221年 繋いだ手と交わした約束 | エルネア王国モニカ国の暮らし。

エルネア王国モニカ国の暮らし。

エルネア王国の日々の備忘録です。妄想もかなりあります。モニカ国。他のゲームの事も気ままに書いていこうと思います。
多忙のためのんびり更新中です。アイコンは旧都なぎ様のきゅーとなクラシックメーカーより。

任天堂Switch版エルネア王国をもとに書いています。




その日は唐突にやってきた。


「やっぱり、スピカ様のことが好きなのか」


ミラー家のドアを開こうとドアノブに手を伸ばした瞬間、聞こえてきた声にスピカは動きが止まった。

チレーナ「違うって、言ってんじゃん!」

少しムキになって言い返すチレーナの耳が少し赤い。


ゲロルド
「毎朝会いに行っておきながらその気はない?それはそれでどういうこと?」


チレーナ
「うるさいな!お父さんには関係ないよ!」

ゲロルド
「その気がないのなら、会いにいく回数を減らしなさい。好きではないのなら、難しい話ではないはずだ」


チレーナ
「……言ってること、わかんない…」

苦しげな表情を浮かべ足元に視線を向ける。


ゲロルド
「……もう手遅れなのだろうということは分かっている。お前がスピカ様を好いてることをもっと早く気づいてやれなくてごめんな」

ゲロルドはチレーナの肩に優しく触れた。

チレーナ「………」

ぎゅっと小さな手が拳をつくり、チレーナは苦しげな表情のまま俯いている。


ゲロルド
「スピカ様とは一緒になれないから、距離をおこう。いいね?」

無骨な男が息子に言い含めるように優しく言う。


それがスピカに絶望を与えた。

一歩、二歩、スピカはふらふらと後ろに下がる。

くるりと踵を返して、ミラー家を背に走り出した。

駆け出す小さな足音に、チレーナはハッとして顔を上げた。

勢いよく扉を開くと、遠ざかる少女の背中が見えた。

「スピカちゃん!」

チレーナがスピカの名前を叫んだが振り返らなかった。


きっとチレーナの顔を見たら、自分は情けなく泣いてしまう。

涙を流したら、自分の気持ちがバレてしまう。


バレたら築き上げてきたものが全て崩れてしまうような、そんな気がして。

スピカは走って、走って、
どこまでも走っていた。


昼になるとチレーナは授業に行くはずなのでスピカは一度家に戻った。

おもむろに、家にある王室のしきたりについて書いてある本に目を通すと

はっきりと山岳長子と王族は結婚できないと記載があった。


スピカ
「………わたし……馬鹿だね」

静かに呟き、本を元にあった場所に仕舞う。


「大丈夫……チレーナ君は、みんなと同じ……友達だもん…」

自分に言い聞かせるように、言ってみたものの、力なく乾いたものだった。

嫌でもそれが本音ではないことを、痛感してしまい、目から涙が溢れて頰を伝った。

チレーナのことが大好きだということをスピカは理解した。



その日をどう過ごしたのか、スピカは正直覚えていなかった。

翌日、朝食を食べ終わり、スピカは身支度を整えるために鏡台に向かっていた。鏡の中の自分のどんよりした顔にスピカは溜息をついた。


「お…おはようございます……」

遠慮がちな声が聞こえてきて、スピカは陸上選手並みに素早くベットの下にスライディングした。

チェロ「おはよう」

??「スピカちゃん、いますか?」

やってきたのはチレーナだった。昨日スピカはあれからチレーナに会っていない。


チェロ
「スピカなら、そこに……
…あれ、どこにいった?」

忽然と姿が消えた妹にチェロは怪訝そうに部屋を見回した。


チェロ
「さっきまで奥の部屋にいたような気がしたんだけど……いないみたいだねーどこかに出かけたのかも」


チレーナ「そう……ですか」

元気がなさそうにチレーナが去っていく。チェロは部屋の中をもう一度ぐるりと見回してから、出かけていった。


スピカ
(ふっ……やはりチェロ君ごときに私は見つけられない)

ベットの下で勝ち誇った笑みを浮かべる。


「そこでなにしてんの?」

突然声がしたスピカは飛び上がるほど驚いた。

ベットの下から出ると、母リンゴがじーっとスピカを見ていた。

スピカ「お、お母さん…」


リンゴ
「もしかして、チレーナ君を撒いたの?」


スピカ
「フッ……ラウル家たるもの、気配を消して隠密行動くらいとれないとね。時代は隠密、隠蔽、破壊活動……… 」

リンゴ「…………」
(また変な小説でも読んだのかなー……)

母からの憐れの混じる目から逃れるように、スピカはエルネア城をあとにした。


スピカを訪ねてきたチレーナが城下通りを歩いていた。

スピカはさっと街灯の後ろに隠れた。

女の子が1人、チレーナに声をかけ2人は楽しそうに話をしている。


ズキリと胸が痛んだ。


スピカ
(………失恋、しちゃった)


ズシンと心にのしかかるような、そんな衝撃を感じた。

2人が仲良さそうな光景見ていると苦しくてたまらない…

スピカ
(まだ、いつも通りのフリは難しいみたい)


2人がいるほうとは逆方向に歩き出す。


彷徨うように歩いていると、スピカはいつのまにかドルム山にきていた。

チレーナは大人たちには内緒だといって、洞窟にある無数の脇道を案内してくれた事が何度もあった。チレーナとドルム山を探検するのはスピカにとって堪らなく楽しみなことで心待ちにしていた。

スピカ
(ここの探検、すごく楽しかったなぁ……)

きっともうチレーナと共にここにはくることはない。

くるべきではない、そう思うと心が重くなった。

思い出を手繰る(たぐる)ように、奥へ奥へと進んでいく。

暗がりを怖がるスピカに「大丈夫だって!俺がついてるよ!」と自信満々のチレーナがいつも勇気づけてくれた。

怖い洞窟だって、チレーナがいればスピカは怖がることなく進むことができた。

それより今怖いのは、チレーナに距離をとられ、自分のほうを見向きもしない未来がすぐそこまできているような気がして、その未来に近づくのが恐ろしかった。


スピカは壁にもたれ、ズルズルと崩れた。


幼心には、この現実は辛かった。


いつのまにか、その場にへたりこんで泣き疲れて眠ってしまったらしい。

目が覚めた時、今が何時なのかも分からなくなっていた。


スピカ
「………あれ、どっちからきたんだっけ?」

意識を手放したスピカには方向感覚がなくなってしまった。


「どうしよう……迷った」


途方に暮れるとは、きっとこのことを言うのかなとどこか冷静に思いつつため息をついた。



それから歩き回ったが、出口に辿りつくことはなかった。


体感でもたっぷり一晩経ったであろう時間の感覚に、体験したことのない疲労感に不安が募っていく。

足が痛くなっていき、引きずるように進んでいたその時……

「あっ……」

横穴を見つけた。

子供の背丈くらいの高さのその横穴の中の真ん中にはいくつものメガネ石が置かれていた。

以前たくさん見つけたメガネ石をチレーナがここで見せてくれて、そろそろ帰る時間だとそのままにされている。


横穴に入り、メガネ石を一つ手にとるとギュッと握りしめた。

どっと疲労感に襲われ、スピカは横穴の中に座り込んだ。


(チレーナ君に会いたい……またいつもみたいに遊びたい……)

じわりと涙が溢れ、頬を伝う。


「チレーナくん……」

思わず口から出たのは痛切な声。

「チレーナくん…」


この声が、彼に届かないと分かっていても、届いてはいけないと分かっていても、彼に会いたいと思う気持ちを抑えきれなかった。




「スピカちゃん!」


名前を呼ばれた気がして、顔をあげると、そこにはゼェゼェと肩を揺らして息をしているチレーナの姿があった。

チレーナ「や、やっと見つけた……」

はぁーっと大きく安堵の息を吐く。


スピカ
「チレーナ……くん」


チレーナ
「大丈夫?どこか痛いの?!」

泣いているスピカを見てチレーナはスピカの顔を覗き込む。

スピカ「……っ」

ぽろぽろと涙がさっきより目から溢れる。

チレーナの姿を見て、スピカは安堵と、探しにきてくれた事に対しての嬉しさが込み上げた。


チレーナ
「スピカちゃん?大丈夫?」

更に泣き出したスピカの様子にチレーナは慌てふためき、彼女を安心させようとぎゅっと抱きしめた。

「俺がついてるから大丈夫だよ」

優しい声と温もりに自分とたいして変わらない体格のなのに守ろうとしてくれる気持ちが嬉しくて切なさで胸が苦しくなった。




゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

スピカが落ち着きを取り戻すまでチレーナはずっと抱きしめてくれていた。


今は帰るために、洞窟内を再び出口を目指して歩いているのだが……… 


スピカ「チレーナ君……」

繋いだ手にどきどきしつつ、とある確信を持ち少年の名前を呼ぶ。

チレーナ「………」

聞こえているはずなのに少年からの返事はない。前方を見たまま顔が硬直している。

スピカ「チレーナ君」


チレーナ
「だ、大丈夫……俺がついてるから…」

強がる声はうわずっている。

スピカ「………」

(帰り道、分からないんだ…)

状況はさっきと変わらないのに、今のスピカの心は軽やかだった。

手の温もりに心はほっこりする。

スピカがギュッと繋いだ手に力を入れると、チレーナがスピカよりも強い力で握り返してきた。それがスピカには嬉しくて幸せで堪らない。

チレーナの方を見ると、チレーナと目が合った。急に恥ずかしくなって、2人は同時に視線を逸らせた。

繋いだ手だけは離さない。


チレーナ「あのさ……」


スピカ「ん?」


チレーナ
「大人になったら、山岳兵は工芸品を作ることが出来るんだ」

スピカ
「前にチレーナ君のお父さんが作ってるところ、一緒にみたことがあるね」

チレーナ
「最初は上手く作れないと思うけど……いい出来のが作れたら最初の自信作はスピカちゃんにあげる」

思ってもみなかった言葉にスピカは驚きチレーナを振り返る。

スピカ「………いいの?」


チレーナ
「もちろんだよ。………もらってくれる?」

真剣な眼差しで、他に何か言いたいことを飲み込んだ少し苦しそうな表情を浮かべている。子供とは思えないほど大人びていた。


スピカ「うん。ーーー約束だよ」

不安げにスピカはチレーナを見つめた。

(大人になった時
その気持ちがチレーナ君にある?)



チレーナ「約束する」

真っ直ぐスピカを見つめながら頷いた。スピカの不安を払拭しようとするかのようにチレーナは繋いだ手に一瞬ギュッと力を込めた。


合わせた視線が外れないまま見つめ合っていると、足音が聞こえてきたので2人はそちらに視線を向けた。

「あれ〜〜?こんなところでお忍びデートかなぁぁ?」

場違いなほど陽気な声が洞窟に響き渡る。


「こんな所で女の子と2人きりだなんて、ミラー家の次期隊長、なかなかやるねぇ」

ニヤニヤと笑って2人を見ているのは、イマノル兵団長だった。


チレーナ
「そ、そんなんじゃないよ!」

ムキになって否定するが、チレーナの顔が少し赤く染まっている。


イマノル
「あはは、分かってるよ〜チレーナお手柄じゃん。スピカ様を見つけたんだな。よくやったじゃん」

チレーナの頭を撫でる。

まさかまた迷子になっているとは思っていないようだ。それに気づいたとしてもイマノルがその事に触れないだけかもしれないが。


イマノル
「さてと、スピカ様はお疲れのようだし、おんぶしよっか?」

行方不明から二晩目ということもあり、疲労の溜まっていそうなスピカを気遣って提案したのだが

チレーナがイマノルの前に立ちはだかった。


チレーナ
「それはだめ!」


イマノル「ん?」


チレーナ
「イマノル兵団長はこの国一のスケベだから、絶対にだめ!」

スピカの前に立つと守ろうとするように両手を広げイマノルを睨みつける。


イマノル
「おいおい、それは誤解だよ。俺はこう見えて紳士だよ〜」

紳士アピールするかのように両手を上げてみせる。

チレーナ
「嘘つき!女性のことを触りまくってるってルイスさんが言ってたぞ!」

キリっと鋭い視線で睨みつける。


イマノル「ルイスの野朗〜💢」

いつぞやの仕返しで、すでに種を蒔いたなとイマノルは察した。
*イマノルはルイスに様々なことをしていてよくルイスに追いかけられている

スピカ「イマノル兵団長さいてー」

軽蔑の眼差しを兵団長に向ける。


チレーナ
「この人は置いていこう」


スピカ「うん」

イマノルに対して結束力を強めた2人は頷き歩き出す。


イマノル「待って!置いていかないで!」

大人とは思えないセリフを言いながら子供2人に追いすがる。


チレーナ
「どうしよう、この人も一緒でいい?」

スピカ
「う〜ん、どうしてもっていうならついてきてもいいけど」

完全に子供2人にバカにされているイマノル。

これでも現在のドルム山岳兵団の頂点にいる人物である……

圧倒的な強さと人望で長年兵団長を務めたバルナバとはえらい差である。


イマノル
「じゃあさ、とっておきの場所教えてやるよ。山岳兵団でたった2人しか知らない秘密の場所だ」

チレーナ
「う〜ん?そんなところある??俺けっこう探索したんだよ」


イマノル
「いいからいいから。実はここから遠くない場所なんだよ」


そう言われて案内された場所は、前方がぽっかりと穴が空いて、外が見える場所だった。

イマノル
「あんまりそっちいくなよ。真っ逆さまに落ちちゃうよ」

落ちれば奈落の底に落ちるのかと思われるほど、何も見えない闇が下にはあるが……

上を見上げれば満点の星空が見えた。


スピカ
「うわぁ、すごい!」

流れ星が時折流れる美しい空にスピカは目を輝かせた。


イマノル
「さっきまで雨が降ってたのに、止んだんだ。ラッキー」

チレーナ
「こんな場所知らなかった」

チレーナも満天の星空に目を輝かせている。

イマノル
「でしょ。ここ、転移魔法先に登録しておけばまたこれるよ」

スピカ「そうなの?」


イマノル
「そのかわり、ここはみんなには絶対秘密な。ここを知ってるのは、あと1人しかいないから」


スピカ「あと1人って誰?」


イマノル
「俺の昔の恋人だよ。昼間はデートしにくいからさ〜よくここで会ってたんだよね。」


子ども2人は顔を見合わせた。


イマノル「登録は?」

チレーナ「する……」

探検が大好きなチレーナとしては自分で見つけたかったと思いつつ、目を輝かせて星空を見るスピカをまた見たいという気持ちが勝り、転移先に登録した。スピカもそれを横目に同じのように登録をすませる。


3人は少しの間、無言で光り輝く無数の星々を見上げる。


イマノル
「2人とも色々大変だとは思うけどさ……ルイスみたいな奴でも幸せになれるんだからそんな悲観すんなよ」


チレーナ「ルイスさんは何かあったの?」


スピカ
「……ルイスさんってあれでしょ、伝説の独身貴族…」

スピカの年代では伝説扱いなのか、面白がってそう言われているのか。後者だと思われる。

チレーナ「ドクシンキゾク?」

スピカ
「毎日のように女の子たちに振られまくって、ずっと独身だった人なの……その振られ様は、幸運の塔での名物になったとも言われている」

*主にイマノルのせいで名物化した


チレーナ
「毎日、振られ……?」

恐ろしい話に顔を引き攣らせた。チレーナ少年にとって、ホラーのような話だ。


イマノル
「そんなルイスは今日も元気いっぱいさ。もうすぐ子供が産まれるしね。生きてたら、悲しい事もあるけど良いこともあるよ」

この国で、スピカたちの気持ちに一番寄り添えるのはイマノルとアルシアなのかもしれない。


飄々としているこの男も苦しんだのだろうか。

イマノルの言葉は彼の背景を思えば思うほど深いものに聞こえた。


イマノル
「ここからなら転移魔法が使えるから帰ろうか。みんなが死ぬほど心配してるし、そろそろチレーナとスピカちゃんが駆け落ちしたとかアホなことを言い出す奴も出るかもしれないしね〜」
*主にそんなことを言うのはイマノルだと思う

「「えっ」」

チビ2人が恥ずかしそうにするのを笑いながらイマノル。


一緒になれない者たちの心を慰める場所はこうして次の時代へと繋がれていく。


゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

「ごめんなさい、道に迷っていました」

武術職が勢揃いした中でスピカはぺこりと頭を下げた。

大勢の大人がスピカのために深夜遅くまで捜索してくれていたことに驚き、申し訳なく思った。


ヴェルンヘルは娘の姿を見つけると、一目散に駆け寄ってきて、その小さな体を抱きしめた。


ヴェルンヘル
「無事でよかった……」


スピカ「心配かけてごめんなさい」


母リンゴはスピカを抱きしめしばらく泣いていた。

理解できないのは、姉のセシリアが泣きながら

「ごめん、本当にごめんね……全部私のせいなのごめんねスピカちゃん」

と謝りまくっていたことだった。


スピカ
(なんなの……?
お姉ちゃんはなにも関係ないのに)

姉の心中は、妹には全く分からないまま。


スピカは家族と一緒にドルム山から帰ることなり、帰り際、チレーナに向かって手を振った。チレーナも手を振り返す。

スピカたちラウル家の姿が見えなくなると、いつの間にかチレーナの横に立っていたゲロルドは

「よくやった」

息子の頭をぐしゃぐしゃと撫でてる。


チレーナ「へへっ……」

チレーナは少しだけ誇らしげに笑った。






あとがき

前にこの2人の仲人をしているときに
この2人はくっつけられるのだろうかと書いたら
無理とのコメントをいただき
マジかとなりました。

マジでした。無理でした……
その様子は222年に書かれる予定です。

この2人には申し訳ないことをしたなぁ…

幼い2人のやりとりは可愛くて書くのは楽しかったです。