そこに幹部のカッツェがやってくると、

 「もうじき阿沙比奈村は我々の領土になる。そしてブラックインサイドとともに新しい国、シラハタワールドを作る。貴様らは私どもに逆らえなくなる。農園と牧場、学校も買い取って解体するつもりだ」それを聞いたさゆり牧場の羽多間恵視とかたつむり農園の立見宗二郎は、

 「あんたらの思うがままにされてたまるか!我々が大切に育ててきた作物を、あんたらの手によって潰されるのはまっぴらごめんだ!絶対渡すもんか!」

 「そうだそうだ!自分らの懐に入れてやりたい放題にするつもりだろ!どこの誰だか知らんが、そいつの命令なんぞ聞いて何の得にもならんだろ!」

 「言っておくが、あんたらはそいつに騙されている。いい加減目を覚ませ!」

 「何のために我々の農地を買い取ってまで自分のものにしたいんだ?」しかし、カッツェは、

 「そう怒るでない。まだ序の口だ。”秘密兵器”はすでに用意してある。そいつを倒してから言え」

 「”そいつ”ってまさか…」

 「ドクターネンチ様の隠し玉だ。奴はああ見えても猛獣並みのパワーを持っている」

 「”ドクターネンチ”?初めて聞く名前だな…どうせ金に貪りついた卑しい奴だろ?あんたはそいつに操られてるんだよ」

 「何を言う!失礼じゃないか!私はドクターネンチ様のおかげで救われたんだ。それも知らずに勝手なこと抜かすんでねぇ」

 「そういえば、あの仮面女と戦っていた…全身黒ずくめの…」

 「そうだ」

 「でも、一度倒されたはずだが…」

 「奴は死んでいない。ドクターネンチ様に秘薬を飲ませて蘇らせたのだ。しかもパワーは前より増している。一筋縄ではいかないぞ」

 「とても倒せる相手ではないと…もう絶望だ…」恵視と宗二郎は絶望感に陥っていた。

 「残念だが、もうあきらめたまえ」

 「ちくしょー!阿沙比奈村を…かたつむり農園を…さゆり牧場を守りたかった…あんたらにはわからないだろうな。汗水流して愛情をかけて育ててきた作物や生き物をあんたらの懐に収めて好き放題させたくねーんだよ!」二人の怒りが爆発したが、

 「まあ落ち着け。貴様らが吠えたところで焼け石に水だ。しもべたちよ、こいつらを捕まえろ!」カッツェは部下たちに二人を捕まえるよう、指示を出すと身動きが取れなくなるまで押さえつけた。

 「何するんだ、離せ!」 

 「俺たちは何も悪くないぞ!」 

 「無駄な抵抗はよせ。我々に逆らうとこうなる。そいつらをアジトに連れていけ」部下たちは二人を自分たちのアジトに連れて行こうとしたが、そこにかたつむり農園で住み込みとして手伝いをしている絵美と野絵がやってきて鍬を持って立ち塞ごうとした。

 「どけよ!お前らも同じ目に遭わすぞ!」

 「そうはさせない!二人を離しなさい!」

 「あの二人の連れか?ちょうどよかった。その女どもも連れていけ」すると、絵美は鍬を振り回しながら、

 「私を女と思って甘くみないでよ。私を怒らせるとどうなるかわかってる?」と、暴れだした。普段は温厚な彼女だが、いったんキレると手がつけられなくなるほどだ。

 (な…なんなんだ、あのババア。ただのキチガイじゃないか)

 「さっさと離してやりなさいよ!でないと、これで痛い目に遭わすわよ?」彼女は鍬を振り下ろして部下たちの頭を狙うが、

 「ひいいいいい……殺される…勘弁してくれ…」

 「そいつらは離してやるから、やめてくれ~」彼らは降参したようだ。

 「思ってたよりヘタレね。笑わせないでよ」あわやアジトに連れられるところだった恵視や宗二郎も、絵美の勇敢さに惚れ込んだ。野絵も、

 「叔母さんの意外な一面を見ちゃった。頼もしい」と、絵美に感心しきりだ。

 「絵美さん、こう見えても強いんだね」

 「えへへ…それほどでも…」と彼女は照れ笑いをしていた。ここにもう一人ヒロイン誕生の予感がしたのだった。HAGEの侵略によって絶望感に苛まれていた彼らだったが、希望の光が見えてきた。なんとしても自分たちで愛するこの村を守っていくんだ!の気持ちを持って団結をした。実は百合園でおにぎり屋をしていた頃、隣の花屋で強盗殺人事件が数年前に起きていた。犯人についてだが、HAGEのメンバーによる犯行らしく、いまだに逃走中だ。両親を殺された娘は、いずれは店を継ぐ予定だったそうだ。その娘は阿沙比奈小学校のある教師の妻で普段はほとんど顔を見せない。いつか親の仇を討ちたい、と思っている。村人たちは先行きが暗くても、もう泣き言は言ってられない。きっと英雄が現れるのを信じて…。そしてカッツェは、

 「邪魔者はさっさと片付けないとな。村全体にある監視カメラで奴らの行動を捉え、怪しいと感じたら、ことごとく片付けていく。覚悟しとけよ」と不気味な笑いを浮かべた。すると、村のはずれから、ざわついた物音がしてきた。

 

 

 (つづく)

 

 

 

 シラハタファームのランドマークであるホワイトフラッグタワーの一部崩壊で窮地に追い込まれたシラハタホールディングス。そのタワー崩壊の件についてだが、原因はいまだにわかっていない。HAGE一味はますます苛立って工事を請けた建設会社に数千億の損害賠償を請求するつもりだ。営業も休止したままで再開のめどが立っていない。それどころか廃墟化して解体をせざるを得ない状況でもある。さらに大規模な鶏舎も鳥インフルエンザで全滅してからそのまま、農園も荒れ放題で雑草が人の背丈くらい伸び、もはや構想中のシラハタワールドの実現どころか、経営が行き詰っていた。それでも彼らの野望はまだあきらめていない。それどころか、ダイヤモンド・ヴェールに倒されたはずの怪人・シャネットが復活した、という話を聞いた。

 村人たちは、HAGE一味の監視が続いているものの、いつものような緊迫感はなく平穏に暮らしていた。かたつむり農園ではすっかり戦力となった、おにぎり屋”じゃんけんぽん”の元店主・川山絵美と姪の七村野絵に主人の立見宗二郎は目を細めていた。

 「思ってたより頼りになるよ。大助かりだよ。天国の女房も喜んでるだろうな」傍で聞いていた二人もやる気満々で、農作業の辛さを忘れるほどだった。宗二郎にとって彼女たちの存在は心強いのだ。そこで絵美がある案を思いついた。

 「お花を育ててみようよ。私、お花が好きで癒されてるの。いつかフラワーショップが開けるほどたくさん作ってみたいな、って」

 「絵美さん、夢があるんだ。いいことだよ」宗二郎もその案には賛成のようだ。

 「八原先生の奥さんの実家が、うちの店の隣にある花屋だった。彼女もフラワーショップを持つのが夢だって。だから、お店を開けるくらいたくさん育てるようにしないと」

 「叔母さん、素晴らしいです!きっと実現できますよ」野絵も後押しをして、いろんな花の種をまいてみることにした。二人は畑を耕し、種をまいた。
 「楽しみだね。でも水やりを忘れず、害虫や病にやられないようにね」種をまいて数週間、水やりや害虫や病に気をつけたおかげで、つぼみになるまで生育し、花開くまでもうすぐだ。二人がだんだんスキルを磨いていく姿に宗二郎の夢も膨らんでいった。

 「ここまでやってくれるとは思ってもみなかった。すぐにくたばって長続きしない、と思ってたよ」

 「だってここは借金地獄だったあの時よりずっといい。もうここから離れたくないから。でも借金も少しずつ返さなきゃならない。お金を生み出さないと」絵美は自分たちで育てた農作物を売って収益を生み出す。そうやって少しずつでも借金を返しているのだった。

 シラハタファームを見渡すと、あの不気味なタワーは存在感がなくなり、意味のない施設や農地も荒れてほぼ廃墟となっていた。その時だった。再びHAGE一味が闘志をむき出しにして村人たちに詰めかけてきたのだ。

 「まだまだ俺たちの野望は終わってないぜ」

 「てめえらには一人残らず駆逐してやる」部下たちは口々に罵ると、村人たちは村長の毛妻次生をはじめ、

 「しつこいぞ!もう我慢の限界だ!お前たちの思い通りにさせてたまるか!」

 「お前らのものにされたら、この村はめちゃくちゃだ!」

 「村の平和を返せ!」と抵抗するが、HAGEは元々は善良な村人で作られた団体だった。それがある日、ブラックインサイドによって洗脳させられた。したがって洗脳を逃れた村人たちは、なんとしても彼らの洗脳を解くため、HAGE一味に立ち向かった。しかし、絶対的な権力を持つ彼らにとっては”糠に釘”なのだ。

 「黙れ!無駄な抵抗だな。なぜ私どもが折れなければならない?これはブラックインサイドとの約束だからな」

 (”ブラックインサイド”?その上にまだいるとは…そもそも悪の根源はそいつらだったのか…)

 「聞いたことないな。ブラックなんちゃら。おたくら、そいつに騙されてるじゃねーのか?」

 「騙されてる?いや、間違ってないぜ。ドクターネンチ様はなんてたって世界一の研究者であり資産王だからな。我々にとって神みたいなもんだよ」

 「金の力だけだろ?金の力で大衆を動かせるとは、汚ねぇやり方だな。そんなことしたって役に立たねえよ」

 「役に立たねえ、とは何だよ。我々に歯向かうと痛い目に遭うぜ」

 「どうせ口だけだろ?やれるもんならやってみろよ」毛妻村長が挑発すると、

 「こんなクソジジイどもをやっつけてしまえ!」部下たちは村人を囲い、殴る蹴るを繰り返した。

 (大勢で突っかけるとは、なんて卑怯な奴らだ…)それでも村人たちはやり返すが、焼け石に水のようだ。とても太刀打ちできる相手ではない。

 「よし!こいつらをアジトに連れていけ!」

 「そうはさせるか!」それでも村人たちは必死で抵抗する。

 「ちくしょう!なんて奴らだ!阿沙比奈村はいずれHAGEやシラハタホールディングスに乗っ取られる。何としても食い止めないと…」彼らは悔しさでいっぱいだ。しかし、ピンチになると”あの人”が現れるのを信じるのみだ。

 (どうか、また出てきてくれよ。ダイヤモンドなんちゃらよ…)

 

 

 (つづく)

 

 

 阿沙比奈小学校の5年学級では、算数の授業が行われていた。担任の八原進助にクラスメイトの姉川元起が、

 「先生のお父さん、何か悪いことをしたのですか?」すると教室全体が凍りついた雰囲気となり、

 「い…いや…親父はあんなことしないぞ。たぶん他人の空似じゃないか?」進助は冷や汗をかきながらごまかそうとしていたが、

 「”たにんのそらに”って何ですか?」

 「あー、そうだなあ…自分にそっくりな人がいるってことかな…君たちだって、そんな人いるんじゃないか?」

 「へえーっ」

 「こんなくだらんこと問うより、授業続けるぞ」

 (あ~あ、先生やパパの秘密知りたかったのにな~)授業が終り放課後に入ると、

 「元起、先生のパパを知ってるのか?」帰り道に和志田大海の親友である元起に訊いてみた。

 「うん。何度も見ているよ。体つきは先生そっくりだったよ。こないだも学校あたりでうろついてたし」

 (やはりそうなんだ…あのハゲ頭、どう見ても先生のパパしか考えられない…)

 「パパって、確か空手の選手だったっけ?先生も空手やってたし」

 「そうだよ。俺が見たのは丸坊主でサングラスをかけてたよ。見た目893っぽかった」

 「でも、どうしてわかるんだ?俺も見たことあるけど、背が高くてスポーツ刈りで、サングラスはしてなかったよ。イメージとは全然違うみたい」

 「先生も背が高いもんね。ただ先生の場合、細マッチョだけど、お父さんはガチのマッチョだもの」

 「う~ん、先生のパパが怪しい行動を取る人とは思えないもんな。真面目そうだし」

 「何者かに洗脳されたような…そんな感じだよ。お母さんもそうみたい。お母さん、といっても伯母さんだけど」

 「えーーーっ?!パパもママも?先生は知ってるのだろうか?」

 「一緒に住んでないからわからないよ」実は元起、進助の母・可都江は伯母で、すなわち彼女の妹の子供で甥にあたる。伯母の可都江とは元起がよちよち歩きだった頃、祖父の葬儀で母とともに顔を合わせっきりで顔は覚えてなかったそうだ。

 「給食まともに食ってなかったから、腹減ったよ~早く帰らなきゃ」二人は帰宅途中の交差点で別れ、我が家に帰った。大海は学校であった出来事を話すと、母のとも子は、

 「おかえり、大海。何か変わったことがあった?」

 「うん。先生のパパやママが怪しい人物にされている噂なんだ」

 「何寝ぼけたこと言ってるの。頭おかしくなったんじゃないの?」

 「そんなことないよ。友達から聞いたけど、ごつい体で丸坊主にサングラスかけて、この辺をウロウロしてたよ、って」

 「そういう人、いくらでもいるんじゃない?気にしないことよ」

 (元起の言ってることが本当なら、先生から洗脳を解いてもらうことだね。いったい、なぜあんな風になってしまったのか…)その後、家族で夕食を済ませ、宿題をしてから寝床についた。

 翌朝、大海が起床して朝食を済ませて学校に行くと、教室の雰囲気がいつもと違っていた。担任の進助の父親・則勝がHAGEの幹部の一人、カッツェなのがほぼ確定したのだ。

 「先生!お父さん、やっぱり怪しいと思ってたよ。まさか村をめちゃくちゃにしてさ」ところが進助は、

 「まだ疑うのか?親父が悪いことするわけないだろうが」

 「でも俺は、ちゃんとこの目で見たんだよ。坊主頭でサングラスかけて黒のスーツ姿だったよ」元起は疑う様子はなかった。絶対進助の父親と確信しているのだ。

 「サングラスだったら親父なのか、わからないだろ?その話はどうでもいい。授業を始めるぞ」クラスメイトたちは、どうもモヤモヤして授業に集中できない。その時だった。教室の外を覗いてみると、あのスキンヘッド男が運動場の真ん中で仁王立ちしていた。おそらく子供たちの行動を見張ってるのだろう。監視カメラも作動したままだ。

 (ヤバい…まさか、そいつだったとは…)

 「おい、ちょっと見てくれよ!あの丸坊主のいかつい男が!」

 「ん?いなかったぞ。早く自分の席に戻れ!」進助は運動場を覗いたが、人らしきものは見当たらなかった。

 (先生の目には何も写らなかったのだろうか…)どうやら、どこかに隠れたらしい。休み時間になり大海たちは、

 「逃げるくらいだから、やっぱ怪しいよ。それなのに先生はなかったことにしてさ」

 「先生が前に”この辺で不思議なことが起きてる”って言ってたけど、これのことだったのでは…」

 「先生の言うことはあてにならねえな。俺たちで徹底追求してやる!」

 「そうしよう!それしかない!」さっそく作戦開始、彼らはスキンヘッド男の正体を明かすまで、彼の行動をじっくり観察することにした。村ではあちこちに取り付けられている監視カメラが四六時中作動している。それでも捉えられないように慎重に見張るのだった。しかし、とうとうその場面を捉えられてしまったのだ。すると、その映像がHAGEやブラックインサイドに知らされると、

 (あのガキどもめ、何をしているのだ。俺たちに歯向かうとどうなるか、わかってるんだろうな)

 「見つけ次第、あいつらを捕まえろ!」HAGE幹部のカッツェは部下たちに命令を下した。

 (我々があきらめたと思うなよ…これからが正念場だ。村人どもを我がHAGEおよびシラハタワールドの一員となって我々に仕えるのだ)監視カメラで捉えられた阿沙比奈小学校の子供たちを捕まえるため、部下たちは目を光らせた。子供たちはそれぞれ自分の家に帰ると、和志田大海は血相を変えながら、

 「ただいま!俺、この目で見たんだよ!坊主頭の見るからに893風にの男が学校の校庭にいたんだよ!」母のとも子は信じられない様子で、

 「おかえり。どうしたの、あわてちゃって。私は見かけないわ。怖くて外を歩けないもの」

 「そしたら先生が覗いたとたん、どこかに隠れたんだよ」

 「そうなの?でも心配しなくても大丈夫よ。落ち着いて」

 「なんでだよ。よくそんな呑気なことが言えるな」 

 「あのね、馬に乗った仮面を着けた女の人が、すごく強くてね。ピンチになったら敵を倒してくれたの」

 「そういえば、見たことがあるなあ…」

 「たしか”ダイヤモンド・ヴェール”って」

 「そうだ!俺たちには強い味方がいるんだ!きっと、また倒してくれるに違いない!」

 「これで村が守れる!私は彼女を信じる!」ダイヤモンド・ヴェールの出現は阿沙比奈村にとってはまさに救世主だ。

 

 

 (つづく)