決戦前夜 | エルネア王国モニカ国の暮らし。

エルネア王国モニカ国の暮らし。

エルネア王国の日々の備忘録です。妄想もかなりあります。モニカ国。他のゲームの事も気ままに書いていこうと思います。
多忙のためのんびり更新中です。アイコンは旧都なぎ様のきゅーとなクラシックメーカーより。

任天堂Switch版エルネア王国をもとに書いています。


数あるブログの中から閲覧ありがとうございます。 こちらのブログはワールドネバーランドエルネア王国の日々をプレイし、それをもとに書いています。 プレイした際のスクショをもとに書いておりますが創作(妄想)も多くございます。 創作話が苦手な方は閲覧お控え下さい。



スピカ・ラウル(左)

チレーナ・ミラー(右)


山岳長子と王女の二人は思いを寄せていたが、その立場から一緒になることはかなわなかった。

時が経ち、二人は別々の人生を歩んでいる。


゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――


「懐かしい」

狭い坑道を歩いた先にある小さな横穴に辿り着くと、小さく呟いた。

幼い頃に何度も訪れた場所だった。

屈んで横穴に入った。

中央にはメガネ石が何個も置かれている。

チレーナと集めたメガネ石だ。

その中の一つを以前持ち帰り、お守りとして試合の時に持っていた。

スピカは中に入ると、ゆっくりとした動作で座り、壁にもたれた。

少しでも、あの頃に縋りたくて。
でも、チレーナと過ごしたあの場所に行けば
気を遣って彼が会いにきてくれるかもしれない。

今のスピカにチレーナと腹を割って話す勇気はなかった。

龍騎士になってほしいと伝えたのに、その前に立ちはだかる自分をチレーナはどう思っているのだろう。
忌々しく思っているだろうか。
今度こそ嫌われてしまっただろうか。



ーーそれでも。
私はあなたと同じ舞台に立ちたかった。
いつまでも、守られてるだけの私じゃないって示したかった。
だから安心してって伝えたかった。







時はさかのぼり……

スピカがまだ子供の頃。


「………その怪我……どうしたの……」

ボロボロのチレーナを見てスピカは唖然とした。
端正な顔にはいくつもの絆創膏。
頭には包帯が巻かれ、腕は湿布や絆創膏や、包帯が巻かれた部分もあって痛々しかった。

「……んーちょっと……」

チレーナはバツが悪そうに視線を逸らした。

「探索で?」

そういえぱ、昨日チレーナは探索に行くと言っていたことを思い出した。

「………そう」

チレーナは気まずそうに頷いた。

この様子から探索で酷い目にあって、大人たちからも大目玉を食らったと思われた。
チレーナの落ち込んだようなこの態度がそれを物語っている。

「坑道のダンジョンに行ったら、魔物が強かったんだ」

これだけ怪我をしていたのはそのせいだったのか。

子供がいけるダンジョンは森の小道。
坑道にあるダンジョンは大人にならないと許可されていない。

許可なく立ち入ってこうなってしまったのだろう。

「チレーナ君……無理しちゃだめだよ」

「………」

きっと同じようなセリフを皆に言われているだろうチレーナは下を向いた。

「どうして坑道のダンジョンに行ったの?森の小道じゃだめなの?」

「ーーだってさ……
俺、早く強くなりたいんだ。」

ギュッと拳を握ってチレーナははっきりとした口調で言った。

「チレーナ君は十分強いと思うよ」

「今のままじゃだめだ。もっと強くならないとスピカちゃんを守れない」

「え……」

ーーー私のため?

「もっともっと強くなって、スピカちゃんを守れる男になる。バグウェルにも勝って、みんなを守る山岳の男になりたいんだ」

真っ直ぐに向けられた視線にスピカはドキリとした。

山岳の跡取りのチレーナは、周りの子たちより大人びていた。

子供のいう夢物語ではなく、彼は本気でそう思って実現しようと努力していた。

「無理しないで。チレーナ君が怪我をしたらとっても悲しい。実際にそんなにボロボロになったチレーナ君をみて私は悲しいよ……だから約束して。もうこんな無茶しないって」

スピカはチレーナの手をギュッと握る。チレーナはドギマギしながらスピカを見る。

スピカの真剣で心から心配している様子に少し考えたようだが、

「……………う…うん……分かった…」

チレーナは渋々という風に頷き約束してくれた。

「怪我したらスピカちゃんを守れないもんね」

自分のことよりもスピカのことを案じるチレーナ。
自分自身のことが後回しであることが心配ではあるものの、その気持ちが嬉しいと幼心に思うのであった。


゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

成人後

*これは2人がまだ想いを伝え合っていない時のお話です。

成人して一年目頃のお話です。





2人はドルム山の人に知られていない場所で夜会っていた。


イマノルから教えられたこの場所は、坑道を通っていくと行けるのだがかなり複雑な場所のため山岳兵でもほとんど知る者はいない。


星空がよく見えるこの場所は、スピカとチレーナが人目を気にせず穏やかに話せると唯一の場所だった。


この夜はいつもと違っていた。


先に来ていたチレーナは、ぼんやりと星空を眺めていた。


「チレーナ君?」


呼びかけるとチレーナはビクリとして振り返った。


「…あ。こんばんは」


「どうかした?」


「いや……なんでも…あ、ピッツァ焼いたんだけど食べる?」


鞄から出されたピッツァ。香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。


「食べる!」


スピカはパァっと目を輝かせた。


ピッツァが好きというのもあるがチレーナの作るピッツァはまた格別だった。


一口頬張れば口の中いっぱいに幸せが広がる。


「美味しい〜♡チレーナ君また腕上げたね♪」


幸せそうにピッツァを頬張るスピカを、チレーナは優しげな表情で見つめていた。


ーーあ。


スピカは気づいた。

その表情の中にある悲しげなものに。


「……チレーナ君?」


名前を呼ぶとチレーナは小さく笑った。


少し自嘲気味な笑みに見えた。


チレーナの様子がおかしいことにスピカが察したことを、チレーナが察したようだ。


チレーナは視線を上に、星空に向けた。


「…俺、幸せだなぁと思って。こうしてスピカちゃんに自分が作ったピッツァを食べてもらえて、スピカちゃんを独占できるなんて、きっと身に余るほどの幸せなんだろうな…」


幸せだと言うチレーナはちっとも幸せそうじゃなかった。


呟く声は今にも泣き出しそうで。


こんなにも切なそうな笑顔を浮かべる理由はなに?


友達以上で、恋人未満……

恋人になれないスピカとチレーナ。


相手に自分の気持ちを伝えることは許されない。

こんなにも溢れそうな気持ちに蓋をして、友達として相手に接しなくてはならない。

今が楽しいならいいじゃないか。

そう思えたら楽なのに。

そう割り切れないから、
一緒にいて幸せで楽しくて嬉しくて悲しくて切ないんだ。

「チレーナ君」

スピカは身を乗り出した。

「えっ……」

チレーナにスピカの影が落ちる。

チレーナが被っていた帽子が外され、スピカの唇がチレーナのオデコに触れた。

チュッという小さな音に、チレーナは固まった。

「………ピ…ピッツァの御礼?あと、元気が出るおまじないらしい…よ……」

スピカがそう耳元で囁く間もチレーナは静止していた。

そっと帽子を元に戻して離れると、チレーナの顔は真っ赤に染まっていた。

月明かりの下ではっきりと分かる赤面に、スピカも恥ずかしくなった。

顔が熱い。
体の体温もどんどん上がってきている気がする。

「わ、私……そろそろ帰るね!おやすみ!」

ーー思わずしてしまったけど
なんて事したんだろう!恥ずかしい…

「あっ……… 」

チレーナが引き止める暇もないままスピカは駆け出して姿が見えなくなった。

1人その場に取り残されたチレーナは、空を仰ぎ一言呟いた。

「ーーーめっちゃ元気出た…」


゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

「……ん」

いつの間にかウトウトしていたらしく、スピカは目を開いた。

小さい頃のチレーナはとても可愛らしかった。

自分の気持ちに真っ直ぐで、何事にも一生懸命。

そんな彼がスピカは大好きだった。

成人してから、本当は口にしてはいけない想いが通じ恋人のような関係になった。

その関係も間もなく終わり

年月が経ち、
こんなにも遠くまできてしまった。


彼はドルム山岳兵団長として。

スピカはガルフィン魔銃師会の魔銃導師として。



エルネア杯の決勝で、対峙することになった。


本来なら、自分たちが対峙する可能性はとても低かったのに。


まるで神の悪戯のような二人の対戦。


思案していると、足音が聞こえてきた。足音は横穴のすぐ近くで止まった。


人の気配にスピカは顔をあげた。

「なんで………」

そこに立っていた人物に、スピカは驚き目を瞬かせた。

「スピカちゃんがドルム山に入っていくのを見た奴から聞いて……心配で探しにきた」

山岳兵団長チレーナが立っていた。

「………もう、子供じゃないんだから大丈夫だよ」

わざわざ探しにきてくれたチレーナに対して、嬉しい気持ちがあるのに、スピカはそっけない態度をとってしまった。

「明日は決勝戦だよ。………早く帰って休んだ方がいい」

そんなスピカの態をチレーナは気にした様子もなく気遣いの言葉をかけてくる、

「敵に助言してくれるんだ?」

「敵って………俺はただ、スピカちゃんが心配で」

そう言いながら、チレーナも中に入って腰を下ろした。

スピカが帰る気がないことを悟り、チレーナは付き合うつもりのようだ。

中は狭いのでお互いの身体が触れるか触れないかの距離感。

至近距離で二人の視線が重なった。

「………どうしてここだとわかったの?」

「試合の前に、メガネ石を見つめてたから、もしかしてと思った」

チレーナの言葉にスピカは恥ずかしさで体が熱くなった。

何を思ってここまできたのか、全部彼に悟られているようで落ち着かない気持ちになる。

スピカの気持ちを察したのか、気まずい空気が流れる。

「……帰り道、分かるから。大丈夫だからチレーナ君はもうお家に帰っていいよ。」

いたたまれなくなって、再度チレーナに帰るように言う。

「………スピカちゃん方向音痴なのに説得力ないよ」

ため息まじりに言われたことにスピカは顔を顰めた。

「方向音痴って…!」

「昔迷子になったじゃん…」

チレーナは半笑いしている。

「あ、あれはちょっとウロウロしすぎたからで」

「今回もし迷子になったら明日の決勝戦どうするの。」

「対戦相手がこないほうがチレーナ君は都合がいいんじゃないの?」

もしもスピカが決勝戦に現れなければ不戦勝でチレーナの勝利になる。しかしチレーナはそんな勝利は望んではいない。それはスピカも分かっている。

「そんなこと思わないよ。やっぱり迷子になってここに辿り着いたんじゃ……」

チレーナは疑心の目をスピカに向けた。

「だから違うの!」

どうしても「迷子になっている」というレッテルを貼られたくないスピカはキッパリ否定する。

「ふーん?先日遺跡でも迷子になってたらしいけど」
チレーナから出た一言に、スピカは驚きを隠せなかった。

「ちょ……それ、誰から……?!」

慌てふためくスピカの様子にチレーナは可笑しそうに笑う。

「チェロ様」

告げ口した相手の名前をカミングアウト。スピカの兄で、ローゼル近衛騎士隊の騎士隊だ。

「く……ベラベラと……」

普段この2人そんなに喋ってるんだ?と思ったが、組織長なのだから交流があって当然といえば当然、その流れでその暴露はやめてほしかったが。

「やっぱり方向音痴は昔と変わらないみたいだね」

優しい笑顔から放たれる言葉にスピカは反論したくなった。

「そ、そーいうチレーナ君だって、私を探しにきてくれた時、帰り道分からなくなってたじゃん!」

「そ、そうだっけ、そんなことないよ……現にちゃんと帰れたよ」

チレーナ自身迷子になった事を忘れてたような反応。指摘されて思い出して慌ててるというところか。

「イマノルさんが見つけてくれたからね。」

無事に帰れたのは探しにきてくれたイマノルに見つけてもらえたから。

「あー……イマノルさんか」

今は亡きイマノルの名前にチレーナは少し目を細めた。

「ーーあの時、イマノルさんが疲れた私をおんぶしようとした時チレーナ君は触れられないように守ってくれたんだよね。とっても可愛くて、格好よかった」

こんな風にさらりと言えたのは、時の流れだろうか。ぽろりとあの頃の本音が溢れた。

チレーナは少し驚いた表情をして、横を向いた。

「そりゃ……大事なスピカちゃんに触れさせるわけにはいかないよ」

2人はこの時多分同じ顔をしていた。

どこか哀しげで、お互いの気持ちに諦めた2人。

こうして会っても、あの頃にはもう戻れない。


沈黙の時間が流れた。

坑道の中は驚くほど静かで

なんの音もない。

まるで世界に自分たちしか居ないのではないかと錯覚するほど、音のない世界。

続く沈黙。

それは気まずい沈黙ではなかった。

スピカにはチレーナが何か言おうとしていること気づき、彼が話始めるのを静かに待った。

どのような事柄に触れようとしているのか容易に想像できた。

お互いに、ずっと頭の片隅にあるのに口には出来ないあのことを。

恨み言を言われるのだろうか。

スピカはそれを受け止める覚悟をする。


数分間の沈黙のあとチレーナは口を開いた。

「ーーーいつか、こんな日がくるって分かってた。
スピカちゃんが、魔銃兵に志願した事が分かったその時から
きっとスピカちゃんと戦うことになるんだろうって
分かってた」


沈黙を破ってチレーナから発せられた言葉をスピカは心の中で反芻する。

スピカは知っていた。
自分が魔銃兵に志願した時、チレーナが戸惑っていたことを。

魔銃兵になって、スピカの探索ポイントを見て複雑な胸中であったことも。

チレーナがこのセリフを言った時の複雑な胸中は、嫌というほど分かっていた。

スピカは目を閉じた。

龍騎士になってと言っておきながら立ちはだかる自分をどう思っているのだろう。

目を開けてみれば、目の前にいるのは優しげなチレーナの顔があった。

小さい頃となにも変わらない自分を見る眼差し。

その瞳に宿るものには嫌悪など感じなかった、ただただスピカを案じる優しいものだった。

「明日の試合、どっちが勝っても恨みっこなし。
お互い全力で戦おう」

スッと手が差し出される。


ーーーああ
やっぱり、チレーナ君は凄いな

どんなに背伸びしても、彼には届かない。


握手に応じてスピカはチレーナの手を握った。


「うん」


ーーこの手に守られるのは私であってほしかった

あの頃とは、もう違うのに

そう思ってしまうことは罪なのでしょうか……


゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

 その後


「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

当然の提案だが、スピカは首を横に振った。

「チレーナ君は先に帰っていいよ」

「明日の決勝戦が方向音痴で坑道から帰れなかったから出れなかった、ってなったら一生の恥じゃない?しかもガルフィン魔銃師会の魔銃導師様がさ……」

小さく笑いながら哀れみの目を向ける。

けっこう本気でスピカが迷子でここにいたと思っていたのかもしれない。

「……チレーナ君、少し意地悪になった?」

ジロリとスピカはチレーナを上目遣いで見た。

ーー昔はこんな事言う人だったっけ?


「俺はずっとスピカちゃんには特別優しいよ」

チレーナはにこりと微笑んだ。その微笑みは今も昔も変わらない。

「……(バカ……)」

「ん?何か言った?」

「んーん………なにも!」

2人は横穴から出て坑道を歩き出した。








あとがき

子供から大人になり、それから年月が経ち
組織長としてさまざまなものを背負って2人はエルネア杯の決勝の舞台に立ちます。


2人がこの横穴で話していた子供の頃の話は