV-BUS実証運行取材で乗ったのを最後に東京から中京・関西はほとんど高速バスになってしまいました。