シャネットに腕を噛まれたダイヤモンド・ヴェールは、体じゅうに毒が回ったのか、だんだん意識が遠のいてきた。

 (このまま力尽きるわけにはいかない…ワタシは愛する者のために戦うんだ…)

 「いいぞ、シャネット!これで我々の勝ちだ。そいつを倒せば村は我々のものだ。そして新たに国を作るぞ!」カッツェはさらに部下たちを加勢させてダイヤモンド・ヴェールを容赦なく襲う。もはや戦う気力を失った彼女は、愛する村のために力尽きてはいけない。村人たちの声援がかすかに聞こえる。それに応えるため彼女は、

 「助けて…ワタシに力を貸して…とても倒せる相手ではない…お願い…!」すると、雲の隙間からこれまでに見たことがない光がダイヤモンド・ヴェールを包むと、みるみる力が甦った。カッツェらHAGE一味は、その光を見て不思議に思った。 

 (これはいったいどうなってるんだ…なぜそいつだけに…)不思議な光に包まれた彼女の体はまるでダイヤモンドを散りばめたかのようにキラキラと輝いていた。シャネットに噛まれた腕の傷もすっかり消えていた。

 「チャージ完了!これでヤツらを倒せる!」カッツェとシャネットは、

 「ちきしょー!生き返ったか…しもべども、とっととそいつを片付けてしまえ!」と命令すると、

 「ピカピカさせたところで勝てっこねーよ。チョロいチョロい」部下たちも倒せる気満々だ。ところがダイヤモンド・ヴェールは、

 「パワー全開!ワタシは負けない。負けてたまるか。我が阿沙比奈村を…村人を守る…そして親の仇を取ってやる!」赤い鞭はダイヤモンドのような輝きに変わり、さらにパワーアップした。そしてビアンコにまたがると、

 「ビアンコ、一緒に闘ってヤツらを倒すのだ!」

 「貴様一人で倒せるわけねーだろ。とっとと降参しろよ」するとダイヤモンド・ヴェールは、

 「民の平和を乱す下衆どもよ、静かに散れ!」ダイヤモンドのように輝く鞭をしならせると、悪を裁く無数の光の玉が彼らを襲う。その玉は彼らに身動きが取れなくなるほど、まとわりついた。

 「く…苦しい…」

 「な…なんなんだ…息ができねえ…」

 「まぶしくて身動きが取れねえ…」

 「このまぶしさは太陽以上のまぶしさだ…目が潰れてしまう…」彼らは口々に苦しさを訴えた。幹部の二人は、

 「なんてだらしのないヤツらね…もういい!アタシが相手よ!かかってきな!」

 (しつこいね…)ダイヤモンド・ヴェールは二人に果敢なく挑むと、シャネットは猛獣のような鋭くとがった牙で威嚇すると、

 「いいぞ、シャネット!こいつにとどめを刺せ!」カッツェが煽ると、ダイヤモンド・ヴェールの怒りがふつふつと沸いてきた。彼女はシャネットを押さえつけると口を開けた。

 「また毒の牙で噛まれたいのか。どうせのろまが助けてくれるわよ」

 「そうはさせない…ワタシはオマエの弱点を見つけた」

 (この毒牙を折るさえすれば…)そして力づくでシャネットの牙を折った。

 「グワーーーーッ!!!」自慢の牙をへし折られた彼女は、あまりの痛さに悶え苦しんだ。

 「なぜだ…なぜアタシの弱点がわかってしまった…これを折られたらおしまいだ…」”急所”をやられた彼女の意識はほとんどなくなっていた。虫の息をしながら、

 「アタシの負けだわ…お主、案外強かったよ…」と、つぶやきながら、そのままスッと消えてしまった。カッツェは、

 「シャネットよ。貴様の使命はまだ終わっていない。ドクターネンチ様に命を蘇らせ、またここに戻ってきてくれ」と、シャネットとのしばしの別れを惜しんだ。

 「貴様は死んだのではない。ブラックインサイドの手によって再度戦う日が来るまでに…」彼女はブラックインサイドの総統・ドクターネンチに呼び出されたに違いない。なぜなら、とっておきの”秘密兵器”があるのだから…。

 強敵を倒したダイヤモンド・ヴェールも姿を消し、自らの使命を果たしたのであろう。村人たちはHAGE一味を蹴散らした彼女を称えた。彼らは彼女の活躍に明るい希望をもたらした。一方、シラハタファームでは、営業休止中のホワイトフラッグタワーの一部が崩壊していたのだ。その知らせを聞いたシラハタホールディングスの白畑社長は、

 「これはひどすぎる…順調に計画が進んでたはずのシラハタワールドが白紙になりそうだ…そもそもこの建物のどこに欠陥があったのか。一応調べてもらってるが、いまだにわからないそうだ」計画中のシラハタワールド・プロジェクトは、ほぼ白紙になるのが避けられない状況になってきたのだ。

 「建て直すか取り壊すか…原因が判明しない限りこのまま放置するのか…」白畑社長は頭を悩ませていた。シラハタホールディングスは窮地に追い込まれてしまった。

 その時、ブラックインサイドではダイヤモンド・ヴェールに倒されたシャネットがほとんど意識のないままドクターネンチに呼び戻され、

 「これは門外不出の秘薬、これを飲ませると…」彼が作った秘薬・アクソマールを彼女の口に含ませると、まるで生き返ったかのように回復した。目が覚めると、

 「博士、申し訳ございません…失敗してしまいました。あの覆面女、想像以上に手強かったです」すると、ドクターネンチは、

 「まだお前にはチャンスがある。奴を倒せるのはお前しかいない。今度は失敗は許されないぞ」

 「承知いたしました。パワーアップして必ずリベンジします。阿沙比奈村を我が領土、そしてシラハタホールディングスとともに新しい国を作るため全力で戦います」

 「言っておくが、これが最後のチャンスだ。我がブラックインサイド、お前たちHAGEの運命の鍵はお前が握っている」

 「博士への恩返しと思い、自分の力を存分に出し切ってダイヤモンド・ヴェールを倒します」

 (ダイヤモンド・ヴェールか…シャネットよ、頼んだぞ…)ドクターネンチは不気味な笑みを浮かべた。シャネットは、

 (フフフ…ダイヤモンド・ヴェールよ。今度こそお主をあの世送りにしてやるわ…)

 

 

 (つづく)

 HAGE一味による理不尽な手口に不満を感じていた毛妻村長をはじめ村人たちは、このまま泣き寝入りするわけにはいかない。たまりにたまった不満をぶつけるためにも、やはり”あの人”の力が欲しいのだ。そこに、神出鬼没のごとく再びあの仮面女が白馬に乗ってやってきた。幹部のカッツェが村役場を去ってまもなくのことだった。彼が自分のアジトに帰ろうとした直後、

 「ついに現れたな、ダイヤモンド・ヴェール…」ダイヤモンド・ヴェールは彼の前に立ちはだかると、どこかで見覚えがある顔だと思った。

 (あの人はもしかして…)二人が目を合わせると、カッツェも見覚えのある顔と思った。

 「貴様、まさか…いや、気のせいか」ダイヤモンド・ヴェールは不思議そうに彼を見つめ、彼らの姑息なやり方に憤りを感じ、やるせない気持ちになった。

 「カッツェよ…オマエはなんて卑怯で欲にまみれた汚いヤツだ。昔のオマエはそんなヤツじゃなかった」

 「なぜ私のことを知ってる」

 「オマエは昔、空手の選手だったそうだな。なぜあんなことを…」

 「確かに私は空手選手だったよ。そんな私に勝てるとでも思ってるのか。私のしもべはまだまだいるぜ。皆ども、かかってこい!」と大勢の部下を呼ぶと、ぞろぞろとやってきてダイヤモンド・ヴェールを囲った。

 (懲りないヤツらね…)

 「ダイヤモンド・ヴェールよ、この間はよくもやってくれたな!今度はやられっぱなしじゃいかないぜ。必ずお前を倒して勝ってやる!」彼らは復讐を誓い、

 「奴の息の根を止めろ!」カッツェは彼らに指示を出すと、彼女に襲いかかった。

 (な…なに…あの時と全然パワーが違う…もはや倒せる相手ではなくなった…)前回、戦った時よりパワーアップしている彼らには一筋縄ではいかない。だが、彼女は力をふり絞りながら自分の力を出し切って挑んだ。

 「下衆ども!かかってきな!」しかし、今回の戦いは彼らにとってリベンジであり本気だった。

 「パワーアップした俺たちをなめんじゃねーぞ!こんどこそ借りを返すからな!」

 「相変わらずショボい連中ね…強がり言っちゃって」と、ダイヤモンド・ヴェールはいたって冷静だ。

 「貴様、今回は勝てると思うなよ。奴らにはブラックパワーエナジーを注入したからな」カッツェは”ある者”に頼んで部下たちにパワーを注入させた。さらに、もう一人の幹部が現れた。モデルを彷彿とさせるスラリとした細身の体に全身黒のレオタードをまとい、頭部にはアンテナ状の角があり、その角から光線や電磁波が放たれる。それを受けた者は意識を失いHAGEの手下として洗脳させられる。鋭くとがった耳、獲物を捕らえるかのような眼光に猛獣のような長くとがった牙が特徴だ。その牙には猛毒を持ち、噛まれると全身に毒が回り命を落とすことがある。しかし、その牙が折られると戦闘能力を失い姿を消してしまう。彼女の名はシャネット、見た目によらず強靭なパワーの持ち主だ。HAGEを悪の組織に陥れたブラックインサイドの総統・ドクターネンチによって召喚された怪人である。

 「それにしても、こんな弱っちいのが大勢相手では勝てっこないでしょ。アタシたちの圧勝ね」

 (この覆面女、見た目は弱そうね…)それがシャネットのダイヤモンド・ヴェールへの第一印象だ。シャネットは身体能力が高く、ダイヤモンド・ヴェールにとっては勝ち目がないと思っているのだ。

 「今回は負けられない。お主を倒す自信はある。この調子でいくと阿沙比奈村はアタシたちのもの。シラハタワールドも現実的になる。博士に恩返しできるわ」早くも勝利宣言をしたかのように、長くとがった牙をのぞかせながらニヤリとした。”博士”とはドクターネンチのことだ。また”ある者”とは、やはり彼のことである。シャネットたちHAGE一味はなんとしてもダイヤモンド・ヴェールを倒さなくてはならない。でないと、ドクターネンチからきつい制裁が待っているからだ。ダイヤモンド・ヴェールは、

 「オマエの思い通りにさせてなるものか!この村はワタシが守ってみせる!また同じ目に遭わせてやるわ!」

 「口だけは達者だな。お主」シャネットは彼女を睨みつけると。猛獣のような牙で威嚇する。

 (この歯…牙は獣そのもの…眼光も鋭い。だけどワタシは逃げない!立ち向かってやる!絶対負けない!)ダイヤモンド・ヴェールは闘志を燃やした。その闘志にシャネットは怯えだした。

 (いったいどこからオーラが出ているのか…アタシにはわからない…何か不思議な能力でもあるのか)

 「ワタシはオマエたちを許さない!愛する村、村人、家族を守る!そして大切な両親の命を奪ったオマエたちを絶対に許さない!」ダイヤモンド・ヴェールの怒りは頂点に達していた。するとシャネットは、

 「黙れ!倒せるなら倒してみろ。お主には勝てる自信がある」頭上の角からビームとなってダイヤモンド・ヴェールを襲うと。

 「ううっ…」

 「アタシをなめてると痛い目に遭うわ。お主がアタシを倒せるのは十年早いわよ」シャネットは攻撃の手を緩めず、ダイヤモンド・ヴェールにとどめを刺そうと腕に噛みつくと、その鋭い牙はまるで五寸釘を刺したかのようだ。彼女の腕は激しく痛み、血が流れていた。傍にいる愛馬・ビアンコが傷口をなめながら相棒の回復を待っている。

 「この牙に噛まれたら全身に毒が回る。やがてお主はお陀仏だ」

 

 

 (つづく)

 さらにシラハタファームに悲劇が起こった。

 「ケージのニワトリがおかしい…鳴き声もしないし…」見回りをしていた責任者の広野新太朗が気づくと、

 「こ…これはどういうことだ…全滅ではないか…」現場にいたスタッフは信じられない様子でケージ飼育されているニワトリ約2万羽がすべて息絶えていたところを眺めると、言葉にできないほどショックだった。

 「ワクチンも打って、餌にも気をつけていたのになぜ…」原因はどうやら鳥インフルエンザだった。感染元は不明で、ケージのニワトリはすべて処分されることになった。出荷予定の卵は処分されないが、市場に出回ることができなくなると、シラハタファームにとってそれが収入源であり、かなりのダメージがあるだろう。そして処分する作業員数名が防護服姿でやってきてさっそく処分をし始めた。彼らはニワトリたちを袋に詰め込み、その数は400袋におよんだ。その後、ケージごと消毒をした。その作業は丸一日かけて行われた。それを聞いたシラハタホールディングスの白畑社長は、

 「これだけの被害が出るとどうしようもない。立て直すとなれば、やはりHAGEの手を借りなければならないが、これ以上あてにできない。彼らにその余裕がなく、なんとしても自力で立て直すしかない」と語ったが、その口調は弱々しかった。

 そこから約3Kmにあるさゆり牧場のニワトリたちは処分の対象にされてなかったものの、感染が疑われる場合もある。もし、そっちまで被害が広がってたら…と不安になってくる。しかし我が子のように愛情かけて育ててきただけに、もし処分されるとなると可哀想でならない。安全な場所を確保し、とにかく無事であるのを祈るのみだ。牧場主の羽多間恵視は、鶏小屋に避難をさせ鍵をかけて出さないようにした。そうしないと見つかって処分に来られるからだ。だが、鳴き声はおさまらず、その声を聞いただけでわかってしまう。

 (やはり無駄なんだろうか…どうか来ないでくれ…)その予感は的中した。数日後に防護服を着た作業スタッフがやってきたのだ。

 (鳴き声でわかってしまったのか…)

 「頼む!処分しないでくれ!」恵視は必死に止めようとするが、

 「おたくのニワトリも、もしかしたら鳥インフルエンザに感染してることが考えられる。その卵は出荷できなくなるぞ?」

 「うちの鶏に影響はあっても火を通せば食べても安全だといってる」

 「そんなこと通用するか。とりあえずうちで処分させていただく。これが決まりだ」

 「そうはさせるもんか!鶏も牛たちも大切な家族だ!殺すことは絶対許されるものか!」畜生であれど、家族のように慈しんで育ててきた。しかし彼らは無慈悲にも処分をし始める。

 「待てよ!やめてくれよ!ここの卵は自慢じゃないが五つ星レストランにお墨付きをもらったほどだ。なんとかファームのヤツより味も質も格段に違うからな」

 「うるさい!知るかよ。こっちだって命がけなんだぞ」

 「やれるもんなら、やってみろよ。何の罪のない動物の命を何だと思ってるのか!そのうちおたくらに天罰下っても知らないぞ!」

 「チッ、こっちにも考えがある。覚えてろ!」彼らはこの場から去ったが、まだ終わるつもりはなかった。

 (きっと何か企んでるに違いない。もう寝るとするか)夜を迎え、眠りにつくと、狙ってたかのように先ほどの作業スタッフがやってきた。寝ている間にニワトリを袋に詰めて処分していたのだった。

 (こんな夜中にうるさいな…)と、恵視が目を覚まし鶏小屋を覗くと、

 「こんな夜中に何やってるんだ!鶏を返せ!」彼は手に持っていた卵を作業員たちの顔にぶつけた。

 「うわっ…前が見えない…ちきしょー!」すると彼らはニワトリが入った袋を置いて慌てて逃げて行った。

 (無事でよかった…殺されるところだったよ…また寝るか)恵視は再び眠りについた。

 

 阿沙比奈村では相変わらず不気味な静けさが村全体を包んでいる。再びHAGE一味がまた何か企んでいるのだ。幹部のカッツェはサングラスをずらし、目をぎらつかせて村役場に行くと、村長の毛妻次生に、

 「貴様が村長だな。言っておくが、この村は我々が占領し支配する。もう貴様は用無しだ」

 「それはあんまりです。おたくらが来てから村が一気におかしくなりました。なぜ阿沙比奈村を自分たちのものにしたいのですか」

 「これはある約束があるからだ」

 「約束?うちにはその覚えがありませんが…?」

 「私どもを悪に導いたある組織だ」

 「シラハタファームやあのタワーも関わっていたことですか?」

 「そうだ。さらに規模を大きくしてシラハタワールドを作る。それがあいつらへの恩返しだ」

 (恩返し?そうだったのか…私たちは彼らに利用されたのか…騙されたってことか…)毛妻村長は悔しがっていた。村を悪に染めて自分たちの領土にする。許すまじことだ。

 「今さら貴様らが地団太踏んでも、もう手遅れだからな」カッツェはニヤつかせながら役場を後にした。

 (計画は順調に進んでいる。万が一、村人が何か起こしても、しもべたちがしっかり見張ってるから心配いらん)

 

 

 (つづく)