こんにちは培養室です。
前回は精子における質の向上と加齢の影響について説明しました。
今回は精液検査の所見がどのような男性不妊に分類されるのか説明していきます。
不妊の原因は男性と女性で同じ割合であります。
精液検査の所見はWHO(世界保健機関)マニュアルで評価されます。
精液所見からの分類
・乏精子症
総精子数が基準下限値以下
・精子無力症
精子数は正常であるが前進運動精子が基準下限値以下
・奇形精子症
正常形態精子が基準下限以下
・無精子症
精液中に精子が認められない
などがあります。
無精子症には大きく分けて2つあります。
精巣から尿道に運ばれていく管に問題がある場合(閉塞性無精子症)と精巣の精子を作る機能に問題がある場合(非閉塞性無精子症)があります。
閉塞性無精子症の原因の一つに精索静脈瘤があります。精索静脈瘤は精巣の周りに静脈の瘤(こぶ)ができる状態のことで、その瘤が造精機能障害を引き起こすと言われています。精索静脈瘤は手術をすれば症状が回復する可能性があります。症状の回復度合いによっては自然妊娠が期待できます。
非閉塞性無精子症の場合は精液から精子を見つけることができませんが、精巣から精子を採取できる可能性があります。精巣から精子を採取することができれば顕微授精を行うことができます。
また、オーガニズムに達しているのに射出する精液が少ないか認められない場合は逆行性射精が疑われます。
逆行性射精は射精時に閉まるはずの内尿道口が開いたままになっており、精液が膀胱に流れている状態です。
薬剤で改善できる場合もありますが、改善しない場合もオーガニズムに達した後すぐに尿を回収することで尿中から精子を回収することができます。精子の状態によっては人工授精を行うことができますが、顕微授精になる場合が多いです。
精液所見が基準に満たない場合は自然妊娠が難しいです。また、精液が射出されない場合や精液中に精子がいない場合も精子を得られる可能性があります。まず精液検査を行い、現在の精液所見を知る事が非常に重要です。
精液所見の悪い場合は顕微授精が必須となります。
当院では顕微授精を施行する全ての方に卵子に優しい方法である「Piezo-ICSI(ピエゾ-イクシー)」を採用しています。
Piezo-ICSIは従来の顕微授精に比べ、変性率(顕微授精後に卵子が死んでしまう割合)が低下し、受精率や胚盤胞発生率(胚盤胞まで発育する割合)が高くなります。
針先が平らであり、卵子に優しい顕微授精が可能です。
前の記事に従来の顕微授精とPiezo-ICSIの違いを動画を用いて説明しています。ぜひご覧くださいPiezo-ICSIを使う施設は徐々に増えてきておりますが、使いこなすには高い技術と知識が必要です。
これからも、皆様の有益になる最先端の技術を安全に提供できるように努めて参ります。
お知らせ
当院はPGT-A実施施設として日本産科婦人科学会に承認されています。
PGT-Aを行うことによって、複数回の妊娠不成立や流産を繰り返す方に妊娠率の向上と流産率の低下が期待できます。
・直近の胚移植で2回以上連続して臨床妊娠が成立していない方
・直近の妊娠で臨床的流産を2回以上反復している方
・夫婦いずれかにリプロダクション(生殖)に影響する染色体構造異常を有する方
※PGT-A対象者の方で当院に胚盤胞を凍結保存している場合、採卵を行わずに保存してある胚盤胞を用いてPGT-Aをすることができます。
PGT-Aをご希望の方、ご興味がある方は当院理事長または院長の外来診察をお受けください。
文責:培養室
〔理事長〕古井憲司