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僕の両親の実家がある大津市では毎年10月に大津祭りが開かれる。
祭りは宵宮と本祭りの二日間。京都の祇園祭をコンパクトにまとめたような祭りで、本祭りでは13基の曳山(ひきやま)が町内を巡行する。
巡行のスタート地点の天孫神社では宵宮から敷地一杯に出店が出揃う。景気の良い頃は神社に留まらず町内中に店が並んだらしい。

祭り自体は好きやねんけど、この大津祭りにはもう10年近く行ってなかった。んなわけで、久しぶりに行こかなと考えていた。
そんな折に、じいちゃんからお誘いがあり快諾した。話し合いの末、本祭りじゃなくて宵宮に行くことになった。理由は一通り祭りを堪能したら、その足で飲みに行きたいというじいちゃんの強いご要望のため。プランはじいちゃんに一任した。


当日、じいちゃんと落ちあって大津駅を出るとすぐに祭囃子が聞こえてきた。鐘、太鼓、笛の賑やかで軽快なアンサンブル。

そうそう、この感じ!!懐かしいー!!大津祭りやぁー!!

胸を躍らせながら、まずは神社に向かった。お賽銭をして拝んでから、夜店やら老若男女やら囃子やら声やら、甘かったり香ばしかったりのニオイやら、提灯や店の明かりやらでゴチャ混ぜの境内を徘徊した。お祭りムード全開。

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気分は小学生。テンションはアゲポヨォォー‼
大人ぶるなんてダサいことはしいひん。祭りでは好奇心と欲求に素直になるのが一番楽しい。

まずは小腹を満たそうか。僕は匂いにつられてフランクフルトの列に並ぼうとした。
その姿を見たじいちゃんがまさかの一言、

「この後、わしと飯食いに行くんちゃうんか?こんな出店なんかのモン食うやつがいるか。」

…まじかよ!!醍醐味否定してるやん。サゲポヨォォォォーーーー!!!!
じいちゃんの真剣な眼差しを見て諦めた。僕は精一杯大人ぶることにした。
それからはトランペットを眺める少年のような目で出店をただただ見るだけやった。雰囲気だけを楽しんで神社をあとにした。


神社の次は、各町内ごとに一基ある曳山を見て回った。各山の上では、威勢のいいお祭り男児らが祭囃子を演奏していた。

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ある曳山を前にして、

「これは、おばあちゃんが育った町内の山や。昔から何も変わらん。」

とじいちゃんが言った。ばあちゃんも小さい頃この大津祭りで、今と同じこの曳山を見てたんか。その時ばあちゃんはどんな気持ちやったんやろか。まぁ大したことは思ってなかったやろけどよ。不思議な感情になってた。
世代や時代を超えても変わらず受け継がれていく…。無常感を覚える一方で、人のたくましさを感じたりした。いろいろと感慨深くなる。絶やしたくない文化やなとしみじみ思った。

あ、ちなみにばあちゃんはご健在なんでご安心を。
じいちゃんが酒を飲むことに健康管理上、断固反対なばあちゃんはその日「自宅待機」という形でストを決行してた。

町内を歩き回って、いよいよお待ちかねの飯。場所はじいちゃん行きつけの居酒屋。席はいつものカウンター。
じいちゃんは店主や仲のいい常連さんに会うたびに「孫や」と嬉しそうに僕を紹介した。僕にどんだけの価値があんねん…。まぁ今の僕にわからんのは当然やな。僕は目一杯の笑顔で挨拶した。

出てくる料理は大学生の自分にとって豪華なもんばかりやった。BGMは店の外から聞こえてくる祭囃子。なんて贅沢なんやろか。
若干遠慮がちに注文する僕にじいちゃんは、たまにやねんから食えやと一言。ならばと僕はガンガン食い、どんどん飲んだ。

会話の内容はなんてことのない雑談ばかりやったけど、「自分の商売みつけなあかんで。」と言われたことは強く残ってる。
商売な。僕はどんな人生になって行くんやろか。…ふぅー。


腹も満たされて、酔いも回って僕らは店を出た。さぁ帰ろうか、と思った時、じいちゃんは駅とは反対を目指した。
思わず僕は「おじいちゃん、どこ行くんよ!?」と聞いた。じいちゃんは「2軒目や。」と当然のように答えた。
驚愕しながら、「飲みすぎやで。おばあちゃんに怒られるで!!」と言うとじいちゃんは鋭い眼光をこちらにとばして、

「今日は祭りや。」

と啖呵を切った。
ただの言い訳にしか聞こえへん。でも、もうどうしようもない。僕らは2軒目に向かった。




蛇足…。
以前、毎年のように来てた頃にも子供ながらに感じてたんやけど、この大津祭りでは地元住民の密接な結びつきをかなり実感する。町内の人ならお互いがお互いのことをしっかり知っていて、町全体が家族のような感じ。今の核家族の問題とは真逆の関係性が浸透してるように思う。良い意味で戦前の日本って感じ。ん~ベルエポック。純粋に憧れる。たぶん大津祭りみたいに年に一回でも町内の人達が団結する機会があることが大きいんやろな。

えぇなぁー、と思う。



iPhoneからの投稿

9月から近所の道場で柔道をやってる。理由は、なんとなく段が取りたくなったから。

昔10年程やってたんやけど、同じく10年程のブランクがあったんで、0からの気持ちで挑んだ。ところが良い誤算。自分でもビックリなほど体が動きを覚えてた。考えるよりも早く体が反応しよる。人体の不思議アルネ。

とは言うものの、肉体は明らかに衰えてる。この1ヶ月で全身筋肉痛、肉離れ、ろっ骨のヒビ、腰痛を経験するという見事なオンボロ具合。練習が終わる度に、あしたのジョーの最終回みたいになる。

道場には大学生や社会人も通ってるんやけど、メインは小学生のチビども。やつらは思ったことを遠慮のカケラもなく、まんま言葉にしてまいよる。
今週はコルセットをしながら柔道をする僕を見た小4の女の子に「お前、ポンコツやな」と言われた。なんて女や。

僕はチビどもから『ヘルメットジジイ2号』と呼ばれてる。「ヘルメット」ってのは、原チャに乗る姿を見て。「ジジイ」ってのは、年上やから。チビども曰く150歳に見えるらしい。「2号」ってのは、僕以外の大学生にジジイ1号がおり、その流れに巻き込まれた。(ちなみに最近、試合で有段者を倒した結果、敬意を表してか『スーパーヘルメットジジイ2号』に昇格した。)
ハイセンス過ぎるネーミングに当初は笑ってたけど、今では呼ばれるたびに、「名前長いやろ」とか「はよ飽きろや」と僕は人知れずつぶやいてる。

そんな小悪魔なチビどもを束ねるのが鬼の道場長。YAWARAの猪熊慈五郎をそのまま実写化したかのようなおじいちゃん先生。柔道をこよなく愛し、何事にも厳格で、道場の端っこで正座して練習を見守る姿には威厳がある。
どっこい残念ながら、このお方も多少ブッ飛んでる。柔道以外のスポーツをサラッと否定する傾向もある。

道場に入りたての頃、チビどもや親御さん方の前で僕を紹介して頂いたんやけど。その時の言葉が「彼は長年やった柔道をやめて、野球という道に迷い込んだ事に深く後悔しとる。」から始まった。
そんなこと、一言も言った覚えはない。完全なるジジイのアドリブ。堂々たる公然捏造。その後もチクチクとかんにさわる紹介文句が続いた。
一番強烈やったんは「柔道を続けていれば今のような人生ではなかったやろうと、彼は悔いとる」というお言葉。腹立たしさ以上に色々と僕の心にタイムリーヒットした。誰でもいいから、とにかくこのジジイを黙らせてくれ。
一通り紹介を終えると道場長は僕に、挨拶しなさい、と一言。僕は猛烈に反論したい気持ちを抑えて「よろしくお願いします」とだけ言って皆に頭を下げた。

鬼の道場長には、さすがの小悪魔チビ連中も口出しできひん。
新しいトレーニングを導入する際、道場長が「この動きはキョーンシに似てるから簡単に覚えれるやろ?」と言った。
「きょーんし?」という雰囲気が立ち込めた。ものがわからん。生き物?それとも何かの奥義的なもんか?
理解できんかったけど、道場長の動きを見てすぐに謎が解けた。キョンシーやった。中国の妖怪みたいなゾンビみたいなやつよ。
キョーンシ...。惜しいけど、違う。
チビ連中はツッコミたくても、恐くてツッコめない。その場にいる皆がジレンマと戦ってた。空気を察して、他の先生が恐る恐る道場長の耳もとでささやくように、

「先生...、キョンシーです。」

と言った。道場長は眉間にしわを寄せながら「ほうか」とだけ言って何事も無かったかのようにトレーニングの説明を再開した。チビどもの間に安堵感が広がった。
ところが、次の下半身を鍛えるトレーニングの説明で、道場長が「これはカンガールをイメージしたらええ」と発言したことで、場は騒然とした。その動きは完全にカンガルーやった。
またしても、惜しいけど、違う。...わざとか?いやそんなオチャメなじいちゃんではない。
道場長のプライドを気づかって、もはや他の先生方もツッコめへん。
いよいよ我慢できんくなったチビどもは顔を見合わせて、「カンガルーやんな?」、「また伸ばすとこ違う」と鬼に聞こえない音量で確認し合ってた。そっちが気になって肝心のトレーニングが全く入ってこんかった。

...とまぁ、こんな出来事が日常の新鮮な練習風景です。


話が散らかったけども。つまるところ何が言いたいかって、SoftBankの電波弱すぎるやろってことやな。
何はともあれ、今までとは違う環境に足を踏み入れるのは何やかんやでオモロイな。当たり外れはあるやろけど、全部含めてオモロイよな。少しばかりの勇気はいるけど。



あと、これはどうでもいいけど、柔道の基本理念に「柔よく剛を制す」ってのがある。鬼の道場長も時々言う。
確かに同じ位の体型とパワーの者同士の場合、柔よく剛を制すと思う。でも、柔道経験者同士で圧倒的な体格差(40キロ以上くらいの差かな)がある場合、この言葉は幻想になるということを実感する日々やわ。僕やったら、相手が110キロあたりを超える玄人なら、ただただ試合前に敵が大怪我するのを祈ることしかできひんな。
そら奇跡的なタイミングでパーフェクトな技をかけられれば自分よりはるかにデカイ相手を倒せるんやろけど。そんなんできる人間はYAWARAか、いなかっぺ大将の世界にしかおらんと思う。だから純粋な強さで言うと「剛よく柔を制す」ってのが真理じゃい。

父の影響もあってか、僕は風呂屋が好き。疲労がたまった時やら気分転換したい時なんかに一人でフラっと行く。

先日も例のごとく通い慣れたスーパー銭湯に行った。電気風呂やらジェットバスやら露天風呂やら、バリエーションが豊富で飽きひん。
気のおもむくままに色んな風呂を転々としてると気付けばいつも2時間近くは経ってる。

風呂屋において特にこだわりは無いんやけど、一つだけ、僕の中で絶対的なポリシーがある。
それはフィニッシュの決め方、『サウナからの水風呂コンビネーション』。
これをクリアせん限り、僕は悠然と風呂場をあとにすることはできひん。

その日も心ゆくまで風呂を堪能して、一人えびす顔で大団円を迎えようとしてた。

さて、そろそろサウナに参ろうぞ。

僕は満を持して聖域に足を踏み入れた。その日は休日で、広いサウナは人でいっぱいやった。
室内は階段状になってて、皆が一定の方向をむいて座るようになってる。前方にはテレビがあって、その時はプロ野球の阪神戦がやってた。
僕は後方にある出入口から入って、テレビ付近のわずかに残ってるスペースを陣取った。

ここからは耐久力の勝負。己との戦い。心身のデッドラインに近づけば近づく程、それに比例して水風呂時の解放感は増して行く。
僕は修行僧のように座禅を組んで目を閉じた。サウナ内は皆テレビに釘づけで、会話もなく、人数の割には少し異様なぐらい静かやった。僕としてはその静けさが心地良かった。
でも、すぐにその静寂は僕の近くから発せられたオッサンの声によって引き裂かれた。

オ「今のタイミングはセーフやろ!!...のぉ!?」
皆「.......。」

オッサンの声だけが室内に響いた。
僕は皆の無言が不自然に感じて、思わず目を開けた。

僕(今のはオッサンの独り言なん?独り言として処理していいんか?明らかに答え待ちの口調やったぞ?)

僕はできるだけ自然なそぶりでまわりを確認した。周囲は皆オッサン達。汗だくでテレビ画面を睨みつけてる。
どのオッサンや?どのオッサンが言ったんや?
目を開けた時にはサウナ内は元の静けさを取り戻してた。まぁいいか。僕には関係ないことや。
僕は目を閉じて座禅を再開した。
ところが、ほんの数分後、またしても同じオッサンの声がとどろいた。

オ「おぉーうまいこと打ちよるわ。...なぁ!?」

僕は反射的に目を開けて、声のする方に目をやった。
第一声のボリュームやら雰囲気で、薄々はわかってた。確信はなかったけども、やっぱりか...。
そのオッサンは僕の左隣りに座ってた。かっぷくのいいハゲオヤジ。
今度も周囲の人間はだんまり決め込んでる。僕は困惑した。

もしかして僕に言ってんのか!?なら、さっきから僕がシカトしてることになってんのか!?
いや、皆に向かって言ってるんやろ!?
ってか、やっぱ独り言なんか!?言葉の最後に問いかけの一言を添えてまう、というエキセントリックな癖の持ち主なんか!?

僕の目はスイスイ泳いだ。
ハゲオヤジも他のオッサン達も何事もなかったかのように中継を観てる。
でも、心なしか「近ごろの若者は会話もできんのかね」みたいなオッサン達の批判的な視線が背中に刺さってくる、ような気がした。
僕はモヤモヤした気持ちをぬぐえんまま、背後からの無言のプレッシャーを感じていた。
そんな僕の気も知らずに、鳥谷の流し打ちのリプレイを観ながら「うわぁー、うまいなぁ。」とハゲオヤジ。

座禅に集中できひん。腹が立ってきた。なんで見ず知らずのオッサン連中をこんなにも気づかわなあかんねん!!
そんな状況がしばらく続いた。

...キリがねぇ。

僕は途中から、開き直りの思考回路に強引にシフトチェンジした。

エキセントリックな癖説はひとまず置いといて、ハゲオヤジの口調的に独り言ってのは、もはや考えられへん。誰かしらに話かけとる。それは僕かもしれんし、同じくサウナ内で熱さに耐え忍ぶ全オッサン達かもしれん。
一つ確かなのは「ハゲオヤジは悲しんでる、可能性がある」ということ。誰一人として答えてくれない。一方的なキャッチボール。投げても投げても球が返ってこないことに、ハゲオヤジは寂しい思いをしている、可能性がある。
ならば小生、サウナ内の同胞達を代表し、誠意を持ってお答えしよう。全身全霊をかけてド真ん中ストライクで投げ返してやろうぞ。
次、ハゲオヤジが口を開いた時、僕の働きでサウナ内はファミリーのような一体感に包まれるはずや。万事OK。
僕は気を落ち着かせて虎視眈々とその時を待った。

阪神は大差で勝ってた。八回、マウンドにはストッパーの藤川は上がらず、先発が続投した。
その時、ハゲオヤジは口を開いた。

「球児見たかったなぁ。...えぇ!?」

待ってましたハゲチャビン。いざ、出陣じゃ。
僕は自然なトーンで微笑みながら答えた。

「見たかったですねぇー。最近ストレート全盛期みたいに走ってきてますもんねぇ。ただ、この点差やと...ねぇ?」

...キマった。少し長台詞やったけど確実にキマった。ハゲオヤジはさぞ嬉しかろう。僕は返答を待った。
ところが意外にも、変な沈黙の間ができた。僕は不思議に思ってハゲオヤジを見た。
僕はハゲオヤジの、一瞬の怪訝さ全開の顔を見逃さんかった。
オヤジはあわてて相好を崩して、

「そう、やねぇ。」

とだけ言った。

ん?なにこの感じ?思ってたんと違うぞ。もっと食いつくんちゃうんか?
室内にファミリー感は全くなかった。むしろ「でしゃばったね若者よ」感が充満してた。

状況を理解できんかった。困惑が深まった。
どういうこと?僕は悲しみに暮れるハゲオヤジを孤独から救ったんじゃないんか?まさかあれが独り言とか言うんちゃうやろな。癖説は正しかったんか?

わけがわからんまま八回は三者凡退で終わり、中継がCMに入った時、ハゲオヤジは再び口を開いた。


「熱い!!もう無理や。出よか‼...えぇ!?」


...はぁ?出よか、やと?
言葉の意味がよくわからんかった。わからんかったけどすぐにわかった。

ハゲオヤジの言葉に合わせてオヤジの左隣りのオッサン、後ろのオッサン、僕の後ろのオッサンがおもむろに立ち上がった。
ハゲを筆頭にした四人のオッサン達は「アッチィー」とか「くらくらするわ」とか言いながら満足気にサウナの出口に向った。

...うっっっそぉォォォーーーーン(T□T;)!!!???

まさかの団体様。
僕の周りは四人分のスペースが空いていた。僕は分かりやすくポツンと孤立した。

いやいやいやいや...。ありえへんやろ。
僕の中に怒りと恥じらいが猛然と込み上げてきた。

「まぁぁーたんかいっ、ハゲオヤジィ!!!ツレがおるんなら言わんかい、タヌキ野郎が!!どんだけ気つかった思てんねん‼ってか、ツレども!!なんで無反応やねん!!ハゲが喋とったやろが、答えたれや!!気づかったれや!!おかげでこっちは完っ全に『でしゃばった奴』になったやんけ!!全っっっ力で詫びろ!!ってか、オッサン四人で銭湯来るかね!?アホどもがぁぁぁあっ!!」

渾身の腹式呼吸で叫びたかった。まぁ当然僕はそんなワイルドな男じゃない。
僕は真っ直ぐにテレビ画面を見ながら石仏のように硬直してた。

ハゲオヤジ御一行がなき後、サウナ内はよりいっそうドアウェイに感じられた。
僕はスッ裸ながら、残ったオッサン達に魂をこめた演説をしたかった。

「少しだけ、お時間頂けますでしょうか。熱さに耐えるご列席のオッ様方、事の顛末をご覧になられたと存じ上げます。まずは一言。私は決して、決して、『でしゃばった奴』ではございません。事の始まりはですね、あの憎きハゲたぬきオヤジめがですね....」

とうとうと熱弁をふるいたかった。
でももし、何かの間違いでまじで演説してまうと、『熱さで頭がイカレ飛んだ奴』に昇格してまう。
僕は脱獄するようにサウナを出た。すぐにでも帰りたい。勢いで風呂場を出そうになったけど踏みとどまった。
あかん、『サウナからの水風呂コンビネーション』だけは譲れへん。
なんだかんだでサウナには10分も入ってなかった。まだ体の芯まで暖まってないから、水風呂に入る気はせえへん。でも、これはポリシー。これだけは貫かないと。

水風呂を前に僕は固まった。
ハゲオヤジとその仲間たちが和気あいあいと水風呂を占拠していた。
一人ずつ、丁寧に沈めてやりたかった。僕が青キジなら、確実にアイスエイジをしてるとこや。

しばらく僕は水風呂から遠からず近からずの場所を挙動不審に素っ裸でさまよった。御一行は相当サウナで長居したらしく、水風呂を離れる気配がない。ハゲが...。

体が冷えてきた。もう水風呂には入れない。凍え死んでまう。そしてはよ帰りたい。悩んだ。
悩んだ挙げ句、僕は初めてポリシーを曲げた。
替り湯にチャポンと体をつけてから、唇を噛み締めてそそくさと風呂場をあとにした。


もう、しばらく風呂屋には行かん。



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