プルルルル携帯

プルルルル携帯


携帯電話が鳴った。龍だ。


私「もしもし」


龍「もしもし?具合どお?」


私「うん…。あのね、龍…私、病院…行こうと思うんだ」


龍「そうか」



それだけ言うと龍も私も言葉に詰まってしまった。

産むとか産まないとか、そういった話をするのが怖いような気がしたからだ。


龍の言いたいことは分かっている。

電話をしてくれたり心配してくれたと一見優しくしてくれるが、龍は私と別れたいのだしょぼん



こんなことになる前から「アツコ」と一緒にいたがっていた。

私に子供ができたということは、龍にとって煩わしくて逃げたいと思うに間違いないこと。

以前より拍車をかけて「アツコ」と一緒になりたいと思っているはずだ。

でも逃げることもできない。(理由はまたいずれ書きます)



私自身は少しずつ自分が母親だという自覚のようなものが芽生えてきていた。

産みたいと思う気持ちも少しずつではあるが出てきていた。


だが相手は龍。両親が許すはずはないし、言いだすことすら怖くてできない。




私「病院、家から遠いところがいいよね」


龍「そうだな」


私「じゃぁ調べておくから」


龍「うん」



それだけ言って電話を切った。


お正月休みも終わり、早速病院病院探しを始める。
家から近すぎず遠すぎずで通いやすい病院…。
今まで産婦人科なんて行ったことがないので病院の良し悪しは分からない。
インターネットパソコンで適当に検索した新宿の病院に決め、電話予約をする。


私「病院、新宿にした。予約もしたから」

龍「いつ?」

私「○日の○時から」

龍「分かった」


とりあえず龍に伝えたものの、当日は1人で行くことになるだろうと思った。

龍に期待することもない。

以前諦めたと書いたが、それ以外にも龍に対しての何かが消えてしまっていた。



病院に行く日、龍は意外にも私の前に現れた。
眠そうにダルそうにしながらも着いてきてくれたのだ。

私「…おはよ」

龍「おはよ、さっさと行くぞ」


私の家の最寄り駅から新宿までは地下鉄地下鉄で30分。
朝の時間だったので車内は人で混雑している。

私の体調は点滴のおかげで一時的に良くなったものの、元に戻れば相変わらずつわり症状で最悪だどーん

電車に乗ることも躊躇ったが仕方がない。
病院に行かなければどうしようもないのだ。


龍はそんな体調最悪の私をよそに1人機嫌が悪く、一言も口をきかなかった。
電車に乗り込んでも気遣うなんてこともない。

眠いとダルイを全身で表現している。

そんなに辛いなら着いてこなければよかったのに…ムムム

苛立ちを覚えるが、怒ったところで私自身が疲れるだけ…。
それよりも吐き気との戦いに集中した。


電車に乗ると吐き気は尋常じゃないくらい悪化し、1駅間持てばいい方だった。

もともとこの地下鉄は車内が狭く匂いがこもっていて、健康な時に乗っても気持ち悪くなるぐらい環境が悪かった。

それなのに酷いつわりの中で乗っているものだからさぁ大変あせる

地下鉄なので窓の外を見ても景色などうつるはずもなく、気分を紛らわせるものもない。
更に冬で暖房がかかり、こもった匂いが益々凝縮されている。

私「龍、ごめん降りる」


と、1駅ごとに下車してトイレに駆け込んだ。

そんな私に龍はイライラしているようだった。

いつもなら30分で済む電車だが、私が毎回降りるせいで時間がかかる。

『仕事終わりに寝ないで来ているんだけど…早く帰って寝たい』
ぐらい思っていたのだろう。

降りてトイレに駆け込む度に龍は溜め息をついていた。

ペタしてね

郵便局のアルバイトを休むようになってから、ずっと家で寝込んでいるしかできなかった。

起き上がれないほどの吐き気とめまいに襲われていたのだ。


親「大丈夫?本当に風邪なの?」


私「何言ってんの、風邪だよあせる


親「病院行きなさいよDASH!


両親は寝たきりの私を心配してくれる。

一週間以上寝たきりになっているのだから当たり前だ汗

でも病院には行きたくない…。

薬を飲んだり点滴をしたりしたら、赤ちゃんに害が及ぶかもしれない。

それに病院は家族全員がお世話になっているところ、何かの拍子で家族にバレるのが嫌だったのだ。


親「まだ病院行ってないの!?早く行きなさい!!


しぶっていた私だが、行かなければ怪しまれてしまう。

仕方なく病院へ向かった。


病院では正直に話して害のない点滴をしてもらった。

先生は「親御さんには言ったの?」と聞いてきたが、苦笑いをした私を見て察してくれたようだった。


看護婦「親は何だかんだ言っても最後は喜ぶものよ」


私「はぁ…」


看護婦さんは背中を押すような言葉をくれる。

でも私はまだ15歳で相手は龍だ。

喜んでくれるはずはない。絶対にない。


点滴を受けるとあんなに悪かった体調が少し和らいだ。

医者も薬薬を出すこともなかった。



その日から寝込むことは辞めることにした。

病院に行ってもいつまでも寝込んでいたらそれこそ怪しまれてしまう。


つわりは辛いもののなんとか気力でカバーした。

人間やれば何でもできるものだ汗

でもいつまでもこのままではいけない…しょぼん



龍は何度か電話をしてきてくれていた。

ちゃんと向き合おう…どうするか話し合おう。

ベッドに横たわりながら携帯電話を握りしめた。

ペタしてね

アルバイトを始めてから、龍とはすれ違いの生活になってしまった。


私は朝から夕方まで郵便局。龍は夕方から朝方まで工場バイト。




龍はあまり連絡をしてくれないが、それでも気にしないでいられた。


私から連絡をするのも前より控えていたし、バイトとつわりでそれどころじゃなかったからだ。




龍は昼間寝ているし、それを邪魔したくなかったのもあった。


でもひどいつわりで辛いことしか考えられない。


誰にも相談できないこともあって、自分一人では抱えきれなかった。








郵便局のアルバイトの中で不思議なことがあった。


正確にいえばアルバイトではなく、休憩中にそれは起こった。




郵便局で寝込む前、まだ頑張っていた時に限界が訪れた。


休憩時間になるとお昼を食べるより先に公衆電話に飛びついた。


(携帯は親に止められていた汗




プルルルル携帯


プルルルル携帯




龍の携帯が鳴っている。




その間もつわりの吐き気でクラクラする。


龍に電話したところでどうしようもないけれど、誰にも相談できない自分にとって縋るのは龍しかなかった。




龍「…はい」




私「もしもし、私…」




龍はとても眠そうな声だった。でも電話に出てくれただけでも嬉しい。


公衆電話だったからかもしれないが…。




龍「あぁ、どうしたはてなマーク




私「ごめんね…しょぼんつわりが辛くて…」




龍「そうか…」




龍の声は優しかった。


受話器を強く握りしめたまま、涙が出るのを堪えた。




龍「大丈夫だよ、俺がいるよ…」




不思議な出来事が起こったのはその龍の言葉を聞いた時だった。


今まで辛かったつわりがスッと消えたのだ。


自分でも驚いたビックリあんなに辛かったのに…目






龍の言葉なんて嘘に決まっている。


そんなことは百も承知だ。


それでも…




私「龍…楽になったよ、ありがとうねむいです




龍「そうか」






龍と電話ができたのは少しだった。


受話器を下ろして郵便局へ戻ると、つわりは復活した。




都合の良い解釈かもしれないが、きっとこの時お腹の赤ちゃんは自分の父親の存在に気付いたのだと思う。


そのことを思うと、なんだか自分と龍のしてきたこと…していることがとても悲しかった。


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