ORANGEの備忘記録 -26ページ目

豚もおだてりゃエレベーターホールまで

おだてられながら、少しずつ歩く距離を伸ばす。

「スゴい!こんなに歩けましたよ!」
「歩ける距離、どんどんのびてますね!」
おだてられると止められなくなる。
豚もおだてりゃそのうち木登りでも始める勢いだ。

そのうち、暇になると、ひとりでフラフラ出歩く。エレベーターホールまで行くと、外の景色が素晴らしい。

海越しにポートタワーやハーバーランドの観覧車、六甲山、遠くには明石海峡大橋まで。

震災直後は、夜ライトアップしてとてもきれいだったが、しばらくすると、喪に服すかのように、あかりを灯すことはなくなった。

震災、同じ被災地、原発事故、節電、自粛…
いろいろ複雑に絡んだ事情が見えた
気持ちになり、悲しかった。


Android携帯からの投稿

歩行訓練

リハビリが始まってから、看護師さんが洗髪をしてくださった。

いつ、入浴許可がでてもいいように、シャンプーなどのお風呂セットは、夫に持ってきてもらっていた。

入浴許可はまだまだない。そのかわり、洗髪ということだ。

ただ、私はまだ腰を屈めることができない。

なので、病室のベッドのまま、美容院のように仰向けでシャンプーして下さる。本当に看護師さんには感謝している。

器具をあれこれ持ってきて、準備完了。

やはり洗ってもらうとサッパリする。
人生でこんなに長いこと髪を洗わなかった事がない。

入院直前に美容院で髪を切っていて良かったと思った。
ボサボサじゃなくて良かった…

これで、リハビリで病室から出てもみっともなくない。

さて、それから、歩く訓練が始まった。
カラカラと動くキャスター付きの点滴のスタンドにつかまりながら、ゆっくりベッドから離れる。

看護師さんが後ろ向きに手を引いてくれる。
神経を歩くことだけに集中して進む。

ただ歩くだけがこんなに怖いのかと、今後が心配になった。

歩き慣れないという事もあるが、ギプスで胴体が動かせないと、どうもバランスがとりにくいせいか。

ゆっくりナースステーションを1周し病室へ戻った。

すると、隣のベッドの方と会った。

「やっとお顔が拝見できましたね!」

お互い挨拶した。

お向かいの患者さんは、座って食事をとるとき、配膳もあるので、前方カーテンは開けているが、横までグルッと開けることはなかった。

だからお隣さんとは初めて顔をあわせたのだった。


Android携帯からの投稿

ニューアイテム

ベッドサイドの柵にくくりつけたポケットに、とても大事な物を入れてある。

「串刺し定食」の串、1本だ。

もうリハビリが始まった頃には、座れるので、通常の食事が頂ける。
この1本の串は、以前から大事にとっておいた。

私のギプスは胴体をぐるっと囲っている。
ギプスの処置室でベテラン看護師さん達(妖精のように愉しげなのだ)に、痒いときに掻くことができるるようにと、ギプスと皮膚の間にガーゼの紐を挟んでくれていた。

ギプスの内側が痒いときには、その紐をぐるぐる動かす。

ところがこの紐、たしかに痒いところにたどり着くのだが、肌へのあたりが弱い。痒みに優しすぎるのだ。

それはかえって痒みを増幅させた。
痒いところをそぉーっとソフトタッチするのだ。

他の患者さんは、それぐらいがちょうどいいのかも知れない。

ただ私には、弱かった。

その時ちょうど目に付いたのが、「串刺し定食」の串だ。

尖ったほうはさすがに傷だらけになりそうだが、柄のほうは肌あたりがちょうど良かった。

狭いギプスとの隙間にも入ってゆく。

絶対に手離せない道具の一つだった。


Android携帯からの投稿