シラハタファームのランドマークであるホワイトフラッグタワーの一部崩壊で窮地に追い込まれたシラハタホールディングス。そのタワー崩壊の件についてだが、原因はいまだにわかっていない。HAGE一味はますます苛立って工事を請けた建設会社に数千億の損害賠償を請求するつもりだ。営業も休止したままで再開のめどが立っていない。それどころか廃墟化して解体をせざるを得ない状況でもある。さらに大規模な鶏舎も鳥インフルエンザで全滅してからそのまま、農園も荒れ放題で雑草が人の背丈くらい伸び、もはや構想中のシラハタワールドの実現どころか、経営が行き詰っていた。それでも彼らの野望はまだあきらめていない。それどころか、ダイヤモンド・ヴェールに倒されたはずの怪人・シャネットが復活した、という話を聞いた。
村人たちは、HAGE一味の監視が続いているものの、いつものような緊迫感はなく平穏に暮らしていた。かたつむり農園ではすっかり戦力となった、おにぎり屋”じゃんけんぽん”の元店主・川山絵美と姪の七村野絵に主人の立見宗二郎は目を細めていた。
「思ってたより頼りになるよ。大助かりだよ。天国の女房も喜んでるだろうな」傍で聞いていた二人もやる気満々で、農作業の辛さを忘れるほどだった。宗二郎にとって彼女たちの存在は心強いのだ。そこで絵美がある案を思いついた。
「お花を育ててみようよ。私、お花が好きで癒されてるの。いつかフラワーショップが開けるほどたくさん作ってみたいな、って」
「絵美さん、夢があるんだ。いいことだよ」宗二郎もその案には賛成のようだ。
「八原先生の奥さんの実家が、うちの店の隣にある花屋だった。彼女もフラワーショップを持つのが夢だって。だから、お店を開けるくらいたくさん育てるようにしないと」
「叔母さん、素晴らしいです!きっと実現できますよ」野絵も後押しをして、いろんな花の種をまいてみることにした。二人は畑を耕し、種をまいた。
「楽しみだね。でも水やりを忘れず、害虫や病にやられないようにね」種をまいて数週間、水やりや害虫や病に気をつけたおかげで、つぼみになるまで生育し、花開くまでもうすぐだ。二人がだんだんスキルを磨いていく姿に宗二郎の夢も膨らんでいった。
「ここまでやってくれるとは思ってもみなかった。すぐにくたばって長続きしない、と思ってたよ」
「だってここは借金地獄だったあの時よりずっといい。もうここから離れたくないから。でも借金も少しずつ返さなきゃならない。お金を生み出さないと」絵美は自分たちで育てた農作物を売って収益を生み出す。そうやって少しずつでも借金を返しているのだった。
シラハタファームを見渡すと、あの不気味なタワーは存在感がなくなり、意味のない施設や農地も荒れてほぼ廃墟となっていた。その時だった。再びHAGE一味が闘志をむき出しにして村人たちに詰めかけてきたのだ。
「まだまだ俺たちの野望は終わってないぜ」
「てめえらには一人残らず駆逐してやる」部下たちは口々に罵ると、村人たちは村長の毛妻次生をはじめ、
「しつこいぞ!もう我慢の限界だ!お前たちの思い通りにさせてたまるか!」
「お前らのものにされたら、この村はめちゃくちゃだ!」
「村の平和を返せ!」と抵抗するが、HAGEは元々は善良な村人で作られた団体だった。それがある日、ブラックインサイドによって洗脳させられた。したがって洗脳を逃れた村人たちは、なんとしても彼らの洗脳を解くため、HAGE一味に立ち向かった。しかし、絶対的な権力を持つ彼らにとっては”糠に釘”なのだ。
「黙れ!無駄な抵抗だな。なぜ私どもが折れなければならない?これはブラックインサイドとの約束だからな」
(”ブラックインサイド”?その上にまだいるとは…そもそも悪の根源はそいつらだったのか…)
「聞いたことないな。ブラックなんちゃら。おたくら、そいつに騙されてるじゃねーのか?」
「騙されてる?いや、間違ってないぜ。ドクターネンチ様はなんてたって世界一の研究者であり資産王だからな。我々にとって神みたいなもんだよ」
「金の力だけだろ?金の力で大衆を動かせるとは、汚ねぇやり方だな。そんなことしたって役に立たねえよ」
「役に立たねえ、とは何だよ。我々に歯向かうと痛い目に遭うぜ」
「どうせ口だけだろ?やれるもんならやってみろよ」毛妻村長が挑発すると、
「こんなクソジジイどもをやっつけてしまえ!」部下たちは村人を囲い、殴る蹴るを繰り返した。
(大勢で突っかけるとは、なんて卑怯な奴らだ…)それでも村人たちはやり返すが、焼け石に水のようだ。とても太刀打ちできる相手ではない。
「よし!こいつらをアジトに連れていけ!」
「そうはさせるか!」それでも村人たちは必死で抵抗する。
「ちくしょう!なんて奴らだ!阿沙比奈村はいずれHAGEやシラハタホールディングスに乗っ取られる。何としても食い止めないと…」彼らは悔しさでいっぱいだ。しかし、ピンチになると”あの人”が現れるのを信じるのみだ。
(どうか、また出てきてくれよ。ダイヤモンドなんちゃらよ…)
(つづく)