9月から近所の道場で柔道をやってる。理由は、なんとなく段が取りたくなったから。
昔10年程やってたんやけど、同じく10年程のブランクがあったんで、0からの気持ちで挑んだ。ところが良い誤算。自分でもビックリなほど体が動きを覚えてた。考えるよりも早く体が反応しよる。人体の不思議アルネ。
とは言うものの、肉体は明らかに衰えてる。この1ヶ月で全身筋肉痛、肉離れ、ろっ骨のヒビ、腰痛を経験するという見事なオンボロ具合。練習が終わる度に、あしたのジョーの最終回みたいになる。
道場には大学生や社会人も通ってるんやけど、メインは小学生のチビども。やつらは思ったことを遠慮のカケラもなく、まんま言葉にしてまいよる。
今週はコルセットをしながら柔道をする僕を見た小4の女の子に「お前、ポンコツやな」と言われた。なんて女や。
僕はチビどもから『ヘルメットジジイ2号』と呼ばれてる。「ヘルメット」ってのは、原チャに乗る姿を見て。「ジジイ」ってのは、年上やから。チビども曰く150歳に見えるらしい。「2号」ってのは、僕以外の大学生にジジイ1号がおり、その流れに巻き込まれた。(ちなみに最近、試合で有段者を倒した結果、敬意を表してか『スーパーヘルメットジジイ2号』に昇格した。)
ハイセンス過ぎるネーミングに当初は笑ってたけど、今では呼ばれるたびに、「名前長いやろ」とか「はよ飽きろや」と僕は人知れずつぶやいてる。
そんな小悪魔なチビどもを束ねるのが鬼の道場長。YAWARAの猪熊慈五郎をそのまま実写化したかのようなおじいちゃん先生。柔道をこよなく愛し、何事にも厳格で、道場の端っこで正座して練習を見守る姿には威厳がある。
どっこい残念ながら、このお方も多少ブッ飛んでる。柔道以外のスポーツをサラッと否定する傾向もある。
道場に入りたての頃、チビどもや親御さん方の前で僕を紹介して頂いたんやけど。その時の言葉が「彼は長年やった柔道をやめて、野球という道に迷い込んだ事に深く後悔しとる。」から始まった。
そんなこと、一言も言った覚えはない。完全なるジジイのアドリブ。堂々たる公然捏造。その後もチクチクとかんにさわる紹介文句が続いた。
一番強烈やったんは「柔道を続けていれば今のような人生ではなかったやろうと、彼は悔いとる」というお言葉。腹立たしさ以上に色々と僕の心にタイムリーヒットした。誰でもいいから、とにかくこのジジイを黙らせてくれ。
一通り紹介を終えると道場長は僕に、挨拶しなさい、と一言。僕は猛烈に反論したい気持ちを抑えて「よろしくお願いします」とだけ言って皆に頭を下げた。
鬼の道場長には、さすがの小悪魔チビ連中も口出しできひん。
新しいトレーニングを導入する際、道場長が「この動きはキョーンシに似てるから簡単に覚えれるやろ?」と言った。
「きょーんし?」という雰囲気が立ち込めた。ものがわからん。生き物?それとも何かの奥義的なもんか?
理解できんかったけど、道場長の動きを見てすぐに謎が解けた。キョンシーやった。中国の妖怪みたいなゾンビみたいなやつよ。
キョーンシ...。惜しいけど、違う。
チビ連中はツッコミたくても、恐くてツッコめない。その場にいる皆がジレンマと戦ってた。空気を察して、他の先生が恐る恐る道場長の耳もとでささやくように、
「先生...、キョンシーです。」
と言った。道場長は眉間にしわを寄せながら「ほうか」とだけ言って何事も無かったかのようにトレーニングの説明を再開した。チビどもの間に安堵感が広がった。
ところが、次の下半身を鍛えるトレーニングの説明で、道場長が「これはカンガールをイメージしたらええ」と発言したことで、場は騒然とした。その動きは完全にカンガルーやった。
またしても、惜しいけど、違う。...わざとか?いやそんなオチャメなじいちゃんではない。
道場長のプライドを気づかって、もはや他の先生方もツッコめへん。
いよいよ我慢できんくなったチビどもは顔を見合わせて、「カンガルーやんな?」、「また伸ばすとこ違う」と鬼に聞こえない音量で確認し合ってた。そっちが気になって肝心のトレーニングが全く入ってこんかった。
...とまぁ、こんな出来事が日常の新鮮な練習風景です。
話が散らかったけども。つまるところ何が言いたいかって、SoftBankの電波弱すぎるやろってことやな。
何はともあれ、今までとは違う環境に足を踏み入れるのは何やかんやでオモロイな。当たり外れはあるやろけど、全部含めてオモロイよな。少しばかりの勇気はいるけど。
あと、これはどうでもいいけど、柔道の基本理念に「柔よく剛を制す」ってのがある。鬼の道場長も時々言う。
確かに同じ位の体型とパワーの者同士の場合、柔よく剛を制すと思う。でも、柔道経験者同士で圧倒的な体格差(40キロ以上くらいの差かな)がある場合、この言葉は幻想になるということを実感する日々やわ。僕やったら、相手が110キロあたりを超える玄人なら、ただただ試合前に敵が大怪我するのを祈ることしかできひんな。
そら奇跡的なタイミングでパーフェクトな技をかけられれば自分よりはるかにデカイ相手を倒せるんやろけど。そんなんできる人間はYAWARAか、いなかっぺ大将の世界にしかおらんと思う。だから純粋な強さで言うと「剛よく柔を制す」ってのが真理じゃい。