「だが、シラハタホールディングスのこともある。とりあえず、できる限りはやってみるしかない…今の惨状では再建はどうしようもないが…」彼はシャネットを背負ったまま重い足取りでシラハタファームに行くと、一部崩壊していたホワイトフラッグタワーは解体され、瓦礫の山となっていた。あれだけ土地を確保し、計画通り事が進んだにもかかわらず、相次ぐアクシデントで構想中のシラハタワールド・プロジェクトもあきらめざるを得なくなった。
「我々の作戦はすべて失敗に終わった。阿沙比奈村を自分たちの領土にして国を作る。村人ともども我がHAGEの一員として奴隷化するのも計画倒れだ…」落胆したカッツェはHAGEのこれからについて、どうすべきか途方に暮れていた。シラハタホールディングスに資金援助ができなくなったことを伝え、村から撤退するよう求めた。
(シャネットよ…ともにしてきた相棒よ…私が代わりに戦っていれば…)体が硬直し、冷たくなったシャネットを背負うことができなくなり、自分の体が持たなくなってきた。
(このまま力尽きてしまうのだろうか…それだけはごめんだ。まだまだあきらめたくない…私には使命がある。ドクターネンチ様に見放され自分の力でなんとしてもやらねばならない…しかし、これも夢で終わるのか…)やがて雨が降りだし、彼は避難場所を探しながら歩いたが、とうとう力尽きた。
(すまん、シャネット…貴様だけが唯一心の拠り所だ…)カッツェとシャネットは倒れこんだまま冷たい雨に打たれていた。この雨は彼らの汚れきった心を洗い流すかのようだった。ある村人が彼らを見つけると、
「おい、びしょ濡れじゃねーか。しっかりしろ!こんなところで倒れてたら風邪を引くぞ。早くどこかに連れてかないと」彼は仲間を呼び、村にある集会所に連れて行った。
(ここはどこ…?)瀕死状態の二人が目を覚ますと、
「助かってよかったよ。体が冷たくなってるじゃねーか。いったいどうしたんだ」村人たちは二人の冷えきった体を毛布などで包めると、
「なぜ私どもを助けた…?もう用はなくなったんだよ…」カッツェがこぼすと、
「もしかしてあんたはあの…」
「そうだ。この村を…我々のものにしたかった…でも叶わなかった…」
「よかったよ。これで我が阿沙比奈村も乗っ取られることがなくなった。ホッとしてるよ」
「だがドクターネンチ様との約束は守れなかった…私どもの使命を果たしたかった。これでHAGEはもう役目を終えた」
「そうだったのか。すべてはあんたたちの仕業だったのか」
「すまない…私どもは彼の手玉に取られていた。今さら悔やんでも…その罪を償うのは覚悟をしている」
「”彼”とは?でも目覚めて嬉しいよ。だけど散々迷惑かけてきたからな。しっかり償ってくれよ」シャネットも、
「アタシはあの覆面女の気迫に圧倒されたわ…雑魚と思ってたけどこんなに強かったとは…」
「それって、ダイヤモンドなんとか、のこと?」
「ええ。彼女のおかげでアタシたちは洗脳を解かれたのかもしれない」
「よかったじゃないか!あんたたちもやっと阿沙比奈村の村人、俺たちの仲間になったんだよ!」村人の優しさにカッツェとシャネットは涙を流し、自分たちが起こした行動が誤りだったことを認めた。そしてHAGEをこの日限りで解散を決意し、普通の村人に戻ることとなった。
「だけどな、仲間になったといえ、これからあんたたちに、どのように処罰が下るか。あんたたちはれっきとした犯罪者だからな」シャネットは、
「これまでの悪事はアタシたちも十分反省している。あのときは善悪区別つかず好き勝手にしていました」と反省の色をみせた。そして降り続いていた雨が上がり、雲の切れ間から日が差しだすと阿沙比奈村の風景、殊にシラハタファーム周辺は目を覆うほど悲惨だった。ランドマークなはずだったホワイトフラッグタワーは一部崩壊した後、解体され、二万羽いた大規模な鶏小屋も鳥インフルエンザで全滅してから放置されていたが、とうとう取り壊された。諸々の施設も廃墟と化して、ここから建て直すのはほぼ不可能だ。ゆくゆくは更地にされるだろう。肝心のHAGEも、ブラックインサイドからの援助を受けられなくなったため、シラハタホールディングスへ資金提供ができなくなった。結局、HAGEは自然消滅した。その後の活動については白紙である。シラハタホールディングスの白畑社長は、
「私たちの計画は失敗に終わった。タワーができたばかりの頃は盛り上がりを見せていたが、あるアクシデントで営業をストップさせた。原因についてはいまだにわからず謎のままだ。おまけに鳥インフルエンザで甚大な被害も出てしまった。構想していたシラハタワールド・プロジェクトも白紙になり、我が社は経営難に陥った。村から撤退したのも、村人たちが村を守る思いや勢いに押され、自分たちで守っていく強い意志を感じたからだ。だが、私たちの夢は、まだあきらめていない。別の地でその夢を実現させるつもりだ」と、シラハタファームを阿沙比奈村からの完全撤退を決断した。阿沙比奈村の毛妻村長は、
「この計画はまことに残念だったが、村人皆が協力しあって魅力ある村、ここに住んでよかった、と思われるような村を作っていくことだ」と語った。村人たちはシラハタファームの撤退に大喜び。広大な敷地では、建物が取り壊され瓦礫の山と化していたが、やがて更地になってかつてののどかな村に戻るだろう。
(つづく)