こんにちは培養室です。

 

今回は精子における質の向上と加齢の影響について説明します。

 

まずは精子における質の向上についてです。

 

精子は日々の生活習慣に影響を受けています。

精子にとって喫煙、長時間のサウナや入浴は精巣の精子造成機能に悪い影響を及ぼし、精子の機能低下を引き起こします。

それに加え、最近では長期間の禁欲(長期間射精をしない事)も精子の機能低下を助長していることが分かってきました。

長期間の禁欲を行うと精液量が増え、その結果全体的な精子数が増えることは確かですが、体外受精、顕微授精において精子数はそれほど重要ではありません。精子の質の方が重要です。

禁欲期間が長期化するほど精巣には古い精子が溜まってきます。古い精子は精子の質が悪く、DNAの損傷率も新しい精子に比べ高いことが言われています。

 

これは精子の質について書かれた海外の論文です。

 

 

採卵当日、1回目に射精された精子とその1時間後にもう1度射精された精子(2回目に射精された精子)を用いて顕微授精を行い、その後発生した胚盤胞におけるPGT-A後の正常胚率を比べています。

2回目に射精した時の精液量は1回目に比べ少量であったが、精子濃度、精子運動率、精子の形態には差はありませんでした。

 

胚盤胞のPGT-Aにおける正常胚率は1回目に射精された精子由来で27.5%、2回目に射精された精子由来で43.6%であり、2回目に射精された精子を用いた方が正常胚率が有意に高いことが分かりました。

 

このことから、精子における質の向上には長期間の禁欲はせずに定期的な射精が必要なことが分かります。

 

次に精子における加齢の影響についてです。

日本生殖医学会のQ&Aにも記載されていますが、精子も卵子と同様に加齢とともに機能が低下します。

精子運動率が低下することやDNAの損傷率が上昇すること、さらには流産にも影響を与えることなどが報告されています。

 

まとめ

精子は活発に運動しているものや形が綺麗なものが正常であると判断されており、正常な精子は受精率や胚盤胞発生率、PGT-A後の正常胚率が高いと言われています。

 

当院では、動きの良好な精子だけを選別し、人工授精、体外受精、顕微授精に用いています。

しかし、DNAの損傷などの顕微鏡下では見えない因子が存在します。

日頃の生活習慣や食生活、サプリメントで精子の質を向上できる可能性があります。

 

選別前の精子

動きの良くない精子や死滅している精子が見えます



 

選別後の精子

精子が活発に運動しています。 



 

当院では、DNAの損傷を防ぐことが期待できる、シナール(ビタミンC)、ユベラ(ビタミンE)のサプリメントを処方しています。

市販されているサプリメントでも構いません、精子の質の向上のためにぜひ内服していただくことをお勧めします。

 

精子はとてもデリケートであり精神的、肉体的ストレスも強く影響するようです。

家族で協力し、なるべくストレスのない生活を送ることが大切です。

 

お知らせ

 

当院はPGT-A実施施設として日本産科婦人科学会に承認されています。

PGT-Aを行うことによって、複数回の妊娠不成立や流産を繰り返す方に妊娠率の向上と流産率の低下が期待できます。

 

PGT-A対象者

・直近の胚移植で2回以上連続して臨床妊娠が成立していない方

・直近の妊娠で臨床的流産を2回以上反復している方

・夫婦いずれかにリプロダクション(生殖)に影響する染色体構造異常を有する方

 

※PGT-A対象者の方で当院に胚盤胞を凍結保存している場合、採卵を行わずに保存してある胚盤胞を用いてPGT-Aをすることができます。

 

PGT-Aをご希望の方、ご興味がある方は当院理事長または院長の外来診察をお受けください。

 

文責:培養室

 〔理事長〕古井憲司