アルバイトを始めてから、龍とはすれ違いの生活になってしまった。
私は朝から夕方まで郵便局。龍は夕方から朝方まで工場バイト。
龍はあまり連絡をしてくれないが、それでも気にしないでいられた。
私から連絡をするのも前より控えていたし、バイトとつわりでそれどころじゃなかったからだ。
龍は昼間寝ているし、それを邪魔したくなかったのもあった。
でもひどいつわりで辛いことしか考えられない。
誰にも相談できないこともあって、自分一人では抱えきれなかった。
郵便局のアルバイトの中で不思議なことがあった。
正確にいえばアルバイトではなく、休憩中にそれは起こった。
郵便局で寝込む前、まだ頑張っていた時に限界が訪れた。
休憩時間になるとお昼を食べるより先に公衆電話に飛びついた。
(携帯は親に止められていた
)
プルルルル![]()
プルルルル![]()
龍の携帯が鳴っている。
その間もつわりの吐き気でクラクラする。
龍に電話したところでどうしようもないけれど、誰にも相談できない自分にとって縋るのは龍しかなかった。
龍「…はい」
私「もしもし、私…」
龍はとても眠そうな声だった。でも電話に出てくれただけでも嬉しい。
公衆電話だったからかもしれないが…。
龍「あぁ、どうした
」
私「ごめんね…
つわりが辛くて…」
龍「そうか…」
龍の声は優しかった。
受話器を強く握りしめたまま、涙が出るのを堪えた。
龍「大丈夫だよ、俺がいるよ…」
不思議な出来事が起こったのはその龍の言葉を聞いた時だった。
今まで辛かったつわりがスッと消えたのだ。
自分でも驚いた
あんなに辛かったのに…
龍の言葉なんて嘘に決まっている。
そんなことは百も承知だ。
それでも…
私「龍…楽になったよ、ありがとう
」
龍「そうか」
龍と電話ができたのは少しだった。
受話器を下ろして郵便局へ戻ると、つわりは復活した。
都合の良い解釈かもしれないが、きっとこの時お腹の赤ちゃんは自分の父親の存在に気付いたのだと思う。
そのことを思うと、なんだか自分と龍のしてきたこと…していることがとても悲しかった。
